永遠の謎
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241部分:第十七話 熱心に祈るあの男その五
第十七話 熱心に祈るあの男その五
「まずはあの場所だ」
「まずはですか」
「無論他の場所も巡る」
王はベルサイユだけではないと答えた。
「他の宮殿もだ」
「宮殿を巡られるのですか」
「そうだ、そうする」
こうホルニヒに話す。
「そうさせてもらう」
「それでは」
「フランスにはドイツにない多くのものがある」
王の目は今はそれを見ていた。そしてだ。
それを見ながらだ。ホルニヒにさらに話すのだった。
「だがそれはだ」
「それは?」
「ドイツに入れることもできるのだ」
「ドイツにもですか」
「やはり私はドイツ人だ」
このことはだ。否定しなかった。そしてするつもりもなかった。
「ドイツを愛している」
「我が国をですね」
「父なる国をだ」
彼もまた祖国をこう言っていた。尚後にその祖国を母なる国であると言う男も出る。その者も王と同じくワーグナーを深く愛する。
「その国を。愛している」
「そしてその国にですか」
「バイエルンは入る」
それは絶対だというのだ。
「ドイツにとって喜ばしいことではある」
「ドイツにとっては」
「そうだ。これまでの様に周辺国の介入に悩まされることはない」
小国が乱立していればその対立に付け入ることができる。それで実際にドイツは多くの戦乱に苛まれてきた。三十年戦争然りである。
「その中心がフランスだったがな」
「確かに。あの国は」
「神聖ローマ帝国皇帝の冠を狙ったこともある」
それも王が敬愛するルイ十四世である。彼の野心は留まるところを知らず神聖ローマ帝国皇帝になることさえ望んだのである。
「そのフランスの介入もなくなる」
「ドイツは強力な国となり」
「そうだ、民達も強い国に守られるのだ」
そのだ。父なる国にだというのだ。
「それはよいことだ」
「では喜ぶべきものなのですね」
「本来はな」
ホルニヒに対してこう限定してみせた。
「そういうものだ」
「そうですか。喜ぶべきものですか」
「それが鉄と血によってなるものもわかる」
ビスマルクの政策をだ。そのまま言ってみせた。
彼は産業と戦争によりドイツの統一を推し進めている。このことは政策としてかなり強引に推進している。それがドイツを押しているのだ。
「それしかないからだ」
「その二つによって」
「そうなのだ。政治は現実だ」
王が倦みだしているだ。その現実である。
「鉄と血もまただ」
「現実のものなのですね」
「それが成り立つものがだ。現実なのだ」
「ビスマルク卿はよくわかっておられるのですか」
「あの方は。全てを承知されている」
ビスマルクへの敬意は忘れない。こうした話の中でもだ。
「しかしだ。それでもだ」
「好きにはなれませんか」
「鉄はいい」
それはいいというのだ。
「それは人の世を繁栄させる」
「だからそれはいいのですか」
「私もまた鉄は愛している」
王は技術を愛しているのだ。その技術を使って人工の庭園を造りその中にいて楽しんでいる。その他にもだ。王はこんなことも言うのだった。
「やがて人は空を飛べるようになる」
「まさか。それは」
「そうだ。なるのだ」
こう言うのだ。この当時では夢の様になる話をだ。
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