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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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遥かに遠き刻の物語 ~ANSUR~ Ⅶ

そこは滅亡世界スヴァルトアールヴヘイム。アースガルドと共に戦い、そして連合によって滅ぼされた世界。そこで起きた堕天使戦争の第一戦。

“アンスール”、第二世代アルヴィト隊、第四世代ラーズグリーズ隊が、敵ヘルヴォル隊、“A.M.T.I.S.”と衝突する。“A.M.T.I.S.”の存在が想定外であったため、苦戦を強いられる“アンスール”と“ヴァルキリー”各隊。
ただでさえ“ヴァルキリー”8部隊の中で最も機体数の多いヘルヴォル隊。しかもヘルヴォル隊は前線特攻部隊でもある為、各機の実力が高く防御力が非常に強い。そこに“A.M.T.I.S.”の最新鋭部隊が追加、圧倒的に不利となる戦いとなった。

「御気を付けください、アリス様。ですがご安心を。私たちが御背中を御守りします」

「ありがとう、クルックス、ミスフィ」

成長したアリスを護るように、アルヴィト隊隊長・“顕地の槍クルックス”と副隊長・“双剣の帝ミスフィ”を含むアルヴィト隊100体が堕天使ヘルヴォル隊と交戦。アリスは得意の結界術式でサポートし、視界に映る“エグリゴリ”や“A.M.T.I.S.”を捕獲していく。だが、魔力量や堕天使の持つ神器の所為で上手くはいかない。離れた場所でも激しい戦闘が繰り広げられていた。互いの戦力に損害を着々と与えていく両勢力。

『ヘルヴォル隊撤退を開始。繰り返す。ヘルヴォル隊は撤退を開始』

風嵐系最強の“ヴァルキリー”だったヘルヴォル隊隊長・“戦導の鉄風シュヴァリエル”による“ヴァルキリー”専用回線からの指示が、ヘルヴォル隊全機へ告げられる。念話阻害が激しい戦場の最中、ヘルヴォル隊は粘ろうと思えばもっと戦えたのに撤退した。“A.M.T.I.S.”の何機かを自爆させ、それを目晦ましとしての鮮やか過ぎる撤退だった。

「なんだ、この不自然な撤退は・・・」

「こちらステア! アンスールメンバー、各自応答せよ!」

優位な中での撤退というその行動に強烈な胸騒ぎを得た過去ルシリオンとステアは、すぐさま“アンスール”メンバーの安否確認を行った。そして知った。大戦時は風迅王と謳われ、連合に恐怖を与えた魔術師、イヴィリシリア。彼女がシュヴァリエルとの一騎打ちに敗れ、戦死したのだ。

「イヴ・・・義姉様・・・?」

「ぃやぁ・・・いや・・・」

バッサリと左肩口を斬り裂かれ息絶えたイヴィリシリアの遺体が無残に荒野に転がっていた。風嵐系最強の魔術師イヴィリシリアが、同じく風嵐系最強の堕天使シュヴァリエルに敗れた。“界律”からの能力制限という状況下での敗北だった。“アンスール”と“ヴァルキリー“は失意の中でユグドラシルへと帰還。イヴィリシリアの遺体は、フノスの眠る棺の隣へと納められた。

――アンスール風迅王イヴィリシリア・レアーナ・アースガルド。戦死。

堕天使戦争第二戦。
有人世界での対ゲイルスケルグ隊、ヘルフィヨトル隊。
街を破壊して回る“エグリゴリ”二隊と、雷撃系最強にして“ヴァルキリー”序列2位である“雷滅の殲姫プリメーラ”率いるランドグリーズ隊、そして炎熱系最強の“凶狩の紅翼ティーナ”率いるヒルド隊の二隊が交戦。
“アンスール”はその世界の住民の避難誘導に力を注ぐ。激戦の果て、“エグリゴリ”を十数体と破壊。残った“エグリゴリ”を退かせることに成功した。“アンスール”からも犠牲者が出ることなく、今回の戦いは終息した。

堕天使戦争第三戦。
また無関係な有人世界での戦い。今回は堕天使全部隊が出現。“ヴァルキリー”も全部隊で“エグリゴリ”と真っ向から交戦を開始。“アンスール”は、伏兵として用意されていた“A.M.T.I.S.”と交戦を開始。戦術で足りない魔力を補い、次々と撃破していく“アンスール”だったが、“A.M.T.I.S.”の自爆行為によって分散させられる。
それによって、地帝カーネルが闇黒系最強の堕天使・“黒煌の紡ぎ手クリスト”と他堕天使3体と交戦、戦死する。呪侵大使フォルテシアがブリュンヒルデ隊シリアル05、“闇絶の拳レーゼフェア”と交戦。対闇黒系魔術師用として開発されたレーゼフェアの能力により、フォルテシアも戦死する。

