真ソードアート・オンライン もう一つの英雄譚
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第一部
幕間の物語
流星と黒猫
前書き
コラボの続きです。
「大丈夫?さっき転移門の前に行ったら倒れてた君をここに連れてきたんだけど、あーここは知り合いのホームだから安心して。君に危害を加えるつもりは無いから」
少年は静かに言う。どうやら俺はベッドに寝かされていたらしい。とりあえず、
「ありがとう。俺はアヤト、ソロだ」
「俺はアキト。よろしくね。アヤトは何で転移門の前で倒れてたの?」
「分からない……。知り合いの鍛冶屋にメンテナンスを頼んでて、その武器を取りに転移門を使ったら何故かこの層に来てて……ア、とアキトはプレイヤー…….なのか?」
「ん?うん、そうだよ。なんで?」
「いや、確か最前線は75層だったはずだ。それなのに76層って表示されてたからさ、バグが発生したのかと思ったんだよ。それにここに来た瞬間、俺の親友が……その……」
俺は言葉に詰まる。もう一度フレンドリストを開いてみるが、変化は見られなかった。
キリトもケイタもサチも死亡していて、コハルとミストはフレンドリストから消滅している。俺はギリッと歯ぎしりをする。それを見たアキトは部屋の外に出て行く。俺はきょとんとしていると、直ぐにアキトは戻ってきた。
「これどうぞ。これ飲んで落ち着いて」
「これは……コーヒーか?」
「ぽい物だけどね。アヤトの気持ちは何となくわかるよ。口に出してないけど俺も以前そんな顔をしてたからね」
俺はハッとアキトの方を見た。
アキトは寂しそうに笑ってみせると、俺にコーヒーのコップを渡す。俺は少し受け取ったコーヒーを見つめると、口をつけた。
「……苦い」
「そりゃコーヒーだからね。アヤトはあんまりコーヒーは飲まない?」
「そうだな。食後はアイスティーだし、どちらかといえば紅茶派か」
「そっか。それはごめん」
「いや、ありがとうな。苦いけど美味い」
俺はズズッとコーヒーを飲み干した。アキトは飲み干したコップを受け取ると、お代わりはいるかと聞いてきた。助けてもらった挙句、コーヒーのお代わりまで貰うのは図々しすぎかと思い、断っておく。
「なぁアキト。ここは本当に76層なのか?俺たちは75層に到達したばかりだったはずだろ?これってバグか何かなんだよな?」
「アヤト。君はもしかして下層から来たのか?だとしたら君には説明しておかないとね」
アキトは椅子から立ち上がると説明を始めた。
「ここは第76層主街区《アークソフィア》だよ。75層は随分と前に突破されたよ。……犠牲と共にね」
「そんな馬鹿な!?つい最近74層を俺やキリト達で突破したばかりだぞ!?それにキリトやサチやケイタとは昨日も一緒に話をした!それに犠牲って……」
俺の一言にアキトの目は大きく見開かれた。
俺はアキトの肩を掴んで激しく揺する。
「アキト!冗談じゃなくて真実を聞かせてくれ!あいつらはなz────────」
すると、今度はアキトが動いた。俺をベッドに押し倒しすごい形相で俺を見てくる。
「何で君がキリトとサチの事を知ってるの?アヤト。君は何者なの?」
「アキト……?」
アキトは身体を起き上がらせると後ろを向いて一言。
「ごめん……」
と言う。俺も起き上がる。
「こっちこそ悪かったな。取り乱して。俺とキリトは友達だ。俺はアイツを親友だと思ってる。サチも同じだ。サチも俺の友達だ。俺はアイツに作ってもらったこの槍で……」
俺は背中の槍を抜こうとするが、手が空振る。
そういえば《ライト・コンダクター》を取りに行ったら此処に来ちゃったんだっけ。
ふぅ……と溜め息を吐き、アキトを再び見つめる。
「なぁアキト。頼む。あいつらが何で死んだ事になってるのか教えてくれ」
「……」
アキトは深呼吸を何度か繰り返すと、
「………….キリトは、75層のフロアボス攻略戦でヒースクリフとのデュエルで……」
「ヒースクリフ?何でヒースクリフが出てくるんだよ?」
「そうか……じゃあそこから話をするよ」
俺はアキトから75層で起こった事を教えてもらった。ヒースクリフは茅場晶彦でキリトは全プレイヤーの解放を条件にデュエルを行い、その結果キリトは死んでしまった。ヒースクリフは消え、どうなったのかは分からないらしい。
サチに関しては更に随分前にダンジョン内でモンスターに殺されてしまったとの事だ。アキトはその話をしている時の表情は険しかった。アキトもこの二人とはすごく仲が良かったのだろう。俺は膝をついて座り込む。両手を地面に着けて身体を支えた。
「アヤト。君がなぜ下層からここに来れたのかは俺にも分からない。でも何となく思う事があるんだ」
アキトは真剣な眼差しで俺を見据える。俺もアキトを見つめ、唾を飲み込んだ。
「君は多分この世界の人じゃないんじゃないかな」
「……へ?」
アキトの一言に俺は間の抜けたような声を出してしまう。この世界の人じゃない?どういう意味だ?
