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永遠の謎

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372部分:第二十四話 私の誠意その十


第二十四話 私の誠意その十

「あまり過度にものを持っていては駄目なのだ」
「それはどうしてでしょうか」
「ドイツ。統一されたドイツはプロテスタントも存在する」
「プロイセンですね」
「ザクセンもだがな。何はともあれだ」
「あまりカトリックが強くなっては」
「そうだ。プロテスタントと衝突する」
 それが懸念されるからだ。カトリックの力が強くなることを抑えるというのだ。
「それを避ける為にだ」
「だからこそカトリックを抑えているのですか」
「確かにプロイセンはプロテスタントだ」
 つまり新しいドイツはプロテスタント主導になるということだ。そのドイツを主導するプロイセンがプロテスタントの国であるからにはだ。
「そしてドイツ皇帝もだ」
「プロテスタントですね」
「そうなる。しかしそれに対してだ」
「カトリックが過度の力を持ち要求するとですか」
「国が分かれる。あの時代の様に」
「三十年戦争ですか」
「ドイツは宗教的には変わっていないのだ」
 流石にそれで破滅的な内戦に至ることはないにしてもだ。宗教的な構造は三十年戦争の頃と全く変わっていないというのだ。
「それではだ」
「カトリックにあまり力を持たせられませんか」
「それ故にだ。あの方はだ」
「カトリックを抑えられているのですか」
「これは同時に保守主義者、あまりにも頑迷なそれを抑える目的もある」
「保守主義者もですか」
「あの方は極端な保守主義も好まれない」
 ビスマルクは実際には中庸なのだ。バランス感覚のある男なのだ。
 だからだ。あまり極端な保守主義、国家に害を為すレベルのそれは否定しているというのだ。これは彼が生粋の政治家であるが故のことだ。
「だからだ」
「カトリックは保守的ですね」
「それでだ。あの方は政治としてそうされているのだ」
「では社会主義もですか」
「あれはより危険だ」
 王の顔が強張った。そのうえでの言葉だった。
「マルクスだな」
「はい、あのユダヤ系の」
「そもそもユダヤ系なのにだ」
 そのマルクス自身の話からだ。
「何故同じユダヤ系を嫌うのか」
「彼は宗教を否定しているそうですね」
「宗教を否定しその共産主義を信じろと言っているな」
「それでは同じではないのでしょうか」
 ホルニヒはそのこと、共産主義への信仰について怪訝な顔を見せた。
「共産主義という宗教への強制では」
「その通りだ。しかもだ」
「しかも?」
「共産主義の出生は極めて危険なのだ」
「危険ですか」
「一見新しい様に見える」
 共産主義、ここでは社会主義と同義語になっているそれはどうなのかというのだ。王のその知識と洞察は答えを出させていたのだ。
「だが違うのだ」
「違うのですか」
「あれはジャコバンだ」
 それだというのだ。フランス革命での急進的共和主義者だというのだ。
「それなのだ」
「ジャコバンですか」
「革命を起こしそれ以前の全てを完全に否定する」
「そこが同じだというのですか」
「その通りだ。社会主義者達もそう主張しているな」
「では。やはり」
「そういうことだ。彼等はジャコバン派の後継者、落とし子なのだ」
 王の目は確かなものになっている。カトリックについて話すよりもだ。その目も言葉もだ。恐ろしい危機を見る目になって話しているのだ。
「その彼等を許せばだ」
「ドイツがおかしくなりますか」
「若しドイツが社会主義の国になる」
「そうすればどうなりますか」
「思想は一つになる」
 一つ、それだけを聞けば耳に心地よいものだった。
 だが、だ。王はそうではない証拠をホルニヒに話した。
「一つの思想以外は認められなくなる」
「社会主義以外は」
「彼等は自分達以外を認めない」
「ではカトリックもプロテスタントも」
「共に抹殺される」
 抑えられるのではなくだ。そうなるというのだ。
「何しろ宗教を否定しているのだからな」
「そうなってしまうのですか」
「彼等は労働者と農民の国を造ると言っている」
 王は彼等の主張を聞いていた。そのうえでの言葉だった。
 
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