永遠の謎
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44部分:第三話 甘美な奇蹟その九
第三話 甘美な奇蹟その九
太子はこのことを知っていた。そして多くの戦いの惨禍も学んできた。そうしてそのうえでだ。彼は戦いについて語るのだった。
「ああなってしまうのだ」
「それを好まれないからこそ」
「だからですね」
「それは」
「そうだ、戦いは駄目だ」
また言う彼だった。
「少なくとも私は好きにはなれない」
「では今は」
「何をされるというのですか」
「即位されたならば」
「既に考えている」
太子は答えた。
「その時にだ」
「左様ですか」
「ではさしあたっては即位ですね」
「その式を」
「王となれば」
遠くを見る目で話すのだった。
「私は彼を救えるのだから」
「救われるとは」
「一体?」
「誰をですか」
「・・・・・・・・・」
語らない彼だった。そうしてなのだった。
その即位の時が来た。その時はだった。
バイエルン中が歓喜の声に包まれる。特に王都ミュンヘンはだった。
「遂にだな」
「ああ、新しい王が即位されるぞ」
「あれだけ奇麗な王を戴けるなんてな」
「我々は幸せだ」
「全くだ」
彼等はそれぞれ言ってだった。彼の姿を見ようとしていた。
そうして大通りに並んでだ。彼を見んとしていた。
「さあ、そしてだ」
「来られるぞ」
「新しい王が」
「ルートヴィヒ二世閣下が」
「いよいよ」
そしてだった。彼等の王を見たのだった。濃紺の上着に白の乗馬ズボン、そして白テンのマントという姿の長身痩躯の王を見てだった。
「噂以上だな」
「ああ」
「あそこまで奇麗な人だとはな」
「信じられない」
誰もがだった。恍惚として言うのだった。
「我々は凄い王様を戴いたみたいだな」
「ああ、外見だけでも欧州一だな」
「ハプスブルクにもホーエンツォレルンにも負けないな」
「そうだな」
「あれだけの方とはな」
「それにだ」
ここでだ。さらに話されるのだった。
「見ろよ、あのお顔」
「奇麗だよな」
「見れば見る程」
「そうだよな」
「違うって」
その顔の奇麗さではないというのである。確かにあまりにも、絵画と見まごうばかりの美貌を誇る顔であってもだ。それでもだというのだ。
「だから。賢明そうだな」
「ああ、そういう意味か」
「王様のお顔な」
「そうだよな、あのお顔は」
「あの目は」
どうかというのだった。
「愚かな方じゃないぞ」
「むしろかなり聡明な方だ」
「全てを見すこし理解されてるような」
「そうしたお顔だな」
「いい目をしておられる」
新しい王は聡明ではないのか、そうしたようにも見られていた。そして実際にだ。彼等のその見方は間違ってはいなかった。
王の即位の式での立ち居振る舞いはだ。実に見事なものだった。そこには何の過ちも愚かさもない。何一つとしてだった。
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