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真ソードアート・オンライン もう一つの英雄譚

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第一部
インテグラル・ファクター編
  世界の終焉


口を歪ませて、確かに奴は言った。
俺に、生死をかけた決闘がしたいのだなと、問いかけた。ああ、全くその通りだ。俺は、茅場晶彦を殺しに来たのだから。

「……そうか」

座ったまま、ヒースクリフは薄く笑う。俺の無言は肯定ととられたらしい。
歯がゆい。自分から、この先の行動を起こせないでいることが、どうにも落ち着かない。
相手はゲームマスターだ。何をしてきても不思議ではない。
なんなら、ここで俺のデータを消してしまう────つまり、俺を殺すことだってできるはずだ。下手に行動を起こし何かまずいことになるくらいなら、相手の出方を待つ方がいいのだろう。けど、正直このままではどういう流れになるか予測ができない。事前に、やらなくてはならないことを決めてきた。保険として打つ手を、決めてきた。それを行うことができる会話をしなければならないというのに。疑問を、残した。相手がどうしてかと気になるはずのことを敢えて俺は言っていない。その質問さえ来れば、後は────

「一つ、尋ねたいのだが」

……来た。

「なんだ?」

「何故、私が茅場晶彦だと?」

絶対にバレてはいけない、自分の正体。それが、何故わかったのか。 疑問に思うのは当然で、だからこそ会話の流れができるように、自分からは言わなかった。

「正直、絶対的な確証があったわけじゃない。けど、先日の俺たちとの試合、キリトの《スターバースト・ストリーム》でのラストの一撃。そして俺の《スプレディング・メテオ》で盾が砕けた後の回避……これらはいくらゲームのシステム上、人間の反応速度を超えられるとは言えあの時の動きは明らかに早すぎる。俺とキリトはそう結論付けた」

「……そうか」

試合後、キリトと二人で話をした。あそこで疑問に思い、仮定を立てた。

「あれで俺の中に『ヒースクリフは茅場晶彦ではないか』っていう仮説ができた。ゲームマスターだって考えれば、エクストラスキルを予測して避けたり、システムをいじってはやく動けてもおかしくない」

ゲームマスターだと考えれば、あの試合で疑問に思ったことはすべて解決できる。
守りが上手くて、速かった。ただ、それだけのこと。しかし、ただそれだけでは済まされないこと。
ここはゲームの中。ただのゲームではない、デスゲーム。ゲーム内の死が現実の死となる世界。
そんなSAOでは、せめてもの配慮なのか、ゲームバランスが重視されている。けして難しすぎないように、やり直しができる前提ではないようなバランスへと調整されている。
だから、あの試合の速さはあってはならなかった。大きなレベル差でもない限り、本来あんな動きにはならないはずだ。
そんなレベル差はないはずで、あんなにはやくなれるスキルなどない。ならば、やはりあってはならない。ここでは、プレイヤーは味方だと断言できないのだから。

「それと、あんたの噂だ。『誰もHPがイエローになったところを見たことがない』ってやつ」

これは、いつだかコハルから聞いたものだった。
聞いた時は、《神聖剣》の能力なのだろうと軽く思っていたが、果たしてそんなことがあり得るか?
ただの1度も、グリーン以外のHPを誰も見たことがないなんてことが、本当に起こりうるのか。
仮定を立ててから出した答えは一つ。

「自分のHPがイエローにならないように、システムの保護をかけてるな?」

これは、一種の賭けだ。
たしかに、自分の中でそう答えを出した。だが、これがただ単に《神聖剣》が強すぎるというものだと、俺の勝機が薄くなる。

「ふむ。まさか見破られるとは……その通り、私のHPはグリーンからは減らないようになっている」

ヒースクリフは自分のシステムウィンドウを操作し始める。
どこかのボタンを押すと、ヒースクリフには《Immortal Object》と表記が現れる。 つまり、破壊不能オブジェクト。一切のダメージを負わない、不死属性。

「君達とのデュエルでは、システムのアシストを使ってしまってね。やはり、あれはやりすぎたか」

言葉とは裏腹にどこか嬉しそうにヒースクリフは語る。ひとまず、最悪の想定である《神聖剣》が強すぎるという線はなくなった。ここまでの話を聞く限り、《神聖剣》は不死属性を隠すために最適だっただけなのだ。まぁ、エクストラスキルであることに変わりはないため、弱いはずはないが。

