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アルマロスinゼロの使い魔

作者:蜜柑ブタ
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第十二話  封印されていた、魔

 
前書き
トリスティンへの帰還。

オリジナルの堕天使登場。 

 
 シルフィードは、トリスティン城の中庭に着地した。
 途端、周りに城の兵達が取り囲んだ。
「杖を捨てろ!」
 するとルイズがシルフィードから降りた。
「私は、ラ・ヴァリエールが三女、ルイズ・フランソワーズです。姫様にお取次ぎを願いたい。」
「要件とは?」
「密命なので言えません。」
「では、陛下への取次ぐわけにはいかぬ。」
「フオオオン?」
「うわっ! なんだその声は!」
 アルマロスの声に兵の隊長はびっくりした。
「フォン?」
 アルマロスが、やるかのかコラ?っというふうに、バキバキと拳を鳴らした。
「アルマロス! 気が立ってるのは分かるけど落ち着いて!」
 ルイズがアルマロスを止めた。
「ルイズ!」
 そこへアンリエッタが現れた。
「姫様!」
「ああ、無事に戻ってきたのですね!」
 二人はヒシッと抱き合った。
 兵達は、それを見て呆気にとられた。
「件の手紙は無事、この通りでございます。」
 ルイズは、シャツのポケットからそっと手紙を見せた。
 アンリエッタは、涙を浮かべ、ルイズの手を固く握った。
「やはり、あなたはわたくしの一番のお友達ですわ。」
「もったいないお言葉です。姫様。」
 しかしウェールズの姿がないことに気付いたアンリエッタは、顔を曇らせた。
「ウェールズ様は…。父王に殉じられたのですね。」
 ルイズは深く頷いた。
 本当は、ワルドに殺されたのだが、どちらにせよ彼は…。
「ワルド子爵は?」
「……ワルドは、裏切り者だったのです。姫様。」
「えっ…?」
 アンリエッタは、驚いたが、他の兵達の視線に気づき、彼らは自分の客人だと説明して、城に招いた。
 タバサ、キュルケ、ギーシュを謁見の間に残し、アンリエッタは、自室にルイズとアルマロスを招き入れた。
 ルイズは、アンリエッタの質問に答えていった。
 道中、キュルケ達と合流したこと。
 アルビオンへ向かう途中の船に乗ったら、空賊に襲われたこと。
 その空賊がウェールズ皇太子だったこと。
 ウェールズの亡命を勧めたが、断られたこと。
 そして……、ウェールズが結婚式の最中にワルドによって殺されたことを語った。
 アンリエッタは、悲嘆にくれた。無事にゲルマニアとの同盟は保たれたが、やはり愛する人を失った悲しみは拭い去れるものではない。ましてや永遠の愛を誓った相手なのだ。
 おまけに使者として送った信頼する男が裏切り者だったときたものだ。泣きっ面に蜂である。
「わたくしより名誉が大事だったのかしら?」
「フォオオン。」
 アルマロスは、それは違うと首を振った。
「姫様、皇太子は、きっと姫様に迷惑をかけたくないから、アルビオンに残ったのだと思います。」
「わたくしのため?」
「亡命してしまったら、同盟が崩れてしまうと思ったのでしょう…。」
 ルイズは、アルマロスを見上げた。アルマロスは、頷いた。
 アンリエッタは、深く息を吐き。
「……残された女はどうしたらよいのでしょう?」
「私がもっと強く説得していれば…。」
「いいのよ、ルイズ。あなたは立派に役目を果たしました。それに私は、ウェールズ様に亡命を勧めて欲しいなんて言っていないのですから。」
 それからアンリエッタはにっこり笑った。
 自分の婚姻の妨げは防がれた。
 ゲルマニアとの同盟は結ばれ、アルビオンはそう簡単には攻めてはこないだろう。危機は去ったのだと告げた。
 ルイズは、右手の薬指から水のルビーを外した。
「姫様、これ、お返しします。」
「いいの、ルイズ。それはさしあげます。せめてものお礼です。」
「ですが…。」
「いいからとっておきなさい。」
 ルイズは、頷き、水のルビーを再び指にはめた。
「フオォォン。」
 アルマロスは、風のルビーをアンリエッタに渡した。
「これは、風のルビー! どうしてこれを!」
「……。」
「そうですか…。」
 黙っているアルマロスの様子に、アンリエッタは何か悟ったのか、哀し気に表情を曇らせ、風のルビーを指にはめ、呪文を唱えた。するとブカブカだった指輪が彼女の指にぴったりのサイズになった。
「優しい使い魔さん…、ありがとうございます。私は、勇敢に生きていこうと思います。本当に、ありがとう。」
 哀しそうな、寂しそうな笑みを浮かべたアンリエッタは、風のルビーを撫でながらそう言った。





