戦国異伝供書
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第二十二話 川中島にてその十一
「どういうことなのか」
「それは残念、ですが」
それでもとだ、松永はまた述べた。
「それがしはまことにです」
「そう思われていますか」
「もう闇はよくて」
「光にですか」
「出てそこで暮らしたいのです」
「左様ですか」
「それも何時までも」
心から願う声でだ、また言う松永だった。
「そうしたいものですな」
「そうですか、ではそれがしは」
羽柴は松永の言っている意味がわからない、だがそれでも彼のことを尊重してそのうえで彼に対して述べたのだった。
「松永殿の願いが適うことをです」
「願って下さいますか」
「その様に」
「兄上もお甘い」
これまで羽柴の横で静かにしていた秀長も述べた。
「松永殿については」
「お主もか」
「兄上とは違います」
これで充分であった、返事としては。
「左様です」
「そうなのじゃな」
「はい、ですから」
「お主も隙あらばか」
「そう考えています。ですが」
それでもとだ、秀長もまた首を傾げさせつつこう言った。
「松永殿の今のお言葉は」
「わからぬと」
「一体何を言われているのか」
松永自身に対しての言葉だ。
「わかりませぬ」
「左様ですか」
「光だの闇だの」
そうした言葉の意味がというのだ。
「わかりませぬが」
「それがしもです、ですがどうも」
羽柴はその頭の中で考えつつ述べた。
「松永殿は何かありましたな」
「これまでの人生の中で」
「それがわかりましたが」
しかしと言うのだった。
「ですが」
「それでもですな」
「光も闇も」
「そうしたことが何かは」
「残念ですがわかりませぬ」
「左様ですか、ですがやはりそれがしは」
どうしてもとだ、松永はその羽柴に話した。
「光の当たる場所にいたい」
「ずっとですか」
「死ぬまで。そう思い」
「織田家におられますか」
「そうなのです、では」
「それではですな」
「今宵はこれで」
飯をたらふく食った、だからだというのだ。
「休ませて頂きます」
「うむ、皆飯を食ったようであるしな」
柴田もそのことを見て言った。
「もう寝るか」
「そうしようぞ」
林が応えてだ、織田家の主な家臣達は食事が終わりそれで眠りに入った。そのうえで英気を養うのだった。
第二十二話 完
2018・10・15
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