黒い機関員
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第六章
「その前にやばくなってな」
「急いで飛び込んだか」
「そうしたんだよ、折角だったのにな」
「そこで下手に留まらなくてよかったな」
「そうだな、若しあと少し諦めるのが遅かったらな」
「ここでこうしていなかったぞ」
「美味い酒は何時でも飲めるか」
アッシュは船の方を見つつまた言った。
「そうか」
「そうだ、だからアメリカに帰ったらな」
その時にというのだ。
「飲むぞ、いいな」
「それじゃあな」
二人で約束してだった、沈む船から逃れたことを今は喜んだ。そうして二人でアメリカで楽しく飲みそれぞれの新しい仕事、どちらも別々の船に乗った。この時にシャインはアッシュから彼が探しての見たがっていたバーボンの柄のことも聞いた。
この時から日が経ちアメリカにマーチン=ルーサー=キング牧師やマルコムエックスが出て黒人の社会的地位も上がった、その時にだ。
ニューヨークのバーである黒人の老人がカウンターの席で一通の手紙を読みつつ笑っていた、その彼に若い黒人が声をかけてきた。
「爺さん何を読んでるんだ?」
「ああ、ボストン生まれの若いツレの手紙をな」
それをというのだ。
「読んでるけれどな」
「その手紙を読んでか」
「あいつも元気だなって思ってな」
それでと言うのだった。
「ついついな」
「笑ってるんだな」
「アッシュっていうワスプの奴でな」
「何だよ、白人かよ」
「白人でも同じ船に乗っていたことがあるんだよ」
「爺さん船乗りだったんだな」
「ずっとな、今はもう引退してるけれどな」
それでもというのだ。
「石炭の頃から乗っていたさ」
「随分昔の話だな」
「その頃からのツレだ、あの時は色々あったな」
「石炭を窯に入れるの相当熱いらしいな」
「ああ、熱かったな」
「俺はタクシーの運転手だからわからないけれどな」
若い黒人は老人の横でバーボンを飲みつつ言ってきた。
「昔の船はそうだったんだな」
「クーラーなんてなかったしな」
「それは大変だ、その時代からか」
「船に乗っていたさ、船に乗っている黒人は俺一人だった」
「それも凄いな」
「これからは違ってくるみたいだがな」
「立派な船に俺達でもな」
若い黒人は自分と老人の黒い肌を見つつ老人に話した。
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