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ユキアンのネタ倉庫

作者:ユキアン
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なんか異世界に勇者として召喚されたけどこのメンバーなら余裕





影をくぐり抜けるとそこは下級霊たちのパーティー会場だった。

「中々趣のある城下町だねぇ」

「そんなわけないじゃないですか!!少し離れている間にこんなことになるなんて」

重臣の中に裏切り者か、あるいは入れ替わられてる奴が居るんだろうな。やれやれ、これは大仕事になるな。リアンと十束とゼオンと九十九は気付いているな。ここらへんは経験がものを言う世界だからな。

「誰かゴーストバスターズに電話しろよ」

「はいこちらゴーストバスターズ、ただいま現場に出ております。ゴースト共の断末魔の後にメッセージをどうぞ」

「ギャアアア!!」

リアンとジンの二人が合わせてくれる。

「うん、打ち合わせもなく素で合わせてくれておっちゃん嬉しいよ。で、なんなのこのパーティーは?お盆か?ハロウィンか?」

「どっちもあの世から幽霊と言うかそっち系が戻ってくるイベントだけど、それにしては悪霊が多いな。大方地脈から流れてきたのを掬い上げる術式でもあるのだろう。これ以上悪化しないように、地脈の浄化をやる」

「どっちが上流だ?掬い上げる術式なら上流側に、塞き止める形なら下流に仕掛けられてるはずだ」

「左手の方から右手前に向かって流れてるよ。ああ、あった、城壁内に地脈に触れてる部分がある」

おっちゃんには地脈の解析はできないのだが掬い上げる術式の方なら心当たりがある。一応確認しておきたいんだが、この手の場合、霊を祓わないと更に面倒な事態を巻き起こすことになる。

「なら、制圧組と除霊組、護衛組で分けるしかないな。除霊できる奴」

少ない。おっちゃんとリアンと十束のみだ。音撃棒はおっちゃんと同じで草臥れてるし、音叉剣も予備がない。三人で城下町全体を浄化しなければならないか。まあ、除霊もエキスパートだ。この二人が一緒なら余裕で出来るはずだ。

「制圧組はオレが率いるよ。レンジャー職だしな。ゼオンと一誠も手伝ってくれ。生け捕りにする。残りは護衛だな」

ジンが制圧組をやってくれるのか。それは助かるわ。いっつもおっちゃんが2つとも同時進行とかザラだったから。おっちゃん、人間だったのに魔王とか熾天使より働いてたから。堕天使総督も多い方だったけど、おっちゃん多角経営のやり過ぎの自業自得だったから。

飲み会と言うなの愚痴の言い合いをやると毎回いつの間にか薬を盛られて潰されて違う相手にお持ち帰りされるんだもん。休む暇なく搾り取られてボロボロな状態で仕事が通常だったから。

「何を泣いておられるのですか?」

「おっちゃんの周り、頭が良いだけの馬鹿とか、能力があっても空気が読めない馬鹿とか、きちんと指示を出さないと動けないのとかばっかりだったから、さらっと分担が出来てやるべきことが理解できてるメンバーに恵まれたことが嬉しくて」

「「同士よ!!」」

おっちゃんの言葉に同じように苦労しているのかリアンとジンが同士と呼び、三人で抱き合う。

「もうね、おっちゃん、ただの雇われなのにトップ以上に働いててさ。立て直しに必死になってる横でバカンス休暇なんて取りやがるのよ。一から改革させてくれたほうが楽なのに、ニと四と七だけ変えてねって感じで」

「分かる。オレも苦労して、妻の我儘も聞きつつ、合法的に処理しまくって、やっとまともになったんだよ。それでも残党と老害が多くて多くて。あと5年遅れてたらもっと大変なことになって、残党処理がやっと落ち着いてきて、そろそろ子供が欲しいと思った矢先に理解し合える人と出会えるなんて」

