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デジモンアドベンチャー Miracle Light

作者:setuna
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第70話:誠実

 
前書き
トノサマゲコモン回は飛ばしまーす 

 
色々あった。

デジタルワールドに来てから命の危機に瀕したことなどいくらでもあったが、ただ今までと違うのは今回は命を脅かす脅威に抗うことさえ出来ないことだろう。

「参ったな、水中で動けるデジモンなんかいないし」

泳げないと言うわけではいが、かつてのメタルグレイモンとの戦いで回収した暗黒のデジメンタルで超進化出来るようになったパタモン達だが、真価を発揮出来るのは当然水中ではなく地上だ。

「さて、僕達は残された時間でメガシードラモンに気付かれないように脱出しなくてはならないわけだ。」

「そうだけど、どうして襲ってこないのかしら?」

「時間の問題だからですよ。だって、ここの空気が無くなったら、僕達は……痛あっ!?」

タケルの脛に大輔の蹴りが入り、ヒカリがタケルの足を踏んづけた。

脛と足の同時攻撃。

これが長年の付き合いが成せる技か。

「アホ、伊織の気持ちを考えろ」

「タケル君って無神経なとこあるわよね…」

全員が後ろを振り返るとそこには、伊織が膝を抱えて座り込んでいる。

「僕のせいだ……僕のせいで……」

今から少し前のことだ。

デジメンタルの反応があったらしい油田にやって来た大輔達は、先に入った伊織を追って建物に入った瞬間、現れたメガシードラモンに建物を破壊され、中に閉じ込められてしまった。

メガシードラモンの攻撃で破損した壁から浸水したがブイモンが非常用シャッターを閉めた為、溺死は避けられた。

「まあ、落ち着いて。今は酸素が無くなる前に何とか脱出する方法を考えよう」

「そうだね、賢ちゃん」

溺死は避けられたが、次は窒息死の危険性だった。

伊織が何度も同じ言葉を繰り返す。

「僕のせいだ、僕のせいでこんな事に……」

「伊織のせいって、どういう事だぎゃ?」

「そんなことも分からないの!?僕が罠かどうかも確かめずに、中に入ったのがいけなかったんだ!!」

「それは違うだぎゃ。たまたま伊織が一番先だっただけだぎゃ」

「僕のせいなんだ!!」

自分が考えなしに飛び込んだせいで、仲間が危険に晒されていることに。

誠実な伊織からしてみれば、その事は耐え難い事態なのだろう。

「伊織君、やっぱり落ち込んじゃったね…」

「まあ、怒鳴る元気があるだけマシさヒカリちゃん。今は誰の責任とかは置いといて、賢の言う通りに何とか脱出する方法だな」

大輔は溜め息を吐きながら言うが、どうしたものかと頭を悩ませる。

中を調べていたワームモンとパタモンが目の前の装置を前にして声を上げた。

「これって…」

「緊急脱出用ポッドのようだね。1人用だけど」

パタモンとワームモンの言葉に大輔達はポッドを見つめる。

「この建物古いよな」

「?まあ、そうだね」

「当然、このポッドも古い物だよな」

「そうだね、全然使われていないようだし」

大輔の言葉にタケルや賢が答えていく。

「だったらこの中で一番軽くて頭の回転が早い奴が行った方がいいよな?」

「うん…あ、そうだね。じゃあ伊織君!!お願い」

「え?」

「そうねえ、ここは女子のプライドのために私らが行くべきなんだろうけど。伊織、頼んだわよ!!」

「な、何で僕なんです?僕がちっちゃいから?だったら嫌です!!」

「あのねえ!!伊織!!私とヒカリちゃんが女子としてのプライドをかなぐり捨ててあんたを指名したのよ。応えなきゃって気持ち無いわけえ!!?」

「そんな訳の分からないプライドなんか知りません!!」

「ち、ちょっとショックかも」

「ヒカリちゃん、後で美味しいクリームパイ焼いてやるからな」

「わあい♪」

「前々から思ってたけどヒカリちゃん、大輔君に餌付けされて…」

「「とわあ!!ブイテイルコンビネーション・ダッシュキック!!」」

ダブル脛ダッシュ蹴り!!

