クレージー=ホース
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第一章
クレージー=ホース
アメリカ西部のラシュモア山はワシントン、ジェファーソン、リンカーン、セオドア=ルーズベルトの四人の大統領達の巨大な顔が岩に刻まれている。その顔を見てカルフォルニアから来た少年セイン=ダルタニャンはこう言った。
「この四人は凄いけれど」
「どうしたんだ?」
彼の父であるシャルルが我が子に問うた。
「自分の国の偉人を誉めるのはいいことにしても」
「いや、その下の」
セインはあどけない六歳の子供に相応しい顔で大統領達の下を見た、くすんだ茶色の髪は癖があり目の色は灰色だ。
「あのネイティブの像だけれど」
「ああ、あれか」
シャルルもここでその像を見た、目と瞳の色は息子と同じだ。顔立ちも彼がそのまま大人になった感じで鼻が高く面長で彫がある。背は一八〇程で息子よりはずっと高い。
「クレージー=ホースか」
「それがあの像の人なんだ」
「そうだ、あの人はな」
まさにというのだ。
「昔アメリカと戦った人なんだよ」
「アメリカって」
「だからネイティブだろ」
この立場の者だからだというのだ。
「昔あの人達はアメリカと戦ったじゃないか」
「ああ、西部劇だね」
「騎兵隊とかカウボーイとかガンマンとか保安官だな」
もうアメリカでも製作されることが少なくなったジャンルだ、日本の時代劇と同じことであろうか。
「あの時代だ」
「そうなんだ、あの時代の人なんだ」
「その頃はまだこの辺りはアメリカじゃなかったけれどな」
「それがなんだ」
「金山があるって話になってな」
それでというのだ。
「ここもアメリカにすることになってネイティブの人達と戦争になったんだよ」
「成程ね」
「ああ、しかしな」
「しかし?」
「負けたんだよ」
「ああ、だから今ここはアメリカなんだ」
「そうなんだよ」
「成程ね」
「それであの人はな」
シャルルもその像を見た、ただ。
彼はここで微妙な顔になってこう言った。
「本当にあの姿かどうか」
「それはなんだ」
「わかっていないんだよ」
「あれっ、像になってるのに」
「そうなんだよ」
「何かおかしくない?」
「あの人は本名をタ=シュンカ=ウィトコといってな」
シャルルもこのことを話した。
「スー族の支族出身だったんだ」
「クレージー=ホースじゃないんだ」
「本名はな、というか英語だろ」
クレージー=ホースという仇名はというのだ。
「そうだろ」
「そういえばそうか」
「ああ、後な」
「後?」
「本当に姿はな」
シャルルはセインにまたこの話をした。
「わかっていないんだよ」
「そうなんだ」
「ああ、それは言っておくな」
「ううん、それなのに銅像になってるとか」
大統領達の顔像と比べるとだ、話にならない位小さい。セインはその像を見つつ父の言葉に応えたのだった。
「変な話だね」
「ああ、本当にわかってないんだよ」
そのクレージー=ホースの姿はとだ、シャルルは我が子に話した。彼にとってはこのことはこれで終わったが。
セインは違っていた、この時からそのクレージー=ホースについて調べる様になった。本当にその姿のことが残っていないのか。
クレージー=ホースは白人を嫌っていた、それは彼等から見て侵略者だったからで当時のネイティブならば誰もがだった。
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