――アンスール地帝カーネル・グラウンド・ニダヴェリール。戦死
――アンスール呪侵大使フォルテシア・アウリアス・スヴァルトアールヴヘイム。戦死。

堕天使戦争第四戦。
滅亡世界スリュムヘイムでの激戦。
氷雪系最の“瞬凍の狩神・ 氷月(ひづき)”率いるラーズグリーズ隊とプリメーラ率いるランドグリーズ隊、そしてクルックス率いるアルヴィト隊が、ヘルヴォル隊・ゲイルスケルグ隊と交戦する。無人世界ということもあり、“アンスール”はユグドラシルでの待機となっていた。激戦の結果、カーネルを殺害したクリストを破壊することに成功。ヘルヴォル隊にも十数体という損害を与えた。

最悪な事は立て続けに起こることを知る。“エグリゴリ”の目的は、正常な“ヴァルキリー”にもウイルスを感染させることだった。“エグリゴリ”は戦闘を繰り返すことで、“ヴァルキリー”にウイルスを徐々に、しかし確実に感染させていた。その結果、“ノルニル・システム”の凍結が決定、実行されることになった。それは“ヴァルキリー”という重要な戦力を失うことになるものだった。

堕天使戦争第五戦
“ヴァルキリー”という戦力を失った“アンスール”は、“エグリゴリ”“と“A.M.T.I.S.”に苦戦を強いられる。そこを助けてもらったのが、再編された“星騎士シュテルン・リッター”だった。

堕天使(アレ)にはミッドガルド(わたしたち)も困っています。ですから微力ながらお手伝いします」

かつてのシャルロッテの右腕、大人となった第五騎士フュンフト・リッターの“風雷グレーテル”と、彼女の率いる“自由騎士団フライハイト・オルデン”、同じく第三騎士ドリット・リッター、“花の姫君チェルシー”と、彼女の率いる“聖願騎士団ヴァイナハツシュテルン・オルデン”が、“アンスール”と共闘することになった。それでも戦力的には劣る“アンスール”と“シュテルン・リッター”の共闘軍。
熾烈を極めた戦いの果て。雷皇ジークヘルグがブリュンヒルデ・シリアル04、“宝雷の矛グランフェリア”と交戦。彼女の雷撃系無効化の神器、“天槍・雷界幻矛(らいかいげんむ)”によって魔術を全て無効化され、ジークヘルグが殺害される。

――アンスール雷皇ジークヘルグ・フォスト・ニダヴェリール。戦死。

次々と戦死する“アンスール”メンバーに、アリスが心を閉ざし始める。元は大戦とは関係のない世界から拉致されたアリス。ここまで共に戦ってきたが、それも普通ならあってはならない事だった。これ以上は彼女の心が完全に失われると判断した過去ルシリオンは、彼女の記憶を消し、ミッドガルドの“天光騎士団”に預けた。

――アンスール結界王アリス・ロードスター。強制脱退。

堕天使戦争第六戦。
有人世界、後に第四管理世界カルナログでの堕天使全軍との激戦。ここに来て残りの“シュテルン・リッター”も参戦し、ゲイルスケルグ隊とヘルフィヨトル隊の完全殲滅に成功。ヘルヴォル隊にも甚大な被害をもたらせることに成功した。
しかし、白焔の花嫁ステアがブリュンヒルデ・シリアル06、“響嵐の弓フィヨルツェン”の攻撃から民間人を庇い、その命を落とす。彼女の妹であるセシリスもまた、ブリュンヒルデ・シリアル02、“氷浪の鏡リアンシェルト”と同部隊シリアル03、“炎暁の槌バンヘルド”の手によって戦死する。