「俺からも1つ、いいか」

「なんだね?」

「なぜ、この勝負を受け入れた?」

命のやり取りをする前に、少し疑問に思ってしまったことを尋ねた。
やろうと思えば、俺はこのままデータを消すなり強制状態異常なりで簡単に殺すことは可能なはずだ。
だが、ヒースクリフにその節が全く見えない。さらに言うなら、先ほど不死属性を見せた後、それを解除さえしている。
つまり、おそらく。ヒースクリフは、俺と対等な立場で命のやり取りを行おうとしている、ということになる。

「ああなんだ、そんなことか」

ヒースクリフが立ち上がる。システムウィンドウを操作し、その体にはボス攻略の時に見せる《神聖剣》を扱う装備へと姿を変えていた。
通知があった。見れば、それは『完全決着モード』の決闘申請。俺は迷いなくYESを押すと、カウントダウンが始まる。
俺がヒースクリフを────茅場晶彦を見ると薄く笑った。

「私の正体を見抜いたのだ。その報酬は、支払わなければなるまい?」

その一言を言い終えると同時にカウントダウンがゼロとなり、飛び込んで来た。咄嗟に『クラレット』を取ってガードする。これがシステムアシストを解除した本気の茅場晶彦の力か!
その剣のスピードと重さは前回のコロッセオでの戦いとは比べものにならないものだった。

「流石はアヤト君だ。今の奇襲を守りきるとはね」
「スピードもパワーも前回とは桁違いじゃないか。アンタ、どれだけこのゲームをやり込んでたんだ?」
「ふ、このゲームの正式サービスよりも前、いやβテストよりも前の段階で私一人だけでクリア出来るぐらいはやり込んだとも」
「ちっ!廃人が!」

ヒースクリフとの激しい剣戟が続く。

「ふっ残念だが……!」
「……!?」
「これで剣は打ち取った」

ヒースクリフの剣によって俺の剣を弾き飛ばされ、剣は床に刺さる。すかさず《クイックチェンジ》で『ライト・コンダクター』に変更する。

「さて、ウォーミングアップはこれぐらいでいいだろう。君も槍になったしここからが本領発揮だろう?」

そんな事を言ってのけるヒースクリフ。まだまだ余裕かよ……!畜生!
俺は槍を構える。直ぐにでも飛び込めるように。それに今の俺のスピードは通常の三倍の速さだ。某赤い彗星の如きスピードならあいつにだって勝機があるかもしれない。

「確かに君の《無限槍》はキリト君の《二刀流》に匹敵する超攻撃型のユニークスキルだが、絶対の壁である《神聖剣》には届かない」
「因みにだが、あんたが100層のボスだった、なんて落ちはねぇよな?」
「────その通り。私が100層のボス、ヒースクリフだ」

なるほど、俺はラスボスのソロ攻略を行っている真っ最中というわけか。 相性どうこうの話じゃない。レイドボスを単機攻略。馬鹿げた話である。
────けど、その馬鹿げた話を、やらなくてはならない。

「正確には裏ボスと言った方が正しいがね。100層のボスを倒した後に現れる、隠しボスだよ」

攻略組最強のプレイヤーが最強の敵なんて笑えねー。笑えねーけど、やるしかないんだ。攻撃も段々と当たってる。ヒースクリフのHPは初めてイエローゾーンに入っていた。
やれる。このままいけばやれるぞ。

「甘いぞアヤト君。このままいけば倒せるかもというのは甘すぎる。私のHPはイエローに入った。それだけ私もボルテージが上がっていくとも」
「つまりまだまだアンタには上があるって言うのかよ」
「そうだとも」
「くそ!化け物が!」

