魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第184話「再召喚」
前書き
もっと重要な案件があるのに、寄り道ばかり……。
とりあえず、再召喚です。(もっと復活まで引っ張っても良かった)
=out side=
「……意外ね。次に目が覚めた時は幽世だと思っていたのだけど」
どこかわからない空間。
そこで、椿は目を覚ました。
「……かやちゃん……?」
「葵……!?」
一人だと思っていた所に、葵が現れる。
「……体、薄れてるわよ?」
「かやちゃんもだけどね」
葵がいた事に驚いた椿だが、それ以上に葵の体が薄れていた事を気にした。
尤も、椿自身も同じように薄れていたが。
「……存在が希薄になっているのね」
「問題は、ここがどこなのかって事だけどね」
死に瀕し、式姫として存在を保てなくなった。
だから今の状態があるのだと椿と葵は推測する。
「……この感覚は……」
「心当たりがあるの?」
空間そのものを探るように、椿は目を瞑る。
どうやら心当たりがあるようで、目を開けた椿は一か所を見つめた。
「早く出てきなさいよ。“私”」
「えっ……?」
急かすように椿がそう言うと、見つめていた一か所に光と風が集まる。
草木のような色の光と共に、一人の女性が現れる。
「……かやちゃん……?」
その女性の姿は、椿に似ていた。
神としてのオーラこそ椿が大きく劣るが、容姿や雰囲気はよく似ていた。
「……幽世に還ろうとする私達の魂を留められるのは、相応の存在じゃないとね」
「もしかして……」
「見た目からして察しがつくでしょう。本体の草祖草野姫よ」
困惑する葵に、椿がその存在の正体を告げる。
本体……つまり、式姫としての草祖草野姫ではなく、神としての草祖草野姫だ。
『神降しの時以来ね“私”』
「そうね。……それで、何の用かしら?わざわざこんな空間を用意して」
頭に直接響くような声の威圧感に椿と葵は圧される。
相手は現代において弱まっているとはいえ、神そのもの。
同じ存在とはいえ、式姫の椿とさえ格が違う。
それでも、椿は自分たちを幽世に還る前に留めた理由を問い質した。
『簡単な事。死なせないためよ』
「………」
あっさりと言ってしまう自分の本体に、椿は思わず言葉を失う。
『言っていたでしょう?“私”が懇意にしている彼を、私も注目していると』
「……言っていたわね」
「そういえば……」
以前、神降しの契約を交わした際に言っていた事を、椿と葵は思い出す。
当時は優輝の偽物の事もあって、気にしている暇がなかった事だ。
『そんな彼が、“私”達を失った事で心に大きな負荷が掛かっているわ。彼の両親や友人が支えているからまだ大丈夫だけど……時間の問題と言った所かしら』
「優輝が……」
「だから、あたし達を……」
自分達がいなくなってショックを受けた優輝を、二人は容易に想像できた。
それだけ、自分達にとっても大きな存在だと二人も思っていたからだ。
『だから、死なせないわ』
「……私の本体とはいえ、神がそんな簡単に干渉していいのかしら?」
『言うと思ったわ。確かに、勝手に蘇生させる程の干渉はできないわ。私ができるのは、後押しをするだけ。それ以外は“私”次第よ』
「私次第……?」
現実の体と切り離され、存在が希薄になった今、何ができるというのか。
椿は、そう思わずにいられなかった。
『……いえ、厳密には彼の力も必要ね。それは解決済みだけど』
「優輝の力も……」
椿と葵には、どういう事なのか理解できなかった。
生き返るチャンスがあるのは分かったが、そのための道筋がわからなかった。
「話を聞いてる限り、あたしがなんだかおまけのような……」
