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銀河英雄伝説 アンドロイド達が見た魔術師

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追憶 人間否定

 
前書き
このあたりの思想がこの小説を止めている理由の一つだったり 

 
 ガイエスブルク要塞。
 貴族連合軍の本拠地として帝国貴族が集まっていたそこは見るも無残な姿に成り果てていた。
 ヴェスターラントの核攻撃で完全に人心が離れてしまい、貴族たちは自殺するか逃亡するか彼らにとって虫けらだった臣民出身の兵に殺されるかのどれかを選択させられていたのである。
 もっとも、そのどれも選ばない貴族も居たりしていたのだが。

「お父様。
 要塞のシステム、掌握いたしました」

「艦隊の方は?」

「将兵の逃げ出した船を中心に二万隻ほど確保を。
 待機させていた一万隻を合わせればもう一戦はできるでしょう」

「よろしい。
 じゃあ、金髪の小僧に人の悪意というものを教えに行こうか」

 帝国軍の軍服を着た彼は門閥貴族ながら『人形狂い』として名をはせていた。
 人形。
 帝国では忌み嫌われるアンドロイドやドロイドに狂った彼は、門閥貴族として当然のように貴族連合軍に参加して自前の艦隊と共にここに残っていた。
 そんな彼は秩序が急激に崩壊するガイエスブルク要塞の司令室を目指して歩く。
 控えているアンドロイドとドロイドは武装をして彼の主人を守っているが、もはや誰も彼を制止しようとはしていなかった。
 司令室制圧も思いの外あっさりと行われた。
 サブ司令室を含めた指揮系統の全てを掌握した彼は、その豪華に椅子に座って敵対する金髪の小僧への通信を求める。
 彼はあっさりとモニターの前に姿を表した。
 彼にとって、もう勝負はついたと思っているのだろう。
 降伏でも言うのかと金髪の目が驚愕に開くまで、少しの会話を要した。

「見ての通り、要塞と残存艦隊を掌握した。
 他所は知らんが、俺はまだ徹底抗戦を宣言する」

「……貴殿ほどの男がこの状況が分からぬとは思えぬが。
 今、降伏すれば、寛大な処置を約束しよう」

「甘いな。ラインハルト。
 いや、策を考え出した参謀長の方に言うべきかな。
 貴殿は、人の悪意というものをもっと考えるべきだった」

 前世において確信している事を人形狂いは言う。
 それは、少なくとも彼の人間感の発露でもあった。


「核を一惑星撃ったからこうなった。
 じゃあ、
 複 数 撃 っ た ら そ の 責 任 は 誰 が 取 る の か な ?」


 その端麗が顔が歪むのを合図に、こちらの意図が彼らの艦隊にも伝わる。
 その報告は悲鳴となって帝国に伝わってゆく。

「クラインゲルト近くを通行中の艦船より報告が!
 クラインゲルトで大量の核爆発を見たと!!」

「クロイツナハIIIの通信途絶!
 同じく周辺艦船から核爆発の報告が……ああっ………」

「ダンク・ハーフェン・ブルートフェニッヒ・モールゲン・リューゲン・ラパートにも核爆弾の爆発を確認!
 なんて事だ……」

「……貴様……自分が何をしたのか分かっているのか!!」

 モニター越しの金髪の殺気を人形狂いはさして気にせず、人形狂いは貴族が残した高価なワインをグラスに注ぐ。
 その視線はすでに金髪を見ていない。

「『君主は愛されるより恐れられる方がいい』。
 士官学校の初歩で習うことを忘れたのかね?
 そう言えば、貴殿は幼年学校からすぐに戦場に出たのか。
 失敬。失敬」

 ワインを口に含み、その味を味わう。
 それでも口調に何もブレがない事がかえってその異質性をむき出しにさせた。

「見ての通り、核ミサイルによる惑星浄土化は少艦艇で簡単に行える。
 今や、帝国の支配者となった君だ。
 このミサイルを防げなかった責任は君の方にある」

「黙れ!」

「黙ってもいいが、そもそもここに居ていいのかね?
 私が帝星オーディンを狙わないとなぜ言えるのかな?」

「待ってろ。殺してやる」

 モニターから殺意漂う金髪の顔が消え、控えていたアンドロイドが第二次核攻撃の結果を報告する。

「攻撃に成功したのは35惑星および人工惑星。
 被害人員は一億を越えるぐらいでしょうか」

「無人核攻撃船団に指令。
 そのまま第三次核攻撃に移れ。
 目標は帝国中枢部。
 帝都オーディンだ」

「了解しました。
 要塞前面の敵艦隊が進撃してきておりますが?」

「なりふりかまっていられなくなったな。
 無人艦隊に連絡。
 作戦通りに」

「はい。
 お父様」

 要塞正面に艦隊を配備し、さらに左右から伏せていた無人艦隊を突っ込ませる。
 ごく普通の戦術で、殺到するミッターマイヤー・ロイエンタールの両艦隊にとっては捌くのは難しくないはずだった。
 乗っているのが人間ならば。

