ユキアンのネタ倉庫
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英雄伝説 閃の軌跡 王者の風
老師に修行を打ち切られ2週間。お情けで与えられた初伝に喜ぶ義父、いつもと変わらない笑顔を見せる義母、急に俺のことを避け始めた義妹、あの日から変わらずそこにあり続ける獣の焔。息苦しさの上で変わらずに修行場に足を運ぶ日々。いつもと変わらないと思っていたその日の出会いが俺に新たな一歩を踏み出させることになる。
「すまぬが、剣仙ユン・カーフェイが逗留しているユミルとはこの近くで合っているだろうか?」
紫色の道着の上に旅装用のマントを羽織い、立派な白馬を連れた義父より年上に見えるその人は、アイゼンガルド連峰の方角から歩いてきた。万年雪に断崖絶壁が連なるアイゼンガルド連邦を旅装の中でも軽装に近い格好で。それだけでこの人が達人であることが理解できる。
「はい、もう少し降りた所にユミルはあります。ですが老師、ユン・カーフェイは先日旅立たれてしまいました」
「ふむ、行き違いになってしもうたか。ワシはシュウジ・クロス、旅の武闘家じゃ。ユン・カーフェイと手合わせをと考えておったのじゃが、仕方あるまいな。お主はユン・カーフェイの弟子か?」
「先日初伝を与えられました。ユミルの領主シュバルツァー家長男、リィン・シュバルツァーと申します」
「ほぅ、その年で初伝とは。なかなかの腕のようだな」
「……いえ、4年もかかってようやくです。才能がないんです。だから、老師にも修行を切り上げられてしまいました」
「むっ?ふむ、どれ、少しだけお主の力量を見せてもらえるかな?本当に才能がないか、第3者の視点から見てしんぜよう」
「ええ、構いませんが」
老師から教わった八葉一刀流の型を順に見せる。全てを見せ終わったところでクロスさんは大きく頷く。
「お主の力量はよく分かった。お主に太刀は向いている。才能もあるが、荒削りじゃな。だが、それ以上に自分の力に恐れているな」
その言葉にドキリとする。話してもいないし、気を漏らしてもいないのに、気づかれたことに驚く。これが達人なのか。
「恐れのせいで半歩踏み込みが甘い。そして気も収束しきれておらん。が、型はしっかりと身についておる。その恐れさえなくなればすぐにでも中伝には至れるじゃろう。そこより先は、自分だけの技を身に着けることになっていくのだろう。型の多さがそれを語っておる。それで上伝となり、型を完全に納めれば皆伝と言ったところか」
「あっ」
探していた、欲しかった答えへの道が次々と示される。
「初伝に至るまで4年かかったと言ったな。年は幾つになる?それまでに武術の心得は?」
「14です。それまでは特に何も」
「3年の体作りとそこから型を仕込まれたな。よくぞ4年でそこまでのことが出来た物だ。中々の才だ。ワシも弟子として仕込んでやりたかったな」
お世辞かもしれない。だけど、それでも達人がちゃんと認めてくれたという事実に胸からこみ上げてくるものがある。
「男がそう簡単に涙を流すでない」
クロスさんが多少乱暴にだが頭を撫でてくれる。
「どれ、ここで会ったのも何かの縁じゃ。お主の中にある恐れ、ワシに話してみぬか?何か手があるかもしれぬし、ないかもしれぬ。だが、一人で抱えるよりは良いはず」
「少しだけ長くなります」
俺は初めて自分の過去について誰かに話したい気持ちになっていた。この人なら、俺の力をどうにかできるかもしれないと、そう感じられた。
「事情は分かった。では、その力、使って見せい!!」
話を聞き終わったクロスさんは旅装のマントを脱ぎ捨て、闘気を高め始める。
「なっ!?いきなり何故ですか!!」
「問答無用!!行くぞ!!」
咄嗟に構えた太刀がクロスさんの拳を受け止め、そのまま吹き飛ばされる。雪の上を転がりながら立ち上がり、すぐ目の前に近づいていたクロスさんに驚き、動きが止まってしまう。
「そらそらそらそら、どうした、反撃して見せい!!」
クロスさんが繰り出す連撃を太刀でなんとか受け止める。刃でしっかりと受けているのに、闘気が厚すぎて生身にまで届いていない。
「クソッ、弐の型・疾風!!」
高速で走りながら斬りつける疾風を使うが、クロスさんを捉えきることが出来ない。
「まだ力を見せぬか。ならば」
クロスさんが一度距離を取り、懐から何かを取り出して操作する。あれは、話に聞く戦術オーブメントなのか?
