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永遠の謎

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348部分:第二十三話 ドイツのマイスターその三


第二十三話 ドイツのマイスターその三

「何もありません」
「そうですか」
「その通りです。ワーグナーの芸術は高潔なものです」
「ではその芸術を生み出しているあの方は」
「高潔なのです」
 そうでなければならない。王はそう願いだ。言葉に出した。
「間違いなくです」
「あの方のことは全て」
「はい、全てです」
 この話からだ。ワーグナーの次の醜聞も否定したのだった。
「芸術の前に。浪費のことは」
「小さいことですね」
「何もありません」
 そうだというのだ。
「全くです」
「ですがバイエルンでは」
「その小事をあえて大事にしています」
「小事を大事に」
「そうして彼を貶めているのです」
 批判だった。これ以上ないまでに明らかな。
「それが現実なのです」
「では陛下はその現実は」
「疎ましいと考えています」
 ゾフィーに。そう考えていると話した。
「願わくば永遠にワーグナーの世界に生きたいものです」
「永遠に」
「そうです。私はワーグナーの世界に生きたいのです」
 言葉に恍惚としたものが宿ってきていた。
「それが私の願いなのです」
「ではその世界には」
「ローエングリンがいます」
 今二人が聴いている歌の対象となっているその騎士だ。今の音楽はエルザがだ。夢に見た彼のことを歌っている曲なのである。
「彼がです」
「彼ですか」
「常に共にいたいものです」
 こうだ。ゾフィーに話すのであった。
「それが私の願いです」
「では陛下は」
 ゾフィーは王の言葉にだ。不安な顔になりだ。
 ついだ。こう尋ねたのだった。
「私とは」
「貴女とは?」
「はい、私とは共には」
 ローエングリンと共にいるのならばだ。自分はどうなるのか。それを問うのは当然のことだった。それで王に対して尋ねたのである。そうしたのだ。
 王はだ。まずは彼女の言葉をそのまま受けた。そうしてだ。
 表情をだ。何一つ変えずにだ。こう言うのであった。
「何を言われるのですか」
「ですから私とは」
「貴女はエルザです」
 こう話す王だった。
「そして私はです」
「陛下は?」
「ローエングリンです」
 今度はだ。彼に自己を感情移入させていた。それも同一と言っていい程にだ。
 その感情移入のままだ。王はゾフィーに話すのだった。
「ですから」
「私と共に」
「ローエングリンはエルザと共になります」
 物語の話を二人の関係に移していた。
「そうですね」
「ローエングリンとエルザといいますと」
「はい、二人は物語の中では別れてしまいますが」
「そうはならないと」
「エルザ姫は彼の名前を聞いてしまいました」
 ローエングリンはエルザに己の名前を聞くなと言ってしまった。だがエルザは魔女オルトルートの唆し、何よりも彼女の彼への想い、彼のことを知りたいという想い故にだ。その為に彼の名前を聞いてしまったのだ。
 
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