『偶然に近いのは確かね。貴女は“私”の持つ勾玉を依り代にしていたから、“私”の魂を拾った時に上手く引っかかったのよ。それがなければ、既に幽世に還っていたわ』
「わぁ、運が良くて助かったなぁ……」
割と冗談じゃない瀬戸際に、葵は軽口を叩けずにそう呟いた。
『……ここに呼んだ理由はもう一つあるわ』
「……やはりね」
『気づいてたの。さすが“私”』
「自分の事だもの。それぐらいは分かるわ」
元々椿次第になるとはいえ、復活させるだけなら会話する必要はない。
だと言うのに、わざわざ会話するようにしたのであれば、また別に理由がある。
口に出す事はなかったが、何かあると葵も思ってはいた。
『……お父様、そしてお母様から連絡があったわ』
「……なんですって?」
その言葉は、椿が聞き返す程に唐突で、驚く事だった。
「かやちゃんの両親……伊邪那岐様と伊邪那美様だよね?でも、どっちとも連絡がつかなかったんじゃ……」
「……それは飽くまで式姫の私の場合ね。本体の“私”なら方法はあるわ。……だとしても、一体何を……」
本来、わざわざ連絡を寄こしてくるような性格ではないと、椿は考える。
そうなれば、わざわざ連絡が来たということは、それだけ重要だということになる。
『事は日本だけでなく、外つ国をも……いえ、もしかすると、地球だけで済む問題じゃなくなるかもしれないわ』
「っ、それほどだと言うの……!?」
あまりにも壮大な規模に、椿は驚愕した。
幽世の大門の件を解決したばかりなため、そんな規模の大きい事案が発生するとは微塵も思っていなかった油断もあった。
『事の始まりはわからないわ。連絡を取り合っていたお父様とお母様が偶然、幽世と現世の境界が薄れている事に気づいたの』
「境界が……?でも、それは大門が開いた時も……」
『それが門は閉じられたまま且つ、二つの世界の均衡が崩れることなく混ざろうとしているとするなら?』
「っ……!それは、異常ね……!」
偶然だったとはいえ、優輝達が見つけた異常に、神々も気づいていた。
尤も、黄泉と現世を隔てた状態で連絡を取っていたため、おかしくはない。
神であれば、気づいて当然だと思えるだろう。
『ええ。異常よ。でも、それ以上に重要なのが……その歪みが、世界の“何か”に干渉しているということよ』
「“何か”……?」
『残念ながら、そこまでは掴めていないわ。でも、未曽有の危機なのは間違いないわ』
その言葉には、今まで椿や葵が経験してきた事件よりも上だと、言外に言っていた。
「そこまで……」
『お父様とお母様だけでなく、他の神々も探っているわ。……努々、忘れないで。どうすればいいのかは、私たちにすら示す事は出来ないけれど、来るべき時に備えるのよ』
“無責任な”と言いたくなるような言い分だった。
しかし、椿と葵はそれを口にする事も考える事もなかった。
草祖草野姫の口ぶりから、それだけ真剣なのが見て取れたからだ。
『最後に……』
「っ……!」
『私の力を分け与えるわ。どこまで通じるかわからないけど、ないよりはマシよ』
「……ありがたく頂くわ」
草祖草野姫が椿に手を翳すと、椿から神力が発せられるようになった。
式姫としての箍が一つ外され、椿は神降しに関係なく神力を扱えるようになったのだ。
『……後は、自力で頑張りなさい“私”、葵』
「……わかったわ」
「任せて」
椿と葵の力強い返答を聞き、草祖草野姫は微笑みながら姿を消した。
「……ここまでお膳立てされたなら、何としてでも復活しないといけないわね」
「そうだね」
受け取った力を確かめながら、椿は諦めない意志を固めた。
葵もまた、同じように意志を固める。
―――八束神社
「……なるほど。確かにいい霊脈ね」
「同時に、僕が初めて椿と会った場所でもある」
「“縁”も十分……と」
