永遠の謎
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471部分:第二十八話 逃れられない苦しみその十五
第二十八話 逃れられない苦しみその十五
「教皇に帝冠を授けられないのならだ」
「ドイツで王である方々に推挙して頂く」
「同じドイツで王であられる」
その彼等の推挙を受けてだというのだ。
「そしてドイツ皇帝になられる」
「そうなりますね」
「そしてだ。その王の中でだ」
誰かというのだ。その中で。
「最も地位があり貴い方は」
「バイエルン王ですね」
「やはりあの方ですね」
「バイエルンはプロイセンに次ぐ国だ」
このことが非常に大きかった。バイエルン王国はプロイセン王国と比べると確かにかなり落ちる。しかしそれでもその国力と地位はというと。
今ドイツで第二なのだ。その国の王だからだ。
「あの方に推挙して頂くことになる」
「そうですね。それが一番です」
「そのうえでドイツ皇帝になられる」
「その為に」
「あの方を利用することになる」
そうだというのだ。ビスマルクはあえてそうするというのだ。
そしてだった。彼は。
「私はあの方と違うのだ」
「バイエルン王とはですか」
「あの方とは」
「私は悪人だ」
顔はにこりともしていない。しかしだ。
声には自嘲を含めてだ。そして言うのだった。
「だからだ。そうするのだ」
「バイエルン王をですか」
「そうされてなのですか」
「そうだ。このことはあの方を苦しめることになる」
それもわかっていた。わかっていてなのだ。
「だが。それでもだ」
「ドイツの為にですか」
「ドイツ皇帝を戴く為に」
「そうする」
こう話してなのだった。ビスマルクはドイツの為にあえて王を苦しめることを選んだ。そうしてそのうえでこう話をするのだった。
そしてこのことはだ。王もわかっていた。それでだ。
こうだ。ホルニヒに漏らすのだった。
周囲は婚約破棄のことで騒がしい。しかしだ。
今の王にはそんなことは関係なくだ。彼にこのことを言うだけだった。
「仕方ないことなのだ」
「といいますと」
「ドイツ皇帝は必要だ」
まず言うのはこのことからだった。
沈痛な顔でだ。こう漏らしたのだ。
「ドイツの為にだ」
「そしてそのドイツ皇帝は」
「ホーエンツォレルン家がなる」
このこともだ。わかっている王だった。
しかしだ。それでもなのだ。
「だが」
「だが、ですか」
「私がプロイセン王をドイツ皇帝に推挙することは」
「そのことは」
「どうしても受け入れられない」
感情としてはだ。そうなのだ。
「だが。ドイツ皇帝になれるのはだ」
「最早ドイツではプロイセン王だけです」
「力も地位もだ」
それだけのものがあるというのだ。
「それにドイツはプロイセンを軸として統一されるのだからな」
「それでプロイセン王がならない筈がないですね」
「どうしてもだ」
「しかし皇帝に推挙するのは」
「私でなければならない」
ドイツ第二の国であり随一の名門ヴィッテルスバッハ家の主であるだ。王だけだった。
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