***





 トリスティン城から魔法学院に戻る空の上。
 ずっと黙っているルイズとアルマロスに、キュルケが任務の内容についてなんやかんや聞いていた。
 だが二人とも答えなかった。
「あれだけ手伝わせておいて、教えてくれないのぉ?」
 キュルケがついてきたのは、彼女の勝手なのだが…、っとアルマロスは思ったが、言う気は起きなかった。
「おまけにあの子爵が裏切り者だったなんて。でもダーリンが倒したんでしょ?」
「フォオン。」
「結局どんな任務だったの?」
 アルマロスは口をつぐんだ。
 キュルケは、ギーシュを見た。
 ギーシュは、自分は知らないと首を振った。
 取り戻してほしいと言われた手紙の内容までは彼は知らないのだ。
 キュルケは、ブーブー文句を言ってタバサにも意見を求めたが、タバサは興味なさげに本を読んでいるだけだった。
 ルイズは、ソッとアルマロスに身体を預けるように身を寄せた。
 アルマロスは、何も言わず、ルイズの肩を抱いた。
 ひんやりした温度のない手。けれどとても優しい手。
 アルマロスの顔を見上げると、どこか憂いを帯びた、もの思いにふけるているような顔をしていた。
「なぁにぃ!? ダーリンってばルイズとできてたの!?」
「ち、ちがうわよ!」
「フォっ!?」
「ぎゃっ!」
 キュルケが悲鳴じみた言葉をあげたため赤面したルイズは、咄嗟に、勢いでアルマロスを突き飛ばしていた。
 突き飛ばした結果、ギーシュが巻き込まれ、二人は風竜から落ちてしまった。
 ギーシュは、悲鳴を上げながらなんとか途中でレビテーションを唱えたが、魔法が使えないアルマロスは、空中で体制を整え、地面に着地した。結構な高さがあったため、足が地面にめり込む。
「あ、ああああ、アルマロスゥゥゥゥ!!」
「ダーーーリーーーン!」
「無事。」
 ルイズとキュルケは顔を青くさせて叫んだ。誰もギーシュの心配はしなかった。


「フォオオン?」
「ああ、大丈夫だよ。君こそ大丈夫かね?」
 自分は大丈夫だと、アルマロスは身振り手振りで伝えた。
「しかしあの高さから落ちて平気なんて、本当に君人間じゃないんだね?」
「フォオン。」
「その声といいね…。」
 アルマロスは、自分が堕天使だと打ち明けるべきかと考えたがルイズがあまり言うなと言っていたので、言わないでおくことにした。
「ところで君。」
「フォ?」
「姫殿下は…、僕のことで何か言ってなかったかね?」
 ギーシュが造花の杖をいじりながら聞いてきた。
 アルマロスは、困った。アンリエッタとの会話に、ギーシュのギの字も出てこなかったただなんて…。
 アルマロスは、それを表情に出してしまっていたため、ギーシュは目に見えて落ち込んだ。
「そうか…、僕は姫殿下のおめがに叶わなかったのか…。」
「フォオオン…。」
 ギーシュの肩を、アルマロスはポンポンと叩いて励ました。
 二人は仲良く魔法学院まで歩いた。

