魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Epica29-A大隊の罠~Target~
†††Sideヴィヴィオ†††
ルシルさんの魔法によって見ることが出来た、アインハルトさんが受け継いだ覇王クラウスの記憶。アインハルトさんの「終わりです」の一言で記憶映像も消えて、わたし達は応接室で目を覚ました。シャルさん達からの「おかえり~」っていう挨拶に元気よく返したかったけど、クラウス殿下の記憶のこともあって「ただいま・・・」沈んだ声でしか返せなかった。
「・・・アインハルトが背負った覇王クラウスの記憶に、みんなショックを受けちゃったみたいだね。でも問題はこれから。アインハルト、あなたはこれからどうしたい?」
「私は・・・。クラウスの知らなかったオリヴィエ殿下のお考えを知りたいんです。オリヴィエ殿下と共にアウストラシアへと戻ったリッドは、彼女とどんなやり取りをしていたのか、そしてゆりかご起動後は一体何をしていたのか。クラウスは、オリヴィエ殿下とリッドを見送り、そして戦死するまでの間、一度もリッドと再会できませんでした。ですから・・・その当時の事を知りたいです」
「う~ん、ウチもお手伝いできたらええんやけど、さっきヴィクターが言うたように、当時のエレミアの資料って残ってへんからな~」
「シャルさん。聖王教会などには残されていないのですか?」
ヴィクターさんに聞かれたシャルさんだけど、「どうだったかな~? ちょっと調べて観るよ」って腕を組んで唸った。そんな中、わたしとフォルセティとコロナとリオは、「無限書庫で見かけなかった?」ってヒソヒソ話。
「ヴィヴィオさん達は何をお話してるんですか?」
「あ、ミウラさん。えっと、これまではそんなに気にしていなかったんですけど、今のクラウス殿下の記憶やアインハルトさんのお話で、エレミアの名前をどこかで見たって思い出したんです」
ミウラさんにそう答えたわたしは、アインハルトさん達に向いて「あの、もしかしたら在るかもしれません、エレミアの資料」って伝えた。
「ホンマか!?」「本当ですの!?」
「ヴィヴィオさん、それは一体どこに!?」
ジークリンデ選手やヴィクターさん、アインハルトさんに詰め寄られてビックリしちゃったけど、わたしは「無限書庫です」って答えた。
「検索目録で見た覚えがありまーす!」
「うんっ。古代ベルカ項目の、歴史上の人物の手記欄の見出しで!」
「以前、僕たちはオリヴィエについてもっと知ろうって考えたことがあって、いつか探索してみたいねって」
「「「ね♪」」」
でもなかなか時間が取れず、今日まで実行できなかった無限書庫探検。
「無限書庫て管理局のデータベースやろ? ウチらみたいな一般人は入れんのとちゃう?」
「ですわね。ヴィヴィ達はどうしてそんな事を知ってるのかしら?」
「社会科見学とかじゃね?」
「なるほどです。確かにそれくらいしか理由がないですね」
「しかし本局の無限書庫に社会科見学か。そういう学業イベントがある学校もあるのか。私の通っていた学校にはそんな行事はなかったから羨ましいよ」
ヴィクターさん達が首を傾げてるのを見て、わたし達子供組はちょっと嬉しくなった。ストライクアーツとか格闘技選手としてはまだまだなわたし達だけど、ちょっと特別な資格を持ってることでちょっぴり優越感を得ちゃった。
「シャルさんやルシルさんは局員だから、その辺りの許可を出してはもらえないだろうか?」
「ごめん、ミカヤちゃん。わたし達は今、ちょっと管理局施設に入れないの。局と教会のいざこざがね・・・」
「だが安心するといい。な、フォルセティ、ヴィヴィオ?」
ルシルさんの視線に倣って皆さんの視線がわたしとフォルセティに集中。わたしとフォルセティは皆さんに見えるように「わたし達!」「司書資格を持ってます!」って提示して、コロナとリオとイクスも「立ち入りパスを持ってま~す!」って提示した。ポカーンとした後の「ええええええーーーー!!?」皆さんの驚いてる顔に思わず噴き出しちゃいそうになっちゃった。
