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天体の観測者

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修行Ⅱ

 
前書き
私とウィスが出会ったのはまだ私が幼かった時です。私はウィスから勉学と体の遣い方を学び、彼と多くの時間を共に過ごしました。ウィスに教えてもらったことは私の人生で無駄になることはありませんでした。ウィスには本当に感謝しています。また、戦場で遠距離手段を有していなかった私はウィスの教えである"柔軟な思考"を意識した結果、手に持つ旗を力の限り投げ、敵を穿つことで対処しました
                                     by とある聖女 

 
 木場は騎士としてのスピードを駆使し、魔剣を振りかぶる。


 躱される

 
 フェイントを混ぜた木場必殺の一撃
 狙いはウィスの脇腹


 蒼く光った(・・・・・)ウィスの手刀でいとも簡単に全ての魔剣が砕け散る


 宙へと飛翔したウィスを追い、大上段からの振り下ろしで魔剣を振り下ろすも…… 
 
「首元ががら空きです」

 ウィスに首元を鷲掴みにされ、眼下へと投げ飛ばされた。
 
「ハァ!」

 態勢を立て直し、ウィスへと突貫するも、掌をかざされ、不可視の衝撃波により木場は武舞台の壁まで一息に吹き飛んでいく。

「雷光よ!」
「滅びなさい!」

 リアスと朱乃の攻撃がウィスを挟む様に放たれた。
 朱乃は堕天使としての力を最大限に遣い、リアスは滅びの魔力を最高威力で魔法陣を介して射出している。

 だが、余りにもその攻撃モーションから発動までの速度が遅過ぎる。
 彼女達の攻撃は空を切り、ウィスの姿は虚空へと消えた。







「……複数攻撃・不意打ち・錯乱・囮、貴方達の考え得る全ての戦法を結集しなければ私の姿を捉えることすら不可能でしょう」

 ウィスの姿を見失った彼女達を見下ろす様にウィスが上空に姿を現す。
 全くの無傷、掠りさえしていない。 

 何とか一矢報いようとリアスが魔法陣を発動するも…… 



「言ったはずです。魔法陣を介した魔力の発動はタイムラグが存在し、隙だらけだと」

 ウィスの手が破壊する形で魔法陣を突き破り、リアスの手首を掴み取る。
 瞠目するリアスを投げ飛ばし、ウィスは背後から迫る雷光を素手で搔き消すことで対処した。

 魔法陣を利用したやり方が攻撃をより効率的に放つことが出来る道理は理解出来る。
 しかし、それでは発動速度に限界が存在してしまう。
 敵をより確実に討ち、勝利を収めるにはその攻撃手段は捨てるべきだ。

 ならば教えよう。
 純粋な殺傷能力のみを追究した洗練された本当の攻撃というものを







「良いですか。攻撃とはこういうものを言うのです」

 ウィスは眼下に浮かぶリアスと朱乃へと左手の掌を向ける。
 
 威力は最小限に、周囲一帯の景色が変わる程度に蟻を潰さないレベルの絶妙な力の加減を行う。
 発動速度も彼女達が回避することが出来るスピードに調整することも忘れない。
 攻撃モーションも敢えて緩慢な動きで行い、気功波を放つべくエネルギーを掌へと集束させる。



 途端、ウィスの身体から莫大なエネルギーが溢れ、周囲を神秘的に蒼く照らし出した。
 途方も無い莫大なエネルギーが掌へと集束していく。

 魔力や光力は感じない。
 だが、リアスと朱乃はあれは放たれてはならないものだと即座に理解した。

 生物の生存本能が警鐘を鳴らす。
 あれは自分達をいとも簡単に滅ぼし、絶命へと至らせるモノだと

「血迷ってもこれを迎え入れようなどとは考えないでください」

「全神経を集中し、全力で回避に専念しなければ……」




死にますよ?




 死への恐怖から冷や汗を止めどなく流すリアスと朱乃が脇目を降らずに全速力でその場から離脱する。
 そして遂に、周囲を蒼く染め上げていたエネルギーが掌に集まり、ウィスから放たれ……

 





 武舞台が消滅した。

 天へときのこ雲が立ち昇り、周囲の景色が瞬く間に一変する。
 大地が更地と化し、爆風がリアスと朱乃を軽々と吹き飛ばした。



何て威力なの……ッ!?



