戦国異伝供書
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第二十話 東の戦その一
第二十話 東の戦
織田家の軍勢は遂に武田家との戦に入ろうとしていた、しかし兵達は数や装備で遥かに勝っていてもだ。
暗い顔でだ、こう話していた。
「武田の騎馬隊か」
「前の戦では何とか引き分けたが」
「それでもな」
「今度はどうなるか」
「わからぬのう」
「全くじゃ」
こんなことを話していた。
「相手は強いぞ」
「まさに天下一の強者達じゃ」
「しかも率いる将帥は二十四将」
「真田もおるぞ」
ここでの真田とは幸村のことだ、彼の下にいる十勇士達も入れられている。
「兵だけでなく将帥も強い」
「総大将はあの武田信玄」
「全く隙がないわ」
「数は我等の方が遥かに上じゃが」
「そして鉄砲も長槍も多いが」
「それでもな」
「勝てる相手には思えぬわ」
到底とだ、彼等は言っていた。こうした言葉は信長の耳にも入っていたが彼は笑ってこう言うのだった。
「そう言っているのも今のうちじゃ」
「すぐにですか」
「戦が終われば」
「その時はですか」
「そうじゃ、勝ってじゃ」
織田家つまり彼等がそうなってというのだ。
「驚きつつじゃ」
「勝ち鬨ですな」
「勝ち鬨をあげますな」
「武田の騎馬隊に勝って」
「そうなるからな」
だからだというのだ。
「今のうちにじゃ」
「まさにですな」
「言わせておけばいい」
「そうなのですな」
「そうじゃ、言わせておいてじゃ」
そうしてというのだ。
「後で驚かせるのじゃ」
「何か悪戯の様ですな」
柴田は信長のその言葉と語る顔を見てどうかという顔になってそのうえで彼に対して顔を向けて言った。
「殿がご幼少の時によくされた」
「ははは、悪戯か」
「その時の様ですぞ」
「そうかもな、しかしな」
「それをですな」
「認める、実際にじゃ」
柴田に応えて言うのだった。
「そう思っておる」
「悪戯をされると」
「兵達にな、勝てぬと思っている者達を勝たせる」
「それこそがですな」
「わしの今の悪戯じゃ」
まさにそれだというのだ。
「それをしてじゃ」
「そのうえで」
「上杉家にも勝ってな」
「より驚かせますか」
「武田にも上杉にも勝つとは思っておらんわ」
兵達の多くはというのだ。
「しかしな」
「それをですな」
「変えてやるのじゃ」
「まさに悪戯ですな」
「結局わしはあれじゃあな」
信長はこうも言った。
「悪戯者じゃ」
「今も尚」
「人が驚く顔が見たくてな」
それでというのだ。
「いつも何かを考えておる」
「そうした方ですか」
「だからじゃ」
それでというのだ。
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