魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百四十九話
前書き
R18の後編は少し待ってください。
本来あの話は前編での『一夏がいかに「くらやみ」を回避するか』というのが主題ですので。
「宣誓!私達生徒一堂は!」
中学の生徒が全員整列している。
今日は9月の第二週の日曜日。
中学の体育祭だ。
小学校のころは運動会だったし、いまでもそう呼ぶ人もいる。
俺が思うに運動会と体育祭の大きな違いは集団演技のクオリティだ。
小学校の集団演技はこう…締まらない。
「生徒代表!」
朝礼台の前で宣誓する生徒会長を見やる。
宣誓から締まっている。
そんな事をつらつらと考えている間に開会式が終わった。
『選手、退場。回れ、右』
放送部のアナウンスで後ろを向く。
音楽がかかると一斉に駆け足で退場する。
毎回思うが退場も行進した方が締まるんじゃなかろうか…。
まぁ、どうでもいいか。
生徒席のテントの日陰に入ると、後ろから肩を叩かれた。
「一夏」
振り向くと、鈴がいた。
「あんた大丈夫なの?」
鈴が指差すのはテントの天幕…の向こうの太陽だ。
「吸血鬼度は下げてきたしバリアもある。心配するな」
本日は雲一つ無い晴天。
またとない体育祭日和だ。
前世で一度だけ雨の翌日の体育祭を経験したが、アレはくそだった。
体育祭は晴れが一番だ。
「そう、ならいいのだけど…」
「じゃ、俺は第四種目で招集かかってるから行くよ」
なお弾と箒は第一種目…100メートル走だ。
入退場門近くに行くと、それなりに人が集まっていた。
レーンに並んでいる箒に視線を送ると背を向けていた筈なのに振り向いて手を振られた。
おかしい。箒には知覚系魔法は無いはずだし最近は眼も外しているが……。
淫紋から逆探された…?
まさかな…。
と、そこで箒が砂利を拾って前方へ投げた。
あ、弾に当たった。
弾が振り向くと、箒は投げた姿勢のまま指を俺に向けた。
弾と目が合う。
「勝てよ、弾」
弾の口が"わかった"と動いた。
うん………。
「あのバカはいつの間に読唇術を覚えたんだろうか……?」
試しにちょっとメッセージを送ってみる。
"一位取ったらご褒美、一位以外はお仕置きな"
"……マジかよ"
お、伝わってる伝わってる。
途中箒があきれた顔をしていたが、まぁ、よかろう。
直ぐに弾の走順がきた。
「オンユアマーク……セッ……」
係の生徒がピストルを掲げて、指をかける。
炸裂音の後、走者が一斉に走り出した。
「おぉー…弾の奴速いな」
帰宅部の癖に速すぎやしないかあいつ。
セパレートコースの外側を走っている筈だが、後ろとの距離が縮まらない。
一番初めにコーナーを抜けたまま、200メートルトラックを半周し終えた弾が倒れ込むようにゴールした。
ずしゃぁっ! って。
おい弾! 大丈夫か! と叫ぼうとした刹那。
「うぉっしゃぁぁぁ!ご褒美げっとぉぉぉ!」
と倒れたまま叫びやがった。
そして擦りむいて血だらけの脚で立ち上がり……
ものっそい笑顔でこちらにグッドサインを向けてきた。
「……あとでちゃんとご褒美あげよ」
救護係の人たちが弾を救護テントに引っ張って行った。
救護テントでは他のクラスメイトが弾の周りに集まって称えている。
そこから暫くして、今度は箒の番だ。
"私にもご褒美寄越せよ"
"一位取ったらな"
弾に妬いたのか、テレパスでなく口パクでのやり取りだった。
「ま、箒が一位取れないはずがないんだけどな」
箒が構え、号砲と共に飛び出す。
男子よりも女子の黄色い声援が目立つ。
って今『お姉様ー!』って叫んだの上級生じゃねぇか…。
そして箒はさも当たり前のように一位を取り、ドヤ顔を見せた。
剛気功をパッシブ展開できるほどに気功に精通しているのだから、身体能力は最早人外の域である。
『それはますたーも同じでしょ? 今のますたーには肉体的疲労なんてないんだから。
それで1000メートル走とかチートだよチート』
『うるせぇ』
『でも事実でしょ?』
その後、男女中距離と女子長距離の後、男子1000メートル走だ。
スタート位置につくと、隣の三年生がぎょっとした目をしていた。
女だとでも思われたんだろうか。
その先輩をよく見る。
たしかこの中学校の陸上部のエースだったはず……。
まぁ、この人を抜かさないようにきをつければいいだろう。
号砲が鳴らされ、スタートだ。
先頭集団の中に混じる。
ペースメーカーはさっきの先輩だ。
400メートルを過ぎた辺りから、徐々に徐々に先輩が集団から抜ける。
それについていかず、先頭『集団』の中程につく。
そのまま二周すると、最後の一周だ。
集団のペースが僅かにあがる。
先頭集団の前方の数人の中に入る。
あと、四分の一。
前方では既に一位がゴールしていた……。
あと六分の一…。
あと………ちょっと…!