――アンスール白焔の花嫁ステア・ヴィエルジェ・ムスペルヘイム。戦死。
――アンスール炎帝セシリス・エリミング・ムスペルヘイム。戦死。

堕天使戦争第七戦。
防衛世界ビフレストでの戦闘。
カノンの魔力炉破綻(バースト)覚悟の創世結界・“殲滅領域フェアテルゲン・ヴェルトールが発動され、隊長シュヴァリエルを残しヘルヴォル隊を全滅させる。しかし、カノンが動けないのをいいことに攻勢に転ずるブリュンヒルデ隊。
“アンスール”、“シュテルン・リッター”の援護が間に合わない程の速度でカノンに迫る、最強の堕天使・ブリュンヒルデ隊のシリアル01・“戦計の剣ガーデンベルグ”。無限の呪いを宿す魔剣“呪神剣ユルソーン”を振るう。刃がカノンを両断しようとしたその時、彼女を庇う1人の男。プレンセレリウスがカノンを庇い、ガーデンベルグの一撃を受け絶命する。

――アンスール冥祭司プレンセレリウス・エノール・スヴァルトアールヴヘイム。戦死。

堕天使戦争第八戦。
ここ最近姿を現さなかった“A.M.T.I.S.”大隊、それらを率いるシュヴァリエルによるミッドガルド侵略。残る“アンスール”の過去ルシリオン、シエル、シェフィリス、カノンが救援へと向かう。その通り道として大戦終結の地ヴィーグリーズへと赴いた。そこで待ち構えていたのは少数精鋭部隊ブリュンヒルデ隊。

『・・・ここが、英雄アンスールの終焉の地となる』

ずっと黙って見ていたルシリオンが口を開く。それを聞いたなのは達は涙に濡れた顔で、ルシリオンを見た。家族であった“ヴァルキリー”と戦い、そして死んでいく“アンスール”。これ以上の悲劇は知らないと言わんばかりに、彼女たちは泣いていた。

「くそ・・・! ガーデンベルグとリアンシェルトとバンヘルドは私が引き受ける! シエル、シェフィ、カノンは、グランフェリアとレーゼフェアとフィヨルツェンを頼む!」

過去ルシリオンが指示を出す。そして始まる“アンスール”最期の戦い。もう言葉は必要ない。完全に暴走したブリュンヒルデ隊に、人の言葉は理解できなかった。

「第三級断罪執行権限解凍・・・!」

“界律”からの能力制限によって必要となった魔力炉(システム)リミッター術式を過去ルシリオンは解凍。幼少の頃に組んだ天使の名を冠する中級術式で、“エグリゴリ”3体を同時に相手する。その3体は、現状の過去ルシリオン以上の魔力を扱える格上の実力者。過去ルシリオンは得意の空戦に持ち込んで何とか持ちこたえる。

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

なのはの集束砲以上の魔力で構築された1本1本の槍、計500が3体に迫る。が、その3体は避けることなく突貫、大したダメージを受けずに過去ルシリオンへと向かう。空戦である以上、過去ルシリオンと3体の拮抗が崩れない。先に拮抗が崩れたのは、シエル達の方だった。ミッドガルドにいるはずのシュヴァリエルからの奇襲。彼の神器・“極剣メネス”が、カノンとフィヨルツェンの砲撃戦の最中、カノンを背後から貫いた。

――アンスール殲滅姫カノン・ヴェルトール・アールヴヘイム。戦死。

3対7。圧倒的に不利となった“アンスール”。一時撤退の指示を出す過去ルシリオンだったが、それが許されるような戦況ではなかった。過去ルシリオンが殿(しんがり)としてシエルとシェフィリスを庇い、“エグリゴリ”7体と戦うが、リアンシェルトの真技・“極寒薔薇園ロドン・パラディソス”が発動。シエルとシェフィリスの足下に拡がる氷で出来た薔薇の大庭園。
その無数の薔薇が一気に砕け、氷の薔薇の花弁が舞い散り、シエルとシェフィリスの足を斬り、凍結させる。身動きが取れなくなった2人に、フィヨルツェンの矢型砲撃と、バンヘルドの炎熱砲撃が迫る。

「おおおおおおおお!!」

――真技・圧戒(ルイン・トリガー)歪曲空間(マーシレス・ドライヴ)――

シエルが冷たくなった大親友カノンの遺体を背負ったまま真技を発動させる。魔力炉(システム)に致命的なダメージを負いつつも、大好きな兄の恋人であるシェフィリスを護るための真技発動だった。2体の砲撃が、シエルの生み出した空間歪曲によって軌道を捻じ曲げられ、明後日の方向へと進み爆散した。この一瞬の隙に、シェフィリスが自身とシエルの足の傷を完治させる。

