永遠の謎
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
188部分:第十二話 朝まだきにその十四
第十二話 朝まだきにその十四
「そしてバイエルンもだ」
「神聖ローマ帝国の中の一国でしたね」
「それは確かだ。だが」
「だが、ですか」
「誇りを失ってはならない」
それが王の考えだった。
「決してだ。それはだ」
「誇りですか」
「臣下になろうとも」
王としてそれも耐え難いことだった。だがそれでも覚悟はしているのだ。
「それでもだ」
「誇りを失わない」
「それが大事なのだ。絶対にだ」
「それで総司令官にもですか」
「わからないか」
タクシスに顔を向けてだ。このことを尋ねた。
「そのことは」
「申し訳ありませんが」
「そうだな。だが」
また言う王だった。
「今はこうするのがいいのだ」
「司令官にはならないことが」
「そうなのだ。そしてだ」
「そして、ですか」
「後は。実際の軍の動きだが」
そのことも考えていた。軍についてもだ。
「そのこともやがてだ」
「その時にまたですか」
「軍の指揮権は私にあるのだ」
王がその国の軍の最高司令官である、これはバイエルンでも同じだ。国家元首が軍の指揮権を持つ、国家として絶対とも言えることだ。
「ならば。それはだ」
「陛下、私には本当に」
「済まない。だがだ」
困惑した顔になったタクシスに謝ってからまた話した。
「ミュンヘンにだな」
「はい、では」
「トリスタンを用意してくれ」
ここであの騎士の名前が出た。
「あの船をだ」
「トリスタンですか」
「あの船に乗りそうして戻るとしよう」
トリスタンの名前には笑顔を見せる。微かな笑顔を。
「そうするとしよう」
「トリスタンですね」
「あの船はいいものだ」
微笑みをそのままにして話す王だった。
「あの騎士と共にいられるのだからな」
「それに乗りミュンヘンまで」
「戻ろう。せめてあの騎士のことを想いながら」
帰るというのである。そうしてだった。
王は踵を返した。湖に背を向けた。
そのうえで湖のほとりを後にする。そうしてであった。
王はミュンヘンに戻った。そのミュンヘンではだ。
男爵がだ。部下からこの話を受けていた。
「馬丁官の交代か」
「はい、どうされますか?」
部下にだ。宮廷の人事について問われていたのである。
「誰にされますか?」
「そうだな。ここは宮廷を知っている者がいいだろう」
「宮廷をですか」
「その方がいい。今は陛下の御心を安んじることが大事だ」
それを重く見て宮廷を知っている者がいいというのである。彼は確かにワーグナーに好意的ではなかった。だがそれでもなのだった。
王への忠誠はある。だからこそなのであった。
「できれば幼い頃からな」
「宮廷を知っている者ですか」
「その者がいい」
こう部下に話す。
「それではだ。誰にすべきか」
「そうですね。ここは」
部下がここで言った。
「ホルニヒはどうでしょうか」
「ホルニヒ?というと」
「はい、息子のホルニヒです」
この名前をだ。男爵に話すのだった。
「彼はどうでしょう」
「リヒャルト=ホルニヒか」
男爵はそのフルネームを口にした。彼もまた知っている者だった。
「彼だな」
「はい、彼はどうでしょうか」
こうだ。部下も男爵に対して薦める。
「真面目な性格ですし」
「そうだな。いいな」
男爵もだ。彼でいいというのであった。
考える顔になってだ。彼はまた言った。
「彼でな」
「はい、わかりました。それでは」
こうしてであった。そのホルニヒが王の馬丁官になった。そうなったのである。これもまた、だ。運命の出会いの一つであった。
第十二話 完
2011・2・27
ページ上へ戻る