 今のは正に最上級の悪魔にも迫る一撃
 当人が息を吐く様にその一撃を放っていることにリアスは驚きを隠せない。

「ほら、休んでいる暇はありませんよ」

 爆煙により視界が不明瞭な状況でもウィスは容赦などしない。
 無数のエネルギーの塊が周囲の空間の全てを埋め尽くしていく。
 空は満天の蒼模様

 その全てがウィスのエネルギーだ。
 今なおその数は増え続け、天を覆いつくしていく。

「嘘、でしょ……」
「何て数なの……」

 呆然とその場に佇み、天を仰ぎ見るリアスと朱乃
 
「攻撃することだけが戦いではありません。防御と回避も立派な戦法の一つです」



ライザーに勝ち、夢を追い求めるのならばこの程度の試練越えてみせよ



 ウィスはリアスを見据え、遂にエネルギーの本流を解き放った。
  
 火を噴いた無数のエネルギー弾が瞬く間に地を抉り、砕き、地割れを引き起こしていく。
 2人は死に物狂いで翼を動かし、回避するしかない。

 気を抜く暇も存在せず、逃げの一手を選択するしかない。
 死への防衛本能から軋む身体を無視し、リアスと朱乃は逃げ惑う。

 避けることの出来るギリギリのラインで放たれたエネルギー弾は刻一刻と彼女達を追い詰めていく。
 エネルギー弾が大地に被弾し、地を容易く破壊し、風穴を開ける。

 この状態で逃げ続けたところでいずれ限界が訪れることは自明の理であり、リアスと朱乃もそれは理解しているはずだ
 そうなれば彼女達がこの場を生き残るために更なる成長を遂げるしかない。
 今の彼女達の実力ではいずれエネルギー弾が被弾し、瞬く間に地に伏すことになるだろう。
 
「どうしました、その程度ですか?」

 ウィスが問いかける。

「言ったはずです。防御も回避も立派な戦法の一つだと」

 ただ逃げ惑うリアスと朱乃へとエネルギー弾を落とし、時には操ることで錯乱させる。
 彼女達は魔法陣を遣い、何とか防御と回避を行っているが、ウィスが望むのはそれではない。

 それではいずれ限界が訪れてしまう。
 そのままでは格上の相手には通用しない。

 戦術の幅を広げ、実力を飛躍的に上昇させるためには魔力と雷光をその身に纏うことで防御と攻撃の双方を同時並行で行い、自分の手足の様に操作することが理想的だ。
 滅びの魔力、堕天使の雷光、そのどれもが可能性に満ち溢れた力だ。

 彼女達がその力の有用性に気付かなければ、彼女達は一向に成長しない。
 如何に自分達が無限大の可能性を秘めた力をその身に宿しているのか、この死の瀬戸際の攻防で彼女達は自覚するべきだ。

「忘れましたか?魔法陣の発動には致命的なタイムラグが存在すると」

 防御を行うべく魔法陣を作り出そうとしているリアスの思惑を越え、速度が上昇したエネルギー弾が多角的に曲がり彼女の背中に、脇に、足に着弾する。

 今度は朱乃に被弾する。

 鳴り止むことのない流星の如き攻撃
 降り注ぐエネルギー弾
 鳴り止まぬ騒音と爆風

 リアスと朱乃の2人は疲労困憊の身で汗だくになりながらも対処する。
 まだ彼女達に変化は訪れない。

 まだ、まだだ。

 一向に彼女達に変化は訪れない。






 眼下にて奔走する朱乃が遂に悲鳴を上げる。

「リアス!」

このままでは……!

「朱乃……!」

考えろ……!この状況を如何に脱するかを……!

 このままでは遠くない内に対処し切れなくなるのは分かり切っている。
 魔法陣での防御も攻撃も無意味

 なけなしに魔法陣を介することなく魔力を放ったところで軌道を逸らすことが精一杯であった。
 ならばどうする。

 思考を加速させろ。
 模索しろ、己の力の有用性を

 模倣しろ、ウィスの力の技術を、その力の遣い方を

 ウィスはどうやって防御と攻撃を行っていた。
 ウィスは如何なる術を用いていた。

 自分と朱乃、祐斗にどうやって対処していた。
 思い出せ、その全てを

……いや、待て、祐斗?


