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永遠の謎

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249部分:第十七話 熱心に祈るあの男その十三


第十七話 熱心に祈るあの男その十三

「この国に来たのも運命だったのだ」
「ただの旅行ではなかったのですか」
「そう思っていたが違った」
 そうだというのである。
「これも運命だったのだ」
「神に導かれた」
「そうだな。神だ」
 まさに神によるものだと。王は認めた。
「私がこの国に今こうして来ているのはだ。それはだ」
「それは?」
「私が幼い頃に出会い」
 あの騎士とだ。そうしてとだ。王はその言葉をさらに続ける。
「あの歌劇を観たことも」
「ローエングリンですね」
「ワーグナーを招いたことも。運命だったのだ」
 その全てがだ。そうだったというのだ。
「そして今この国にいるのもだ」
「神が導かれたことなのですか」
「人にはそれぞれ運命がある」
 王は遠くを見たまま。そのことをホルニヒに語る。
「そして私の運命がわかった。私はそれを果そう」
「では何をされるのですか?」
「この世に美を再現する」
 それをだというのだ。
「私はワーグナーと引き離された。しかしその美は私の心に留まったままだ」
「美とはワーグナー氏の芸術でしょうか」
「そうだ。まさにそれだ」
 王の言葉に熱が入ってきていた。そうしての言葉だった。
「それにバロックやロココを交えてだ」
「最高の芸術を生み出されるのですね」
「そうしたい。それが私の運命なのだ」
 王は話す。
「そうだったのだ」
「では今から」
「うむ」
 微笑んでいた。その微笑で頷いた。
「それではだ。今からだ」
「まずはフランスの宮殿を御覧になられますか」
「ベルサイユだな」
 こう言った。そこだとだ。
「食事の後でだ。行こう」
「では」
 こう話してだった。彼等は今はそのベルサイユに向かうのだった。食事の後で。
 そうした話の後で食事を楽しむ。飲むのはやはりだ。
 シャンパンだった。それを宮殿を思わせる見事なレストランの中で飲む。王の向かいにはホルニヒが座っている。その彼はというと。
 申し訳なさそうな顔をしている。そのうえで王に問うのであった。
「あの」
「どうしたのだ?」
「私も共にいて宜しいのですか」
 こうだ。王に対して尋ねるのだった。
「その。私は」
「何だ?何か不都合があるのか?」
 王は微笑んでだ。そのホルニヒに対して返した。
「私と共にいて」
「その。陛下は」
「私は陛下ではない」
 これが返答だった。今の王の。
 
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