「いやいやお前らマジでどんな小学生だよ」
「あなた達すごいのね・・・」
「ほあ~、ビックリやわ~」
「無限書庫・・・。ヴィヴィオさん達の付き添いがあれば、パスの持っていない私たちでも入れるのですよね・・・?」
「はい。一応事前に何人見学するかの申請が必要ですけど、司書資格やパスを持った人が同行するのなら入れます」
アインハルトさんにそう説明してる中、「あった。エレミアの手記!」フォルセティが無限書庫のデータベースにアクセスして、アインハルトさん達の目的の書物を調べてくれていた。
「場所は・・・ちょっと危険な未整理区画ですね。未だにどのような危険があるか判らない区画の中です」
「今の総合司書長が開拓する以前は、迷宮が発生したり、書物防衛のゴーレムやゴーストが出たりしたそうですしぃ~」
フォルセティが前髪で目元まで隠して、声のトーンを落としてそんなことを言い始めると、パッと部屋の明かりが消えた。カーテンも閉まってるから薄暗い。そんなフォルセティの側に蒼い火の玉ががフッと出てきた。たぶんフォルセティかルシルさんの魔法だって判るわたし達子供組は、手の込んだイタズラだな~、って笑おうとしたけど・・・
「ひゃあああああーーーーー!」
「きゃあああああーーーーー!」
本気の悲鳴が応接室に響いて、火の玉も消えて部屋の明かりもパッと点いた。
「ジ、ジーク? そんなに腕を締め付けられたら痛いわ」
「あぅあぅ、アカン、ウチ、得体の知れへんもんとかダメなんよ・・・」
「び、びび、ビックリしました・・・」
悲鳴を上げたのは意外なことにジークリンデ選手とエルスさんだった。ミカヤさんが「ジーク、君は次元世界最強じゃないか」って苦笑いして、番長が「いつもの威勢はどうしたよ、デコメガネ!」って大笑い。
「た、ただ驚いただけです! 恐がったわけではありません!」
「あーはいはい。火の玉でビビるなんて可愛いじゃねぇかよ、ジークもお前も!」
「番長・・・言わんといて・・・」
「ですから私は怯えてはいないと・・・!」
そうわいわい騒ぐ番長たちは本当に仲が良くて、わたし達は微笑ましく眺めてたんだけど、「あ、ダメだ・・・」わたしは今の自分の状況を思い出してそう漏らした。
「どうかしたの、ヴィヴィ?」
「ヴィクターさん・・・。あのわたし、今あんまり外に出られなくて・・・」
「あ、そうか! お前ら大隊に狙われてっから、シャルさん達に護衛してもらってんだったよな!」
この前の買い物の時だって大隊がわたし達を拉致しようと姿を見せた。しょんぼりしてると、「まあ大丈夫でしょ」ってシャルさんがわたしの頭に手を置いた。
「大隊も本局内部にまでは侵入しないだろうし、それにわたし達に負けない護衛を付けるから。行っておいで、無限書庫に♪ とはいえ、今からだと無限書庫に行って調査を始めるには時間も遅いから、本局の寄宿舎の手配をしておこっか。っとその前に・・・」
「無限書庫への調査には明日と明後日の2日間を予定とする。行くのはヴィヴィオ、フォルセティ、コロナ、リオ、イクスとアインハルト。ノーヴェ、君も引率として付き添ってもらえるか?」
「はい、判ってます。ちょうどトレーニング休みなんで問題なしっす」
これで明日明後日は本局で寝泊りすることが出来るようになった。ルシルさんは次にジークリンデ選手たちの方へと目をやって、「君たちはどうする? 2日間と時間を取らせるが」って尋ねた。
「ウチも行きます! 危ないところやったら少しでも戦力が要るやろうし、何よりウチのご先祖様に関係してるし!」
「私も行きますわ! 子供たちだけに任せるのは、雷帝ダールグリュンの血統として出来ませんもの」
「オ、オレも! 無限書庫なんてそうそう行けるとこじゃねぇし、それにオレだって役に立つぜ?」
「では私もご一緒させてもらおうかな。ここまで来て置いてけぼりは勘弁してもらいたい」
「ジークリンデにヴィクトーリアにハリーにミカヤだな。・・・エルス、ミウラ、君たちはどうする?」
