魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第175話「忠義の騎士の復活」
前書き
多分、大体の人が忘れていた伏線回収。
=out side=
ドドドドドォオオン!!
「(接近されなきゃなんとかなる!武器と魔力弾で何とか距離を保て!その間に、勝ち筋を見つけて勝利を掴み取れ!)」
魔力弾、武器、砲撃魔法が次々と放たれる。
一度距離を離した事で、帝の攻撃は苛烈になっていた。
「はぁっ!」
「っ!」
それに対し、神夜は砲撃魔法を回避し、武器を奪い、魔力弾を切り裂いて対処していた。
さらには僅かな隙を突いて魔力弾や砲撃魔法で反撃し、間合いを詰めようとしていた。
「くっ……!」
間合いを詰めてくる神夜に、帝は干将・莫耶を投擲する。
ギギィイン!!
「はぁああっ!!」
「っ!」
ギィイイイイイン!!
投擲した二刀は弾かれ、直後に帝が斬りかかる。
その一撃はあっさりと防がれるも、帝はすぐさま離脱する。
「くっ……!」
「おらぁっ!!」
―――“Ray Buster”
離脱の際に“王の財宝”で牽制し、反撃を食らわないようにする。
さらには、それを目晦ましにして砲撃魔法を放つ。
「ッ!」
―――“Protection”
だが、砲撃魔法は防御魔法によって防がれる。
帝もそれはわかっていたようで、その間に側面に移動していた。
「はぁっ!!」
ギィイン!!
しかし、そこから放った一撃もあっさり防がれてしまう。
デバイスがなくても、基本スペックが帝より高いのだ。
「(わかっちゃいたが、近接戦は通じないか……!)」
武器を射出しながら、帝は即座にその場から飛び退く。
逃がすまいと追う神夜だが、バインドで動きを阻まれる。
「(何か、別の手を……)」
武器の射出、魔力弾、バインド。
あらゆる手で帝は距離を保つ。
そして、その間に勝つ方法を模索する。
「(俺の体力と魔力も長くは持たない。それまでに決着を……!)」
魔力をふんだんに使っているため、帝の魔力は半分をとっくに切っている。
さらに、体に負担のかかる魔法も使っていたため、ダメージと相まって体力も多くない。
「(アニメやゲームじゃ、バーサーカーだから“王の財宝”で圧倒出来たからな……暴走している所ではバーサーカーだけど、こっちの場合避けてくるからな……!)」
帝は思考を巡らす。
二人の能力の元ネタのキャラ達は、その作品において戦った事がある。
“王の財宝”の本来の持ち主ギルガメッシュは、その圧倒的物量で神夜の能力の持ち主であるランスロットとヘラクレスのどちらも押していた。
だが、今この場では帝はその能力を持て余し、相手の神夜は二人の能力をどちらも所持しているため、元ネタのように上手くは行かなかった。
「(ランスロットもヘラクレスも、ギルガメッシュの能力なら押し切るのは可能だ。だけど、その二人の能力が噛み合わさると……俺には手に余る)」
実際、例え二人の能力を持っていたとしても、押し切る事は可能である。
だが、押し切ろうとすれば、結界どころかアースラが持たない。
そのため、押し切る程の火力を帝は出す事が出来ないのだ。
〈マスター!〉
「っ!ちぃっ……!」
思考を中断させるように、砲撃魔法が帝へと迫る。
何とか回避する事が出来た帝だが、若干牽制の手が弱まってしまう。
その隙を突くかのように、神夜が魔力弾を放つ。
「くっ、まずい……!」
魔力弾を躱しきる事が出来ずに、思わず盾を出して防ぐ。
だが、これで一瞬攻撃が止んでしまう。
「(こういう時は……)」
―――“Lightning Action”
「(回り込んでくる!)」
即座に相手の動きを読み、背後から斬りかかってきた神夜の攻撃を盾で防ぐ。
しかし、その上で帝は吹き飛ばされる。
ダメージはあまりないものの、吹き飛ばされた勢いで叩きつけられれば危ない。
「プリドゥエン!!」
ガガガガガガ!
