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永遠の謎

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514部分:第三十話 ワルキューレの騎行その十三


第三十話 ワルキューレの騎行その十三

「そういえばスウェーデンの後ろにはフランスがいましたね」
「はい、三十年戦争の時は」
「フランスはドイツにとっては仇敵です」
 王は太子のフランスに対する言葉はだ。内心では。
 辛く思っていた。非常に。王のフランス文化への感情故にだ。
 それでだ。また話した。
「やはり戦い倒さなくてはなりません」
「わかっています」
 それはだ。王自身もだ。実によくわかっていた。
 理解していた。しかし納得はというと。
 どうしてもできずにだ。太子の言葉を笑わず聞いていた。そうしてだ。
 太子にだ。あらためて言ったのである。
「では今宵は」
「はい、ワレンシュタインをですね」
「観ましょう」
 こう話してだ。太子を観劇に誘った。その舞台においてだ。
 太子がロイヤルボックスから、王より前に立ち姿を現わすと。その太子に。
 観客達が一斉に拍手をする。それを見てだ。
 王は微妙なものを感じた。そして観劇の後で。
 こうだ。ホルニヒと二人だけになった時にだ。こう漏らしたのだった。
「ドイツは今からまた一つになる」
「喜ばしいものの筈ですね」
「そうだ。喜ばしいものだ」
 それはだ。間違いないというのだ。
 しかしだった。王はその太子への拍手を思い出した。ホルニヒに言った。
 王は今青いベッドの中にいる。ホルニヒはその傍らに控えている。その暗い褥の中に半身を起こしてだ。王はこう言うのだった。
「だが私は次第にだ」
「陛下は」
「空虚の中に入ろうとしている」
 こうだ。ホルニヒに話したのである。
「プロイセンが全てを扱う国になろうとしている」
「バイエルンもまたその中に」
「入り。そしてだ」
 どうなるか。バイエルン王としての言葉だった。
「ドイツの中の只の一国になる」
「一国に」
「ドイツの軸はベルリンになる」
 プロイセンの王都、そこにだというのだ。
「あの町は帝都になりだ」
「ドイツの心臓になるのですね」
「心臓は一つだ」
 王はこうも言った。
「一つしかないのだ」
「ではバイエルンもですか」
「心臓がなくなる」
「ドイツに」
「そうだ。ドイツが一つになればだ」
 それでだというのだ。バイエルンは。
「ミュンヘンもまた。しかし」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「ワーグナーはバイロイトに入る」
 ここでもワーグナーの話になりだった。
 そのうえでだ。また言うのだった。
「ミュンヘンに彼の劇場は築かれない。それではだ」
「ミュンヘン、我等の都が」
「どうなるのでしょう」
「芸術の都にもなれない」
 王の望みがだ。消えるというのだ。その絶対的な存在であるワーグナーがいなくてはだ。それはならないとだ。王は考えているのだ。
 そしてだった。王はそれについてこう述べた。
「だがそれはミュンヘン自身が望んだことだ」
「ミュンヘンという町が」
「ワーグナー氏をバイロイトにやったと」
「そうだ。彼を何度も追い出した」
 このことをだ。言うのだった。
「それで何故ミュンヘンを去らずにいられるか」
「しかしあれはです」
「仕方なかったのでは」
「芸術。あの芸術の前に多少のことは問題ではないのだ」
 ワーグナーのその浪費、尊大、女性問題もだというのだ。
 
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