「宇宙ってのは慣性の法則に従って加速すれば加速するほど抵抗もなく高速で突っ走れる。
 物理ってのは最強の兵器だねぇ」

 無人艦隊は星系外縁部からフル加速して両艦隊に突っ込んでゆく。
 ビームもミサイルも撃たずに、エネルギーシールドを全開にして一万隻の統率のとれた艦艇が突っ込んでくる意味をこの両提督が気づいて回避するがそれは少し遅かった。

「衝突確認しました。
 一万隻中途中破壊されたのは四割。
 残り約六千隻が両艦隊に突っ込んで敵艦相手に衝突した計算になります。
 両艦隊混乱中」

「要塞主砲発射準備。
 目標。
 敵艦隊主力」

「了解しました。
 主砲目標、敵艦隊主力。
 発射!」

 かつて第五次イゼルローン要塞戦で敵味方をドン引きさせた主砲発射がまた行われ、ラインハルト艦隊主力とそれと交戦していた無人艦隊を巻き込んで数百隻が宇宙の塵と化す。
 だが、動揺するラインハルト艦隊と違って、人形狂いの無人艦隊は空いた穴を平然と塞いで防戦を続けている。

「人が乗っていれば、そりゃ動揺するよな。
 だから、全部人を乗せないという方向に、この国はついに行かなかったなぁ」

 人形狂いはモニター向こうの命の消える灯りを眺めながら、淡々とつぶやく。
 彼の趣味と生まれた国の国是が致命的に合わなかった。
 つまり、それだけのこと。


「奴隷として君たちは人より優れている。
 統治者としても君たちは人より優れている。
 つまり、この国には人間なんていらないんだよ」

 
 ただそれだけを証明したくて、彼はラインハルトの誘いを蹴って、貴族連合に身を投じた。
 その顔には満足があった。
 彼からすれば、己の生み出したものが完璧と言えるだろう主人公に対して深い一撃を食らわせた。
 それはオリ主である彼にしてみればこれ以上無い満足であった。

「じゃあ、そろそろ行くか。
 艦隊母艦の準備は?」

「すでに出港準備は整っております。
 司令室から港までの通路も確保済みです」 

 艦隊母艦はコロニー船としても機能できる。
 会戦が混乱と混沌に満ちている今だからこそ、安全に逃げ出せるだろう。
 何処に逃げるのか?
 まだ見ぬ新天地へ。
 ハイネセンという先駆者にできた事だ。
 彼にできない事は無いだろう。



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「お父様。
 …………起きてください。
 お父様!」

 人形師は目を開けると、緑髪の副官が起こった顔をして時計を指差していた。
 彼女の軍服は自由惑星同盟のものである。

「おはよう。
 状況をおしえてくれないか?」

「ここは艦隊旗艦ジャガーノートのお父様の私室。
 今日はイゼルローン要塞破壊作戦の開始日です。
 小惑星にワープエンジンをとりつけて、イゼルローン回廊に向かわせる所です。
 作業の進捗状況の報告が、ベルティーニ・コープ提督より届いていますがお読みになりますか?」

「ああ。
 それと紅茶を頼む。
 ミルクティーを」

「はい」

 緑髪の副官が部屋から出ていった時、彼はぽつりと呟いた。

「夢か。
 いや、こっちでもやっている事は変わらんか。
 けど、一撃……」

 そこで彼はモニターを見る。
 彼が率いる艦隊は旧式艦を中心に定数一万二千隻を満たしているが、その八割以上がアンドとロイドとドロイドを乗せた無人艦という編成だった。

「……どんな悪名を受けようとも、あの完全無欠な英雄に一撃を食らわせたかったなぁ……」



 イゼルローン要塞破壊作戦は、小惑星を破壊しようとする帝国軍艦隊とそれを阻止する同盟軍護衛艦隊の間で交戦が発生したが、アンドロイドとトロイドだけを乗せた無人艦の自爆体当たり戦術で帝国艦隊の士気が崩壊。
 小惑星が建造途中のイゼルローン要塞に突っ込んで爆発四散した時、人形師の艦隊の七割が撃沈されていたが、通常艦隊なら百万人は出る犠牲者数が十万人を切っており、国防委員会はこれを偉大な勝利と見るか愚挙と見るかで揉めに揉めた。
 その査問委員会の席で人形師はこう言ってのけたのである。

「お喜びください。委員長閣下。
 この結果は以下のことを示しています。
 つまり、艦艇建造能力とそれを維持する経済力を同盟が帝国以上に持ち続ける事ができるならば、我々は帝国との戦争において勝利する事ができるという事を」 
 

 
後書き
緑髪の副官 「フェザーン核攻撃して百億皆殺しにして同盟の数十年の平和を買いましょうよ♪」
ヤン      「却下」

基本このあたりの反応がわからないからこの話はここでエタらせている。
反応を見たくて夢オチ形式で世に出してみる。 
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