すぐに立候補したジークリンデ選手たちとは違って、どこか迷ってる風なエルスさんとミウラさんにルシルさんが確認した。お2人が迷ってる理由はやっぱり「一緒に行ってもいいんでしょうか?」っていうものだった。
「こればかりは自主性だからな。ここで降りようと思えばそれで構わないし、行きたいと思えば誰も拒絶はしない。むしろ喜ぶと思うが・・・」
「ミウラさん、一緒しませんか? もしかすると修行になるかも?」
「修行・・・!」
リオがミウラさんにそう耳打ちしたのが聞こえて、ミウラさんの目が輝いた。そしてエルスさんには、「この子たちとの関係が浅いからという理由なら考え直した方がいい」ってルシルさんが言葉を掛けた。
「確かに今はまだ出会って初日だろうけど、今年のインターミドルから数年は君のライバルとなり、いつか試合をする日が来るだろう。たまたま初日にイベントが発生しただけだ。遠慮なく参加すればいい」
「ルシルさんの言うとおりだぜ。オレもちびっ子たちとそう何度も会ってねぇし、ジークに至っちゃお前と同じで今日初めてだぜ?」
「ジークは一応関係者なのだから、あなたやエルスさんとは事情が違うのだけど・・・」
「細けぇ事言うんじゃねぇよ」
ルシルさん達にそう言われたエルスさんがわたし達の方を見て、「では私も一緒に行かせて貰いますね」ってメガネをクイッと上げた。だからわたし達は「ぜひ!」って笑顔で応じた。ミウラさんも「ボクも行きます!」って挙手した。
「この場に居るメンバー全員だな。じゃあちょっと連絡を入れてくるよ」
そう言ってルシルさんが応接室を出て行った。待ってる間にお茶をお代わりをルーツィエさん達から貰って時間を潰してると、「待たせた」ルシルさんが戻ってきて、無限書庫への立ち入り調査の許可と、宿舎の2人部屋をいくつか借りられたことを伝えてくれた。
「本局行きの航空チケットも予約しておいた。中央次元港の1番ターミナルで、出航時刻は少し早いが8時45分発になる。チケットデータを送信するから、携帯端末を出してくれるかい?」
わたしは「クリス!」に、アインハルトさんも「ティオ」にお願いして、コロナ達もヴィクターさん達もデバイスや端末を取り出して、ルシルさんからチケットデータを送信してもらう。席は急だったこともあって纏まっては取れなかったみたい。でもわたしはフォルセティとミウラさんの横並び。アインハルトさんはイクスとジークリンデ選手。コロナとリオは番長とヴィクターさん。ノーヴェとミカヤさんとエルスさんと・・・。
「あれ? あと4席予約してある・・・?」
「俺たちは本局へは行けないからね。その4席は本局内の付き添い兼護衛の席だよ」
「あ、そっか(ルシルさん、はやてさんに連絡したみたいだし、はやてさんと・・・アインスさんかリインかな~?)。あ、ルールーとリヴィも・・・?」
「ああ。ルーテシアとリヴィアにも同行してもらうように連絡しておいた。他の2人は次元港で合流することになる」
「ヴィクターとジークリンデは自家用車で帰れるんだよね? ミカヤちゃんとハリーとエルス、ミウラは送って行こうか? それとも明日に備えて今日はうちに泊まってく? 遠慮無用で答えてね~♪」
シャルさんからの提案に、番長が真っ先に「お世話になります!」ってお辞儀して、続いてミカヤさんやエルスさんも、今日はフライハイト邸に泊まることにしたみたいで。だけどミウラさんは「えっと・・・」って迷ってる風。
「家族に聞いてみます! 許可を貰えたらボクも・・・泊まっていいですか?」
「もちろん♪ ご両親に連絡しておいで」
「はいっ!」
「あたしも引率者としてご両親に挨拶するから」
ノーヴェとミウラさんが応接室の隅っこに移動して、ミウラさんのご家族に連絡を入れ始める中、「あんなヴィクター。ウチも今日はシャルさん家に泊まってってもええ?」ってジークリンデ選手が小さな声でヴィクターさんに確認した。
「っ! ええ、私は構わないわよ♪ あなた自身でお願いしてみなさい? 私も今日はこちらでお世話になることを決めたわ」