「見えてる地雷を撤去せずに地雷原を酔っ払って歩こうとする主人に振り回されて、ついでに敵に手榴弾まで投げつけられるのを体を張って、身銭も切って頑張って来たんだよ。もうね、オレがいくら強いからって限界はあるんだよ。別次元の魔王に普通に負けてる所を見てるはずなのに」

お互いの愚痴をずっと言い合いたいが時間が押しているのでそれだけで終える。これが出来るのも周りには少ない。

「苦労してるんだな。オレは全部上に任せてるし、回されてくる仕事もオレにあったものだけだから。他のイレイザーを用意しない分、安上がりで楽だって言ってたっけ」

「おう、絶対に苦労してるだろうからな。ちゃんと労ってやれよ」

絶対に一誠の所のアザゼルは苦労している。断言してやる。というか、どこのアザゼルも苦労していると思う。おっちゃんと一緒でなんだかんだで面倒見が良いし、責任感が強いからな。

「お遊びはそこまでにしておけ。動き出したぞ」

九十九の言うとおり、魔法陣の直上で魔力の流れが変わる。こちらの妨害に気付いたのだろう。

「十束、地脈を完全に抑えろ!!リアン、広域浄化は得意か?」

「抑えてる。経験の差で余裕すらある。奴らにはもう何も出来ないよ」

「下級霊に抑えられる前なら得意だが、今の状況なら無理だ」

「なら、街を覆うようにこいつで六芒星を描いてきてくれ。おっちゃんは中央で準備をしておく。ジン、抑えたら街を離れておけ。そこそこ痛いぞ」

「了解。ゼオン、一誠、乗り込むよ。相手の装備は全部剥ぎ取るから制圧は任せた」

「魔術はこっちで全部レジストする。一誠は確実に一人ずつ意識を狩れ」

「オッケー、禁手化」

「九十九、この場は任せる!!」

「ああ、任せると良い」

指示を出すと同時に街の中央に向かって走る。街の至る所で住人達が下級霊に襲われて倒れている。放っておけば数日で死に至るだろう。消耗具合からおっちゃん達がこっちに喚ばれる3時間ほど前位からこのような状況になったのだろう。まずいな、赤ん坊だとギリギリに近いぞ。

町の中央にはお誂え向きに噴水が設置されており、今も稼働を続けていたために多少の浄化の力が働いていた。それを確認してから近くの家に上がり、全裸になる。生憎と戦鬼のために開発された特殊防護服を着ていなかったため、このまま変身すると着替えが一着無くなるのだ。それほど多くは持ち歩いていないのでロスは減らさなければならない。

「くそっ、戦鬼になる予定なんてなかったからな」

変身音角を展開し、指で弾く。変身音角を額に持っていき、全身を紫炎が包み込む。それを払いのければ戦鬼・紫我楽鬼の姿が現れる。しばらくの間、音撃棒で近づく下級霊を祓っているとリアンが滅びの魔力を飛ばしてくる。

「おわっ、危ねえ!?」

「その声、詩樹さん?」

「そうだよ!!この姿の時は紫我楽鬼だけどな」

「何故そんな姿に?」

「この姿は戦鬼と言ってな、退魔師の一種だ。先程渡したのは鬼石って言ってな、戦鬼の清めの力を増幅してくれる。まあ、戦鬼の退魔法ってのが独特でな。打・管・弦に分かれる」