目の前で上級生三人がゴールした後、ゴールに飛び込む。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
『随分とわざとらしい呼吸だね』
喧しいぞ。
『いま必要なのは酸素より糖分じゃないの?』
『そこまで使ってねぇよ』
貰った点数カードを得点係のテントのボックスに入れ、如何にも疲れてますといった感じで選手席へ。
ヒョイ、と抱き上げられた。
俺を抱き上げた奴はそのまま椅子に座って俺を膝にのせた。
「一キロ走ったにしてはピンピンしてるな」
「箒だって100メートル全力疾走したにしては元気そうだったじゃないか」
「当たり前だろう。その気になればあの二倍は出せる」
「絶対やるなよ」
絶対面倒な事になる。
「無論だ」
箒の膝の上で観戦していると、借り物競争が始まった。
「鈴の奴第何走者だっけ?」
「5だな」
鈴の番になった。
真っ先にカードの所まで走った鈴は…何故かこっちに来た。
「一夏! あんたちょっとこっち来なさい」
「俺?」
「そうよ! はやく!」
箒の膝から降りて、鈴についていく。
トラックを半周し、ゴール。
一着だ。
「なぁ、鈴。カードの指示は何だったんだ?」
「アンタはしらなくていいわ」
気になるなぁ……。
退場門で鈴が係にカードを渡す寸前に掠めとる。
内容は『「受け」属性の人』だった。
「おい」
「……………」
鈴がそっぽをむく。
「おいこっち向けよ」
「さーて、さっさと生徒席に…」
「待てや貧乳! 誰が受けじゃごらぁっ!?」
「そういう所よ。一夏って誘い受け属性のネコよねぇ~」
「俺は猫だけどネコじゃねぇよ!」
「あら? そう?」
ん? なんだろうか。鈴がやけに余裕そうだが…
唐突な浮遊感。気づけば視線が高い。
「ねぇ何してんの箒?」
「お前を弄りに来た」
「最悪だなっ!?」
「箒、飼い猫の躾はきちんとしときなさいよ」
「飼われてねぇよ!?」
「でも今のアンタ、まんまネコよ?」
実際、ネコみたいに丸く抱かれている。
「なぁ、おい箒。あんまり人前でこういうのはよくないとおもうな」
「何を今さら」
いや、そうなんだけどね?
「ほら、ウチの担任じゃない生活指導の先生がめっちゃ睨んでるからやめようぜ? な?」
「面倒だな…いっそキスでもするか」
「それやったら怒られるの俺なんだけど?」
「いやいや。私がお前を押し倒したように見せればいい」
「ねぇアンタら本気でキスする気? 周りが赤面してるの気づいてる?」
「ほら、おろせ箒」
「むぅ……それっ!」
何故か俺を斜め上に投げる箒。
クルリと回転して着地する。
「うむ。やはり一夏は猫だな」
「もうそれでいいよ…」
生徒席に戻ると弾が座っていた。
「派手にやったな」
弾の手足と顔は、ガーゼと絆創膏でこれでもかとデコレーションされている。
「勝てといわれたからな。そりゃ勝つしかないだろう。なぁ? 箒ちゃん」
「ああ、五反田に賛成だな」
絆創膏の上から傷をつつくと、弾が悶絶した。
無茶しやがって…
「弾。メシ食い終わったら校舎裏な。それまで痛いのは我慢しとけ」
俺も我慢するから。
「お? 薬でもくれるのか?」
「そんな所だ」
昼食前の最後の競技となった。
