永遠の謎
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33部分:第二話 貴き殿堂よその十一
第二話 貴き殿堂よその十一
「頭はいい方らしいがな」
「それでもどうかだな」
「政治にどう活かせられるか」
「それだな」
「そうだな。どうされるかだな、このバイエルンを」
誰もが太子を期待と不安が入り混じった目で見ていた。彼が王になればどうなるのか、そしてバイエルンがどうなるのかをだ。
それは誰にもわからない。だが、なのだった。
王の体調はさらに崩れてだ。いよいよその時が迫ってきていた。
それでだ。重臣達が太子のところに来て言うようになってきていた。
「王に何かあればその時はです」
「どうか宜しく御願いします」
「是非」
「王か」
その言葉を聞いてだ。王は考える顔になった。ここでもだった。
そしてだ。今言う言葉は。
「私が王になるのだな」
「はい、左様です」
「若しもの時はです」
「殿下が」
「そうだな」
太子もだった。彼等のその言葉に頷くのだった。
「私がまず、だな」
「そうです。そしてその時はです」
「王として。おわかりですね」
「わかっている」
即答した。それは生まれた頃から教え込まれていたことなのですぐに答えることができた。
そしてだ。彼はこうも言うのであった。
「王になると共にこの家の」
「はい、ヴィッテスルスバッハ家のです」
「主にもなられます」
「この古い家の」
ホーエンツォレルン家はおろかハプスブルク家よりも古くかつては神聖ローマ皇帝を出しハプスブルク家とも競り合ってきた家だ。その誇りを感じずにはいられなかった。
だが、だった。その誇りの中でだ。太子はこうも思ったのだった。
「しかしだ」
「しかし?」
「しかしと仰いますと」
「何かおありですか」
「人は言うだろう」
何か遠いものを見る目でだ。太子は語るのだった。その青い目はこの世を見ているものではなかった。何か別のものをだった。
それを見ながらだ。太子は語るのだった。
「祖父殿のようになるのではと」
「先王ですか」
「あの方と」
「そうだ。私をこう言う者がいるな」
今度は彼等に顔を向けた。そのうえでの言葉であった。
「祖父王と。私は似ていると」
「それは確かですが」
「ですが先王はです」
「素晴しい方だ。しかしだ」
だが、なのだった。女優ローラ=モンテスに溺れ退位せざるを得なくなったのだ。その先王と彼を重ねる者がいるのである。
「女性か」
「はい、ですからそれにさえ気をつけられれば」
「問題はありません」
「ましてや殿下はです」
彼が近頃言われている最も憂慮すべきこともここで語られた。
「今のところ女性が傍にいません」
「それがかえって心配な程です」
「女優はお好きですか?」
「いや」
その質問にはすぐに否定で返した。
「好きではない」
「そうですね。むしろ少し興味を持たれた方がいいです」
「少しだけでもです」
「むしろそこまで思います」
そうだと話してなのだった。
そしてそのうえでだ。彼等は太子に対してさらに話していくのだった。
「ですから先王の様にはなられません」
「むしろ先王の素晴しいものをそのまま引き継いでおられます」
「それでどうして憂慮されることがありますか」
「ないのではないでしょうか」
「そうであればいいのだがな」
そう言われてもだった。彼の憂慮は消えない。
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