わざと選ぶ
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第三章
「そちらにした」
「それはですね」
「神の取り分とする」
「食べる必要がないからですね」
「神も食べる喜びは知っている」
このことは確かだ、神は餓えることはない。だが食べてその美味さを楽しむことは出来るのである。
「しかしな」
「それでもですね」
「神は餓えないのだからな」
「人は餓える故に」
「そちらを渡した、そしてだ」
「神の面目はですね」
「考えたが人にそれだけのものを与えた」
肉や内臓、つまり食事をというのだ。
「ならばな」
「それで、ですね」
「いいと考えた、それでだ」
「この度の選択はですね」
「私もいいと思っているが」
それでもとだ、ゼウスはプロメテウスに問い返した。
「そなたはどう思うか」
「異論はありません」
プロメテウスはゼウスに畏まった態度で応えた、その物腰は長く白い髪の毛と髭、皺の多い顔と合わさって賢者と呼ぶに相応しいものだった。
「まさにです」
「それこそがだな」
「神としてあるべき選択でした」
「神は強い、ならばな」
「然程いりません」
「しかし人は弱い」
「それならばです」
弱い人のことを考える、それならばというのだ。
「多くのものがあるべきです」
「そして多くのものを人に与えた」
「このことこそがです」
「神の誇りでありな」
「取り分となります」
「そうだな、ではこれよりだ」
ゼウスはプロメテウスにその峻厳な声でこうも述べた。
「人が肉や内臓を食いな」
「楽しむその姿をですね」
「見て我々もだ」
「楽しみますか」
「そうしよう、ネクタルとアンブロジアを持って来させる」
神々の食物と飲みものだ、この二つを口にすることによって神々は不老不死となり強い力を保てるのだ。
「その二つを口にしつつな」
「人の喜ぶ姿を見ますか」
「そうするとしよう。思えばな」
「ネクタルとアンブロジアで、ですね」
「神々は満足だ、そこでさらに取るとなるとな」
「欲が深いですね」
「あまり欲が深いと身を滅ぼす」
ゼウスはこの言葉を自ら述べた。
「ここは慎もう」
「それもよいことです」
「そうだな、神々といえどもな」
「欲はです」
これはというのだ。
「あまり出さずに」
「そうしてだな」
「そうです、オリンポスにいるべきです」
「その言葉受けよう、ではな」
「これより」
「今から楽しもう」
ネクタルとアンブロジアを口にしつつ人が食べる姿を見てというのだ、ゼウスはそう言ってプロメテウスと共に神々の楽しみに入った。
わざと選ぶ 完
2018・8・14
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