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永遠の謎

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519部分:第三十話 ワルキューレの騎行その十八


第三十話 ワルキューレの騎行その十八

「そして声も聞くことができる」
「あくまで陛下だけです」
「人は卿と話す私を見てどう思うだろうか」
「狂気に陥っていると思うでしょう」
「狂気か」
 狂気と言われてだ。王は。
 微かに笑いだ。こんなことを言った。
「人は私をそう言う様になるか」
「理解できないが故に」
「理解できないものは狂気」
 王は寂しい声で述べた。
「そう言って簡単に終わるものか」
「大抵の者はそうです」
「オットーの様になるのか」
 ふとだ。弟のことも思い出したのであった。
「あの様に私も」
「そのことについては」
「ヴィッテルスバッハの血か」
 王の身体に流れる、その古い血の話にもなる。
「この血にある者は狂気にあるという」
「陛下は狂気ではありません」
「それは違うか」
「はい、私の他何人かはわかっています」
 騎士はこう王に答える。
「その方々をです」
「信じていればいいか」
「確かに今は僅かですが」
 それでもだというのだ。
「それでもいます」
「そうだな。私には確かにいる」
 王もだ。騎士の話からだ。
 そのことを自分も理解してだ。そうして騎士に答えた。
「そうした相手が」
「ですから。どうかです」
「私の為すことを果たしてか」
「それが果たされた時に」
 騎士は王を見て語る。
「私は陛下をお迎えに参ります」
「その時にか」
「はい、その時にです」
「それは何時になるのか」
 その時について王は騎士に尋ねた。
「一体何時なのか」
「それは私にもわかりません」
「卿にもか」
「はい、陛下が何時それを果たされるのか」
「わからないか」
「それは陛下次第です。しかしです」
「それが果たされた時にか」
 王がこの世で果たすべきことを果たしたその時にだ。騎士はだというのだ。
 王にだ。静かに話した。
「必ず迎えに参ります」
「この世は私が生きるにはあまりに辛い」
「そうなろうとしていますね」
「だが。己の果たすべきことがあるのなら」
 それでもだというのだ。その時はだ。
「それを果たそう」
「そうして頂ければ何よりです」
「不思議だな。私の様な者が」
 王は己を卑小なものと見なしていた。今は。
「何の資質も力もない者が果たせるのか」
「陛下は決してそうした方ではありません」
「資質や力があるというのか」
「それも後にわかります」
 後世にだというのだ。それがわかるのはだ。
「ですから陛下は陛下の果たされることをです」
「行えばいいか。では」
「はい、それでは」
 こうした話をだ。王は騎士と話した。それを終え宮殿に戻るとだ。新たな電報が届いていた。
「陛下、遂にです」
「プロイセンがか」
「ドイツがです」
 その侍従アイゼンハルトが肩で息を切らしながら話す。
「我が父なるドイツがです」
「フランスに勝ったのか」
「このままパリに迎えます」
「そうか」
 それを聞いてもだった。王は。 
 暗い顔でだ。応えるだけだった。
 そしてだ。馬から降りてだ。こう侍従に述べた。
「風呂の後でだ」
「風呂で?」
「そう、風呂の後でだ」
 こう言うのである。
「ワインが欲しい」
「あの、ですから」
「話は聞いた」
 戦勝報告、それはだというのだ。
「ではこれでいいな」
「これは喜ばしいことだと思いますが」
 侍従は王の無関心そのものの態度に立つ瀬がなくなった顔で返した。
「それでもですか」
「わかっていることだ」
 プロイセン、即ちドイツが戦争に勝つことはだ。
「それはだ」
「だからですか」
「後はいい」
 こう言ってだった。王は侍従にまた話した。
「風呂とワインの用意を」
「しかしです。ドイツは勝っているのです」
「プロイセンがだな」
「ですがそれでも」
「いいのだ。それではだ」
 強引に話を終わらせてだった。王は。
 馬をなおさせそうしてだった。風呂に入り汗を流しだ。
 自分の部屋でワインを飲む。そうして一人言うのだった。
「この世は。何故これ程辛いのだ」
 こう呟きだ。憂いに満ちた顔になっていた。昼の輝かしい光の中で。王だけが憂いに満ちた顔になっていた。


第三十話   完


              2011・9・23
 
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