優輝達は八束神社に来ていた。
あの後、再召喚の場所として最適か、鈴は調査のために来ていた。
「……可能よ」
「やったっ!」
そして、調査の結果。
再召喚が可能な事が分かった。
その事に、司は思わず声に出して喜んだ。
「後は術式だけど……」
「……そのために私も呼んだのね……」
最後に肝心の召喚術式を整えるために、鈴は澄紀も連れてきていた。
他にも、葉月や術に詳しい鞍馬も来ていた。
「悪いけど、私は……と言うより、今の土御門に召喚の術式は伝わっていないわよ?」
「でも、術式そのものは残っているはずよ」
「……それは、そうだけど」
鈴は澄紀が家の文献を漁って澄姫を憑依させることになった経緯を知らない。
だからこそ、このような言い方になったが、実際に澄紀は術式を知っていた。
厳密には、術式が記された文献を持っていた。
「時間がなかったから読み解いていないけど……」
「……十分よ。後学のために見ておきなさい。私が代わりに組み立てるから」
そういうや否や、鈴は術式を紙に書き始める。
ちなみに、その紙は優輝が創造したものであったりする。
「お、覚えてるの?」
「私が生きていた時代だと、陰陽師は散々体に覚えこませる程使う術式よ。式姫だけでなく、普通の式神を召喚する時にも使える術式だから、覚えて損はなかったからね」
「私も術を扱う者の端くれ。少しばかり手伝おう」
「わ、私も手伝います……!」
鞍馬と葉月も術式を組み立てるのを手伝い、一気に作業を進めていく。
「……ここがこうなって……なるほど、だから……」
「……さすが、式姫を召喚する術式なだけあって、複雑だね……」
「そうね……」
その様子を見て、澄紀は家で見た文献の内容を改めて知る。
短時間では読み解けなかった部分が、目の前で組まれる事で理解できるようになる。
司と奏も、術式の内容に感心するように見入っていた。
「後の時代……と言うより、私の死後、式姫を従える陰陽師を支える方位師と言う存在が確立されたらしいわ」
「それは椿達に聞いた事があるな」
「確か、陰陽師を遠征地から帰還させるための……」
「退き際を見誤って死んだ私の二の舞にさせないように、泉さんが新たに定めたのよね」
方位師は、鈴が生きていた時には存在しなかった。
その鈴が死んでしまったために、彼女の師であった吉備泉が同じ事を繰り返さないように新たに作り出した役割だった。
「……方位師は式姫召喚の支援も行うわ。貴方達は初めてな事もあるし、今回は私がその立場になってあげる」
「えっと……方位師じゃなくても大丈夫なの?」
「元々陰陽師は召喚も一人で行っていたわ。私も含めてね。だから、召喚の支援程度なら出来るわ。それに、いざとなれば彼女も支援が出来るだろうし」
「えっ?……確かに、出来ますけど……」
自身の事を指していた事に、葉月は若干困惑しながらも肯定する。
前世で幽世にいた時、とこよと共にいたためにそれぐらいは出来るようになっていた。
「まぁ、今はあまり気にする必要はないわ」
ㅤ役割を分担しているかそうでないか。方位師の有無はその違いでしかない。
鈴はそう言って術式の組み立てを続けた。
「鞍馬、そっちはどうかしら?」
「ああ、大丈夫だ。しかし、これ以上は覚えていない」
「式姫は召喚式を覚える必要がなかったものね。後は私がやるわ。術式に綻びがないか確認してておいて」
「分かった」
そうこうしている内に術式が完成する。
その術式は非常に細かく組まれており、霊術を今まで使っていた優輝達も見たことがないような術式だった。
「凄い高度な術式……」
「凄まじさで言えば彼に負けるけどね」
細かく編まれた術式は、非常に高度なものに仕上がっていた。
それこそ、術式の高度さで言えば、大門近くで優輝が使った術式と同等程だ。