女子の棒取りだ。
タイヤだと手が汚れるから男子の棒倒し(今はやってない)の棒を奪い合う競技だ。
タイヤより持つ場所が多いので最後は綱引きみたいになるらしい。
「なぁ、一夏」
「どうした弾」
「女子が『棒』を取り合っ…いっだぁ!?」
下らんことを抜かしたバカの擦りむいた膝を蹴る。
「おー。箒と鈴が無双してらぁ…」
鈴の奴も最近シャオシンにタオを教わってるようだし、当たり前ではあるな…
今の所、六対一で箒が競り勝っている。
一人だが、相手六人もろとも自陣へ引きずりこんだ。
鈴はと言えば集団の中に居る。
恐らく鈴が抜けたら崩れるだろう。
と、思ったら箒が合流してきて勝敗が決まった。
うん…やべぇな。
今度改めて箒に体力テストやらせてみようかな…。
アナウンスが昼休憩の開始を告げた。
「じゃ、弾。後でな」
「おう」
退場門で待っていた鈴と箒を拾って束さんが居るテントに行くと、かなりの大所帯だった。
ヴィッサリオン達とモノクロームアバターも来てるし当たり前っちゃ当たり前だ。
なおシルヴヴァインの面子がこっそり会場警備中。
FA:Gも放してあるから特に何も起こるまい。
柳韻さんの隣に箒、その横に俺、鈴と続く。
「お久しぶりです柳韻さん」
「確かに、一週間以上顔を会わせなかった事はなかったな…
それより一夏君。手足は…」
「大丈夫です」
「まぁ、あれだけ走れたら大丈夫だろうな。
なぁ? ユートピア」
そしてシレッと紛れ込んでるシャオシンとちょっと困り顔の鈴のお父さん。
「なんで居んの?」
「うん? 監視に決まってるじゃないか」
まぁ、式打ってこないあたりまだ臥煙よりマシか…。
「シアティエンダーレン」
唐突に鈴のお父さんに話しかけられた。
「あ、はい。なんでしょうかハオさん」
「ダーレン、私の妻がすまなかったね」
「お互い様ですよ。ハオさん。あと大人(ダーレン)はやめてください。俺はそんな立派な人じゃないですよ」
「私が、私が貴方をそう呼ぶべきだと思ったから、私はそう呼ぶのです。夏天大人」
一本とられたな。
「おにーちゃん。だーれんってなに?」
向かい側に居るロリ三連の中から円香に尋ねられた。
「それはな「ダーレンって言うのは先生って意味の言葉だよ円香ちゃん。
家の主人はどうやらユート…一夏君を尊敬しているらしくてね」
おいシャオシン。人のセリフを食うな。
「当たり前だろう。夏天大人は尊敬に値する」
「私はどうなのかしらあ・な・た?」
「……ふっ」
あ、シャオシンの笑顔が固まった。
ハオさん御愁傷様です。
「じゃー皆。お弁当にしよっか」
束さんの掛け声で、ハオさんと奥さんが弁当を出す。
どっちも重箱だ。
束さんも重箱を出す。
人数が人数だ。ちょうどいいだろう。
食事を終え、少し抜けさせて貰う事にした。
向かった先は五反田家の所だ。
「弾。ちょっとこっち来い」
「ああ、わかった」
厳さん達に会釈し、弾を借りる。
「なぁ、一夏。何処行くんだよ」
「校舎裏だ」
弾の手を引き校舎裏へ。
今日は校舎一帯は立ち入り禁止なので人は居ない。
廃棄されていたベンチに弾を座らせる。
「地にまします神々よ。我らを神秘の裾に匿いたまえ」
認識阻害結果を展開。
弾の腕のガーゼをつまみ……ビィッ!