 一陣の冷たい風が吹き。
 アルマロスは、ふと顔を上げた。
 だが気のせいだと思い、視線を前に戻した。





***





 ニューカッスル城は、惨い、の一言に尽きる惨状となっていた。
 傭兵達は、その城の跡地から、宝石や装飾品などをみつけるたびに大はしゃぎしていた。
 傭兵はやがて、礼拝堂だったであろう場所を見つけ、またお宝がないか探りだした。
 彼らの足元に、ドロリッとした土留め色の液体が広がった。
 彼らはそれが血ではないことに気付いたが気にも留めなかった。
 それはやがてボコボコと沸騰し、突如、傭兵達の足に絡みついた。
「ひっ!?」
 悲鳴を上げた時にはすでに遅く、足に絡みついた液体が、彼らの体を丸呑みにしていた。そこにいた傭兵達は、液体の中にゴポンっと飲み込まれ姿を消した。

『………無様な…。』

 地の底から上がるような低い声がどこからか聞こえて来た。
『目覚めてみればなんと醜いことよ……。忌々しいアルビオンの王族どもめ…、この我を封印し続けておきながら最後はこの様か…。』
 液体がゴボゴボと泡立った。
「おお…、そこにおられたのですね?」
 そこへ一人の男がやってきた。
『誰だ?』
「失礼しました。」
 男は恭しく跪いた。
「私は、オリヴァー・クロムウェル。レコン・キスタの総司令を務める者です。」
『そのような男が、我に、何用だ?』
「何を言っておられるのです? あなたはこのアルビオンの真の守護たる存在であるのになぜぞんざいにできましょう。」
『ククク…、我を守護だと? 我はこの世界の神により、名を奪われし、無様な堕天使よ。確かにこの大陸は我がかつて支配していた地ではあるが、すでにお前達人間ものではないか。』
「そのようなことを言われないでくだされ。あなたは、封印されてなおその力はご健在でしょう。アルビオンの大陸が浮かんでいるのがその証拠ではありませんか!」
『……アルビオンの王族の祖は、我をこの地に埋め込み、陸地ごと浮かせて我を目覚めから遠ざけんとした。だがその子孫共は己が臣下どもに反旗を翻され、この様…。我がこの手でと思っていたのだが…、ああなんと嘆かわしい…。』
「申し訳ない…。ですが、彼奴らは、名誉ある死を選び、我ら反乱軍に自軍の十倍もの損害を出したのです。彼奴らは、あなたを封印しこの地へ封印した伝説に勝る戦いをしたのです。」
『…ほう? そうか…。しかし忘れられた伝説を知ってるとは、随分と物知りだな?』
「これよりこの地の実質的な統治者となる者として、その大地の知識は知っておかねばなりません。しかし真の支配者はあなただ。」
『ほう? 人間が自ら我に支配を求めるのか?』
「この大地を支える者。あなたこそが真にアルビオンの支配者ではないですか?」
『……いいだろう。』
 土留め色の液体が大きく波打った。
『ならば、我のため、捧げよ。血を、肉を。我を封印せし王族共は滅んだ。代わりに、貴族共の血肉を我に捧げよ。魔の力を操りし、血統は、供物なり。王家の血は、さらに上の極上の供物なり。』
「仰せのままに。」
『その前に聞く。』
「はい。」
『この地に、我の知らぬ天使の気配が残っている。これは、なんだ?』
「さあ…、申し訳ございません。存じ上げません。」
『これは…、恐らくは異界の天使のものだろう。異界より誰が天使を呼んだ? なぜ我から名を奪った神は、その天使を見逃している? その天使はどこへ行った?』
「…申し訳ありません。」
『まあいい……。異界の者ではロクに力を使えんだろう。今は捨て置く。』
「さようですか。」
『では、早速だが、供物を用意せよ。我をこの大地の楔より解き放て。』
「仰せのままに。」