効果の凄まじさで言えば優輝の方が上だが、精密さならこちらが圧倒的だった。
「後は手順を踏めばいいだけ。さあ、始めるからこっちに来て頂戴」
鈴が優輝を手招きし、優輝は召喚式の傍に立つ。
「霊脈の扱い方は知っているかしら?」
「一応は。召喚に合っているかは知らないが」
「上出来よ。扱うと言っても霊力を汲み取るだけだから問題ないわ」
簡潔に会話し、手順を踏んでいく。
「手始めに、今言ったように霊脈から霊力を汲み取って、術式に流し込みなさい」
「分かった」
言われたように優輝は霊脈から霊力を汲み取り、術式に流し込む。
すると、術式は反応するように一瞬淡く光る。
「っと、忘れてたわ。あの二人に関係するものはあるかしら?触媒にできるものがあれば成功率も上がるわ。……十分確率は高いから意味ないかもしれないけど」
「じゃあ、これだな」
思い出したように言う鈴の言葉に、優輝は懐から短刀を出して置く。
それは、椿が接近された時に使用していた短刀だった。
他は家にあるか、式姫としての二人由来なものなため、この場にはなかった。
「次に霊気を取り込ませるわ。霊脈からの霊力で誘導しなさい」
「………」
鈴に言われた通りに、上手く霊気も術式に取り込まれるように誘導する。
「最後に、型紙を中心において、術式を起動させるのよ。貴方と彼女達の“縁”を頼りに、呼び寄せるように!」
「……ああ……!」
ここが正念場だと、鈴も優輝も声に力が籠る。
椿と葵の型紙が中心に置かれ、術式が光り始める。
霊脈や大気からの霊力だけでなく、優輝自身の霊力も流し込まれる。
優輝の霊力に反応するように、術式の光はさらに強くなっていく。
「―――来い、かやのひめ、薔薇姫……!!」
術式にある円陣の光が僅かに浮かび上がり、激しく回転する。
同時に、型紙に光が集束していく。
「あ、ああ……!」
司か、葉月か。もしくはその両方が思わず声を漏らす。
術式の中心に集まった光が、二つの人型を作り始めたからだ。
「っ……!」
「………」
召喚した張本人の優輝も、それを支援した鈴も、胸に込み上げる想いを感じていた。
「……椿、葵……」
光が収まり、再召喚された椿と葵の姿が露わになる。
優輝は、そんな二人の名を呼びながら、ゆっくりと近づく。
「再召喚……なるほどね。その手があったわね」
「型紙が残っていたからこそ……だね」
現世に戻って来た椿と葵は、戻ってこられた訳に納得する。
型紙は、本来なら無事に残る事は少ない。
そもそも式姫が死ぬのは戦闘である事が多く、式姫としての器を失った型紙は大した強度がないため、あっさりと紛失するのだ。
だが、今回はそんな事もなく、型紙が綺麗に残っていたために再召喚が出来た。
「……心配、掛けたみたいね」
優輝だけでなく、司や奏、鈴など、何人もいる事に椿は気づく。
そのほとんどがこちらを安堵したような表情で見ていた。
「それに……」
「優ちゃん……」
そして、椿は改めて優輝の様子を確認して、拳を握りしめた。
まるで、悔しさを滲ませるように。
「……どういうことか、説明してくれないかしら?どうして……どうして、貴方は感情を失っているのよ……!」
そう。椿と葵は一目で優輝の状態……感情を失っている事に気付いた。
その事が……こうなる事が防げなかった事に、椿は悔やんでいたのだ。
「それは―――」
まずは説明する必要があると、優輝は判断して説明を始める。
司や奏も、優輝の説明を補足するように会話に参加した。
「……経緯は、わかったわ……」
椿達はまず自分たちが優輝に憑依してからの話を聞いた。
その上で、無茶した事で代償に感情を失った事を知る。
「……悪い、また無茶をした……」
「ッ……貴方ねぇ……!」
