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永遠の謎

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30部分:第二話 貴き殿堂よその八


第二話 貴き殿堂よその八

「実にな」
「そしてそれによってですか」
「誤解され、そしてそのことによってだ」
「そのことによって」
「傷つかれるだろう。それはあの方をさらに孤独にしてしまう」
「さらなる孤独に」
「繊細な方だ」
 太子のことも見抜いていた。ビスマルクの目は確かなものであった。
「非常にだ」
「それがあの方の問題だと」
「そうなってしまう。それが心配だ」
「心配だと仰いましたが」
「そうだ、心配だ」
 また言うビスマルクだった。
「実にな」
「バイエルンの方であっても」
「確かにだ」
 ビスマルクは一言置いてだった。さらに話す。
「私はプロイセンの者だ」
「はい」
 執事は主のその言葉に頷く。
「それは確かに」
「否定することはできない」
 決してだというのである。
「それにだ。私はプロテスタントだ」
「それに対してあの方は」
「カトリックだ」
 この対立はルターの時代から変わらない。三十年戦争の時の様に戦争にはなりはしない。しかしそれでも対立は続いているのである。
「本質的に対立してしまうことになる」
「それでもですか」
「そうだ、プロイセンによるドイツ統一への障害は」
 そのことは常に念頭に置いている。ビスマルクの国家戦略に置いて対立と戦争は常にあるものだ。それを乗り越えてこそなのである。
「オーストリア、そして」
「フランスですね」
「どちらも必ず倒す」
 これを言うのだった。
「しかし私の好きな酒は」
「シャンパンです」
「フランスのものだな」
「はい、その通りです」
「しかしそれでもだ」
「シャンパンを愛されますか」
「私はそこまで偏狭ではないつもりだ。よいものはよいのだ」
 そしてだ。こうも話すビスマルクだった。
「例え敵のものであろうともな」
「そして対立されている方でもですか」
「あの方はドイツに入られるべき方だ」
 これも話す。
「必ずだ」
「閣下の目指されるドイツの中に」
「対立していようがそれでもだ」
「ドイツの中に」
「そうだ、入るべき方だ」
 そうだというのである。そしてであった。
 ビスマルクは太子を思い出していた。その際立った美貌と気品をだ。すると自然に残念に思って言うのだった。まさに自然とだった
「私はできるだけ」
「あの方をですか」
「力になりたい。ドイツにとってかけがえのない方になられる」 
 こう話してだった。
「これからのドイツにもな」
「そうなられますか」
「そうだ、なられる」
 まt言うのだった。
「だが今はだ」
「わかる者は少ない」
「わかる者で助けていくしかない」
 ビスマルクの誓いだった。彼は決意したのだった。
 これが太子とビスマルクの出会いであった。彼等の出会いはこれが最初であり最後であった。だがその出会いは彼等にとって運命のものだった。
 
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