咄嗟に帝はアーサー王伝説に登場する船にもなる盾を出す。
それをサーフボードのように扱い、勢いを殺す。
「(……ダメだ。押され始めた……!)」
地面をプリドゥエンで滑りながら、帝はそう確信してしまった。
ここから盛り返す道筋を、帝には想像できなかったのだ。
「っ……!」
その時、視界にアロンダイトが入る。
押され始めた事で、意識外にやっていたのだ。
「(まずい、取り戻されるか……!)」
アロンダイトが神夜の手に戻れば、ますます帝に勝ち目はない。
戦闘技術が未熟だったために、このような状況になってしまった。
元々一般人気質なのが仇を成したようだ。
「くっ……!」
〈ダメですマスター!〉
「(上か!)」
アロンダイトを取り戻そうとする神夜の動きを見て、帝は止めようとする。
直後、エアの警告で上から魔力弾が迫っている事に気付く。
「くそっ……!」
魔力弾自体はプリドゥエンを盾にして防ぐ。
しかし、同時にアロンダイトが取り戻されるのが確定してしまった。
「(阻止できる威力の魔力弾も、砲撃魔法も間に合わねぇ!投影も王の財宝も同じか……!ちくしょう、勝ち目がどんどん薄くなる……!)」
そして、ついに神夜の手がアロンダイトに届く。
―――……対精神干渉プログラム構築進行度、100%
―――対精神干渉プログラム構築完了。起動します
バチィイッ!!
「なっ!?」
「っ……?」
刹那、アロンダイトが淡い光に包まれる。
同時に、まるで神夜を拒絶するかのように伸ばされた手が弾かれた。
「ど、どうして……!?」
「な、なんだ……?」
その出来事に、神夜も帝も困惑した。
何せ、いきなりデバイスがマスターを拒絶したのだから。
〈エラー、エラー。再起動します。マスター再認識、完了〉
「な、なんだったんだ……?」
発せられた音声に、もう大丈夫だと思って神夜が手を伸ばす。
バチィイッ!!
「っ!?」
そして、またもや拒絶された。
それこそ、マスターはお前ではないと言わんばかりに。
〈……本当に、お久しぶりです……〉
そんな神夜を認識していないかのように、アロンダイトは音声を発する。
〈―――マスター、サーラ・ラクレス〉
……この場の誰でもない人物に向けて。
「……はい。ようやく、表に出られるようになりました」
「……へ?」
同時に、そのアロンダイトを一人の女性が手に取った。
黒に近い紺色の、ウェーブが若干掛かった髪を後ろで束ねている。
そして、紫色の鎧を速度低下に繋がらない程度に纏っている。
明らかに“騎士”を思わせる、そんな女性だった。
「お前は、一体……」
「しかし、魅了の対策ばかりしていたので、未だに現界し続けるのは難しいです。ただ、この場を収めるには十分ですけど」
〈そうですか……では、私は貴女の剣として全力を振るいましょう〉
まるで神夜の事など認識していないかのように、無視をする女性。
帝はそんな様子を見ながらも、女性……サーラが発した言葉を聞き逃さなかった。
「(魅了の対策……げんかい…現界?一時的って訳か?)」
一時的にしか存在できないというのも帝は気にしていたが、それよりもお重要視していたのは“魅了の対策”と言う部分だった。
「(魅了……ってのは明らかにあいつの能力の事だよな?という事は、魅了に掛かってしまう心配もないが……そもそも誰なんだ?)」
帝も、ついでに神夜も、サーラには会った事がない。
記憶封印に関係なく会ったことがないため、既視感すらなかった。
「っ、それは俺のデバイスだ。返してもらう……!」
「随分と気が荒くなってますね。まぁ、自身にとって信じられない事実を突きつけられたのであれば、こうなるのも分からなくはありません」
無視された事もあって、語気を強くして神夜は言う。
本来の神夜であれば、もっと丁寧に対応していただろうが、現在暴走している状態ではその面影がない程に乱暴な性格になっていた。
「っ!」
「おっと」
「(速い……!)」
アロンダイトへと伸ばされた手を、サーラはあっさりと躱す。
それだけでなく、離れていた帝の近くまで移動してきた。
それを見た帝は、この時点でサーラの強さを自分より上だと断定した。
「あんたは、一体何者なんだ……?」
「別に、ただの亡霊ですよ。……事情は理解できています。今は彼を止めるのが先決です」
「……それもそうだな」
帝から奪った武器を手に、二人へと敵意を向ける神夜。
サーラは静かに構え、帝も構えなおす。
「貴方は援護を。……連携は期待しないでください」
「……一人でやるつもりか?強いのは何となくわかるが……」
「彼の力は私も良く知っています。……任せてください」
「ッッ!?」
刹那、サーラは間合いを詰めるように踏み込む。
高速移動魔法を用いていないのにも関わらず、驚異的なスピードを出す。
その速さに帝は目を見開き、すぐに移動先へと視線を向ける。
「シッ!」
「ッ!?」
ギギギギギィイン!