「………もう駄目だ…」

ブイモンとテイルモンのダブル脛ダッシュ蹴りが炸裂。

タケルは連続で受ける脛のダメージに耐えきれず倒れ伏した。

ここに犠牲者が1名。

「おいおい、伊織が早くしないからタケルが犠牲になったじゃんか」

「やったのはブイモン達じゃないですか!?」

大輔が呆れたように言うと何故かブイモンとテイルモンによるタケル撃沈罪まで押し付けられた。

当然、これには納得出来ずに反論する伊織。

「よしよし、罰はちゃんと受けないとな。」

ひょいと脇に抱える大輔。

当然伊織は抵抗するが、相手はブイモンやテイルモンの日常茶飯事の喧嘩を止めてきた歴戦の猛者である大輔である。

当然無意味。

「下ろして下さい!!」

「駄目だ。タケルの犠牲をお前は償わなきゃいけないんだ」

「だからやったのはブイモンとテイルモンじゃないですかあ!!」

「あらやだ、私達に罪を擦り付ける気?」

「全く、悪いことしたらちゃんとけじめを付けないと駄目だぞ伊織?」

テイルモンとブイモンはいけしゃあしゃあと全く悪びれておらず、伊織に説教する始末である。

この態度には流石の伊織もイラっとした。

「京、ポッドを開けてくれ」

「了解!!」

「ちょ、止めて下さいよ!!」

「仕方ないじゃない。伊織君、強情だから。それに伊織君はタケル君の犠牲に報いなきゃ」

「そうだよ伊織君。罪から逃げてはいけないよ」

「だから何でブイモンとテイルモンのしたことが僕のせいにされるんですか!?流石に納得出来ませんよ!?」

ヒカリや賢からも自分の罪にされて伊織は叫ぶ。

「と言う訳で罪を償ってこい。お前のために犠牲になったタケルのためにも…!!」

「だからやったのはブイモンとテイルモン…」

最後まで言わせずにポッドの中に放り込む大輔はポッドの扉を閉める。

「伊織君、あっちに戻ったらこの事を丈さんに伝えてね。この状況から私達を助けられるとしたら、イッカクモンしかいないから!!」

「デジメンタルは僕達が探しておくから君は罪を償ってくるんだ。」

「伊織を信じとるだぎゃ!きっと罪を償ってくると…」

「アルマジモンまで僕に!?もう、誰も信じられない…と言うより、ここから出せー!!」

「その程度の抵抗で俺達を止めることは出来ん、発射」

メガシードラモンが向こうに行ったのを見計らってブイモンがポッドを起動。

あっという間にポッドの外が海水で満たされ、伊織の姿は泡の向こうに見えなくなってしまった。

「………少しいじめ過ぎたな」

「うん、反省しなきゃだね」

大輔とヒカリの呟きが妙に響き渡った。

「反省もいいけど、僕達は僕達でデジメンタルを探さないといけないよ」

【あ、忘れてた】

当初の目的をすっかり忘れていた一同は互いに笑い合った後、デジメンタルを探し始めた。

「それにしても残ってるデジメンタルって…」

「誠実だな。またの名を水のデジメンタル。水属性…水中戦に特化したデジモンにアーマー進化させるデジメンタルだったな。」

ヒカリの疑問にブイモンが答える。

他にもメタル属性2種類があるがあの2つは希少な物だから除外だ。

そう言えば奇跡を冠したメタルのデジメンタルと同じ力を持ったメタルのデジメンタルはどういう名前になっているのだろうか?

「ブイモン?」

「ん?何だハツカネズミモン?」

「あんたは…こんな状況でなければぶっ飛ばしてやるとこだけど。今回だけは許してあげるわ…それで、何を考えてんのよ?」

「何って…メタル属性のデジメンタルさ。奇跡のデジメンタルの対になるあのデジメンタルは一体どうなってんのかなって」

「メタル属性のデジメンタルって2つあるの?」

「ああ、1つは言うまでもなくマグナモンに進化する奇跡のデジメンタル。もう1つのメタル属性のデジメンタルは俺が普通の進化をすることで到達する代表成熟期デジモンの亜種デジモンなんだ。」

「ブイモンの成熟期って?」

ダメージから復活したタケルが尋ねてくる。

ブイモンと会ってから大分経つけれど初期化された時期も含めて普通の進化の兆しが全く見えてこないブイモン。

そのブイモンの成熟期と言われれば興味が湧くのも当然だろう。

「うーん、奇跡じゃないメタル属性のデジメンタルでアーマー進化するのはゴールドブイドラモンって言って、簡単に言えばブイドラモンの金ピカバージョンなんだ」

「ブイドラモン?」

如何にもブイモンが進化したような名前だ。

「ブイドラモンってのは俺のもう1つの代表成熟期デジモンのエクスブイモンの派生種なんだ。パワー型のブイモンがブイドラモン。スピード型のブイモンがエクスブイモンに進化することが多かったな。因みにブイドラモンはグレイモンみたいな感じで、エクスブイモンは鎧を取っ払って翼を生やしたフレイドラモンみたいな奴。エクスブイモンは空を飛べたり、他のデジモンとの融合や一部のアーマー進化とかの特殊な進化をしてある程度の状況に対応出来るのに対してブイドラモンはエクスブイモンみたいな器用さはないけど感情の高まりで完全体以上のパワーを叩き出す爆発力が売りのデジモンなんだ。ブイドラモンから進化したデジモンはブイドラモンの爆発力を継承出来るのも最大の利点かな?極稀にアグモンとかがブイドラモンに進化することもあったらしいぜ?」

