永遠の謎
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255部分:第十八話 遠く過ぎ去った過去その五
第十八話 遠く過ぎ去った過去その五
「是非な」
「自然の中に」
そんな話をしてだ。ベルサイユの中を歩いていく。そして。
ルイ十四世、その太陽王の部屋にも来た。やはり王の部屋だけはある。そこもまた豪奢を極めていた。そして芸術もあった。
その芸術の中でだ。王はまたホルニヒに話した。
「ルイ十四世は芸術を好んでいたが」
「それだけではなかったと」
「美食家でもあった」
そして大食でも知られていた。それがルイ十四世だったのだ。
「私も美食は好きだ。だが」
「だが?」
「ルイ十四世は女性を愛した」
多くの愛人を持っていたことでも知られている。それは彼の祖父であるアンリ四世もそうだったし曾孫であるルイ十五世もだ。そうだったのだ。
「だが私は」
「女性は愛せないですか」
「愛さないとならないのだろう」
それを考えるとだ。暗鬱になるのだった。
その暗鬱さを見せてだ。王は言葉を続けた。
「私は王なのだから」
「王には后が必要ですね」
「后なき王は身体の半分がないことと同じだ」
俗に言われることだった。そのことは。
「だが。それは」
「それは」
「私にとっては」
こう話すのだった。暗い顔でだ。
「それが正しいのかどうかは」
「わかりませんか」
「自分でもわからないが私は女性を愛せない」
それが何故かは王はわからなかった。そのことはだ。
「愛することができるのは」
「同性ですね」
「私はローエングリンになりたい」
願望だった。それに他ならない。
「しかし私はどういうわけかだ」
「ハインリヒ王にはよくなられますね」
「そうだな。王としてだな」
「はい、そうされていますね」
「しかしハインリヒ王の目では彼を見ていない」
ローエングリンをだというのだ。白銀の騎士をだ。
「エルザの目で見ているのだ」
「エルザのですか」
「どういうことかエルザから見ている」
そうだというのだ。王は自分でそのことはわかっていた。
「彼をだ」
「ローエングリンになられてはどうでしょうか」
「私があの騎士になるのか」
「はい、その服を着られては」
どうかというのである。それがホルニヒの勧めだった。
「そしてローエングリンになられては」
「そうだな。それもいいだろうか」
「そうすればまた何かに気付かれるかも知れません」
「私はあの騎士をずっと見ている」
幼い頃からだ。それからだった。
「そして十六の時にだ」
「あのオペラを御覧になられ」
「信じられないものだった」
そこまでだ。素晴らしかったというのだ。
「その美しい姿を今も覚えている」
「白鳥の騎士の」
「小舟に乗って現れた」
ローエングリンがブラバントに来る場面だ。彼が白鳥の曳く小舟に乗りエルザの前に現れたその場面をだ。王は今でも覚えているのだ。
そしてだ。王はその場面を言うのだった。
「私は。エルザの気持ちがわかる」
「そのオペラの」
「そうだ、よくわかるのだ」
こう言うのである。太陽王の部屋を見ながら。
「彼女の心がだ」
「自分を救いに来た騎士を見たその時の気持ちが」
「救い、そして愛」
言うのはその二つだった。
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