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永遠の謎

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242部分:第十七話 熱心に祈るあの男その六


第十七話 熱心に祈るあの男その六

「それはだ。なるのだ」
「人が。鳥の様に空を飛ぶのですか」
「それは鉄によってなる」
 王はまた言った。
「アルプスの上をだ。その美しい姿を空から見るのだ」
「気球の様にですか」
「あれよりももっと高く飛べる」
 王はまた遠くを見た。そこにあるのは夢だ。
「人は鉄によってそうなるのだ」
「鉄は。硬く重いですが」
「だがその鉄が人をそうさせる」
 空に舞い上げるというのである。王はその言葉に熱を帯びさせている。
「やがてはな」
「そうなるというのですか」
「鉄によってだ。鉄はその他にも人を様々な幸福に導く」
「だから鉄はいいのですか」
「そういうことだ。私は鉄を愛する」
 それはだというのである。
 しかしだった。同時にだ。彼はこうも言うのであった。
「だが。血は」
「戦争はなのですか」
「そうだ、戦争は愛せない」
 戦いを好まない王にとってはだ。それはどうしてもだった。
「あるのは破壊と醜悪だ」
「破壊と醜悪が」
「その二つしかない。華なぞないのだ」
 王は戦争によきものを見ていなかった。そこにある憎悪もまた、だ。彼にとっては心の奥底から忌むべきものでしかないのである。
「兵達は武器を持たない者にまで襲い掛かるな」
「それが戦争なのでは」
「だからだ。私は戦争を愛せない」
 そこに醜いものを見ているからこそだ。
 王は戦いを愛せなかった。血をだ。
「だが鉄は血にこそ最もよく反応するのだ」
「血にこそ」
「鉄は血を栄えさせてきた」
 戦争をというのだ。これは歴史にある通りだ。
「今もそうだ。銃や砲がその何よりの証だ」
「プロイセンではクルップ社が大砲を造っていますが」
「それであの社は大きな収入を得ている」
 クルップもまた今のプロイセンの勢いに貢献しているのだ。ビスマルクやモルトケだけではない。産業界にも英傑がいるのだ。
「鉄によってな」
「血を栄えさせているのですね」
「鉄だけならば」
 王はそれに限った。
「人はどれだけ幸せになれるのだろう」
「では陛下は」
「あの方は正論であり真実だ」
 それに他ならないというのだ。ビスマルクは。
「ドイツの統一にはそれしかないのだ」
「しかしなのですか」
「私は。どうしても血を好きにはなれない」
 拒否反応であった。それ以外の何者でもない。
「花を愛する。血よりもだ」
「花を」
「少女みたいだな」
 言ってすぐにだ。自嘲を口にしたのだった。
「それではな」
「いえ、男であっても花は」
「愛するものか」
「はい、そうではないのでしょうか」
「世の者は言うのだ。男は血を愛さなければならないと」
 そのだ。戦争をだというのだ。
「それが男なのだとな」
「では花は」
「その次だ」
 これがだ。男というものの世間の見方だった。
 
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