「だ、かん、げん?もしかして楽器?」

「その通り、魔に対して直接清めの音を叩き込んで祓う。こんな風に広域を祓うことは少ないが、やれないこともない!!」

噴水に音撃鼓を叩きつけて展開させる。音撃棒を構えて気合を入れる。

「近くにいると痛いぞ!!音撃打・猛火怒涛の型!!」

音撃鼓をリズム良く叩き、清めの音を街全体に響き渡らせる。範囲が広いからこっちも全力で叩かなければならない。大蟹相手よりも疲れる。

「はぁ~、よいっしょー!!」

音撃を終え、下級霊の気配を感じなくなった所で顔だけ変身を解除する。

「あ~、しんどい!!」

「お疲れ。確かに変わった退魔だね」

「だろう?おかげで戦鬼は皆、体を鍛えてる。引退時期はもうとっくに越してるけど、おっちゃん、接近戦は戦鬼が基本だから引退できないのよ。明後日は筋肉痛だな、これは」

「所で、なんで顔だけ戻ってるんだ?」

「この姿になるのに服が全部燃える。変身を止めたら全裸だぞ」

「……それって、どうなの?」

「普通は燃えない服を着てるんだけどな。今日は着てなかったから、そこの民家で脱いでから変身してるんだよ。というわけでちょっと着替えてくる」










扉の前でジンがハンドサインで中の様子を伝えてくる。中央に三人、右奥に一人か。部屋の中に障害物はなし。3カウントと同時にジンが最初に飛び込み、1カウント遅れてオレが飛び込む。全員の顎をかすめるようにジャブを叩き込んで抵抗を無くし、鳩尾を殴って意識を飛ばさせる。

終わった後にゼオンが入ってきてスマホで部屋を隅々まで撮影してから床の魔法陣を踏み抜いて破壊する。

「壊して大丈夫なのか?」

心配になって確認する。このまま術式が解けなかったら定期的に祓わなければならなくなる。

「見れば分かる。これは金魚掬いのポイだ。紙が破れて枠も取り上げられた状態ではどうにも出来ないだろう。記録は取ってある。これで解析は可能だ」

「けど、充電はどうするんだ?文化度的に電気なんてなさそうだけど」

「オレが最も得意とする魔術は電気だ。必要なら充電するが」

「へぇ~、そんなことも出来るんだ。まあ、オレも似た感じで残ってるバッテリーを倍加して充電したりするけど」

「便利だなぁ。オレの魔術は決まった魔力量で使用者の、ゲームで言う魔攻の高さで発動するからそんな器用なこと出来ないんだよな」

話しながらもジンはロープで魔術師達を拘束して背中に担ぎ上げる。

「よし、逃げるぞ。退魔なんて喰らいたくないからな」

「退魔が効くような珠ではないだろう?それにあの詩樹という男、そこまで強い者じゃない」

ゼオンがそんなことを言うが、確かにな。ゼオンと九十九は群を抜いてヤバイが詩樹は普通だ。一流だろうけど、そこまで強くない。下の方だろう。

「単純な強さならそうだろうけどな。だが、その程度で喚ばれるものか?ジャックは、まあ、外科医としての腕が必要になるのかもしれない」

それは同感だ。ジャックは確かに強さ以外を求められて喚ばれているはずだ。それにジャックと名乗っているが、あれはミリキャスだ。心根はオレの知っているミリキャスと変わらない。戦うことをそれほど好んでいない。なら、外科医をやっていると言っていた以上はそちらの知識を求められたのだろう。だが、それだと

「詩樹は何故喚ばれたのか。他は超越者を超える戦闘力を有している中で、詩樹だけがない。たぶんだが、あいつは観察眼がずば抜けた上でコミュ力おばけだな」

「「観察眼とコミュ力おばけ?」」

観察眼は分かる。でもコミュ力おばけって、アレだよな、漫画なんかで純粋系主人公が持ってる誰とでも簡単に仲良くなる能力。

だが言われてみれば、詩樹の言葉で自然とパーティーが分かれてるし、疑問にも思っていない。これが一番合っているのは分かる。アザゼルからの仕事に似ている。報酬はないが、異世界だから仕方ないにしても普通にそれを受け入れてた。そもそも最初の召喚の時点で全員が全員を警戒していたはずなのに普通に矛をおろしていた。

洗脳とかそういうのじゃない。ただ、詩樹の空気に触れた結果だと自己分析する。警戒をするっと擦り抜けて来ていた。普通なら警戒するんだけど、あの苦労してそうな顔とお人好しそうな態度に警戒心が全く湧かない。