「シェフィ義姉(ねえ)!!」

そこに直接2人の命を奪おうとするグランフェリアが迫る。カノンの遺体をシェフィリスへと預け、シエルが迎え撃つ。

「よせ! 逃げるんだ!! シエル!!!」

過去ルシリオンは“エグリゴリ”6体と戦い傷つけられながら、シエルがグランフェリアを迎え撃つのを見て叫ぶ。

――第二級粛清執行権限解凍――

過去ルシリオンが“界律”の制限以上の魔力を捻り出す。魔力炉(システム)が悲鳴を上げる。魂が叫ぶ。これ以上は“界律”に殺されてしまうと。

「シエルに手を出すなぁぁぁぁーーーーーッ!!」

だがそんなこと知った事ではないと、過去ルシリオンは魔術を組み上げ発動する。

――凶竜の殲牙(コード・ニーズホッグ)――

呪文(スペル)などの工程を全て無理やり省き、“神々の宝庫ブレイザブリク”から複製神器を無数に取り出す。そしてグランフェリアへと放つ神器群で構成された竜ニーズホッグ。しかしレーゼフェアが固有魔術・“影渡り”を発動し、グランフェリアを庇うように背後へと移動。コード・ニーズホッグの牙を構成していた魔剣と聖剣を真っ向から殴り砕く。その衝撃が最後尾にまで伝搬し、コード・ニーズホッグが完全に瓦解した。

「やめろぉぉぉぉぉーーーーッ!!」

吐血しながらも叫ぶ過去ルシリオンはすぐさまシエルとシェフィリスの救援へと向かおうとするが、それを妨害する“エグリゴリ”五機5体。

「邪魔をするなぁぁぁぁぁーーーーッ!!」

――邪神の狂炎(コード・ロキ)――

普段の全てを魅了するような蒼い炎ではなく、憤怒を思わせる紅蓮の炎が生まれる。過去ルシリオンの両腕両足に纏わりつき、炎で出来た両腕と両足が生まれる。腕の長さ3m、足の長さを2mとした全てを焼き尽くす炎の戦鬼。そして背の蒼翼にすら纏わりつき生まれた巨大な紅炎の翼。それはさながら炎の巨人だった。

「退けぇぇぇぇーーーーッ!!」

紅蓮の炎の腕を振り回し、空を翔る“エグリゴリ”を落とそうとする。だがその短時間に、シエルとシェフィリスは追い込まれていく。グランフェリアとレーゼフェア、そしてフィヨルツェンの空からの砲撃。そして・・・

「シェフィ義姉・・・。兄様と幸せに・・・!」

「シエル!? ダメぇぇぇーーーー!」

シエルは、シェフィリスを護るために反重力を使って彼女とカノンの遺体をビフレストへ続く転移門付近へと弾き飛ばす。そしてシエルは単騎、交戦を開始する。レーゼフェアの拳打を捌き、吐血しながらも今引き出せる最高の威力を持った重力を纏わせた拳打を繰り出す。直撃。数百mという距離を吹き飛ぶレーゼフェア。直後・・・

「「シエルーーーーーーーッ!!」」

「ごふっ・・・! ぅぐ・・・。まだまだぁぁぁぁッ!!」

グランフェリアが投擲した“雷界幻矛”に腹部を貫かれるシエル。

――真技・天壌蹂躙するは神なる拳(デストラクション・パイル)――

グランフェリアの“雷界幻矛”に腹部を貫かれながらも、シエルは文字通り最期の力を振り絞り真技を繰り出そうとした。が、過去ルシリオンの攻撃を回避し、余裕を持てたリアンシェルトがシエルへと魔術を放つ。

――美麗散華(エレオス・ソヴァロ)――

「っ!! リアンシェ――」

過去ルシリオンが炎の腕を伸ばすがすでに手遅れ。シェフィリスもシエルを護るために動くが、距離があり過ぎた。無数の氷の花弁がシエルの頭上に降り注ぎ、彼女を無情にも押し潰した。ただでさえ切れ味の鋭い氷の花弁。それが無数に降り注いだ。今のシエルには防御できないほどの威力を持った術式。

「シエル!!」

シェフィリスがカノンの遺体を転移門付近に横たえさせ、シエルへと駆け寄る。そして見た。すでにその命を奪い取られたシエルの姿を。

――アンスール拳帝シエル・セインテスト・アースガルド。戦死。

「・・・・・・・」

シェフィリスの泣き叫ぶその姿を空から見た過去ルシリオン。実妹の死を知った。唯一血の繋がった最後の家族を喪った。しかし、過去ルシリオンとシェフィリスに悲しむ時間を与えない“エグリゴリ”。すぐさまシェフィリスに襲いかかるグランフェリアとレーゼフェア。過去ルシリオンにもガーデンベルグ達が襲撃を再開する。

