黒い機関員
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第七章
「優れていたら乗れる様になるな」
「そいつはいい、じゃあ俺もあの時みたいに突っ張ることはないな」
「昔は差別は今よりずっと酷かったからな」
「ああ、こんなものじゃなかった」
それこそとだ、老人は若者に答えた。
「けれど俺は船に乗ったり船が沈んでも生き残ったり友達も助けた」
「凄かったんだな、あんた」
「今は只の老いぼれだがな」
「いやいや、その凄い過去に乾杯させてくれるか?」
若い黒人は笑って謙遜した老人に明るい笑顔で返した。
「そうだな、バーボンでもな」
「それをか」
「奢らせてくれるか」
「いいか?俺が好きなバーボンは高いぜ」
「いいさ、何でも言えよ」
「それじゃあな、今日は一緒に飲むか」
「俺の奢りでな。面白い話どんどん聞かせてくれよ」
若い男は老人に笑顔で言ってだ、実際に老人が言ったバーボンを注文した。そのバーボンは安かったが何でも昔ある船で友人が飲みたいと思っていた酒だということだった、昔はとんでもなく高かったという。しかしその酒は今は安かった。黒人への偏見もその時よりはましになっていてこれからも変わるのだろうという話をしつつ二人で飲んだ。だが若者は知らなかった、その老人シャインの若い時の話を。それは彼が生まれる前の遥かな過去の話であった。タイタニックもそこにあった差別も海の底ではなく歴史の中に入っていたからこそ。
黒い機関員 完
2018・9・16
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