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繰リ返ス世界デ最高ノ結末ヲ

作者:エギナ
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10.魔法学院(別世界)から就職にやってきました。
  プロローグ

 ―――夜。それは裏社会に堕ちた者達の時間だった。

 闇に包まれた街に、けたたましいサイレンが鳴り響く。
 騒ぎの中心には、ショーケースや窓硝子が粉々に叩き割られた宝石店があった。
 バッグ一杯に宝石を詰めた黒ずくめの男が宝石店から出て行く。強盗だ。

 強盗犯は直ぐに車に乗り込み、急発進――――――出来なかった。


「あー、どーも。こんばんはー」


 前方から声が投げ掛けられる。
 強盗犯はアクセルを踏み込むが、車は全く動かない。車の前で、先程の声の主が車を押さえているのだ。


「あらー、お疲れ様ですー」


 被っているフードから、先が白く染まった、漆黒の髪が覗く。其の奥から、冷たく、鋭い視線が、運転席へ注がれ、強盗犯がヒッと短く悲鳴を上げる。
 其の特徴的な髪。黒革の、ファスナーを首まで上げた長外套に深く被ったフード。車を止めるほどの能力(ちから)。相手を怯ませる程の眼力。


「死ぬかムショに行くか、選びなさーい。ことはさんは優しいですからねー」


 間違えなく、数ヶ月前までは人間最大の敵とも呼べるであろう"人間"、黒華琴葉だった。


「カウントダウンしますよー。さーん。にー。いーち…………」
「分かった! 分かった! 自首する!! だから、見逃してくれぇ…………裏切り者には……殺されたくないぃぃ…………!!」


 強盗犯は車から転がる様に下りてきて、"土下座"を琴葉に披露する。愉しそうに琴葉はそれを眺めるが、次の瞬間。


「炎よ爆ぜろ、広く広く、踊り狂え。炎よ裂けろ、黒く黒く、闇に染まれ。此の世の全てを吹き飛ばせ、此の世の全てを黒に染めろ。天から降り注ぎし流星の如く、此の世を焦がせ。此の世の理を滅しろ、全てを壊せ。此の世の全てを破滅しろ。《爆裂魔法(エクスプロージョン)》!!」


 そんな声が街全体に響き渡り、琴葉の眼前に紅蓮に燃える柱が立った。


 そして、それが一瞬で爆発、炸裂した。


  ◆  ◆  ◆


「…………………………………………死ぬかと思った」

 爆心地の煙の量が減り、視界が段々とクリアになってくる。

「建物、殆ど残ってないし…………」

 琴葉は静かに立ち上がる。

 
 街は先程の爆裂魔法に因り、灰すら残ら無いほどまで完璧に吹き飛ばされていた。


 足元に転がる死体を蹴り飛ばし、琴葉は歩を進める。何処かに向かっているわけでは無い。ただ、何か残っている物は無いか、と思っただけだ。

 此の場所は人間の、四番目程の大きさを持つ街。白猫の実験場が多くある街だ。

 琴葉が此処を訪れていたのは、能力に因る犯罪を減らすため、白猫から依頼を受けたからである。なので、先程の強盗犯――――――"部分的な身体強化能力"を持つ犯罪者を追っていたのだ。
 だが、こう何者かに殺され、更に街も跡形もなくされては任務も、依頼も完遂できない。

 流石にそれは困るな、と琴葉が言葉を溢す。
 何か手は無いだろうか、と考え始めたときだった。


「――――――オイ、琴葉。まだ仕留めきっていないぞ」
「……あ、ほんとだ。ってあれ? でもあの人、爆心地に居た筈」


 背後から声が聞こえてくる。
 それが男女一人ずつである事を即座に理解すると、琴葉はフードを被り直す。そして、勢い良く振り返って、目を見開いた。

 女の方が、完全に自分と瓜二つで、男の方がノアと瓜二つだったのだ。女の方は、今の自分では無く、いくつか前の、侵略者に因って破壊されつつある世界の自分に。


「…………あはは、前レンの色違い見たばっかだった気が……というか、小さい時の自分を見たばかりな気が…………次は別世界の自分か」ポツリと琴葉が呟く。
「此の世界の私は、相当な馬鹿らしいね」ポツリと"琴葉が"呟く。