 そうだ。
 自分と朱乃にばかり目を向けていたが、今思い返せばウィスは掌に力を蒼く(・・)集束させることで祐斗の魔剣に対処してはいなかったか

「……!」

 リアスはその身に迫るエネルギー弾に構うことなくその場に立ち止まる。
 朱乃の制止の声に耳を傾けることなく、リアスは掌に意識を集中させ、魔力を集束させる。

 そして、滅びの魔力を掌に凝縮させ、紅き刃と化した手刀を振りかぶった。
 それは降り注ぐ無数のエネルギー弾を簡単に両断することに成功する。

「……漸く理解したわ、ウィス」

 リアスは確かな自身の成長に笑みを浮かべ、上空のウィスを見据える。

「魔力をただ放つのではなく、纏う(・・)

 どうやらリアスは漸く理解したようだ。
 己の力の遣い方に

「これがウィスの言いたいことだったのね?」

 ウィスは人知れず笑みを浮かべる。
 
「正解です、リアス。ただ……







戦闘の最中に前口上や慢心、ましてや気の緩みが許されるのは格上の相手だけだと知りなさい」

 途端、倍以上にエネルギー弾が増え、天を覆う。
 新たな力の可能性を知り、喜びを感じるのは勝手だが、戦場にて気の緩みは許されない。

 出力を上げたこのエネルギー弾は先程のものとはわけが違う。
 成長したリアスでも最大出力でなければ対処出来することも困難な代物だ。

「どうやら朱乃もリアスを真似ることで纏う(・・)ことが出来るようになったようなので、少し修行のレベルを上げることにしましょう」 



え、嘘……



「第二ラウンド、開始です」

 こうしてリアスと朱乃にとって地獄の第二ラウンドが開始された。 
 天から倍以上に増えたエネルギー弾が降り注ぎ、大地を破壊していく。

 それに対処するのは。リアスと朱乃の2人
 彼女達は必死に、正に死に物狂いでリアスは滅びの魔力を、朱乃は堕天使の雷光をその身に纏うことで防御し、相殺し、破壊し、エネルギー弾の嵐の中を突き進む。

 しかし、既に満身創痍の状態の彼女達に残された時間は限られていた。
 第二ラウンドが開始された数分後に瞬く間に魔力の枯渇に陥り、エネルギー弾の嵐の前に倒れることになった。

 本日の修行はこれで終了である。
 虫の息の状態の汗だくの彼女達を肩に担ぎ、ウィスは満足気に別荘へと足を進めた。








▲▼▲▼







 黙々と食器を動かす音が響く。

 本日の修行を終えたリアス達は一心不乱に夜食を口に運んでいた。
 一日の殆どを修行に費やし、心身共に限界まで追い込まれたリアス達の身体は酷く飢えていた。

 一誠は脇目を振ることなく一心不乱に口を動かし、小猫は既に何十杯も夜食を平らげている。
 凄まじい食欲だ。

 ウィスは彼女達の背後で静かに佇む。



「皆、お疲れ様」

 そんな中、食事を終え、優雅な所作で口元をナプキンで拭き取ったリアスが一誠達を労わる。

「私と朱乃、祐斗はウィスの付きっきりで修行を受けていたんだけど、一誠とアーシアはどうだったかしたら?」

「はい、先ず俺は基本的な身体能力を上げ、神器に耐えうる肉体を目指すために基礎的な筋力トレーニングに励んでいます」
「私も一誠さんと同じ様なメニューですが、神器の使用に慣れるために実践的な神器の使用も行っている状況です」