突然の接近に神夜は驚愕しながらも、手に持つ武器で攻撃を繰り出す。
サーラはそれに対し、真正面から全ての攻撃を相殺した。
「(技量、力、速さ。剣戟において、全てがあいつ以上か……!……俺、援護する必要あるのか?)」
ついそう思ってしまうほど、帝の予想以上にサーラは強かった。
「遅いです」
ギィイン!!
「っ……!?」
「ふっ!」
一瞬の隙を突き、サーラは神夜の剣を大きく弾く。
直後に魔力を込めた蹴りを叩き込み、防御を貫いて神夜を吹き飛ばした。
「『援護射撃を!』」
「『っ、お、おう!』」
念話による鋭い指示に、帝は一瞬戸惑う。
それでも魔力弾と武器の射出による援護射撃を放った。
「はっ!」
「(……んなのありかよ……!?)」
次の瞬間、帝は驚愕したが、無理もなかった。
なぜなら、サーラは射出された武器と並走し、まず武器を掴んだ。
直後に投擲し、魔力を通す事で威力と速度を底上げしたのだ。
さらには、投擲が終わるまで、アロンダイトは上に投げており、落下地点に辿り着くまでの位置調整も完璧にこなし、キャッチしていた。
「なっ!?ぐっ……!」
「はぁっ!」
「ぐぁああっ!?」
威力と速度が上がったため、神夜にとっては想定を上回った動きとなる。
そのため、投擲された武器で一撃二撃と防御を崩され、サーラの一閃で吹き飛んだ。
「ッ!」
―――“Springen”
サーラは、そこでさらに追撃に出る。
吹き飛ぶ神夜に対し、回り込むように移動魔法を発動。
吹き飛んだ先に移動したサーラはアロンダイトの刃を神夜に向けた。
その刃で神夜を受け止めた事で、神夜の体はくの字に折れ曲がる。
「ふっ!」
トドメに、その状態からサーラは神夜の首を掴み、地面に叩きつけた。
その際に魔力を流し込み、確実に気絶させた。
「え、えげつねぇ……」
初見だからこそできた、瞬間的な鎮圧。
大した搦め手を使っていないからこそ分かる圧倒的強さに帝は戦慄した。
「頑丈で力強いだけでは、私は倒せませんよ」
「(これで全然本気じゃないってのが恐ろしいぜ……)」
若干冷や汗を掻きながらも、帝はサーラの元へと歩む。
「……助かった、と言うべきか?」
「助けるつもりで目覚めた訳じゃないですけど……まぁ、そう思ってもらって構いません」
「そうか……」
当たり障りのない所から会話を始める帝。
帝にとって、サーラはまだ完全な味方とは思っていない。
悪い人物ではないと思っていても、警戒の方が強いようだ。
「……いくつか、聞きたい事がある」
「私の事について、ですね?」
「わかっているのか……」
癇に障るような言葉を選ばないように心がけながら、本題に入る。
尤も、喧嘩を売りに行く態度と言葉でなければまずい事にはならないのだが、そんな事を帝は知る由もない。
「私はサーラ・ラクレス。アロンダイトの中に魂を封じ込めていた過去の人間です。人としてならば私はもう死んでいます」
「だから、さっきは亡霊だと言った訳だな。……今の言葉からすれば、あんたはかつてのアロンダイトの主、という訳か?」
「そうですね。尤も、彼の魅了がなければ私がマスターのままでしたが」
「(魅了……やっぱり、わかってたのか)」
聞きたい事をはぐらされないため、確実に知りたい事を知っていく。
「魅了……デバイスにも通じたんだな」
「そのようですね。魅了により、無理矢理マスターとなっていたようです。魅了を防ぐ術式が完成してからはその登録は破棄されましたが」
「(さっきのエラーか)」
これでエラーを吐いた事に合点が行った帝。
「(にしても、アロンダイトも神様が作ったデバイスだと思ったが、違ったのか?ただ単に実際にあったデバイスを転移させただけだったのか?)」
「……どうしました?」
「……いや、なんでもない」
最近の不可解な事情で、些細な事も疑問に思ってしまう帝。
実際は疑心暗鬼の域を出ないのだが、仕方ない事だった。