「いっでぇぁ!?」
「我慢しろバカ」
未だに僅かに血が出ている。
とても『おいしそう』だ。
「んじゃ、いただきます」
弾の傷口に舌を這わせる。
鉄の匂いがする甘い液体を啜る。
「ちょっ…おい一夏!?」
「うるせぇ黙ってろ。こっちも我慢の限界なんだよ。ったく…近くで血の匂いなんぞぷんぷんさせやがって……」
手、脚、顔…全てのガーゼをひっぺがして血を啜る。
「ふぅ、ご馳走さま」
ガーゼに再生を使い、粘着力を回復させて元の場所に戻す。
流石にあの大怪我が短時間で治るのはまずいのだ。
「弾、戻るぞ」
「お、おう」
午後の部が始まった。
昼食後の応援合戦が終わって次の競技は男子の『棒登り』だ。
例の棒の上に籠があり、それを立てた状態で旗を入れたり出したりする。
トラックの直線の端のラインに棒が四本、反対側に走者と土台が並ぶ。
第一走者が旗を棒のてっぺんの籠に入れて戻り、第二走者が旗を回収し第三走者へ、第三走者は旗を入れ第四走者が旗をスタート地点に戻し終了だ。
赤白両団二チーム計四チームが争う。
で、俺は第四走者だ。
「弾」
土台の弾に声をかける。
「例のやつ、やるぞ」
「マジかよ…」
号砲が成り、土台と第一走者が駆け出す。
直ぐに人の階段が作られ、各組旗を入れる。
戻ってきた第一走者が第二走者に交代。
第二走者が全力疾走で棒まで走り、階段を駆け上がり……滑って落ちた。
職員席が凍りついた。
幸いケガは無かったようで、直ぐに起き上がって旗をとって来た。
「先輩、落ちてましたけど大丈夫ですか?」
「問題ねーぜ!」
戻ってきた小柄な(とはいえ俺よりかなり大きい)先輩は、ニカッと笑ってグッドサインを決めた。
「だがよぉ、さっきので遅れちまった…」
事実、俺達のチームは遅れていた。
「大丈夫ですせんぱい! 俺と弾でどうにかしますよ」
第三走者が旗を刺して、戻ってくる。
「後は頼んだぜお姫様!」
呼び方に不満はあったが、第三走者の三年生とタッチし、駆け出す。
他の第四走者は既に登り初めている…
「弾! 勝つぞ!」
弾が人間階段の前、俺の進行方向を遮るように立つ。
先輩が何か言っているが、弾が止めた。
そして、弾は自分の手を握り、中腰になる。
全力を維持したまま、弾が組んだ手を踏む。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!! いいぃぃちかぁぁあぁ!」
ぐん! と弾が上体をそらし、手を振り上げる。
その浮遊感の中、自分の下に来た旗を掴み、引き抜く。
空中で三回転し、着地。
「走れっ! 一夏っ!」
「応!」
直ぐ様スタート地点…ゴールへ走り……。
「いいか! あんな危ない事は二度とするなよ!」
体育教官のお説教なう。
あの後、俺達のチームは勝ちはしたが、俺と弾は呼び出しをくらった。
「わかったな?」
「「はい…」」
「行ってよし」
職員席から出て生徒席に戻ると、待っていたのは称賛だった。
そして唐突に始まった胴上げ。
あ、どさくさに紛れてなんかしようとしたホモが処された。
一通り胴上げが終わり、次の競技だ。
「なぁ、一夏。お前あと出るのは?」
「集団演技と学級対抗リレーだな」
「ほぼ同じか…」
俺達二人は基本やる気がない。
出る種目も最低限だ。
なお箒と鈴は腕試しとか言って現在綱引きに参加中…。やめたげてよぉ……。
暫くすると、教員チームとPTAチームが俺らのクラスに惨敗していた。
「あの二人には少し自重させた方がいいんじゃなかろうか…」
「お前が言うなお前が」
「あぅあぅあぅあぅ……」
弾に髪をぐしゃぐしゃにされた。
結局、ウチのクラスが一位だ。
二人が戻ってくると、箒は流れるように俺を膝に乗せる。
「頑張ったな、二人とも」
「当たり前よ! どうせなら勝ちたいじゃない!」
「どうせならっていうか、もう勝ち確定がけどね?」
男女全学年対抗競技と綱引きで一位を取っており、かなりの点差がついている。
これを逆転するには団対抗リレーで勝つしかない。
のだが……。
「ん? どうかしたか一夏?」
「どうしたのそんな顔をして?」
コイツら出るんだよなぁ…。
あと俺も。
「なんでもないよ…。取り敢えず部活動対抗リレー始まるから見とこうぜ」
部活動対抗リレーでは各部活動が各々のアピールをするために出場する。