優輝の謝罪の言葉に、椿が思わず手を振りかぶる。
「……ッ……!」
……だが、その手が振るわれる事はなかった。
椿は沸き上がる感情を何とか抑えつけ、振りかぶった手を止めていた。
「なんで、貴方は……ッ!」
「優ちゃん……」
その手は、そのままもう片方の手と共に優輝の肩に掛けられる。
顔を俯かせ、優輝に投げかけたその言葉は、悲壮感に満ちていた。
葵も同じ気持ちなようで、名前を呼ぶ以外の言葉を出せなかった程だ。
「無茶をしなくちゃいけなかったのも、分かる。他の誰かを頼れない程切迫した状況だったのも、分かる……!でも、どうして……どうして、貴方がこんな目に遭わないといけないのよ……!」
「ッ……!」
それは、これ以上ない程の悲痛な叫びだった。
その声が、言葉の内容が、司と奏の心にも突き刺さる。
「優輝に何の恨みがあるっていうのよ!優輝が、一体、何をしたっていうのよ……!」
まるで運命を呪うかのように、神に訴えるように、椿は慟哭を上げる。
同時に、死にたくなる程の無力感を椿は感じていた。
「……ごめん」
「……なんで、貴方が謝るの」
「僕が無茶をしたから」
「ッ―――!!」
その瞬間、椿はその場から逃げ出した。
優輝がこうなってしまった現状への怒りと、それを阻止出来なかった無力さへの怒り。
それらが、優輝の言葉で箍が外れたように溢れ、抑えきれなくなったのだ。
やり場のない怒りを誰かにぶつける事も出来ず、一人になりに行った。
「つ、椿ちゃん!?」
「椿さん……!」
椿が逃げ出した事に、優輝と葵以外の全員が驚いた。
すぐさま司と奏が追いかけようとするが……。
「待って」
葵に、それを止められた。
「今は、ダメだよ。一人にさせてあげて」
「で、でも……っ!」
葵の言葉に反論しようとする司だが、それは途中で止まった。
なぜなら、葵もまた、椿のように溢れそうな感情を抑えた表情をしていたからだ。
「とりあえず、あたし達を再召喚してくれてありがとう」
「……葵……」
「お礼も出来ないのにお願いするのもなんだけどね……」
出来るだけ平静を装いながら礼を言う葵。
だが、誰が見ても平静を保てていないのは一目瞭然だった。
「……優ちゃんは、もう、戦わないで……!」
「葵……」
「強くなろうとするのもいい。戦わざるを得ないなら、その時は戦ってもいい!……でも、それ以上に、あたしは……あたし達は、優ちゃんが壊れていくのを見たくない!」
“無茶をしなければいい”。そういった考えで、何度無茶をしてきたか。
葵はそう考えて、これ以上無茶をして代償を払う事になって欲しくないと、優輝に涙ながらに懇願したのだ。
「葵ちゃん……」
「葵さん……」
口に出していないだけで、司と奏も同じ想いだった。
だからこそ葵の言葉が余計に響き、葵と同じように涙を流していた。
「……悪い……」
その言葉と涙は、感情を失っているはずの優輝にも響いていた。
涙を流す葵を優しく抱き締め、ただただ申し訳なくその一言を放った。
「優ちゃんは悪くないし、謝る必要もないよ」
「………」
「……悪いのは、優ちゃんに無茶させた、あたしなんだから……きっと、かやちゃんも同じ事を思ってる。……だから、自分が悪いだなんて言わないで。……ううん―――」
涙を拭き、葵は一度言葉を区切る。
「―――言わせない。優ちゃんにだけじゃない。誰にも」
「「ッ……!」」
気迫すら感じる程に、葵は力強く言った。
覚悟が感じられたその言葉に司と奏は気圧されていた。
「……ねぇ、貴女達」
誰も口を挟めないような空気の中、蚊帳の外だった鈴が司と奏に声を掛ける。
「私には貴女達の詳しい関係は知らないわ。……でも、彼を支えると決意したなら、それを自分達の中だけで済ませていいのかしら?」
