ハイスコアガール 前世がゲームオタクの俺がラブコメを展開するのは間違っている件
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感謝で昇竜拳!
「聞いたわよハルオ。大野さん転校するのよね」
「ああ」
「ハルオが初めて家に招待した可愛い女の子だったのに残念だわ。このまま恋人になるのかと」
「何でそうなるんだよ」
大野が転校する。この話を聞いたのは夏休みが終わった直後の二学期初日からクラスメートから聞いた話だ。何でも両親の仕事の都合でアメリカのロサンゼルスに引っ越すのだそうだ。突然の事ではなく、だいぶ前から決まっていた事らしい。夏休みが終わりが近くなるにつれて元気がない理由はこれだったのか?それとも知らない異国の地に引っ越すのが嫌だったのか?
まあ、アメリカに引っ越しする事で元気がなくなったのか本当の事はわからん。だって大野は基本的に喋らないし考える事もアイツの感情表現を見て理解するしかないし。言いたいことは大隊は理解できるが細かい事まではわからん。
つーか何でアイツは俺に何も言わなかったんだ。引っ越しの事なんてクラスメートが言わなきゃ何も分からなかったのに、どうしてアイツは……なに考えてんだよ。基本的に俺は誰にも縛られないで好きな時にゲームをやっていたゲーマーじゃないか。アイツが居なくなったって別に前のように一人でゲーセンで遊んで、家でPCエンジンやファミコンをプレイする毎日に戻るだけだ。
そもそも今までの状況が不自然だったんだよ。俺と違って親の期待に答えようと努力して、親の期待のプレッシャーに押しつぶされずに結果を出していた大野と、勉強をサボってゲームを好きなだけ毎日やって親に怒られない程度に成績を残せば良いと妥協して、世間から見て屑のような人生を送っていた俺とアイツが関わった事が奇跡の偶然でしかない。
「もう寝るよおふくろ」
「珍しいわね。何時もなら眠気を押し殺してもゲームをやるハルオが」
「そんな気分の時もある」
「そう……あ、早く寝るのはいいけどちゃんと宿題をやんなきゃダメよ」
流石は俺のおふくろ。俺の宿題がある事はわかってたか……。
ーーー。
今日の俺は不思議な夢を見ていた。ゲーセンで一人でスト2をプレイしていた夢を見ている時だ……。
『ハルオ……ハルオ。お前はこのままでいいのか?』
何でガイルが俺の目の前に現れた……俺、疲れてんのかな?
『そうだ。まだ、お前と彼女との戦いは終わっていない』
リュウまで……何だろう。本当に俺は疲れてるんのか?
『目をそらすな、逃げるなハルオ。どんな時でも自分の気持ちに正直に向き合っていた気持ちを忘れたのか?』
『その通りだ。ハルオ。彼女の前で素直なお前の気持ちをぶつけるんだ』
リュウ、ガイル……。彼女って大野の事かよ。俺は別に大野とはただのゲームで繋がったただの知り合いだ。これといって特別な関係じゃない。
『波動拳!』
『ソニックブーム!』
うお、いきなり弾をぶっ放すな!!
『嘘をつくな。このまま彼女に本音を言わなければ後悔するぞ』
『素直になれハルオ』
俺にどうしろってんだよ……俺は前世でも今でも女と殆ど無縁な人生を送って来たんだ。女の気持ちなんて分からないし、女が好きなもの知らない。
そんな女と無縁な生活を送ってた時にアイツが現れた。初めは女にしては格ゲーが上手いとしか思っていなかった。家庭用ゲーム機を買って貰えないアイツを憐れんで、俺の家で一緒に遊んだ。それから今までにない遊んで楽しい気持ちがあった。
『ならば、その気持ちを彼女にぶつけろ。』
ガイル……それでいいのか。俺なんてゲームだけでしかアイツと語れない。
『待ってるだけじゃ勝てないぜ!』
『うぬの実力はその程度か?』
『もう、くよくよしてはいられないわ』
『ウオ!ウオ!』
『イッツミーマ~リオ!!』
『ウホ~!!』
みんな俺は……俺は!!
ーーー。
昨日は本当に不思議な夢を見た。最初はガイルとリュウが現れて俺に説教して、そうかと思えばケン、豪鬼、春麗も出て。次にマリオやドンキーコング。ゲームの脳もここまで来ると自分でも呆れるしかないな本当に……でも、自分の素直な気持ちを大野にぶつけろか。
そもそもアイツが何をプレゼントして喜ぶのかわからん。大野がゲーム好きなこと以外は基本的に俺は知らないし。
「大野。明日の夕方にはアメリカに行くんだよな」
「……」
「日本と違ってアメリカは治安が悪いらしいじゃねえか。日本と同じように目を盗んで気兼ねなくゲーセンにいけなくなるかもな」
行きつけのゲーセンに何時ものように大野とスト2とファイナルファイトをプレイする俺。だけど、そこから話が続かねえ。昨日の夢が原因で、何故か大野を変に意識してしまう。どうしたらいいんだ?
『ソニック一発いくか?』
『それとも俺の波動拳をくらうか?』
と、ガイルとリュウが言っている気がする……気のせいだよな?
