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永遠の謎

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524部分:第三十一話 ノートゥングその五


第三十一話 ノートゥングその五

「親族を心配しない者はその時点で問題がある」
「だからですか」
「あの方も」
「何故心配しなくなるかはそれぞれの事情があるが」
「しかしそれでもですね」
「あの方は弟君を心配されていますね」
「そのことは確かですね」
 このことはビスマルクにとって喜ぶべきことだった。しかしだ。
 周囲はだ。その代理を送るバイエルン王の話をだ。ここでする。その表情はどうにも晴れずにだ。困ったものになっていた。その顔での話である。
「しかしバイエルン王御自身は来られないです」
「何でも歯が悪いとのことで」
「それで来られないとのことです」
「どうしても」
「それならそれでいい」
 だが、だ。ビスマルクはだ。こう言うのだった。
「あの方が来られないのならだ」
「それでいいのですか」
「ドイツ各国の元首達が集る中でただ御一人だけですが」
「それでもですか」
「あの方だけが来られないのは」
「私は既にあの方に無理を強いている」
 プロイセン王へのドイツ皇帝への推挙、まさにそのことだ。
 それがあるからこそだ。彼は言うのである。
「それで今回もというのは。いや」
「いや?」
「いやといいますと」
「私はもうあの方には無理はしない」
 そうだというのだ。そのことは決してだというのだ。
「二度とな」
「二度とですか」
「そうされますか」
「無理を承知でしたのだ」
 その即位への推挙のことはだ。ビスマルクもわかっていた。彼は政治家、ドイツの宰相になる者としてそうした。しかし今度はだというのだ。
「だがあれで終わりだ」
「バイエルン王を二度と利用されない」
「決してですね」
「その通りだ。だから今回もいい」
 バイエルン王がプロイセン王のドイツ皇帝への即位式に出ないこと、それもまたいいというのだ。
 そのことを言ってだった。彼は。
「ではその様に式典の準備を進めるのだ」
「わかりました、それでは」
「場所はベルサイユですね」
「あの宮殿においてですね」
「敵地のその場所で」
「一つの報復にもなるな」
 フランスへの。それだというのだ。
「フランスへの。歴史的な、な」
「そうですね。あの国には何百年もの間煮え湯を飲まされています」
「そのルイ十四世が築いた宮殿で即位ですね」
「あえてしてですね」
「そうだ。そうする」
 ビスマルクはここでだ。確かな笑みになり述べた。
「わかったな。それではだ」
「ベルサイユにおいてドイツ皇帝が誕生する」
「そして統一されたドイツが」
「遂にそうなりますね」
「その通りだ。ドイツはこれからはじまるのだ」
 統一で終わりではなかった。そこからはじまると話してだ。
 ビスマルクは再び手を打ったのだった。ドイツの為に。ベルサイユでドイツ帝国を誕生させてだ。それからについても考えていたのだ。
 だがバイエルン王は。この時はだ。
 その城、王が築くべき城のことをだ。芸術家達と話していたのだった。
「内装の絵画だが」
「絵画はどうされますか?」
「それは」
「洞窟の絵はタンホイザーだ」
 まずはその場所の絵について話す。
「ヴェーヌスベルクの場面を描いてもらいたい」
「では洞窟自体をタンホイザーをイメージしたものにされますか」
「第一幕のヴェーヌスベルクの場面ですね」
「あの場面にされるのですね、洞窟も」
「そうしたい」
 まさにだ。それだというのである。
 
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