 一誠とアーシアは2人とも疲れ気味な様子だ。
 余程、ウィスから課された修行メニューが堪えた様だ。

「では、祐斗はどうだったかしら?」

 自身の成長は実感している。
 朱乃と自分は己の力を自覚し、強くなっていることを体感している。
 ならば祐斗はどうか

「はい、僕もウィスさんとの修行を通して戦術の幅が広がっていることを実感しています」

 祐斗の反応も悪くない。 

「それは良かったわ、祐斗」

それじゃあ、小猫は……



「何だかいやらしい視線ですね」

 見ればスケベな顔を浮かべる一誠を小猫が睨み付けていた。
 果たして一誠は何を思い浮かべていたのか

「いやいや、そんなことないよ!?」

 小猫の非難の視線に一誠は目に見えて狼狽している。
 煩悩がダダ洩れだ。

「さて、食事も済んだし、お風呂に入りましょうか」
「お風呂……ッ!?」

 リアスのお風呂宣言に鼻の下を伸ばし、煩悩がダダ洩れの一誠
 これはいずれ一誠の煩悩を矯正する必要があるのではないかとウィスは思案する。

 人格面に影響が出ない範囲で日常生活の面で煩悩が漏れないレベルまで矯正出来ないだろうか

「何、一誠?私達と一緒にお風呂に入りたいの?」

 揶揄う様にリアスはその魅惑的な笑みで一誠を見据える。

「アーシアは愛しの一誠ならば大丈夫かしら?」

 弱々し気にアーシアは首肯し、頬を染める。

「朱乃はどう?ウィスを誘ってみては?」

 朱乃は頬を染めながらもウィスに期待した視線を向ける。
 対するウィスは無反応

「そういうわけでウィスもどうかしら?背中、流すわよ?」

 快活な笑みを浮かべ、リアスはウィスに近付く。
 朱乃も同様だ。

 だが、その浅慮な発言が彼女達の運命を変えることになった。





「随分と余裕な様子ですね。まだまだ元気そうで何よりです」

 どうやらアーシアに回復してもらい、食事も終えたことで余裕が生まれたようだ。
 だが、今の言葉は看過出来ない。

「そんなリアスと朱乃には特別に夜のスペシャルメニューを受けさせましょう」

 この場にリアス達を招いたのは決して一緒にお風呂に入るためではない。
 そのことの再確認も込め、その身に叩き込むとしよう。

「ふぁ!?」


何故……ッ!?


「え、ちょ、ウィス……ッ!?」
「これ以上の修行は明日に響いてしまいますわ、ウィス!」

 ウィスの肩に担がれた両名が顔を青ざめた表情で絶叫する。

「それに私達、これからお風呂に入って休憩しないと!」
「そうです!修行の後ではお風呂に入るだけの体力なんて残りませんわ!」

 魂からの叫び、とても必死な様子だ。

「それなら問題ありません。リアスと朱乃は私が責任を持って風呂場まで運び込み、身体を隅々まで洗ってあげますから」


誰か、助け……ッ!


 リアスと朱乃は外野に助けを求めるように一誠と木場に視線を向ける。

「よっしゃ、それじゃ風呂に入るとするか、木場!」
「背中を流すよ、一誠君!」
「悪いな、木場!俺も木場の背中を流すよ!」

 肩を組み実に仲良し気に意気投合する2人
 普段では有り得ない光景だ。


俺達、凄くなっかよしー


「小猫、アーシア……!」

 最後の望みをかけ、リアスが小猫とアーシアに助けを求めるも……

「私達も入りましょう、アーシアさん」
「でも、リアス部長と朱乃さんが……」
「私達は何も見なかった、良いですね?」
「あ、はい」

 この場からリアスと朱乃、ウィスを除いた全員の姿が消える。
 最後の望みが潰えたリアスと朱乃は観念した様に脱力し、外へと繰り出されていった。



 修行を開始して3日目の深夜、修行を終えたリアスと朱乃の悲鳴が再び鳴り響いた。
 騒音が鳴り止んだ後、汗だくの状態で倒れ込んだリアスと朱乃を抱え込み、ウィスは2人を風呂場へと放り込む。

 眷属達が寝静まった深夜の時間帯、リアスと朱乃の官能的な声が風呂場から響くことになった。 
 

 
後書き
ウィスの過酷な生死を彷徨う修行を乗り越えることが出来れば慢心ライザーなんて楽勝、楽勝ー(汗)

これぐらい必死に修行しないとライザーには勝てません(作者の私見)
それぐらい当時のリアスとライザーの実力差は離れていたからなぁ 
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