「これが何かは分かるか?これは戦術オーブメント、簡単に説明すれば導力術を使うための物だ。そしてコレにはワシが旅の中で集めた強力なクォーツが収められておる。さすがに村を滅ぼすほどの威力は出せんが、ユミルでは事情が少し異なる」
「どういうことですか」
「今、爆裂術式を最大射程で起動した。あの辺りを少し崩せばどうなると思う」
クロスさんが指を指して示した位置、そこが崩れれば
「雪崩が、ユミルを襲う!?」
「そうだ。何人生き残れるかのう。止めるにはこいつを壊すしかない」
戦術オーブメントを懐に戻しながらクロスさんは、いや、この男はユミルを滅ぼすと、エリゼや父さんたちを殺すと言い放つ。こんな、こんな人を信じようと、俺は、俺は!!
「させない、絶対にさせるものかーー!!」
4年ぶりに自らの中の焔を燃え上がらせる。今までこの焔を燃え上がらせた中で、一番意識がはっきりとしている。そして目の前の敵に飛びかかる。
「なるほど、確かに凄まじい力ではある。だが、力だけでは足りぬわ!!」
いつの間にか意識を失っていたのか、雪の上でうつ伏せに倒れていた。胸の奥の焔は今にも消えそうな程に弱り、全身が酷く重い。それでもあの男を止めなくてはならないという思いで傍に落ちている太刀を支えに立ち上がろうとして、血を吐いて倒れそうになる体をあの男が支えた。手に持つ戦術オーブメントは今にも発動するのか青く光り輝いている。
「もう目を覚ましおったか。随分と頑丈じゃな。そろそろ発動するぞ」
その言葉と共に戦術オーブメントが一際大きな光を放ち、体に活力が戻る。すぐに拳を握り、殴りかかるがその腕も捕られて組み伏せられる。
「元気になったようじゃな。悪いようにはせん、もう少し眠っておれ」
そのまま首を絞められて意識が落ちる。
絞め落としたリィンを風雲再起に乗せ、ユミルの郷にまで降りる。風雲再起に乗せられたリィンを見て村人が領主の館へ走って知らせ、別の村人に案内されて領主の館へ向かう。リィンを自室のベッドまで運び、シュヴァルツァー夫人に看病を任せる。ワシは執務室へと通され、領主であるテオ・シュヴァルツァーと対面する。
「ワシは旅の武闘家でシュウジ・クロスと申します。まずは謝罪させていただきたい。リィンを痛めつけたのはワシなのです」
ワシの告白にテオ・シュヴァルツァー殿が困惑の表情を浮かべる。
「それは、どういったことでしょう?」
「そもそもワシがユミルを訪れたのは剣仙に会うためだったのですが、偶然リィンに出会ったのです。少し話してみれば何やら悩みがあると感じ、相談に乗りました。初伝を授かったが見放された、妹御に避けられるようになった、それ以上にすべての元凶である自分の中に眠る異能に関して何も解決が出来ていないことに」
「そんな、もう乗り切れたのだとばかり」
ふむ、周りに気が付かせないようにしておったか。それが悪い方向に動いておるのぅ。
「話すに話せなんだようだのう。ユン・カーフェイもいずれは乗り切れると思って、獅子が自分の子を谷底に落とすように、あえて突き放したようじゃが、今のリィンには無理だろう。体と技が育とうと、肝心の心が育っておらぬ。4年前に魔獣に襲われた時から、あやつは一歩も前に踏み出せておらぬ」
「心を育てる」
「さよう、心に巣食う鬼を抑えるためには心を鍛えるしかない。肉体を鍛えたところでどうにかなることではないわ」
「ですが、心を育てるとは?」
「ワシが旅してきたとある国にこんな言葉がある。鉄は鉄によって鍛えられ、人は友によって磨かれる。あやつに、友と言える者はおるかのう?」
「……いえ、ユミルは小さな郷です。数少ない同世代も4年前のことで距離をとってしまいました」
「仕方のないことではある。異常を恐れて離れるのは生物として普通のこと。そこでだ、1年ほど、ワシにリィンを預けてみぬか?」
「何をするつもりなのでしょう?」
「うむ、ワシの旅に同行させる。幸いリィンは八葉一刀流の初伝を修めておる。修行の一環として帝国の各地の他流派の道場を訪れても不思議ではあるまい。色々な出会いや経験を与えてやれば、少しは前向きになれるやもしれぬ。そこで友や好敵手が出来ればなお良い。競争相手が居ないというのもあまり良い環境とは言えぬからな」
「それはそうでしょうが」