「ふーん、あんたはどっちかと言うとスピード型だからエクスブイモンに進化するんじゃない?」

「下手したら別物かもしれないけどな、まあ…アーマー進化があるから普通の進化なんか要らないけどな。俺は古代種だから普通の進化なんかしたら寿命が縮む。だから積極的に進化したいとは思わないな」

「そりゃあ進化=死じゃね」

賢が納得したように言うと、ブイモンが再び口を開いた。

「さて、話は戻すけどゴールドブイドラモンは見た目は金ピカバージョンのブイドラモンだけどオリジナルより遥かに強くなる。理由はもう1つのメタル属性のデジメンタルは進化する時に使ったデジモンのデジコアにアクセスしてそのデジモンが進化するデジモンの情報を引き出して、その情報とデジメンタルのエネルギーと混ざることで、ブイドラモンより強力なパワーを持った一世代上の完全体級のゴールドブイドラモンになるんだ。」

「あんたからそんな詳しい説明が聞けるとは思いもしなかったわ。そう言えばブイドラモンってのは完全体並みに強いのよね?なら実質究極体ってことじゃない。」

「まあ、そういうことになるな」

正確にはブイドラモンから進化したエアロブイドラモン級だろう。

あれもまた究極体に匹敵する完全体だ。

「さてとここだな。大輔、サジタリモン」

「完全体のアーマー体が泣くぜ?」

「進化するのは俺だぞ?」

「はいはい、デジメンタルアップ」

「ブイモンアーマー進化、サジタリモン!!」

サジタリモンに進化して何をするのかと思ったら矢筒からクロンデジゾイド製の矢を1本抜き取り、それで地面を掘り始めた。

力の使い方を明らかに間違えている。

「……一応数少ない完全体のアーマー体なのに申し訳ないと思いませんか?」

「別に力の使い手の俺が問題ないと感じてるんだから無問題だ」

ホークモンの言葉をあっさりと切り捨てるサジタリモンであった。

しばらくして。丈の誠実の紋章が刻まれたデジメンタルが現れ、試しにヒカリが持ち上げようとしてみるが、予想通り持ち上がる事はなかった。

「やっぱり伊織君のだ」

「……という事は、これで俺が新たなるアーマー進化を……!!」

「ブイモン、どういうアーマー進化?」

ここはアーマー進化の大先輩に尋ねるべきだと全員の視線がブイモンに向けられた。

ブイモンは頬をポリポリ掻きながら口を開いた。

「ノコギリザメ」

【ノコギリザメ?】

「アルマジモンが水属性のデジメンタルでアーマー進化するとノコギリザメ型潜水艦のようなデジモンのサブマリモンにアーマー進化するんだ。こいつに近いデジモンで言うとメカノリモンだ。他の奴を乗せることが出来る。もしアルマジモンのアーマー体なら水中限定ではあるけど完全体にも勝てるぞ。実際完全体を倒したサブマリモンは…多いからな。」