例えば文化部なら科学部がペットボトルロケットブースター着けて出るのもオッケーだし、家庭科部がお菓子を撒きながら走るのもOK。
運動部はガチリレーだし、剣道部は竹刀を降りながら、弓道部は騎馬戦方式で流鏑馬をやったりする。
「ほぅ。ロケットブースターか」
「科学部の奴は何考えてるんだ?あんなの重くて走れないだろ…」
「まて、ツッコミ所はソコじゃねぇよ弾。
出場する六人全員に二リットル掛ける五本のブースターをつけさせてる所だろ」
「箒。アンタならなん本行ける?」
「着けない方が速いのではないだろうか…」
お前はそうだろうな。
号砲が鳴らされ、文化部がスタートする。
科学部は順にブースターを使って加速する。
あ、オカルト研究部に水がかかった。
で、案の定科学部とオカルト研究部のおっかけっこが始まった。
まぁ、オカルト研究部の奴らも笑ってるしいっか…。
午後の競技も一通り終わり、残るは団対抗リレーだけとなった。
各団二チームを選出して走る。
第一走者は他のクラスの男子、第二が鈴、第三が俺、第四が箒、第五からは二年生となる。
各学年四人計十二人で走るので結構長い。
『オンユアマーク』
アナウンスが流れ、号砲係がトリガーに指を掛ける。
走者がスタンディングスタートの体勢を取り…
ぱぁん! と号砲が鳴った。
いけぇー! と生徒席から声援が上がる。
「鈴。あんまりやり過ぎるなよ?」
「わかってるわよ」
鈴がトラックに出て、バトンを受けとる準備をする。
俺達のチームは現在三位だ。
鈴がバトンを受け取り、駆け出した。
「おー。はえぇはえぇ」
あと、見る人が見たら鈴の脚が若干光ってるのがわかるだろう。
まぁ、靴までカバーしてないから靴底ボロボロだろうけどな。
後で直してやるか。
「次はお前だぞ。『姫巫女』」
「そっちこそ準備はいいのか『姫侍』」
鈴はトップに踊り出て一周を終えようとしていた。
「鈴!」
「頼んだわよ一夏!」
バトンを受けとり、脚を動かす。
あくまでも人の速さで。あくまでも中学生の速さで。
靴に硬化魔法を掛けておく。
箒なら気功を纏わせるのだろうが、今の俺では気功硬化を使えない。
肉の手足ではないので気功の性質が変わってしまっている。
まだ上手く扱えない。
生身の脚と同じようにサイコシャードの脚が動く。
セルフマリオットとは違う、肉体の感触。
気づけば、すぐ十数メートルに箒の背中が見える。
「箒! 頼んだぜ!」
「わかっているっ!」
パン! と箒の手にバトンを渡す。
刹那、地面が微かに揺れた。
「バカ! 込めすぎだ!」
一瞬、箒の姿がかき消えた。
だが直ぐに現れ、走り出す。
「お疲れ、一夏」
「お前こそな、鈴」
トラックの中に入り、鈴の後ろに座る。
「ねぇ、さっきの箒のって…」
「縮地擬き…かな」
箒にはほんっ…とうに後で言っとかないとな。
アイツデフォルトで剛気功使えるとか言ってたけど、身体能力持て余してるんじゃなかろうか…。
案の定、男子陸上選出より速い速度で箒が戻ってきた。
「おいバカ箒」
「む、バカとは何だバカとは」
「お前だよ。デフォルトで剛気功とか言ってたが、身体能力は把握できてないだろ」
「何を言うか。ちゃんとお前を優しく抱き締めているだろう」
「はぁ…じゃぁ今度体力テストな。鈴も」
鈴にも声をかけておく。
「わかったわよ…」
結局リレーも俺達の団が勝った。
side out
「にゃー」
家に帰り、シャワーを浴び終えた一夏はネコになっていた。
箒はソファーに座り、義肢を外した一夏を愛でている。
「むぅ…箒ちゃんばっかりズルい…」
「にゃー?」
「いいではないか。体育祭で頑張った褒賞なのだからな」
「でも箒ちゃんが勝つのは当たり前だと思うな! ねぇまーちゃん!」
「?」
箒とテーブルを挟んだソファーに腰かける束が、膝の上の円香に同意を求める。
「みゃふぅぅぅ……」
「ここか? ここがいいのか一夏?」
箒が一夏の耳をふにふにと揉む。
「みゃぅぅ…」
一夏がくぁ…と欠伸をした。
「いっ君、寝てていいよ。晩御飯は私とまーちゃんで作るから」
「みゅあぅ……くぅ……くぅ……」
一夏が眼を閉じ、赤子のように眠り始めた。
「さ、晩御飯つくろっかまーちゃん」
「うん!」
ページ上へ戻る