だが、それでよかったのかもしれない。あの時に最初に動いたのが他の誰かだったら絶対負傷してた。つまり詩樹に求められてるのは緩衝材の役目か。

ゼオンも同じ結論に至ったのか詩樹を侮っている空気がなくなった。

「たまに居るんだよな。劉禅とか秀吉みたいな人誑し。この人は自分が支えてやらないとどうなるかわからないと思わせるタイプとは違って、この人ならなんとかしてくれそうな気がすると思わせるタイプだがな。後者のほうだと全方面が一流じゃないと破綻する。戦闘や政治、コネなんかも多方面に大量に、質も一定以上のがな。そんなので人間のままアラフィフまで生きてる時点で化物に近いぞ」

言われてみればそうだ。たぶん、皆ハイスクールD×Dの平行世界から喚ばれている。その世界であの騒動に巻き込まれてアラフィフの人間って時点でサブキャラ以上の力を持っている。見た目は冴えないおっさんなのに。完全に見た目に騙されていた。

「まあ、オレ達と比べれば格は落ちるだろうけど、それはオレ達がおかしいだけだ。コックが一番槍を上げる方が可笑しいだろう?」

「そうだな。まあ、貴族なのに屋台をやっているオレが可笑しいだけだな」

「なんでそんなのやってるんだよと言いつつ、お嬢たちのシェフ兼執事をやってたオレも人のこと言えないか」

「オレも畑耕したり品種改良とかしてるから何も言えねぇ」

これだけの力を持つ者達がその力を無駄にする。それは良いことなのだろうか?まあ、見せかけの平和を維持しているということだろう。自分達の世界の外は戦乱かもしれない。だが、自分の世界が平和ならそれでいいと思ってるのも呼び出された中にいる。オレもそっち側だしね。たぶんゼオンとジンと九十九、それにジャックもそうだ。

逆になんとかしようと踏ん張ってるのが詩樹やリアン、それと十束もだろうな。組を大きくしているって言ってたしな。

衛だけはちょっと分からない。ソーナ・シトリーが主だとは思うが、どういう状況なのかがさっぱりだからな。

「おっと、浄化が、太鼓の音?」

ジンの言うとおり浄化が始まり、何故か太鼓の音が聞こえる。

「地味に焼ける感じのする音だ。退魔の力を音に乗せている。だが、本来は直接叩き込むのか?威力が低いな」

ゼオンが眉をひそめながらそんなことを言うが、心当たりがある。戦鬼だ。仮面ライダー響鬼に登場する人間が鍛えた先に存在する鬼。それが詩樹の世界には存在して戦鬼になれるだけ鍛えているのか!?しかも転生悪魔なのに浄化の力を使って自分は平気ってことは、聖属性耐性があるってことじゃないか!?

「この距離でこれだが、発生源にいる詩樹は無事なのか?リアンは、この感じは魔力を纏って防御しているのか」

リアンが魔力を纏っているということは、滅びの魔力での防御のはずだ。そうさせるほどに音撃の浄化の力はかなりの物だと言うことだ。本当に一流の下の方なのか分からなくなってきた。

「時間はあるんだ。ゆっくり見ればいいし、分からなくても良い。今回みたいなことはもう二度とないさ。まあ、面白いとは思うぜ」

ジンの言葉にゼオンと二人で頷く。そうだな、今は同じ方向を向いているし、それほど長い時間をともに過ごすわけではない。旅は道連れ世は情けとも言う。とりあえず、共にいてみよう。










「へぇ~、いろんな種族が通える学校ですか」

暇つぶしにジャックと元の世界での話をしていたのだが、興味を持たれたのだ。

「ああ、そうだ。大学に近い形ではあるが、学びたいことを学ぶための学校でな。その道の教え方が良い者を教師としている」

「その道に精通する方ではないのですか?」

「うむ。名選手が名監督に成れるわけではないからな。生徒を導けるならそれが正しい教師だろう。まあ、生徒も教師も理論派だったり、実践派だったり、感覚派だったりと様々だ。学びたいことを自分にあった教師について学ぶ。物凄く贅沢なことだと考えている」