「え……」
「それはどういう……」
「支えようとするのは、貴女達だけでいいの?支える相手は、彼だけなの?それぞれが自分だけで抱え込んでいたら、それこそ何も変えられないわよ」
どうするべきかを、鈴は語らない。
それは鈴自身にもわからない事であり、何よりも司と奏自身が判断する事だからだ。
「……そうだね」
「その通りだわ……」
鈴の言葉を確かめるように肯定する二人。
なら、どうするべきかと、二人は考える。
そして、出した結論を実行するために、まずは葵の下へと向かった。
「葵ちゃん」
「……何かな」
「私達は椿さんの所に行ってきます」
「……止めても無駄みたいだね。……うん、でも、今の二人なら任せられるよ」
短く会話を交わし、司と奏は椿のいる場所へと向かった。
先程は止めた葵も、二人の覚悟を感じ取ったのか、今度はあっさりと許した。
「……随分と、気に掛けるのだな」
「そうかしら?」
二人が去ったのを見送る鈴へ、鞍馬が話しかける。
会話には参加していなかったが、ここには澄紀も葉月も鞍馬もいたのだ。
一連の会話は全て聞かれていた。
「……そうね。同じような境遇だからかもしれないわ」
「同じ境遇……ですか?」
「そ。……そういえば、貴女も似たような境遇ね」
葉月も会話に参加してくる。
“似たような境遇”と言うのは、前世を知っているという事を表している。
事前に身の上を話し合ったため、葉月の事情から葉月も同じだという鈴。
しかし、当の葉月はピンと来なかったようだ。
「つまりね、彼女達も私達と同じように前世の事を覚えているのよ」
「っ、そうだったんですか!?」
「詳しい経緯は全然違うけどね」
「なるほど、だから他の者よりも関心を向けていた訳だな?」
前世云々の事を聞いても、鞍馬は驚かない。
さすがに葉月と鈴の前例があるため、慣れていた。
「そんな、私があまり物事に感心がないみたいな言い方やめてよ」
「そうですよね。鈴さんはなんだかんだと優しくしてくれる方ですからね」
「ちょっ、葉月!?別に私は……!」
「(……会話に入れないわ……。私、ここにいる意味あるのかしら?召喚について後学のためにとか言われたけど、終わったのならホント蚊帳の外よね)」
葉月と鈴は僅かとは言え、前世で関わりがある。
そのためか、既に随分と打ち解けていた。
そして、唯一現代の人間でしかない澄紀は完全に蚊帳の外になっていた。
「とりあえず、どうするの?再召喚自体は終わったから、ここに留まる理由もないのだけど……いえ、霊脈もある事だし色々……」
「……んー、そうだね。一旦アースラに戻るつもりだよ。あたし達がいない間の詳しい出来事とか、聞いておかなきゃだしね」
「……それもそうね。……というか、確かここ那美がアルバイトしてる所じゃない。後で相談してから決めるべきだったわ」
司達の方は念話で連絡する事にし、葵達はアースラへと帰還する事にした。
なお、鈴が霊脈で何かしようと画策していたが、皆は敢えて突っ込まなかった。
後書き
葉月と鈴の前世の関わりは、本当に僅かです。関わりの密度などで言えば友人ですらないクラスメイトよりも薄いです。
ただ、お互いの立場や状況が特殊だったため、印象に残っています。
尤も、鈴は霊体だったので、碌な交流はありませんでしたが。
ゲームの方ではごく一部のキャラ(主人公とか)しか姿が見えず、しばらくは声すらほとんどのキャラに聞こえないので、これでも交流出来ている方だったりします。
なお、鈴と葉月が実際に会うのは、この作品オリジナルの設定なのであしからず。第一別作品キャラなので会える訳ありませんし。
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