「この世界の人じゃないってどういう事だよ」
「そのままの意味だよ。キリトもサチも君の言ってる事とは齟齬が多いからね」
「でも、それって物理的に無理なんじゃないか?それってここがパラレルワールドって事になるしさ」
「そうだね。可能性は限りなく低いと思う。普通ならアヤトの言ってる事なんて死者の冒涜。俺たちへの嫌がらせ程度にしか思われないと思うんだ。でもね」
アキトは目をつぶって
「もし皆んなが生きている世界線があるなら……」
「え?」
俺はアキトの顔にハッと息を飲む。アキトの瞳から一筋の涙が流れ落ちた。しかしアキトの表情は穏やかで先程とは大違いだった。窓から差し込む光を受けて涙はキラキラと輝く。
「……何でもない!それより、どうやってアヤトが元の世界に戻るかだけど────────」
アキトは涙を拭うと、いくつか案を出してくれた。
一つは転移門周辺を調べること。突然76層に来てしまったのだ。ならその原因は転移門にあるのではないかというものだ。
二つ目はもういっそのこと街全体を調べてみるというもの。手間がかかるが転移門よりかは手掛かりが出てくる可能性が高めだ。
三つ目は圏外に出て探してみる事だ。
とりあえず一つずつ進めていこうと思う。
「転移門の近くに行ってみよう。何かあるかも知れないからね」
「了解」
そう言って俺達は転移門の前まで移動する。転移門は何処も大した変化はなく、青い光を放ちながら浮いている。
俺はもう一度転移門の前で他の層に行こうとしてみるが、やはり76層より下に行けない。
「……ダメだな。やっぱり何もできない」
「ごめん。こっちも何も無かったよ」
アキトは悔しそうに呟く。気を取り直してアークソフィア内を散策してみるが、これといって手掛かりは無かった。
「これだけ探しても何もないなんてな……」
「少しぐらい手掛かりがあっても良さそうなのにね」
「おーい!アキトー!」
突然アキトの名前が呼ばれ、俺達はその声のした方を見てみる。
「あ、クライン」
「って、アキトが二人!?……じゃねぇな」
「彼はクライン。ギルド《風林火山》のリーダーだよ」
「お、おお……よろしく」
「おう!よろしくな!で、お前さんは何て言うんだ?」
「ああ悪い。俺はアヤト。ソロだ」
何とも複雑な気持ちになる。クラインとは第1層の、しかもリリース初日からの仲だっただけにやりづらい。
クラインはニシシと笑いながら右手を差し出してくる。握手だな。
俺はクラインの握手に応える。そういえば最初会った時もこうやって握手したっけ。俺は唇を噛む。
(何とかして早く帰らないとな……)
俺は決意を新たにクラインの手を離す。
「それにしてもお前さん達、何だか似てるよな」
「似てる?」
「おう!何つーか、雰囲気ってヤツだよ!顔立ちもだし、背丈も同じぐらいだろ?ぱっと見ではアキトが二人居ると思ったぜ!」
そうか?俺とアキトかぁ……。アキトはどちらかと言えばキリトに似てるような気がするな。
アキトと直接会った時に俺が思った事はキリトの様な少年。顔も声も違うし、当然武器も違う筈なのに、纏う雰囲気がキリトにそっくりだ。
そう思っているうちに、アキトは今の俺の状況をクラインに説明する。するとクラインも仲間を呼んで俺の元の世界線に戻る手掛かりを一緒に探してくれるそうだ。
流石クライン。義理人情に厚い男だ。元の世界線は仲間だが、ここでの俺は見ず知らずの他人なのに「必ず見つけ出してやるからな!」って行っちゃったよ。全く、やっぱりクラインはいいヤツなんだなって改めて分かったよ。