「じゃあ初めまして……って、一回ネット上で会ったか。黒華琴葉だ」

 琴葉が何も無いところに手をかざすと、其処に黒い渦が発生する。其処に手を突っ込み、琴葉はいつも身に付けている帽子を取り出す。フランの能力、空間操作だ。
 フードを外して、外套を脱ぐ。下に、何時もの機動性重視の外套を着ていたため、帽子を被って、何時もの格好になる。

「気付いていたのか。まぁ、よい。俺はノアだ」
「私は琴葉」

 二人は制服の様な服を着ている。別世界の学院の制服だろう。


「まぁ、自己紹介は如何でも良いんだ。問題は、君達二人が如何やってこの世界に来たのかだ」此の世界の琴葉は首をかしげながら問う。かなり重要な質問だが、琴葉の顔に真剣さは出ていなかった。だが、実際はとても真剣である。「此の世界には魔法は無い。代わりではないが、"能力"が存在する。空間を超える能力を持つ能力者は世界に三十程しか居ない筈なんだ。私が見てきた別世界にも、空間操作の能力者は殆ど居なかった。だけど、君達は空間を超えて此の世界に来たのだろう? おまけに、魔法が使える。となると、私が未だ知らない世界か、遠い昔に訪れた世界かの二択となる。だが、昔と言っても、三千年前程だが…………というか、抑も感情が薄い私は皆死んだので、遠い昔に訪れた世界と言うのは無い。未だ知らない世界だとしたら、まぁ納得は出来る。魔法が盛んな世界なら、魔法で来たんだーで終わるのだけど、能力で来たとなると話は長くなる。一応聞くけど、君達は魔法で空間を超えたんだね?」

「嗚呼…………ん、琴葉? 興味があるのか?」別世界のノアが、別世界の琴葉へ問う。すると、子供扱いしないで、と琴葉はぴしゃりと言葉を放つ。

「今、"遠い昔に訪れた世界"って言った。つまり、貴女も不死者ってこと?」
「不死者…………? 不死者か不死者じゃないかって言われたら……不死者だと思うけど。死んだら違う世界に転生するって感じだからな」
「へぇ……」

 自分と話すなんて、どんな体験だよと心の中でツッコミながら、此の世界の琴葉は苦笑を浮かべる。


「まぁ、勝手に○witterに入り込んで、空間を乱し、此の街を爆裂魔法に因って破壊したんだから、其れ相当の罰は受けて貰うよ」


 此の世界の琴葉は黙って手を前に突き出す。


「【消滅】」

 別世界のノアと琴葉を囲む様に、紅蓮に燃え盛る膜が張られる。

「《黒波乱舞(ネグロオラバイラル)》」

 が、直後黒い渦に膜が呑み込まれ、膜が消える。


「へぇ、これが魔法ねぇ……」
「……如何為て極致級魔法を使える」


 二人の琴葉はお互いを睨み合い、ノアはそれを端から見守る。
 此処で二人が戦い始めたら、止めることは不可能だろうとノアが理解しているからだ。

 数十秒の静寂の後、此の世界の琴葉は頭を掻きながら言った。


「…………本当は、今日、此処で死ぬ予定だったんだよ。もう此の世界に用は無いから」
「は…………?」
「此の世界の結晶の破片は回収した。だからもう用は無い。なので死ぬ。邪魔はしないで欲しいんだけど……どうせ、ついてくるんでしょ? 私が連れて行ってやるよ」


 そう言い終わった直後、此の世界の琴葉は自分の体を覆う様に、消滅の膜を張る。



 此の世界の黒華琴葉が滅びた。


 
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