「私と言う人格は、アロンダイトが魅了の影響下にあった事でずっと表面に出られませんでした。ですが、中から事情は粗方知っています。……その、私がこのままいると、余計に状況を混乱させてしまいますよね?」
「……あー、まぁ、そうだな……」
ただでさえ、幽世の大門の件で事後処理が大変な事になっている。
その状況で無理を言って魅了解除を強行したのだ。
……その上で、サーラが存在する事は余計に混乱を招く。
「でしたら、またしばらくアロンダイトの中にいます」
「……いいのか?」
「元々、まだ現界し続けるには体が安定していません。ですから、丁度いいです」
サーラが今現界出来ているのは、完全に一時的なものだ。
魔力と体を構成するための術式が安定していないため、留まり続けられないのだ。
「そうか、それなら構わないけど……」
「詳しい事情は、またその時に。貴方もこれ以上の情報はいらないでしょう?」
「………」
図星だった。帝は正直、これ以上新しい情報はいらなかったのだ。
というのも、帝自身これ以上は混乱するため、整理する時間が欲しかったのだが。
「アロンダイトは貴方に預けましょう。彼の拘束は任せましたよ」
「ああ。任せておけ」
「では、また」
そう言って、あっさりサーラは消えた。
「……とりあえず、あいつを拘束しておくか」
あっけなさすぎる邂逅に、帝は頭を掻きながらもやるべき事を実行する。
拘束系の宝具を使って神夜を拘束し、念話で司達に終わった事を伝えた。
「(ラクレスさんの事は、まだ伏せておくか)」
サーラの言っていたように、また新たな情報があると混乱すると思い、帝はサーラのことについては伏せておくことにした。
=アリシアside=
「………」
帝に言われた通りに、事前に借りておいた部屋に皆を寝かせる。
私は、その中でもフェイトの傍にいた。
「(……心が歪められていても、それに自覚がないのなら、解かない方が精神的にマシだったかな……?)」
魅了を解く、あの時。
フェイトを含めた皆は、本来の心との差異に発狂しかけた。
私の時も、途轍もなく混乱したのを覚えている。
その時は、それどころじゃない事態なおかげで、差異と直面する前に整理がついた。
でも、今回の場合はそれがない。いきなり自分がおかしかった事を突き付けられた。
「(……本当に、これでよかったのかな?)」
皆の苦しそうな顔が忘れられない。
そのため、私の中にそんな後悔が渦巻く。
「(……いや、それでも心が歪められてるなんて、見逃せるはずがないね)」
心を歪められているという事実がある以上、その人は幸せにはなれない。
本人にとって幸せに思えても、それは仮初でしかないのだから。
「……今、戦闘が終わったみたい」
「勝ったみたいだわ」
そこへ、司と奏によって戦闘の結果が伝えられる。
「それで、帝はなんて?」
「別の部屋で拘束しておくみたい。様子見するらしいよ」
「そっか」
帝は持っている武具に関して右に出る者はいない。
全部貰い物だから帝も使いこなせていないけど、あの神夜すら拘束するアイテムぐらいは持っていると思う。
「う……ぅん……」
「っ、フェイト!?」
その時、フェイトから呻き声が聞こえた。
つい大声を上げてフェイトの傍へと駆け寄ってしまう。
「フェイトちゃん!」
なのはもすぐに駆け寄ってくるけど、今のは呻いただけだった。
それでも、私たちはフェイトを安心させるように片手ずつ握る。
「……魘されてる……」
「私がすぐに気絶させたけど、直前に皆は気づいたから、夢に出てるのかもね……。今までの自分が、本来の自分じゃないっていうのは、とても辛いからね」
魘され、寝汗を掻くフェイトをなのはは心配そうに見る。
他の皆も、よくよく見れば魘されているようだった。