「ええ、『先生』との出会いはその後の人生を決めるとても大事なことだと思います。僕自身がそうです。『先生』達に出会えたからこそ、今の僕があります」

「ジャックにそこまで言わせるか。私もそうありたいな」

私の授業を受ける者はそれほど多くもなく、荒くれ者たちがばかりだ。彼らとは肉体言語を通して教えを叩き込んでいるが性根までは治らない。こんなことでは何時まで経ってもソーナを支えれる男にはなれんな。

「所で、ジャックの先生は外科医なのか」

「そうですよ。ただ、ちょっと繊細な方でして今は外科医は引退されて子供達のお世話をしています。僕もお世話になっていました」

「そうか。外科医は大変なのだな。命を助ける仕事のプレッシャーは凄いのだろう」

「やりたくもない仕事も多かったみたいですしね。人が、正確に言えば大人が信じられなくなったのかもしれません」

「何かあったのだろうな。私も苦労したことはある」

「そうですね。両親は何か知っているようでしたが、先生は僕に知られたくない態度を取っていたので調べる気はありません。それに僕は今も苦労していますから。父上には悪いんですが公式書類上は死んでいるんですから、そっとしておいて欲しいんですよ」

「儘ならなんな。若い頃はこんなに苦労するとは思ってもいなかった」

「そうですね。昔は、このまま楽しく過ごせると理由もなく思っていました」

九十九も何か思うことがあるのだろう。聞き耳を立てていたのにそれが外れたからな。苦い思い出があるのだろう。

「浄化が終わったようだな。移動するぞ」

九十九が指示を出し、黒いライン上の何かが騎士たちを抱え上げて歩き始める。私達もそれに続いて移動を始める。城門は閉ざされていたので押して開ける。アルメリアは驚いているようだが、これぐらいはちょっと重いぐらいの負荷でしかない。先行したメンバーは空を飛んだりして抜けたのだろう。

城門を開いた先では住民があちこちで倒れている。ジャックがすぐに傍にいた女性に駆け寄って容態を確かめる。

「弱ってはいるけど、問題ないね。低級霊にやられていただけだから外傷はないよ。原因も取り除かれたから、しばらくすれば元気になるはず」

これからどうするかと思ったら城の方から滅びの魔力が打ち上げられた。集合しろということだろう。

「城へ行こう。わざわざあんな連絡をしてきたということは面倒な事態が起きてるのだろう」











「宰相、まさか貴方が裏切ったなんて。何故なのです!!」

簀巻きにされた男性はこの国の宰相らしい。リアンさんがこの国で唯一元気にしているこの人を捕縛して拷問にかけたらしい。呪術で精神を犯して壊してから元に戻してもう一度精神を犯した状態らしい。これは僕にも治せない。そんな宰相が口を開く。

「もう無理だと思った。今回の魔族の進行は今までとは違いすぎる。勇者を召喚しても絶対に間に合わない。分かっているだけで世界の4箇所に魔王級の魔族が活動している。表立っているのはガルバリアス荒野での戦争だが、歓楽国家ウルティアでは勇者の遺産を嗅ぎ回っている者が居る。既に遺産の幾つかが奪われたのか、奇妙な事件も起きている。残りの遺産は奪われぬように場所を次々と移しているようだが、何時まで持つかわからない。海洋国家ミスキラでは原因不明の疫病が発生し、都市機能は既に麻痺している。国境線にはミスキラでまだ重体化していない兵士たちが自国民を押し留めている。あの国は自分たちを犠牲にすることを決めてしまった。そして大陸の食料庫とも言える我が国はここ十数年、原因不明の異常な天候などでその食料生産量が減り続けている。試算では他の国々の民が減る分を鑑みても5年も保たない。もう無理だ。だから、苦しませずに全てを終わらせようと、私は」