「色々と心配なのも分かる。だが、このまま放っておくわけにも行かぬ。思い至っていないようだが、内なる獣から逃げるには死ぬのが一番手っ取り早い。それに気づかれる前にどうにかしておく必要がある。ユミルなら簡単であろう?」
装備もなしに少し山を登れば簡単に凍死できる。さらにそこそこ登ればアイゼンガルド連峰だ。そこにはかなり強力な魔獣がうようよしておる。
「ワシは一週間ほど逗留するつもりじゃ。それまでに答えを出して貰えるとありがたい。そして何より、一度リィンとゆっくりと話し合うべきだ。傍にいれば思いが伝わるなど笑止千万。伝える努力を怠った者の末路など分かりきったものよ。相手のためを思って、などと自分が傷つくことを恐れた結果の独り善がり。分かり合うなど出来はせぬ!!」
ワシの存在に気づかずに通り過ぎるリィンに声を掛ける。
「何処へ行こうとしておる」
振り向き驚きながらも手は腰の太刀に伸びておるのに感心する。
「殺気を抑えよ。魚が逃げてしまうわい」
「あなたは、一体何がしたいんですか」
「簡単な嘘の脅迫をしたことか?東方には百聞は一見に如かずという言葉がある。百を他人から聞くよりも自分で見た方が確実で分かりやすい。多少の殺気程度やお主自身を傷つけても鬼の力を引き出さんと思うたからな。結論から言ってやろう。外的要因さえなければお主の力が暴走することはない。一般人でも偶に居る、怒りで我を失い、常の力よりも力を引き出す者とさほど変わらん。力の引き出す量は一般のそれとは比べ物にならんがの。ワシの弟子もそうであったが、周りの力を借り、見事乗り越えた」
外部要因の怒りのスーパーモード、それがワシの見立てじゃ。明鏡止水の心を教え込むにしても、経験が足りなすぎる。テオ・シュヴァルツァーは旅の同行に前向きのようじゃが、果たしてリィンはどちらを選ぶ。
「テオ・シュヴァルツァーに話を聞いたであろうが、ワシと1年間旅に出るか?」
「それであなたに何の得があるというのですか?」
「ワシはのう、昔大きな過ちを犯そうとしておった。ワシはそれを正しいことだと思い込み、そのために全てを犠牲にしようとした。事実、友は犠牲になり、他にも多くの命を奪ってしもうた。そんなワシの行いを弟子は真っ向から否定し、間違いを正してみせた。ワシは気付かされた。師弟関係とは、いや、人同士の関係は教え教えられる関係なのだと。リィンよ、お主はユン・カーフェイに甘えているだけではなかったか?」
ワシの言葉にリィンの目が泳ぐ。
「図星か。それがユン・カーフェイがユミルを離れた一番の原因だろう。甘えたままでは成長できんとな。リィンよ、甘さを捨て、真に鬼の力を制御したいのであれば旅についてまいれ。お主が心より力を求めぬ限り鬼の力が暴走することはない。それはお主の心根がそうさせるのだろう。初めての時も、そして先日の時も、お主は守るために力を求めた。そして、その力のままに全てを傷つけたわけではない」
「どういう意味ですか」
「お主は妹御を守った。その事実を忘れるな。怯えられたのは仕方のないことだ。だが、鬼の力が有ったからこそ守ることが出来た」
「あっ」
「鬼の力を引き出している間、お主の意識は無いとしても、お主の思いには応えておる。恐れる必要はない。鬼の力も今ではお主の一部。受け入れよ、全てを。その先にこそ道はある」
「懐かしい夢だな」
全身に力が入らない。目を開くのすら億劫だ。視界が真っ赤に染まっている。記憶を掘り起こして最後の記憶を思い出す。確かセドリック皇子をテスタ・ロッサから引き抜いて、カイエン公が取り込まれて、霊力が底を付きかけていたヴァリマールで暴走を始めようとするテスタ・ロッサを道連れに飛び降りて。体が潰れた感触を覚えている。だが、オレは生きている。鬼の力とヴァリマールがオレを生かそうと力を与えてくれている。
自分がどんな状態かも、ヴァリマールがどんな状態なのかも分からない。一つだけ言えるのは、オレたちには休息が必要だってことだ。さっきみたいに、昔の夢を見ながら。
走馬灯じゃありませんように。
後書き
ハーメルンの方でふらっと見た「閃の軌跡0」で興味を持ってついつい英雄伝説を梯子しちゃいました。
閃の軌跡ではメインメンバーより敵方の女性陣のほうが好みです。デュバリとか、シャーリィとか、生き生きとしていて好みです。でも一番はセリーヌだったりします。
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