 アルビオンに、冷気の風が吹いた。





***





 魔法学院に戻って、三日。
 アルマロスは、ブルッと震えた。
 誰かに噂でもされたかと、周りをキョロキョロ見渡したが、そんなことはなかった。
 そういえば、アンリエッタが、ゲルマニアに嫁ぐことが正式に発表されたことを思い出した。
 ウェールズを好いていた彼女が、上に立つ者として国を守るためにその身を捧げる。好いた人間と結ばれないのは、上に立つ者の宿命といえるだろう。
 彼は…、ウェールズは、空の上で見守っていてくれているだろうか?
 そんなことを思いながら、空を見上げた。
「アルマロス先生!」
「フォォン。」
 呼ばれてアルマロスは振り返った。
 最近じゃ、そう呼ばれることがしばしばだ。
 ついでに体育の授業じゃ、アルマロスのダンスに魅了された教師が生徒達に教えてやってくれと頭を下げに来るくらいだ。
 アルマロスもできるだけ応えようとした。
 激しいダンスばかりじゃなく、簡単な振り付けから、知っている限りの色んな種類の踊りを披露した。
 どの踊りが一番とかはない。だが思春期の生徒達の多くは、技術点が高い踊りを踊りたがったが、体がついていけず、ほとんどがへばった。
 教えるのはダンスばかりじゃなく、格闘技も教えることもあった。
 メイジは、基本的に詠唱を使い魔や誰かに守ってもらわなければならず、疾風の二つ名を持っていたワルドのように詠唱を素早く行う訓練を行わないとすぐに魔法を妨害されてしまう。まあ、言ってしまえば基本的に肉体的には弱いのだ。
 メイジ殺しなどと呼ばれる鍛え抜かれた平民がいるほどなので、肉体的には平民の方が上であろう。まあ魔法を使えないハンデを乗り越えるために鍛えた結果なのだろうが。
 特に魔法衛士ともなれば、詠唱をしつつ体を動かすという難易度が高い技が要求されるため、普段から体を動かすべきだとオスマンが提唱。結果、格闘技の達人であるアルマロスに白羽の矢が立った。
 だがすぐには格闘技は教えない。まずは基本からと、走らせたり、柔軟をさせたりと、体力づくりと身体づくりから始めたのだが、まあ、生徒達からブーイングが上がった。
 魔法の源である精神力を基本とするメイジ達にとって、体力を使う作業は地獄だったのだ。
 アルマロスは、生徒達の体力の無さに溜息をつかずにいられなかった。
 基本の身体づくりをしないことには、格闘技を教えても怪我をするだけだと主張。それに技を決めることすらできないのだと。
 ダンスだって身体づくりからしないとこれまた怪我をするだけだと、ダンスの教えを乞う生徒達に教えた。
 実際にアルマロスの真似をして、足をくじいたり、肉離れを起こした生徒達が出てしまった。
 基本ができない奴には、教えないっと、アルマロスは心を鬼にして主張した。
 これを聞いた生徒達は、多くが心を改めて基本から始めだした。最初は筋肉痛に悶えていた生徒達も、若さからすぐに慣れ、徐々にだが体ができてくると、自然と技術も上達してくる。それを実感し、彼らはますますアルマロスを酔狂するようになった。
 もちろん、アルマロスに対して反感を持つ者達はいたが、多勢に無勢、アルマロスを慕う者達が多く、表立って批判することができず、影でヒソヒソとしているだけにとどまった。
 中には魔法を使ってアルマロスを妨害しようとした者もいたが、アルマロスに魔法が効かないと分かり、驚愕していた。
 アルマロスが何者なのか?っと疑問視する者達と、何者であろうがどうでもいいっという者達とに別れていった。
 ルイズに直接アルマロスの正体について聞こうとした者達もいたが、ルイズは口をつぐんで何も答えなかった。
 オスマンは、アルマロスが学院のために貢献してくれている以上、無用な詮索はするなと厳戒令を出した。

 アルマロスの最近の身の回りは、こんな感じであった。
 ルイズは、生徒達から慕われるアルマロスを見て、頬を膨らませていた。 
 

 
後書き
最後の方で、アルマロスが魔法学院の体育先生になってます。 
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