あ~本当に俺は気の利いたキザったらしいセリフの一つでも思い浮かべよ。無理だよな。普段から女っ気のないゲーマーの俺が、気の利いたセリフを言えるわけがねえよな。
「大野。俺はゲーマーだ。女性に対して気の利いた事も言えない。女性が喜びそうな物を渡せる自信はない。明日のお別れ会の時に渡そうと思ったけど、渡したら先生に怒られるからいま渡す。気に入らなかったら捨てても良いし、アメリカで売ってもいい。俺がお前に渡せるのはこいつしか思いつかなかった」
俺が大野に渡したのはゲームボーイと、ソフトはスーパーマリオランド、テトリス、スペースインベーダーと定番のゲームを筆頭に俺の持ってるソフトを全て渡した。
「性能的には携帯ゲームは、家庭用ゲーム機に劣るけどよ。それでもゲームボーイはゲームボーイの面白さがあるんだぜ。」
大野は突然に渡されたゲームボーイに驚きが隠せない。貰っていいのか戸惑いが隠せないが、確かに携帯ゲームが出来ないと俺も苦しいけどよ。俺が今のところ、大野が喜びそうと思う物はこれしか思いつかない。
「俺の予想だとゲーム業界はどんどん進化する。一年で今出てるゲーム機が旧式になるくらいに凄いスピードで進化する。お前に渡したゲームなんて目じゃない新作がゴロゴロと……」
そうじゃねえだろ言えよ本音よ。どうして俺はいつも……俺は
「家の教育が厳しくて嫌になったらゲームボーイをプレイしな。流石に俺もアメリカに行くことが出来ねえ。気休めにしかならないけど、それで我慢してくれ……もう少し気の利いたセリフでも言えればいいけど、俺はこれしか言えない。ごめん」
するといきなり大野が俺に抱き着いた。
「お、大野!?」
俺も突然の事態に困惑する。大野がこんな行動する事は今までなくて俺は驚きが隠せなかった。
「うあああああ!!」
「……大野」
そして泣き出した。大野が感情むき出して泣き出したからゲーセンの客の目が厳しくなった。俺は直ぐ様に大野を連れて外にでた。大野が泣き止むまで大野は俺に抱き着いたままだ。途中でおばさんの温かい目と、俺より年上くらいの男達からの殺気に満ちた視線を食らって死にそうなくらいに恥ずかしかった。
しばらくして大野は泣き止み。現在の状況を思い出したようで、大野にしては珍しく感情を露にして顔を真っ赤にして恥ずかしそうな表情だった。その表情に思わず俺は可愛いと思ってしまったが、流石にからかう空気でもないので何も言わない。
「大野。もしだ……もし日本に帰って来ることがあったらまたゲーセン巡りしようぜ。お前がアメリカにいる間に新たな穴場ゲーセンを見つけてやる。新たな家庭用ゲームを揃えてまた一緒にプレイしよう。」
「……(うん)」
「短い間だけど、お前と一緒に遊べて楽しかったよ」
そしたらまた大野は俺に抱き着いた。今度は泣いていない。笑顔の表情だ。
こういう時はどうしたらいいか俺は分からなかった。だって俺は前世から女と一緒にこんな場面を経験した事なんてなかった。だからこういった時の対処法なぞわかるわけもなく、大野が満足するまでか……それとも、ダメだわからん。何で俺がラブコメみたいな展開になってんだ。
つうか間違ってるだろ。俺みたいなゲーマーがこんな状況になる事態。
ーーー。
そして翌日。授業が終わった後に大野とのお別れ会が始まった。紙芝居や簡単なパーティーや歌。最後に贈り物を渡そうとしたけど、俺は昨日のうちにゲームボーイを渡した為に送るものがなかった。先生にはどうしたと言われたが俺は「忘れた」との一言でクラス全体から大ブーイングを貰った。だけど大野が俺をかばってくれたお陰でつるし上げはなくなった。そのせいで男子達からの嫉妬の視線を思いっきり浴びて生きた心地はしなかったが……。
そしてお別れ会も終わって大野はリムジンに乗って学校を去った。そのとき大野と目があって大野がほほ笑んだように見えた。
リムジンが去ると思うと本当に大野は転校したんだなと理解した。
(いつかは分からねえけど、再開する時に恥ずかしくないくらいに格ゲーの腕を上げとかねえとな)
『その意気だハルオ』
『戦いの中に答えはある』
と、ガイルとリュウがそう言ったように思えた。
しばらくのお別れだ。あばよ大野。
後書き
簡素ゲーム用語
ゲームボーイ 任天堂初の携帯ゲーム機ゲーム&ウオッチの次世代機として開発された任天堂の携帯ゲーム機。当初は当時すでに発売されていた他製品の高画質のゲーム機メガドライブやPCエンジン相手に、モノクロのゲームボーイが対抗できるのか疑問視されていたが、キラーソフトに恵まれて、400万本を超える売上を記録した。
スーパーマリオランド ゲームボーイ用に発売されたマリオシリーズ。ゲームボーイソフトとしての売上はNO2であり、テトリスとならぶキラーソフトの一つ。後に6つの金貨、ワリオランドと続編も販売される。
テトリス ソ連で開発されたパズルゲームであり、後に任天堂がライセンスを取得してゲームボーイに移植したゲームで、ゲームボーイソフトとしてはNO1の売り上げを誇る。国内外問わずに色々なゲーム機に移植されて、現在でも新作が出るほどに人気ゲームタイトルの一つである。
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