「予想以上に追い込まれてやがるな。ガルバリアス荒野での戦況は?」

詩樹さんが尋ねるとこれもすぐに答える。

「嬲るつもりなのか拮抗はしている。だが、それも何時まで持つか。それに他の襲撃地点を開放すれば、一気に押し寄せてくることも考えられる」

「なるほどね。そりゃあ、この質と人数が呼ばれるはずだ。同時に全部を処理しろってことか。結構ハードではあるが、やれんこともないだろう。チーム分けだが希望は?」

「僕はミスキラに行きます。出来れば十束さんか、リアンさんも一緒にお願いします。ただの疫病なのか、それとも呪い関係かもしれません」

「それを言い出すとこの国も霊脈関係かもしれない。土地全体を呪うとか、そういう類の可能性も拭いきれない」

「じゃあ、ミスキラにはオレが向かうから十束はこっちを頼む。あと、ジャックの護衛に一人くれ」

「ならば私が行こう。武装錬金は小回りが利くし、絡めてもある」

「ウルティアはオレがメインで行こう。これでも元シーフだ。捜査なんかはお手の物だ。イッセーもどうだ?」

「勇者の遺産ってのが気になるからそっちに行こうかな。残してあるってことはある程度の条件さえ揃えば使える道具のはずだろう?試してみたくなるのが男の子だろう」

「ゼオンと九十九はどうする」

「ガルバリアスに行こう。殲滅戦は得意中の得意だ」

「あまり手を出すつもりはないが、ガルバリアスで待機しておく」

「おっちゃんはどうせ筋肉痛で寝込む可能性が高いからこの国でお留守番だな。とりあえず結界だけは敷いておくけど」

まとめると、ミスキラに僕とリアンさんと衛さんが疫病と魔族を処理しに、ウルティアにジンさんとイッセーさんが遺産の回収と魔族の処理に、ガルバリアスにはゼオンさんと九十九さんが抑えに、詩樹さんと十束さんがここに残って何かを処理する。

「話を聞いていなかったのか。もう人類は終わりなんだ!!」

「勝手に終わりだと思ってろ。こっち側の最低限の知識と技術のすり合わせをやるぞ。提供できる技術は全部出せ。こっちも提供できる分を全部出してやる」

そんなに提供できる技術はないけど、とりあえず医療術を見てもらおう。本当に解析できれば良いんだけど。











ゼオンと九十九は知識は多いが、意外と強引な術式を使いまくっていたのでそれらを修正して全員に共有する。それよりもリアンと十束とジンの技術が凄いな。完成された技術だが、全く異なる文化の香りがする。こいつら、異世界から転生した口だな。術式が綺麗すぎるから簡単にわかる。

問題はジャックの術式だ。これは本当に魂に刻まれた法則とでも言えばいいか。他人には絶対にできない技術だった。なんというか、こう、特定の人物がこういう行動を取れば結果はこうなると世界に定められていると言うのが一番正確だろう。逆に言えばこれは専用術式の開発に役立つということだ。気長に研究しよう。

「よし、こんなところだな。九十九がバッテリーを作れて助かった。おかげでプリンターが使える」

「ガキの頃に手慰みに作った物だ」

「それでも助かった。この分厚さを写本なんて絶対やりたくないからな」

「これだけの内容の魔導書が手に入ったとなれば契約の代償にも問題がないほどだな」

「呪術を新しい角度から見るとは考えても見なかったこと。これがあれば新たな領域への足がかりになる。これがあれば妻も子供たちも路頭に迷わせることはないな」

「おっ、十束は子持ちか。嫁さんとは恋愛結婚?」

「政略結婚でもありますが、恋愛結婚ですよ。種族の違いから手を出しづらかったのですが、結納品の量と質で旦那の力量を測るテストを行っていただけたので、本気を出しました」

「そうか、大事にしてやれよ。おっちゃん、女の子たちに無理矢理襲われて、薬を使われて子供を作られてしまってるから」

「いやいや、襲われるって何をしてるんですか!!」

「イッセー君。アラフォーのおっちゃんが十代の女の子を受け入れれるはずがないだろう?最初は真面目に断っていた。次に露骨に誘惑され始めたから仕事を理由に全国を逃げ回ったが、仕事はいずれ終わる。次の仕事に取り掛かるまでの準備期間に薬を盛られて自由を奪われ複数人に襲われる。こんなおっちゃんに群れないで、同年代の方に行けと言ったら、頼りないの一言でばっさりと切られやがって。おっちゃん、逃走中に召喚されたんだからな」