【ほうほう】

水中限定とは言え意外にも強力なスペックを持ったデジモンだったようだ。

全員が感心しながら誠実のデジメンタルとアルマジモンを交互に見つめ、アルマジモンはドヤ顔だ。

何となくその顔に腹が立ったのでブイモンが1発殴ると、中が揺れた。

「何だ!?」

賢が窓を見つめるとイッカクモンがメガシードラモンと戦っていた。

助けに来てくれたのかと思ったが、相手は完全体。

一度戦った相手だから簡単にはやられないだろうが、全員が息を止めて見守る。

しかし突然上から大量の水が降って来た為に慌てて離れた。

「何だ?」

「みんな、助けに来たぞーっ!!」

壁を破って現れたのはホエーモンだった。

開いた大口の奥には丈と伊織が乗っている。

「早く、ホエーモンの口の中に入って下さい!!」

「伊織…」

「ほら、俺の言う通りだったぎゃ!!」

「全くだ、正直からかい過ぎたから来てくれるか不安だったんだけど」

「何しているんですか、早く乗って下さい!!」

ホエーモンの口の中で急かす伊織だが、タケルと賢は伊織を見上げてこう言った。

「伊織君!!」

「伊織君のデジメンタルだ!これを回収してイッカクモンに加勢して欲しい!!」

「僕の……!?」

「ああ、あれは誠実の紋章じゃない!?あれが僕の紋章の基になったデジメンタル…」

丈が自分の紋章の基となったデジメンタルを見つめる。

「誠実って、伊織にぴったりよね」

「……そんな事無いよ」

「伊織君にぴったりだと思うけどな」

「さあ、早く降りてこい!!」

「い、嫌です!みんながこうなったのも、そのデジメンタルのせいなんだ!そんなデジメンタルなんか……そんなことより、早くここから脱出しましょう!!」

京が咳き込んだために、伊織は脱出を促す。

「ここで脱出出来てもメガシードラモンに襲われない可能性がないとでも?ここは少しでも脱出の成功率を上げるためにデジメンタルの力が必要だと思わないかい?水中限定とは言え、完全体を倒せる力が必要なんだ。さあ、降りてくるんだ伊織君」

「だから要らないんですって!!いくら強力なデジメンタルでも、僕は…僕は…」

「…冗談じゃない。僕の紋章の基になったデジメンタルを海の藻屑にしてたまるかよ!!伊織君。さあ、一緒に来てくれ」

珍しく荒い言葉遣いで丈が言った後、伊織の手を掴んで強引にデジメンタルの元へ降りる。

「伊織、持ち上げて見ろ。アルマジモンをそいつでアーマー進化させれば水中限定で完全体とも渡り合える」

ブイモンがデジメンタルを持ち上げるように促すが。

「……無理だよ、持ち上げられないよ」

「試してもいない癖に無理とか言うなよ」

伊織の言葉にブイモンが呆れたように呟く。

実際に伊織程、“誠実”に相応しい人間はいない。

誰もが誠実のデジメンタルが伊織のデジメンタルであることを疑っていない。

「だって、だって僕のせいでみんなが危ない目に遭ったし……」

「それを言ったら警戒しないで中に入った俺達の責任もあるだろ」

「シャッター閉じた俺も悪いぞ。あの時なら気合いで泳げたかもしれないしな」

「誰も悪くないって」

大輔達がフォローを入れる。

「それに僕、嘘吐いちゃったの。嘘だけはいけないってお祖父様に言われたのに…だから、僕には誠実のデジメンタルを持つ資格なんてないの…」

「…伊織君」

あまり付き合いは大輔やヒカリ程に長くないが、伊織は小さな嘘すら吐いたことがなかった。

嘘を吐かないことはとても人間として素晴らしいことだが、しかしそこまで自分を追い詰めるような人生が面白いとは賢には思えない。

「伊織君、確かに嘘を吐かないことはとても素晴らしいことだと僕は思う。でも自分を追い詰めてまで必要なことなのかい?自分を追い詰めてまで過ごす人生が楽しいものとは僕には思えない。」

「賢さん…」

「そうだよ伊織君。それに嘘にはね、吐いていい嘘と吐いて悪い嘘があるんだよ。人を傷つける嘘と、人を助ける嘘」

「そうそう、嘘も方便というだぎゃ!!」

「そういうことだよ」

「でも…」

「何ならさ、僕が帰ってから伊織くんのお祖父さんに事情を説明する。少なくとも、僕は君の嘘で傷ついてないし、逆に君が嘘を吐いていなかったら、どんなことになってたか…」

「丈さん…」

「分かってくれたね?」

「はい!!」

伊織は丈の真っ直ぐな瞳を見上げる。

涙はいつの間にか止まっていた。

「さあ伊織、持ち上げてみるだぎゃ」

アルマジモンに促され、伊織は恐る恐るデジメンタルを掴み上げた。

するとやはり、それは呆気なく持ち上がる。

「伊織、アーマー進化だぎゃ!!」

アルマジモンに進化を促され、頷くと伊織はデジメンタルを抱えたまま叫んだ。

「デジメンタルアップ!!」

「アルマジモンアーマー進化、サブマリモン!!」

アルマジモンが進化したサブマリモンの容姿はブイモンの説明通りにノコギリザメ型潜水艦のような姿だった。

一応飛行可能らしい。

「伊織、お前の仕事、きっちりこなしてこい」

「はい!!」

伊織はサブマリモン、大輔達はホエーモンに乗り込んだ。

「ああ、空気が美味い」

「本当にね」

大輔とヒカリが空気の美味しさを味わいながら言う。

因みに勝敗は伊織達の勝利で終わったのは言うまでもないだろう。 
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