「シエル・・・。カノン・・・。くそっ・・・! 逃げるぞ、シェフィ!!」

過去ルシリオンは、凍結したノルニル・システムの再起動を決定した。それは“ヴァルキリー”を再度戦腺に復帰させるということだ。残り7体の“エグリゴリ”。数では圧倒的に勝ることになるため、短期決戦が可能と判断した結果だ。両腕両足、背の翼の紅蓮の炎を爆散させ、“エグリゴリ”の目晦ましにした。

――瞬神の飛翔(コード・ヘルモーズ)――

空戦形態へと戻り、シェフィリスへと最接近。

「ダメ! ルシ――」

シェフィリスが過去ルシリオンの背後を見て叫ぼうとする。その様子に、過去ルシリオンが振り向こうとした瞬間・・・

――真技・戦嵐舞刃・零――

シュヴァリエルの魔力光であるハンターグリーンの竜巻を纏った“メネス”が、過去ルシリオンを襲う。回避すればシェフィリスに直撃・・・はせずとも相応のダメージは確実。

――女神の聖楯(コード・リン)――

そう判断した過去ルシリオンは、女神が祈る姿が描かれた蒼い円盾を展開。真っ向からの防御ではなく、“メネス”を逸らせるように展開させた。衝突する大剣と円盾。過去ルシリオンの狙い通りに逸らすことに成功したが、それによって動きを止めてしまった過去ルシリオンへと迫る第二波。

――瞬神の風矢(ソニック・エア)――

フィヨルツェンの魔術が真横から襲い掛かってきた。その直撃を受け、吹き飛ばされた過去ルシリオン。

「ルシ――ぁ・・・!?」

シェフィリスの胸から生える真紅の大剣の刃。彼女の背後に、魔造兵装第2位の魔剣・“呪神剣ユルソーン”を手にしたガーデンベルグが立っていた。

「シェフィーーーーーッ!!!」

戦闘甲冑の上半身部分は吹き飛ばされ、所々に裂傷を負った過去ルシリオンがガーデンベルグに貫かれたシェフィリスを見て叫ぶ。“ユルソーン”を抜かれ、力なく崩れ落ちそうになるシェフィリスを抱きしめる過去ルシリオン。

「シェフィ! シェフィ! ダメだ、目を開けてくれ! 死ぬな! 私一人を置いて逝かないでくれ!」

――女神の祝福(コード・エイル)――

過去ルシリオンの有する最高の治癒魔術コード・エイルがシェフィリスに掛けられる。死人でなければ確実に治癒することが出来る最高クラスの術式。

「何故だ!? 何故傷口が閉じない!! どうしてだ!!」

無限の呪いを宿す魔剣、“ユルソーン”の能力。この剣によって傷つけられた者には、ランダムでいくつかの呪いを掛けられる。シェフィリスに掛けられた呪い。それは絶対死。少しの猶予時間の果て、絶対に死ぬというものだった。“ユルソーン”の能力は、過去ルシリオンも知っている。元は彼の複製神器だからだ。だが、今の錯乱状態の彼には関係のないものだった。

「ルシ・・・ル・・・。生きて・・・。ルシ・・・だけで・・・も・・・。それ・・・と、お願い・・・。哀れな・・・あの子たち・・・を、見捨て・・・ないで・・・あげて・・・」

「シェフィ! もう喋るな! 安心しろ、必ず助かるからな! もう少しだ! もう少しで治るからな! もう少しだ! だから、シェフィ・・・!」

死ぬな!と泣き叫び続ける過去ルシリオンに、シェフィリスは最後に綺麗な笑みを見せて「大好き」と告げ、死んだ。

――アンスール蒼雪姫シェフィリス・クレスケンス・ニヴルヘイム。戦死。

シェフィリスの胸に顔を埋め、ただひたすら泣き続ける過去ルシリオン。そんな彼の状況を無視して、“エグリゴリ”達が動き出す。

「第一級神罰執行権限、解凍。孤人戦争形態・・・顕現・・・!」

過去ルシリオンの魔力炉(システム)が全力稼働。“孤人戦争形態”。
首のチョーカーに付いていた白の南京錠が砕け散る。それと同時に起こった吹き荒れる魔力流によって、迫ってきた“エグリゴリ”が吹き飛ばされる。そしてシエル、シェフィリス、カノンの遺体が消える。過去ルシリオンによって遺体が封印され、創世結界・“英雄の居館ヴァルハラ”に取り込まれたのだ。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