「子供は放ったらかしかよ」

「子供に会いに行ったら捕まって監禁されて搾り取られたことがあったからな。迂闊に近づけん。養育費とか誕生日とかクリスマスのプレゼントを送ることしか出来ないんだぞ!!しかも、判明してる子供だけに!!」

「判明してる子供ってどういうことなんですか?」

「基本的に意識を奪われてるからな。何人と関係を持ったのかすら分からん。だから、子供が出来ていたとしても向こうが黙っていたら分からないんだよ。お前らにオレの気持ちがわかるか?多少の交友がある奴がシングルだと高確率で自分の子供の可能性があるんだぞ?隠居したいのに組織がボロボロで再建するのに必死になってるといつの間にか囲まれてるんだぞ?おっちゃんにどうしろと言うんだ!!」

「何故そうなるまで放っておいた」

「何処かの四大魔王達がまともな政治をしてなかったせい」

心当たりがあるのかリアンとイッセーが顔をそらした。

「そういう文句を言うリアン、お前はどうなんだ?」

「オレはちゃんと結婚してるぞ。オレは鬼籍に入ってるけどな。暗部としてやっていくには死んでいる方が都合がいいからな」

「それは嫁さんは納得してるのか」

「思いっきり怒られた。何故相談や連絡がなく、いきなり死んだふりなんてするんだと。慰めるのに目茶苦茶苦労した」

「政略結婚か」

「そうでもあるが、恋愛結婚だ。お互い不器用だが妻ばかりに苦労させている不甲斐ない男だ。告白も妻からだったな」

「ええい、普通の恋愛をやってるのはいないのか!?」

「オレは完全に尻に敷かれてるが普通の恋愛で結婚してるぞ。子供はまだだけど」

「イッセーか。ちなみに出会いは?」

「世論に散々振り舞わされて寂しい人生を送っていたところに出会って、そのままころっと絆された。ロリコン呼ばわりされてるが後悔はない。そろそろ本気で子供が欲しい」

「何をやらかして世論に振り回されたのかは知らんが、ロリコン扱いって。いや、本人が納得してるんなら別に構わないことだな、うん。よし、逆にヘタレと鈍感野郎は挙手」

誰も挙げないと思ったのだが、防人が恐る恐る上げる。自分から言い出すということはヘタレか。

「あ~、よし、相談に乗ってやるから話せ。素面が無理だと言うならビールならあるぞ」

ビールのタンクとキンキンに冷えたグラスを取り出して並々と注いで渡す。防人はそれを一気に煽る。おかわりを注いでやり、3杯飲んだところでゆっくりと語る。おっちゃんも同じように2杯ほど引っ掛ける。

「学生時代から、傍で彼女を守ってきた。おそらくだが、皆波乱万丈だったと思う。オレもその類なのだが、彼女は騒乱から一歩離れた位置にいたおかげで安定していてな。同期のとある男とは異なり、ぬるま湯に浸かっている感じで過ごしてきた」

「ああ、なるほど。大体理解した。ぬるま湯は気持ち良いからな。変えたくないんだろう?うん、だからそれに対する答えはこれしかない。動いて後悔するか、動かずに後悔するかだ。どっちがオススメとも言えない。答えは自分の中にしかないからな。無責任なことしか言えないが、その人の隣に自分以外の男がいて、自分には向けてくれない女の顔をその男にだけ見せている。それに耐えられるかどうかだ」

防人よりも何故かジャックが何かを思いつめている。鈍感野郎だったか。それでも何となく気付き始めているようだ。ちょっと期待しておこう。

「おっちゃんは動かずに後悔した。交通事故であっさり逝っちまったからな。全然そんなつもりはなかったんだけどな、死んで初めて気づいた。きっついぞ、数年間悩まされた。死靈術で強引に現世に留めようか、あるいは器を用意してそれに取り憑かせようか。悩んだ結果、また何も出来ずにどうすることも出来なくなった。それからだな、動ける時に動くと。動きながら悩めと。そう誓って、女性に囲まれて種馬生活だよ!!」

何処で間違ったオレの人生!!

