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永遠の謎

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281部分:第十九話 ヴェーヌス賛歌その八


第十九話 ヴェーヌス賛歌その八

 それを話してだった。王はさらに遠い目になるのだった。
「それは血脈故にだ」
「王家であるということの」
「私はそのヴィッテルスバッハ家の血脈によりだ」
「王になられていますね」
「その私が」
 王がだというのだ。
「后を迎えず。子をもうけないのはだ」
「誤りだと」
「何度も言うがわかっているのだ」
 それはどうしてもだというのだ。王ならばだ。
「だが。私はどうしてもだ」
「御后を迎えられることも」
「子ももうけることもだ。どちらもだ」
「考えられませんか」
「現実のものとは思えない」
 王にとってはである。
「とてもな」
「しかしそれが現実のものになります」
 ホルニヒは現実から話すのだった。
「陛下はバイエルン王なのですから」
「だからだな」
「まずは旅を終えられたらです」
 そこからだというのだ。旅の終わりは物語の終わりではなく新たな話のはじまりだというのだ。ホルニヒはこう王に話すのである。
「そのことのお話になるでしょうか」
「后のか」
「そうです。そろそろかと」
「そうなのか」
「戦争も終わりました」
 オーストリアとプロイセンの戦争、それがだというのだ。
「今は落ち着いていますし」
「后を迎えるにはいい時期だからか」
「そういう事情もありますし」
「私は后を迎える」
「そうなるでしょうか」
「慶賀だな」
 王の今の言葉は第三者のものだった。
「まさにだな」
「その通りです。それはです」
「慶賀と言う他ないものだ」
 また第三者として話す王だった。
「バイエルンにとっても私にとっても」
「では是非共」
「しかし私はどうしても女性は」
 どうかというのだ。王の言葉は変わらない。
「愛せないのだ」
「ですからそれもまた」
「変わるのは。むしろ私には」
「陛下には」
「私にとって女性を愛することは不自然なのか」
 そうではないかとだ。自問しながらの言葉だった。
「そうなのだろうか」
「陛下は男性ですか」
「そうだ。男が女を愛するのは自然なのだ」
 この摂理もまた話される。
「そして女が男を愛するのもだ」
「それもまた、ですね」
「私は。あの騎士に出会ってから彼を見てきた」
 瞼にあの白銀の騎士、白鳥に曳かれて小舟に乗りやって来る騎士が思い浮かぶ。またしてもだった。
「そして愛している」
「今もですね」
「しかしそれは普通ではないのか」
 王は言う。
「エルザの目から彼を見るのは」
「ハインリヒ王の目で見ておられるのではないのですか?」
「あの王か」
 そのオペラに出ているだ。ドイツ王だ。そう、王なのだ。
「そうではないのですか」
「それが自然だな」
 王はホルニヒに話した。
「その通りだな」
「はい、そうではないのですか」
「私はハインリヒ王に扮する」
 そうして遊ぶこともだ。王の趣味になっているのだ。歌劇の人物に扮するものだ。だからホルニヒは王はその立場から騎士を見ていると考えたのだ。
 
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