永遠の謎
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298部分:第二十話 太陽に栄えあれその十
第二十話 太陽に栄えあれその十
では何なのか。ビスマルクにはわかっていた。
「本質的に正常なのだ」
「女性が男性を愛するのはですか」
「それは自然だから」
「それでなのですか」
「あの方は同性愛者でもない」
「そうなるのですね」
「そうだ。あの方が女性ならばだ」
全てはそこからはじまるのだった。王が女性ならばだ。
「男性を愛して当然なのだ」
「では今回のご成婚は」
「一体どうなるでしょうか」
「やはり。幸せにはなれないだろう」
ビスマルクの目は遠くを見ていた。
そうしてだ。さらに話すのだった。
「エルザはエルザとは結ばれない」
「ローエングリンとのみ」
「だからですか」
「あの方は幸せにはなれませんか」
「あの方御自身もわかっておられない」
王自身もだというのだ。その結婚のこと、そして王が女性であるということもだ。わかっていない、ビスマルクはその遠い目で話すのだった。
「あの方はおそらくは」
「おそらく?」
「おそらくといいますと」
「その御相手に御自身を投影しておられるのだ」
ビスマルクの慧眼がここでまた働いた。
「他ならぬだ」
「陛下御自身を」
「そうなのですか」
「あの方は決してヘルデンテノールではないのだ」
ワーグナーのだ。その主人公達ではないというのだ。
「むしろそのヘルデンテノールを愛するヒロインなのだからな」
「ヘルデンテノールが伴侶ならば」
「それならばよかったのですね」
「つまりは」
「そうなのだ。ヘルデンテノール、それが伴侶ならば」
つまり男である。
「彼等のうちの誰か、いや」
「いや?」
「いやといいますと?」
「彼だな」
複数からだ。一人に戻したのだった。
「彼だ」
「ヘルデンテノール達ではないのですか」
「彼等ではなく彼ですか」
「それぞれの作品に出ているがその人格は同じなのだ」
ワーグナーの作品に出ているヘルデンテノール達はだ。そうだというのだ。
「タンホイザーもローエングリンもだ」
「そしてトリスタンもですね」
「ヴァルターにしてもジークフリートにしても」
「無論ジークムントもだ」
つまりだ。全てのヘルデンテノールがだ。同じだというのだ。
「そうなのだ。あの方はそのヘルデンテノールを一途に想われている」
「そのヘルデンテノールが現実にいれば」
「それならばよかったのですね」
「そして伴侶であれば」
「あの方にとっては」
「そうであればよかった。あの方にとっても」
ビスマルクの目がまた変わった。
今度は悲しみを帯びていた。厳しいと言われている彼がだ。
「まことに残念なことだ」
「そういえばですが」
ここで側近の一人がこんなことを言ってきた。
「閣下はバイエルン王のことをお好きなのですね」
「好きだ」
嫌いではないとさえ言わなかった。
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