「だけどな、納得だけは出来る。悪いことが起ころうが、自分の責任だからな。自分のケツは自分で拭く。そう思えて動き続けれるからな。今の関係が崩れるのが怖い?良い方向に、この場合付き合ったりすることになったとしても関係は崩れてるんだよ。それにその女性との関係にしか目が向いていないようだが、周りとはどうだ?お前のことを思っている他の女性がいるかも知れない。その女性を他の男が狙っているかもしれない。そいつとの関係は?心当たりがあるだろう」

「それは、ある」

「だったら、あとは勇気を出して一歩踏み込むしかない。関係が崩れたなら、また築きあげればいい。消滅しない限り、諦めなければ何度だってやり直せる」

「やり直せる、か。そうだな、確かにそうだ。そのとおりだ。はっきり言おう、彼女の隣に別の男がいるのは耐えられん!!何度でも当たって砕けて、再び当たり続けよう!!」

「その意気だ!!でも、ストーカーにはなるなよ」

「人として当たり前だろうが」

「馬鹿野郎!!奴らは悪魔だぞ!!じゃないと、オレがこんなに逃げ回ってるわけがないだろうが!!」

そういうと黙り込んでしまった。そして、ジンが同意するように首を縦に振る。

「ジン、お前もか」

「まあ、猫の魔王と黒猫に発情期の度に襲われてる。黒猫はともかく、猫の魔王には勝てないからそのまま貪られて。春先はいつも死にかけだ」

「元気になる毒をやるから頑張れ」

「なんで毒?」

「元気になればその分絞られて結局は地獄を見るからだ」

「おぅふ、要らないや。いや、お嬢の旦那にやるから貰っておく。ゼオンはどうだ」

「自然回復を強化する魔法が自前で使えるからいらない。ああ、ちなみにオレも恋愛結婚と政略結婚だな。九十九は?」

「恋愛結婚と政略結婚になる。子供は全員恋愛結婚だった。ひ孫あたりは政略結婚の方が多かったな。側室じゃなくて愛人を大量に抱えてるのとか居た。どんな血筋だろうと世代が進むとやはり腐敗は進む。政治にはどっぷり浸かりたくないな。長生きなんてするものじゃない。置いて行かれるだけの人生はキツイ。だけど、約束しちまった。生きれるだけ生きると。だから死ねない」

重い。本気でこいつどれだけ長い期間を生きてやがるんだ?同年代は全員死んでるといったが、全員死んでからどれだけ生きてるかまでは言っていない。あまり触れないほうが良さそうだ。

「さてと、そろそろお開きだな。全員この世界の一般知識は問題ないな。支度金もある程度預かったから食料に困ることはない。担当地域を終えたら一度戻ってきてくれ。裏にいる存在との決戦はそれからだ」

「やはり、各地に派遣されてるのは方面軍と見て間違いないか?」

「ああ、ここの宰相と同じように手引きしている奴も居る。信じられるのはオレたちだけだと思え」

「あのお姫様もですか?」

「むしろ、一番信じられない。いくら何でも裏が無さすぎる。聖人だろうと所詮は人なんだ。油断はするな」

滅私は人間の中で一番信じてはだめだ。自分がないってことはどんなことも恐れないということ。何をしてもおかしくない状態を指す言葉だ。

もう一つは滅私は演技しやすいということだ。自分の利益をすべて排除するだけで良いのだからな。7割方、何かに関わっていると見て間違いない。九十九とリアン、それにジンは気づいているな。多少は楽ができるな。上手いことばらけているしな。

さて、世界を救いに行きますか。

 
 

 
後書き
ネタ帳から引っ張り出してきた。
ほとんどのキャラが政略結婚なのは立場上仕方ないにしても多すぎる気がする。 
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