横須賀の二〇〇〇年阪神
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第二章
艦内の食堂で朝食を食べている時にテレビのニュースを見てだ、工藤は自分と同じテーブルに座って食べている中西に笑って言った。
「ほら見ろ、今の阪神の順位」
「六位ですね」
「定位置じゃねえか」
最下位が、というのだ。
「今年もだぞ」
「最下位で終わるっていうんですね」
「このままどんどんな」
まさにというのだ。
「負けていくのが毎年じゃねえか」
「六月ですよ、まだ」
「強いの最初だけだろ」
春先、当時の阪神が強いのはこの時だけと言われていた。
「それでだからな」
「いやいや、今年は違いますから」
朝食である御飯の上におかずを乗せたものと味噌汁を楽しみながらだった、中西は工藤に言った。尚この日の朝食は工藤が作ったものだ。
「阪神は本当にですよ」
「ここから逆転かよ」
「今日からボロ勝ちしまくりますよ」
「ったく、御前本当に阪神にはそう言うな」
工藤は中西の明るい言葉にやれやれという顔で応えた。
「やっぱり関西人だからか」
「生まれ大阪の住吉ですからね」
「実習で関東に来てもか」
「生まれてはじめて関東に来ました」
海上自衛隊の横須賀基地所属になったのだ。
「ですがそれでもです」
「阪神ファンであることはか」
「生きがいですから」
まさにというのだ。
「ずっと応援していきますよ」
「ある意味凄いな」
「凄いですか」
「あれだけ負けまくってるのにな」
それも毎年だ、工藤は自分が作った味噌汁を飲みつつ言った。
「本当に好きなんだな」
「けれど二曹も横浜を」
「俺はずっと横須賀にいるからだよ」
出身は宮城だ。
「それで御前位好きじゃねえよ」
「そうですか」
「本当に虎キチなんだな」
「ですから生きがいです」
「だから今もか」
「言いますよ、阪神優勝だって」
「じゃあ勝手に言ってろ、あと食ったら食器洗うぞ」
「はい」
自分達の仕事だというのだ、工藤は給養つまり調理の人間で中西は補給だ。他には経理と衛生も同じ管轄にあり食器洗いも一緒に行うのだ。
それで中西は工藤や他の面々と一緒に食器も洗って朝の朝礼までは休んだ、だが仕事の合間に彼はいつも言っていた。
「井川いいですよね」
「この前打たれただろ」
工藤がまた冷めた目で突っ込みを入れた。
「そうだろ」
「あれはたまたまですよ」
「たまたまって負けたじゃねえか」
「二点に抑えましたよ、七回まで」
「だからいいっていうのかよ」
「打線が打たなかっただけで」
「本当に全然打たないからな、阪神」
この頃の打線の弱さは極めつけであった。
「その試合も一点だけだったしな、取ったの」
「何かあれですよね」
打線のことについてはだ、中西も言うのだった。
「阪神の打線は」
「打たねえからな」
「伝統的に打たないんですよね」
「それで何で優勝出来るんだよ」
またこう言う工藤だった。
「幾ら打線が抑えても打たねえと勝てねえぞ」
「いやいや、勝てますよ」
「そのうち打線が打つのかよ」
「新庄がイチロー並に打って」
「あいつがそんなに打つかよ」
工藤は笑って即座に返した、二人は今は艦内の彼等の仕事用の部屋で仕事をしている。中西は色々書いて工藤は帳簿のチェックをしている。そうしながらの会話だ。
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