「特に、フェイトは“フェイト”として新しく生きる前から、魅了に掛かっていた。ママの虐待を受けて、本当は精神的に辛い時に、魅了されてしまった。……つまり、フェイトにとっては精神的支柱だった人が、自分の心を歪め続けてたって事になるんだよ」
「……っ……」
例えそれが自覚がなかったものだとしても、フェイトにとってそれは一種の裏切りになる。ずっと騙されていた事になる。
……そんなの、耐えられっこない。
「だからこそ、目覚めた時に私たちがなんとかしないといけない」
「……そう、だよね……」
分かっていた事、覚悟していた事だ。
だから、何とかしないといけない。
「……それにしても、なのははここ最近で凄い成長したよね」
「えっ、そ、そうかな……?」
「うん。なんというか、驚くような事も簡単に受け入れるようになったというか……懐が広い?……とはまた違うかな」
私がそう言っても、なのはは自覚がなさそうだ。
「(多分、なのはがこうなったのは“あの存在”も関わってる。……現状でこれ以上の深入りはやめておこう。私じゃ、手に負えないだろうし)」
あの時、なのはの体に乗り移っていた存在。
あの存在がなのはの精神に影響を及ぼしているのなら……。
……多分、魅了よりも対処が難しいと思う。
「っ……お姉、ちゃん……?」
「フェイト!」
その時、フェイトが目を覚ました。
私となのはが手を握っていたからか、皆より意識の回復が早かった。
「(心を落ち着けられるような術式を……)」
目が覚めたばかりで精神状態は絶対に悪い。
だから、少しでもマシになるように私は霊術を用意する。
……といっても、精神に関する霊術はまだ未熟だから不安だけど……。
「フェイトちゃん、大丈夫……?」
「なのは……」
フェイトは緩慢な動きで起き上がる。
気絶する寸前の記憶は曖昧になっているようで、思い出そうと頭を押さえていた。
「私、は……」
「危ない所を私が気絶させたんだよ」
「気絶……っ、そうだ……!」
私の言葉に、フェイトは思い出したらしい。
一気に顔色が悪くなって、握る手から震えが伝わってくる。
「大丈夫」
「っ……!」
「落ち着いて、私たちが傍にいるから……」
「ぁ……」
落ち着かせるように、私が抱き寄せる。
「お姉ちゃんとなのはに任せて、落ち着くまでじっとしてて……」
「……うん……」
何度も背中を撫で、落ち着かせるように言う。
こういう時は変に言葉で落ち着かせるよりも、じっとする方が効果的だ。
しばらくすれば、若干落ち着いたのか、震えが弱まった。
「……他の皆は……?」
「まだ、目覚めてないよ。司たちがついてるから、そっちは大丈夫。……フェイトは、私たちが傍にいた分、早く目覚めたのかもね」
もしくは、ただの偶然か。
まぁ、そこまで気にすることじゃないと思う。
「……夢……」
「フェイトちゃん?」
「……悪夢を、見てたの。今までの私が偽物で、紡いできた絆も仮初……ずっと本当のつもりだったのに……こんなの……!」
「っ……!」
……何も言えなかった。
慰めの言葉なんて、きっと無意味。今のフェイトには効果がないかもしれない。
「だから、それが嫌で……目覚めたら……」
「……そっか……」
悪夢が嫌だったから、目覚めた。
理由としては単純だけど、心はそんな簡単じゃない。
今までの自分が本心じゃなかったというのは、嫌悪感や恐怖が並の強さではないから。
「……大丈夫、お姉ちゃんが傍にいるからね……」
「っ……うん……」
そんな状態のフェイトに、私ができることは限られている。
こういうのは、最終的に本人が解決しなくちゃいけないからね。
私にできるのは落ち着くまで姉として傍にいてあげることだ。
「なのは、ここは私に任せて、他の皆を見てて」
「でも……」
「私はフェイトのお姉ちゃんなんだから、こういう時くらい姉らしくしないとね」
なのはには、はやてとかの方を任せる。
多分、そんな時間の差もなく皆も目を覚ますだろうから。