吼える。過去ルシリオンの蒼翼が消滅し、代わりに幾何学模様の歯車が6つ、十字架を形作るように展開される。その八方から同様の幾何学模様で構成された全長5mはある蒼の大剣が伸びる。戦闘甲冑もまた変わる。吹き飛んでいた上半身部分が修復され、その色が黒から白へと変更された。
機動力を完全に捨て、その分の魔力を全て攻撃力に回した戦闘形態である“孤人戦争形態”。過去ルシリオンの絶対の切り札にして最奥の術式。一度使用すれば、数年は魔力行使が一切出来なくなるという代償を抱えたもの。

「キエロォォォーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

8本の大剣の剣先から強大な砲撃が放たれる。体勢を立て直した“エグリゴリ”はそれを回避し、孤人戦争ルシリオンへと迫る。しかし砲撃による弾幕が“エグリゴリ”の行動を封じる。これで過去ルシリオンの勝利かと思われた。が、過去ルシリオンの最大のミスのツケが彼を襲う。

“界律”の制限から逸脱した魔力行使。
魔力の消費が他と比べるまでも無く激しい“孤人戦争形態”。
機動力を捨てたことによる戦術の激減。
“孤人戦争形態”発動タイミングの間違い。本来は、超長距離からの砲撃戦を主とする形態。それを敵のど真ん中で発動した。一撃で終わらなければ、ただの的である。
最愛の家族と恋人を失ったことによる精神錯乱。

「ごふっ? がはっ、げほ、げほっ・・・!」

それらが彼の敵となり、ついに“孤人戦争形態”の維持が出来なくなり強制解除、果てに“エグリゴリ”の攻撃を受けた。無数の蒼い羽根が舞う中、過去ルシリオンは自分を呪った。もう少しでシェフィリスとの約束を果たすことなく死ぬところだったと。

「死ね・・・ない、死ぬわけには・・・いかない・・・!」

過去ルシリオンは、アースガルドへと撤退するために残り少ない魔力で蒼翼アンピエルを展開する。目指すはビフレストへと続く転移門。もちろん黙って逃がす“エグリゴリ”ではない。

空を翔る過去ルシリオンに追い縋りながら攻撃を放ち続ける“エグリゴリ”。過去ルシリオンは、“エグリゴリ”の攻撃を回避しながら転移門へと翔る。徐々に増えていく“エグリゴリ”の攻撃によるダメージ。“界律”からのペナルティによるダメージ。それらが過去ルシリオンの意識を揺るがす。そして、背後から迫るバンヘルドの投擲した神器・“炎填槌ケンテュール”に気付くのが遅れた。

女神の護盾(コード・リン)・・・!」

回避では間に合わないと刹那に判断し、魔力障壁を張った。衝突。“ケンテュール”が内部で生成する炎が大爆発を起こす。障壁が一瞬で砕かれ、炎に包まれながら吹き飛ばされる。地面への墜落をなんとか耐えたものの、錐揉み状態のままで体勢が整えられない。尚も治まらない爆炎と黒煙の中から飛び出してきたガーデンベルグが姿を現す。突き出すように構えた“ユルソーン”が迫る。しかし過去ルシリオンは未だに体勢が整えられない。そして・・・

「ぁ・・・がっ・・・・ッ!」

“ユルソーン”が過去ルシリオンの腹部を貫いた。それと同時に掛けられる不死と不治の呪い。そして勢いよく“ユルソーン”が抜かれた彼は大きく飛ばされ、数mと離れた地面にドサッと落ち、力なく倒れ伏す。

「・・・ごめ・・・ん・・・。シェ・・・フィ・・・。約束・・・・守れ・・・なか・・・た・・・」

――光神の調停(コード・バルドル)――

意識が落ち始める前に過去ルシリオンは最後の力を振り絞って魔術を発動させる。全方位無差別砲撃の大魔術。それで“エグリゴリ”を滅ぼそうと彼は考えた。そして放たれる蒼の砲撃。全てを飲み込まんと光が蹂躙する光景。なのは達の視界が光に包まれる。

『これが、私の終わりだ。この後、私はシャルと同じように界律の守護神(テスタメント)となった』

ルシリオンとシャルロッテの人生を見、なのは達の頬はずっと涙で濡れていた。
 
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