俺は再び突っ込む。先程までの隙は無くなってより繊細にかつ完全に近づいてやがる。

「ふん!」
「ぐわ!」

俺はヒースクリフに突き飛ばされた。そのまま壁に激突しめり込む。

「これで終わりだ」

ヒースクリフは壁にめり込んだ俺を突き刺そうと走ってくる。まだ、負けられねぇのに……

「諦めちゃうのかよ。アヤト」
「え……?」
「!?君は……」

ヒースクリフの突進は、その場に現れた一人の剣士によって攻撃を逸らされ、俺に当たらずに済んだ。

「お、お前は……」
「まさか、君も現れるとはね。……キリト君」
「俺だけじゃないぜ」
「私たちもいます」
「アヤトの予想通り、団長が茅場晶彦だったんだね」
「アスナ君にコハル君もか」

キリト達はヒースクリフの方を向きながら、

「アヤト。一人でラスボスに挑むなんて水臭いんじゃないか?」
「ええ、私たち友達じゃない!」
「アヤトは言ったよね。私たちは絶対生き残るって。ここでアヤトが死んじゃったら私たちの約束はどうするの!?それに、まだあの時の答えを聞いてない。ここで死ぬのは許さない。絶対に許さないから!!」
「コハル……。キリトにアスナも……そうだよな。ごめん」

助けられ、協力して、ボスを倒す。ああそれはなんて都合のいい展開なのだろう。
けれど、それは許されることではない。

「うっ」
「ぐっ」

コハルとアスナが、その場に縫い付けられるように床に押し付けられる。 ステータスをみれば、二人は麻痺状態が付与されていた。

「いや、驚いた。乱入者がでてくるとは」

やった者など、考えるまでもなく一人だけ。
ゲームマスターは、楽しそうに笑っている。

「邪魔されたことに怒るかと思ったんだがな……」

キリトが自由の利かない体でヒースクリフを見上げながら言う。

「本来ならば、レイド戦となるのだ。数人人が入ったところで、そこまで騒ぐことはしない」

つまり、ボスとして戦うはずだったということだ。 頭の回転が速い三人だ。それだけで、奴が茅場晶彦であること、彼が100層のボスであったことが全員の頭の中で理解した。

「だが、今はそうでないのでね。先程のキリト君は特例とするが、君たちには動けなくなってもらう」

それで麻痺、というわけだ。ひとまず、ただの麻痺で安心だ。それだけなら、このまま死ぬことはない。

「何故俺だけなんだ?」
「簡単なことだ。君たちのコンビネーションは素晴らしかった。アヤト君だけでなく、キリト君。君とも戦いたくなったのだ。ではアヤト君、キリト君。再開といこうか」
「……いいの────」
「────いいのか、などと聞くのは、野暮というものだろう?」
「……そう、だな」

相も変わらず、この男は楽しそうに笑う。
ああ、確かに……野暮だったようだ。 決着は、再開から1分も経たずにつくだろう。俺は……いや、俺たちはこの男を殺すと決意した。こんなデスゲームを作った男だ。こいつを恨んでいる人間など、いくらでもいる。俺たちは、この男を……茅場晶彦を殺す。そしてこのゲームを終わらせる。
けれど、きっと。

「終わりにしようか、この戦いを」

俺たちとヒースクリフは剣と槍を構え直すと、そのまま一直線に突っ込んで行った。


















「ん……んん」
「アヤト、目が覚めたか」
「キリト?ここは……?」

俺は寝てたのか?何で……?
周りを見渡すが、本当に何もない場所だ。ただ、地面と空が広がっているだけ。
そう、勘違いをしていた。

「────っ!?」

振り向くと、そこには巨大な何かが浮かんでいた。いや、俺はあれを知っている。およそ2年前俺はあれを見ている。
あれの……名前は。

「アインクラッド。あれが、今から崩壊する」

突然後ろから声を掛けられ、慌てて振り返り臨戦態勢をとる。そこで、武器の類がないことに気が付いた。
振り返った先には、白衣の男がいた。誰か、などと聞くまでもない。

「茅場……晶彦」
「そうだ」

雑誌で幾度となくみたその姿。デスゲームの元凶。
その男がいて、SAOというデスゲームの舞台であるはずのアインクラッドが崩壊する。

「つまり────俺たちは、勝ったんだな」

何故だか、よく思い出せはしないが。
俺たちは勝つことができたようだ。

「ああ、私は敗北した。幼少期よりとりつかれていた、あの鋼鉄の城へ行けたのだ、悔いはない」
「……今の状況、これはなんだ?」

俺たちの勝利。なら、茅場晶彦は死んでいる。なのになぜ俺たちも一緒にいるのか。
もしかしたら、俺たちの勝利ではなく相打ちだったのではないか。
俺の不安を読み取ったのか、茅場は「安心したまえ」と笑う。