「……お姉ちゃん……」
「(フェイトが私を名前どころか“姉さん”とすら呼ばない。……それぐらい、辛い状態にあるんだね……)」
フェイトの怯えた様子を見ると、私まで悲しくなってくる。
どうして、こんな事になるまで魅了をそのままにしていたのか。
どうして、私はその事に対して何もできなかったのか。
……考えれば、キリがない。
「(……ううん、今はフェイトの事!)」
キリがない。だから考えないようにする。
今はフェイトの方が大事だからね。
「……お姉ちゃんは、辛くなかったの……?」
「……辛かったよ。辛かったし、信じられなかった。でもね、同時に今までの自分を振り返ったら辻褄が合っちゃったんだ」
いくら緊急事態とはいえ、私もフェイトみたいに信じたくなかった。
でも、過去を振り返れば神夜の言うことには短絡的に信じていた。
その事実に、魅了されていたのは本当なのだと理解させられた。
「それはフェイトも同じでしょ?」
「……うん。信じられない程に、信じ込んでたよ……」
「私がすぐ立ち直れたのは……その時、優輝達が近くにいたからかな?」
「優輝達……椿や、葵も?」
「うん」
あの時、私はずっと守られたままだった。
今でもその時の無力感は悔しいものがあるけど、それとは別に感じるものもあった。
「守られてたばかりか、今までの自分が自分じゃない感覚に、頭がおかしくなりそうだった。……でもね、優輝達が“道”を示してくれたんだ」
「“道”……」
「“道”って言っても、具体的には私にもわからないけどね。でも、そのおかげで私はすぐに立ち直れた。まぁ、本人たちにそのつもりはなかっただろうけどね」
“道”を示された時、まるで“導かれる”かのようだった。
今までやってきた事の取り返しはまだ付くと、その“可能性”を示されたかのように。
「優輝達……多分、優輝かな?彼には、何か特殊な“力”がある。レアスキルみたいな……ううん、それ以上に強力なのにゆっくりとしか働かない、優しい力が」
「……それは……」
多分、今のフェイトは私の言葉を聞いて魅了を連想していると思う。
私も自分で言っておきながら、魅了と同じような力だとは思う。でも……。
「魅了とは違うよ。心を歪めるとはまた違う……まるで、希望を齎してくれるような、そんな感じなんだ。それに、優輝自身もその“力”に助けられてると思う」
「えっ……?」
これは勘だけど、優輝も私たちと同じだと思う。
優輝の場合は自分の力で自分を助けるという、よくわからない感じだけど、それでも私と同じように助けられている。
それが“諦めない”という意志に繋がってるんだと思う。
「まぁ、まだまだやり直せるんだから、ね?」
「……うん」
今はまだ、フェイトたちの事に集中しておいた方がいいだろう。
「(……思い返してみれば、優輝にも謎が多いよね)」
例え、優輝の事で疑問に思うことがあっても、今は……。
後書き
プリドゥエン…FGOから。原典は当然アーサー王伝説だが、FGOにてモードレッド(水着)がサーフボードのように扱っていたため、本編でも同じような扱いに。
Springen…“跳ぶ”のドイツ語。短距離移動魔法で、小回りが効く。
……何気に、GOD編の記憶処理がされていないキャラの一人なので、下手すると記憶処理が無意味になる可能性ががが……。
帝と奏は神様謹製、それ以外は実際に世界にあったデバイスです。帝と奏は能力にあったデバイスが存在していなかったため、作られたという訳です。
アリシアの珍しいお姉ちゃんムーブ。フェイトのためならなんのその。
そして、何気に優輝の力の核心に迫るアリシア。
広げに広げた話の風呂敷はちゃんと畳めるのだろうか……。それに心理描写の語彙力ががが……。
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