「あ、う、うんっ! あの、シャルさん! ウチも泊まってってええですか!?」
「私もお世話になりたいと思います」
「んっ♪ じゃあここに居るみんなでお泊りね!」
ミウラさんもご家族の許可を貰えたようで、ちょっと前までは想像もしなかったインターミドルのトップ選手たちと同じ屋根の下でお泊りすることになった。
†††Sideヴィヴィオ⇒ルシリオン†††
ミウラだけでなくジークリンデを始めとした、ヴィヴィオ達の憧れの選手たちがフライハイト邸に1泊することになり、明日早く本局の無限書庫へ行く予定だ。着替えを取りに一度帰宅することになった彼女たちを見送った後・・・
「シャル。この後、トリシュ達が起きてきたら少し買い物に出掛けてくるよ」
シャルに今日の予定を伝える。昨日は夜勤シフトだったこともあって他のメンバーは今も眠ったまま。俺は、シャルがハリーたち客人を出迎えるために早く起きるということで、フォルセティの事もあって彼女に付き合うために早起きした。アイリはそんな俺に付き添うために無理に早起き。だからか全然喋らないしあくびばかりしている。
「あー、うん、判った~。車を出してあげ・・・られないか・・・」
ルーツィアはルーテシアとリヴィア、ルーツィエはミカヤとハリーとエルス、オットーとディードはヴィヴィオ達に護衛として付いている。だから「いいよ。マクティーラも少しは動かさないと」と断りを入れる。
「ん~。わたし、もう一眠りさせてもらうからぁ、気をつけてね~」
「あぅ~、アイリも~行くぅ~」
「そんなフラフラじゃダメだ。シャルと一緒にゆっくり眠っておいで」
「は~い」
フライハイト家の長子としての立場も終わってことで、フラフラと2階へ上がるための階段室へと歩き出したシャルの肩には、本来の大きさに戻ったアイリがうつ伏せで乗っている。さてと。俺も用意をして出掛けよう。食堂で水を1杯だけ貰い、地下駐車場へと向かおうとした時・・・
「ルシルさん、おはようございます」
「おはよう、トリシュ」
トリシュも起きてきたか。彼女にも一応これから出掛けることを伝えておこう。個人的な買い物にこれから出掛けるため、トリシュ達でヴィヴィオ達の護衛を任せたいと。すると彼女は人差し指をあごに当てて何かを考えると、「私もお付き合いしていいですか?」と聞いてきた。
「問題ないけど、何か買い物があるのか?」
「えっと・・・えっと、あっはい!」
「判った。じゃあ用意してきてくれ。駐車場で待ってるから。あとマクティーラだから温かい格好で」
「はーい♪」
軽快なステップで自室へと戻るトリシュを見送り、改めて地下駐車場へ。“マクティーラ”にサイドカーを装着(魔法技術で取り外しが簡単で楽だな~)して、いつでも出られるように準備を整えたところで、「お待たせしました!」トリシュがやって来た。タートルネックニット、キャミソールワンピース、トリミングコート、ヒールの高いロングブーツという格好だ。
「(本当にエリーゼに似ているな・・・)っと、ああ。ヘルメットは被ってくれよ?」
「あ、はい・・・」
サイドカーに乗車したトリシュにヘルメットを手渡して、被っているのを見守っている中で「その服似合っているよ、可愛い」と、気合の入っていたトリシュの服を褒めてみた。
「~~~~~っ!!」
トリシュは被ったヘルメットをギュッと両手で鷲掴み、肩を震わせたかと思えば、トリシュは「そういうの本当にズルいです!」と、バイザー越しでも顔が真っ赤になっているのが判るほどの顔をこちらへ向けて叫んだ。
「ひょっとしたら褒めてくれますかね~、なんて考えていましたけど! ヘルメットを被ってくれ、が第一声だったのでダメですか~っと思っていたところに、似合ってる? 可愛い? 落とした後で上げるなんて!」
「イヤだったか?」
「・・・イヤではないです・・・嬉しいです、ありがとうございます! 私の方が年上なのに、振り回されてばかりです・・・」
「どういたしまして」