「この景色を見てほしくてね。ボーナスタイムだとでも思ってくれ」
「……そうか」

それから、しばらくは景色を眺めていた。
少しずつ、アインクラッドが崩壊していく。
茅場によれば、生きていたプレイヤーは現実への帰還を果たしたらしい。死んだプレイヤーは、実際に死んでいるため、どうすることもできない。わかっていた……ことだ。 俺たちは視線を落とす。

「……そろそろ、私は行く。もう1つ、ボーナスを用意しといた。きっと喜んでもらえると思う」

そう言って、茅場は歩き出す。
その先には何もない。だが、確かに歩いていった。

「最後にアヤト君、キリト君。ゲームクリア、おめでとう」

そう言って茅場晶彦は消えていった。
それにしてもボーナスか……この景色は、あいつと見たかったな。

「アヤト?」
「キリト君?」

またしても、突然後ろから声を掛けられる。
だけど、今回は驚かない。なんとなく、察しがついていたから。 俺たちは振り返る。

「コハル」
「アスナ」

俺たちは一旦別れてコハルと二人っきりになる。崩れゆくアインクラッドを見ながら座っていた。

「コハル。ごめんな?」

苦笑いしながらそんな事を言う。
そしてコハルは笑いながら泣いて、

「しょうがないなぁ……許してあげる」

そう言ってくれるコハルに感謝しかない。ああそうか……俺は……

「コハル。約束、覚えてるかな?」
「……うん」

横に座るコハルの方を見る。コハルもこちらを見た。夕陽の光を浴びたコハルの顔は幻想的で何て言うか、可愛らしかった。前にもこんなコハルを見たなって思い出す。そう、この二年間は本当に色々あった。

「あの時の答えを……聞いてほしい。いいかな?」
「もちろんだよ。聞かせて」

俺はゆっくり深呼吸する。

「俺、コハルの事が好きだ。現実世界でも俺と一緒にいてくれないか?」
「うん!喜んで!」

俺たちは抱き合った。コハルの目からまた涙が出てきていたのを今度はそっと拭いてあげた。




「……終わっちゃうね」

ポツリと、肩によりかかったコハルが呟く。
抱き合った後、二人で座り、崩壊するアインクラッドを眺めていた。
だが、それも終わり。もう、今にもアインクラッドの全てがなくなってしまう。

「名前」
「名前?」
「うん。リアルで、また会いたいから。アヤトの現実世界の名前教えて?」

不安そうに尋ねるのは、断られるかもと考えているのだろうか。
俺はフッと笑うとコハルの頭を撫でる。

「俺は絢辻颯斗。15歳……いや、今は17歳かな」
「え!?私も!!私も17歳だよ!始めた時は15歳だったからね!って言うか絢辻颯斗で『アヤト』って!ふふっ」
「な!いいだろ!思いつかなかったんだよ!それよりコハルは?」
「小野寺遥。17歳です!」

そんな会話をしているうちに、完全にアインクラッドが消滅した。同時に、世界が消えていく。

「じゃあ、またリアルでね」
「おう」

座ったまま、どちらからともなく抱きしめあう。

「やぁアヤト。……お邪魔だったかな?」
「ふふっ二人も遂にゴールインしたみたいね。おめでとう」
「ありがとうアスナ!」
「二人とも現実世界でも会いたいからな。名前を教えるよ」
「わかった。俺は絢辻颯斗。17歳だ」
「絢辻颯斗でアヤトか……。本当に俺たちは似ているな。俺は桐ヶ谷和人。16歳だよ」
「それでキリトか。ホントだな」
「私は小野寺遥。17歳です」
「私は結城明日奈。17歳です。アヤト君とコハルは同い年だね」

一通り情報を交換する。

「それじゃあ……」
「「「「またね!!」」」」

四人で拳をぶつけ合うと光に包まれた。 
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