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永遠の謎

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572部分:第三十三話 星はあらたにその十七


第三十三話 星はあらたにその十七

「どうされますか?」
「どれだけの時を経たのか」
 王はその侍従の言葉からだ。まずは遠い目になった。
 そしてそのうえでだ。こう答えたのだった。
「彼と別れて。しかしです」
「今はこうしてバイロイトにおられますし」
「それならばです」
 王としてもだ。あの別れは本意ではなかった。そしてだ。
 その長い年月を越えて再び会う旧友のことを思い出し。そのうえでの言葉だった。
「是非共です」
「会われますね」
「そうさせてもらいます」
 これが王の返事だった。
「そしてそれは」
「何時に為されますか?」
「彼は何と言っていますか」
 ワーグナーの方はどうかというのだ。王は友人に合わせた。
「明日でしょうか。それとも」
「何時でもとのことです」
 その侍従はこう述べた。
「何時でも。陛下さえ都合がつけば」
「私次第ですか」
「はい、何時にされますか?」
「会えるのなら」
 どうかとだ。王は考える目になってからだ。
 そのうえでだ。こう答えたのだった。
「すぐにでも」
「では今宵にでも」
「会いたいと。彼に伝えて下さい」
 こうその侍従に述べるのだった。
「今すぐにヴァンフリートに行かれて」
「そうさせてもらいます。では」
「お願いします」
 こうしてだった。ワーグナーにそのことが伝えられた。そうしてだった。
 ワーグナーの方からだ。王の宿泊するホテルに来た。その旧友はだ。
 彼は一礼してからだ。こう王に挨拶をした。
「お久し振りです」
「はい」
 王はその端麗な顔に微笑みを浮かべて応えた。
「御元気そうですね」
「陛下も」
「長い年月が経ちました」
 ただの年月ではない。一時一時が千秋だった。
 しかしその秋がだ。遂に終わりだというのだ。
「そして今ここで御会いできました」
「全くです。それで陛下は」
「つもることがありますね」
 王は言ってだ。そしてだった。
 二人は夜遅くまで話をした。そのうえでだ。
 王はバイロイトに赴く。その中はというと。
 ロビーはなかった。入るとすぐに観客席があった。木造で音の反響をかなり考慮した造りだった。そしてオーケストラのピットの姿は見えなかった。
 同行していたホルンシュタインがだ。その見えないピットについて言った。
「オーケストラの席は」
「あそこにある」
 奥が非常に深い舞台を指し示してだ。王はそのホルンシュタインに話した。
「あの下にだ」
「あっ、覆いがありますね」
「あの覆いがオーケストラの姿を隠し」 
 そしてだというのだ。
「音を反響させているのだ」
「成程、考えたものですね」
「ワーグナーは周到に考えてこの劇場を造った」
「木造なのもロビーがないのもですね」
「そうだ。ここはまさに彼の歌劇場なのだ」
 舞台を観つつだ。王はホルンシュタインに話す。
「さて、それではだ」
「開幕ですね」
「貴賓席に移ろう」
 王がいるべきだ。その場所にだと話してだ。
 そうしてだった。開幕を待った。やがてだ。
 上演がはじまった。ジークフリート、指輪の主人公が出るその舞台を王は観るのだった。気が遠くまで待ったその舞台を観てだ。王は至福の時を迎えた。
 最後のジークフリートとブリュンヒルテの抱擁の後で一日置き再び上演があった。今度は最後の神々の黄昏の上演だ。王はその最後も観た。
 
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