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戦国異伝供書

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第十三話 青と赤と黒とその五

「兎角じゃ」
「特にですな」
「あの両家ですな」
「あの両家を破らねば」
「織田家は天下統一なぞ夢のまた夢ですな」
「そういうことじゃ。今は引分けてもな」
 信長は今は織田家には武田家と上杉家を降す力がないとわかっていた、そしてその機ではないこともだ。
 それで今は引分けてよいとしている、だがそれは何時までもとは考えていないこともそうだから言うのだ。
「やがてな」
「はい、両家も毛利家も降せば」
「後は北条家もいますが天下統一は成ったも同然」
「だからですな」
「やがて必ず勝ちますな」
「鉄砲をより多く用意してじゃ」
 そしてと言うのだった。
「さらに長槍と弓矢もじゃ」
「遠い間合いから攻める武具を揃える」
「これまで以上に」
「そしてですな」
「勝つ為に使いますな」
「そうじゃ、数はこれでもかと揃える」
 鉄砲も他のものもというのだ。
「戦の間も商人達から買いまた鉄砲鍛冶等にも作らせるのじゃ」
「その手配はしておきます」
 留守を預かる平手も確かな声で述べた。
「お任せを」
「頼むぞ、爺」
「さすれば」
「領国全体で買い造ればかなり手に入る筈じゃ」
「左様ですな、鉄砲も多く売られる様になっていますし」
「銭はある、買っておくのじゃ」
 織田家は政で町や港を整え楽市楽座と貿易で多くの利を得ている、その為多くの銭を持っているのだ。
 それでだ、その銭を使えというのだ。
「多少以上銭がかかってもな」
「よいですな」
「そうじゃ、鉄砲は最低でも何千か欲しい」
 そこまでというのだ。
「今もそれだけあるがその倍はな」
「それでは」
「頼むぞ、では武田の動きを聞き次第出陣じゃ」
 信長はこう言って武田家との戦が何時はじまってもいい様にしていた、そして武田の軍勢が甲斐を出たと聞いてだ。
 織田家の軍勢はすぐに動いた、兵を岐阜に素早く集めまずは尾張に向かった、その際帰蝶は具足に身を包め薙刀を持ったうえで信長に言った。
「では私も」
「犬山でじゃな」
「武田の軍勢を食い止めます」
「頼むぞ。しかしな」
「死ぬことも捕らわれることも」
「断じて許さぬ、無論城もじゃ」
 犬山城、そこもというのだ。
「守ってもらう」
「あの城を守れば美濃の東も守れます」
「だからな、頼むぞ」
「はい、その為に出陣しますし」
「ではな。しかし当家も近頃正念場じゃな」
 信長はここでこうも言った。
「何かと」
「本願寺のことといい」
「そしてこの度のこともな」
「上杉家も動こうとしているとか」
「春日山の城で馳走が出たそうじゃ」
 謙信は出陣前には家臣達に山海の珍味を振る舞う、戦の為に力をつけてもらいまた死んでも悔いのない様にとの配慮だ。
「ではな」
「あちらもですね」
「こちらも北ノ庄に城がほぼ出来た」
 北の備えのその城がというのだ。
「しかも加賀にもな」
「城を築いているので」
「備えは出来ておる、そうそう攻め入らせぬしな」
「殿ご自身も」
「武田家を退けたならな」
 その後のこともだ、信長は既に考えているのだ。それでここでも言うのだ。 
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