「圏内はクライン達に任せて俺たちは圏外で探してみよう」
アキトの言葉に従い、俺たちは圏外に出た。
転移門に触れて体が光に包まれる。
「ここが76層の圏外……」
見たところこれまでの層とはあまり変わりはないように見えた。
雰囲気が少し薄暗いが、とりあえずアキトに────
「ってアキト!?」
先程まで一緒に居たはずのアキトが居なかった。ちょっと勘弁してくれよ……。
俺はアキトを探しに辺りを歩き回る。ありがたい事にMobはそれ程多く無く、自分よりレベルが高くても特に苦もなく倒して奥に進んで行けた。
するとそこには目の前に大きな扉があった。
「ここか?」
俺は扉を開けて中を見渡してみる。中は何というか広い空間で、一番奥には何だか玉座のようなものがあった。
ん?玉座?
玉座の辺りから赤い瞳が二つ出てきた。
そしてそれの持ち主が玉座から飛び出して来た。
「こ、こいつは「イルファング・ザ・コボルドロード』……!?いや、もっとデカいぞ!」
《デトネイター・ザ・コボルドロード》
コボルドロードの斧が俺の真上から振り下ろされて来た。
俺は咄嗟にソードスキル《ヴォーパル・ストライク》を使い攻撃を回避する。
「危なかった。まさかこんな所にコボルドロードがでてくるなんてな……もしかして76層からはこれまでのフロアボスがMobとして出現するとかないよな?」
コボルドロードはゆっくりとこちらを振り向いてくる。どうやらやるしかないようだ。
俺は『クラレット』の刃先をコボルドロードに向けて構える。コボルドロードは咆哮を上げると、こちらに突っ込んで来た。
第1層のフロアボスより強力になっている分、早期決着を目指さないとマズい。俺はコボルドロードの攻撃を反らしながらちょこちょこと攻撃をしていく。
「とはいえ、そこらのMobなんかより断然強いな……当然だけど。やはり俺一人だけだと難しいか」
なんとかして脱出する方法を考えてみる。途中脱出は出来ないみたいだしなぁ。『ライト・コンダクター』が無いのがやはり大きいな。《無限槍》が無いとなると、こっちの出来ることはもう体術スキル《八極》ぐらいしかない。こいつ相手に《八極》でどこまで出来るか分からないけどやるしかないか……!
俺は『クラレット』を背中に戻すと、すぅ……と息を整える。準備は万端だ。
「行くぞ……!」
拳をコボルドロードにぶつける。倍速で動ける為、攻撃は容易く躱して行く。
「はぁあああ!!」
二撃目、三撃目と攻撃をクリティカルヒットで叩き込む。
早く!早く倒れろ!
四撃目で遂にコボルドロードのHPは半分を切った。
「五撃目────!」
「◾️◾️◾️◾️────!!」
コボルドロードの怒りの咆哮を上げる。俺はその衝撃波で吹き飛ばされた。
時間がない。早くコイツを倒さないと行動不能に────!
俺は立ち上がろうとする。が、
「な!?まだ時間があるはずだ────!?」
HPゲージの隣にはスタンのマークがあった。さっきの咆哮を直に食らったのがマズかったか。
コボルドロードはのしのしと近づいてくると、剣をそのまま振り下ろした。
後書き
pixivの方でアヤトやコハル、ミストのイラストを投稿しています。下手くそなイラストですが、良かったら見に来てくださいね。
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