永遠の謎
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38部分:第三話 甘美な奇蹟その三
第三話 甘美な奇蹟その三
「そしてその務めも」
「果たしますね」
「それは約束します」
「では王として」
「はい」
「その責務と誇りを忘れないことです」
このことをだ。我が子に強く告げた。
「そしてこの世を見ることです」
「この世を」
「貴方にはそれは辛いですか」
「私は。この世にあるあらゆるものが見えるようです」
ふとだ。太子のその目に悲しいものが宿った。その青い目にだ。
「人の心が」
「心が」
「渦巻くものが見える時があるのです」
そうだというのだった。
「どす黒く。そして不気味なそれが」
「人には誰にもあるものですが」
「それはわかっていますが」
「ならば受け入れることです」
母は我が子にまた言った。
「それもまた」
「受け入れよというのですか」
「王ならば清らかなものだけを見る訳にはいきません」
「醜いものもまた」
「はい、見なければなりません」
そうだというのであった。
「そして」
「そしてですか」
「王としての務めを果たすのです」
これが我が子への言葉だった。
「宜しいですね」
「清らかであってならないとでもですか」
「それでもです」
また我が子に告げた。
「よいですね」
「私にそれができるでしょうか」
母の今の言葉にはだ。戸惑いを感じるしかなかった。戸惑いというよりはそれは受け入れ難かった。その彼を見てであった。
母后はだ。今度はこのことを告げたのだった。
「若し貴方が王にならなければ」
「その時は」
「わかりますね。オットーが王となります」
彼の弟である。たった一人の弟だ。だが彼が問題なのだった。
「あの子は。どうやら」
「今日はどうなのでしょうか」
「落ち着いています」
「そうですか」
「しかし。それでもです」
「王になるには」
「無理です」
母后は首を横に振った。そのうえでの言葉だった。
「何があろうとも」
「ではやはり私が」
「その通りです。貴方しかいないのです」
その太子がだというのである。
「ですから。わかりますね」
「わかりました。それではやはり」
「貴方がバイエルンの王となるのです」
絶対の言葉だった。我が子に対してのだ。
「そしてその務めをです」
「果たします。それでは」
「王としてバイエルンを支えるのです」
「はい」
母后の言葉に頷く。彼もそれしかないとわかっていた。選択肢はなかった。
その彼にだ。遂にその知らせが届いた。
馬に乗っていた。白馬である。青い上着に白いズボンといういでたちで馬に乗っていた彼が降りるとだ。そこに従者達が来て告げたのだった。
「殿下、悲しいお知らせです」
「陛下が」
「そうか」
太子は彼等の言葉を聞いてすぐにわかった。
「父上が」
「はい、そうです」
「今しがた知らせが届きました」
「ではだ。すぐにだな」
「はい、すぐにです」
「宮殿の中に向かって下さい」
「そしてすぐに」
すぐにというのであった。
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