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永遠の謎

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394部分:第二十五話 花咲く命その十


第二十五話 花咲く命その十

「御安心下さい」
「フロイライン?」
「はい、フロイラインがです」
 また言った王だった。
「ですから御安心下さい」
「あの」
 王の言葉にだ。すぐに問い返したゾフィーだった。
 その顔は何か強張っている。その顔で問い返したのである。
「今何と」
「何かとは?」
「フロイラインと仰いましたが」
 彼女が言うのはこのことだった。
「それは何故でしょうか」
「何故かとは?」
「フロイラインとは」
 その言葉にこそだった。ゾフィーが問うことがあった。
「何故その御言葉を」
「はて。何かあるでしょうか」
 問われる王は怪訝な顔で彼女に返した。
「今の言葉に」
「私は陛下の婚約者ですが」
「はい、その通りです」
「それで。フロイラインなのですか」
「フロイラインでなければ」
 ゾフィーが何を言っているのかわからないままだ。王は今度はこう言った。
「エルザではどうでしょうか」
「いつもの呼び名ですね」
「これはどうでしょうか」
「そうですね。いえ」
 しかしだった。ここでまた気付いたゾフィーだった。
「エルザですが」
「はい、エルザ姫ですね貴女は」
「エルザは。考えてみると」
 そこからは言えなかった。エルザはローエングリンと結ばれはしないのだ。決して問うなと言われたことを問うてだ。それでだった。
 そのことを思った。しかしだった。その言葉は決してだった。言えなかった。
 それを隠してだ。そのうえで王に話すのだった。
「何でもありません」
「左様ですか」
「はい、何もありません」
 こう言うのだった。
 そしてだ。あらためてこう話す彼女だった。
「ですが。私は」
「はい、貴女は私の妻になる方です」
「そうですね。間違いなく」
「落ち着かれて下さい」
 彼女が不安な心であるのはわかった。それでその心を落ち着かせる為にだ。この言葉をかけた。
「今宵の貴女は随分感傷的ですね」
「そうでしょうか」
「はい、これから舞台に行かれますか」
「舞台に」
「シラーの劇が上演されています。今から行けば」
 間に合うというのだ。そうなるとだ。
「どうでしょうか」
「シラーですか」
「そうです。それに行かれますか」
「いえ、今は」
 遠慮したいとだ。ゾフィーは小さな声で述べた。
「特に」
「左様ですか。それでは」
「それでは?」
「ワーグナーの脚本を御覧になられますか」
 ここでもだ。王はワーグナーだった。
 
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