シュタイン=ドッチ
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第四章
「鬼ではないぞ」
「左様ですか?」
「鬼ではないのですか」
「そうじゃ、只の異国から来た者達じゃ」
それに過ぎないというのだ。
「別にじゃ」
「別にですか」
「困ることはないですか」
「人を襲ったり食ったりしませぬか」
「血を飲んだりしていますが」
「あれも智ではない、酒じゃ」
頼光は民達にその葡萄から造った酒のことも話した。
「葡萄から造るな」
「葡萄から酒を造るのですか」
「その様なことが出来ますか」
「酒は米から造るものですが」
「そうしたものもあるのですか」
「そうじゃ、間違ってもな」
頼光は民達にさらに話した。
「あの者達は鬼ではない、だから安心せよ」
「それでは」
「その様に」
「うむ、恐れることはない」
全くと言うのだった。
「だからな」
「恐れずにですか」
「そうしていればいいですか」
「うむ、お主達が案ずることはない」
こう言って彼等を落ち着かせた、勿論万が一の時には自分達が彼等を止めるつもりだった。そうしてだった。
暫く待っていると都から道長の使者が来た、使者は頼光達に話した。
「船で対馬まで送り」
「そしてじゃな」
「はい、山陰を太宰府まで船で伝って進み」
そうしてというのだ。
「そこから対馬となり」
「高麗を経てか」
「いえ、高麗からまた船で渡り」
そうしてというのだ。
「開封までとなります」
「あちらの都に行くのか」
「東京に」
東京開封府だ、その宋の都である。
「関白様が公卿の方々とお話をされて決められました」
「わかった、ではな」
「はい、フランドルとかいう国から来た方々は」
「帰ってもらおう」
「まずは宋に」
「何でも旅をしていてその果てにここまで来たそうだが」
他ならぬシュタイン=ドッヂが書いた言葉である、お互いに足元の土で漢文を書いてやり取りをして話したことだ。
「関白様が決められたことならな」
「それならばですな」
「異存はない、殺さないしな」
「関白様はそうしたお考えは」
「あられぬな」
「殺生は」
もっと言えば死の穢れになる、当時の日本では忌まれている考えだ。
「ならぬとです」
「あの方もお考えだな」
「ましてや人となれば」
「余計にだな」
「鬼なら別ですが」
それでもというのだ。
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