ボソボソと何かを呟き、嬉し恥ずかしな態度を見せるトリシュに苦笑しつつ、「じゃあ行こうか」アクセルを握り、スロットルを開けて走り出す。地下駐車場、そしてフライハイト邸の敷地内から飛び出し、一路ショッピングセンターへ。
「ところでルシルさんは、今日は何を買いに行くんです? ルーツィアさん達のお買い物の際に一緒に頼めば・・・」
「ん? 男しか使わない物だし、俺が直接買いに行った方が手っ取り早いんだ」
「お、男の方しか使わない物・・・!?」
信号待ちのために停車させたからこそ聞こえた、「まさか・・・え、えっちな物・・・?」という見当違いなトリシュの考えに俺は「そうだ」からかいのための嘘の返答をしてみた。こういうのはシャルにこそするべきだろうが、彼女にそんな返答をしたところで・・・
――えー? じゃあわたしの体を使えばいいじゃん♪――
くらいな反撃をしてくるだろうしな~。羞恥心を発揮する場合と役立たずな場合があるから、シャルをからかうには相応の覚悟が必要だったりする。で、トリシュの反応は、俯いて肩を震わせている、というもの。
「えっと、あの、ルシルさんは、その、お、男の方ですから、そういう事をなさるのも・・・理解できます・・・。あぅぅ・・・」
ヘルメットで隠れて見えないが、おそらく顔は真っ赤だろうな~。信号が青に変わったことで再発進。膝の上に置いている両手でもじもじしているトリシュへと念話で『う、そ、だ!』からかっていたことを伝えると、彼女がギギギと擬音が聞こえてきそうな感じで俺へと顔を向けてきた。バイザー越しに見える彼女の表情は(゜。゚)のような感じで、次第に顔を真っ赤にし始めて、とうとう・・・
『今のは酷いセクハラです! ビックリです、ルシルさんってそんな事を言うのですか!?』
キレた。しまった、走行中にする話題じゃなかった。ぷんすか怒るトリシュはちょっと可愛らしいが、怒声が頭の中に響いて運転に集中できない。以前にも似たような失敗をしたはずなのに、同じ轍を踏んでしまった。
『すまん! 度が過ぎたイタズラだった! 今日1日何でもするから許してくれ!』
『何でも? いま何でもと言いましたね?』
怒りから一転ニヤニヤと満足気に笑みを浮かべるトリシュに、『演技だったか・・・?』と俺は苦笑いを浮かべて聞いてみた。
『ふふ♪ さぁ、どっちでしょう?』
イタズラっぽく笑うトリシュには『お手上げだ。出来うる限りの事はしよう!』と俺は笑い声を上げた。今日は温かく、差ほど寒さを感じない中で「ふんふふ~ん♪」トリシュのご機嫌な鼻歌をBGMに“マクティーラ”を走らせていたんだが・・・。
――トランスファーゲート――
「っ! 空間の・・・!」
「歪み!」
ブレーキをかけたが既に手遅れ。歪みに飲み込まれたことで視界が一瞬閉ざされる。一瞬の浮遊感の後、「何も見えない・・・?」空間に放り出された。俺は「ちょっと待ってくれ」停車させた“マクティーラ”のライトを付ける。そこはどうやら「地下・・・?」のようで、十数m間隔に支柱が並んでいる。
「埃っぽいな。廃棄された場所か・・・?」
「廃棄都市区画でしょうか・・・?」
そこはミッドの道路ではなくどこかの廃れた地下で、おそらく北部の廃棄都市区画。ここがどこかを詳しく調べるために「サピタル!」と蒼く輝く魔力球15基を周囲に展開。そのおかげで周囲50mの様子を視認できるようになった。
「随分と広い空間ですね・・・」
「こんなところ、ミッドにあったか・・・?」
辺りを見回していたところで、遠く背後からドォーン!という轟音とポー!という音。音の出所に振り向くと、カッと何か強い光が俺たちを照らしたことで右手でひさしを作る。
「アレは・・・!?」
「うそだろ、ビッグボーイ・・・! レールが無いぞ、どこを走っているんだ!?」
俺たちの背後から現れたのは、予想だにしなかった4000形蒸気機関車、通称ビッグボーイ。大きな汽笛を発しながら突っ込んでくる。俺は「とにかく飛ばすぞ!」と“マクティーラ”を急発進させた。
ページ上へ戻る