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大碓命

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第二章

「朝廷の従わぬ者達を征せよと」
「そうか、ではそのことに励め」
「そうさせてもらいます」
「私は私のすべきことをする」
「この日本の為に」
「そうする」
 小碓皇子にそう言われてだ、大碓皇子は美濃に下られた。そうして美濃にご家族と共に居を構えられてだ。
 美濃の政に精を出されだされた、そして。
 熱心に政をされた、そうして長い歳月美濃の田畑や治水に励まれたがふとだった。
 大和から来た者に言われてだ、皇子は仰天された。
「私がか」
「はい、死んだとです」
 その者は皇子にその居で話をした。
「言われています」
「馬鹿な、私はこうしてだ」
 皇子は仰天されたまま言われた。
「生きている、そしてだ」
「この美濃を治められていますね」
「そうだ、そなたの目の前にいるのは誰だ」
「大碓皇子です」
 その者も確かに答えた。
「紛れもなく」
「そうであるな」
「しかしです」
「大和ではか」
「皇子が亡くなられたとです」
「言われているか」
「そう言う者もいます」
「訳がわからぬ」
 皇子はようやく落ち着かれた、だが憤懣やるかたないといったお顔でこう言われた。
「私はこの通り生きているが」
「しかしです」
「その様にか、大和では」
「言われてもいます」
「どういうことなのだ」
 また言われた皇子だった。
「このことは」
「どうも皇子が大和におられなくなったので」
「この美濃に入ったからか」
「その様な話になったかと」
「全く、妙な話じゃな」
 皇子は今はこう言われただけだった、だが次に美濃に来た者は今度はこんな話をした。皇子のそのお姿を見て。
「まことに生きておられるとは」
「またその話か」
「はい、皇子は亡くなられたとです」
「大和で噂になっておってか」
「美濃におられるとの話の方が」
 真実であるそちらの方がというのだ。
「嘘ではとです」
「言われておるのじゃな」
「はい」
 まさにというのだ。
「その様に」
「全く、しかしな」
「皇子は現にですね」
「お主の前におるな」
「左様です」
 その者は皇子にはっきりと答えた。
「あちらでは殺されたとさえ言われておるが」
「何っ、殺されたと」
 皇子もその話には驚きの声を挙げられた、それは死んだと言われていた時よりもずっと大きな声であった。
「私がか」
「そうして死んだと言われています」
「物騒な話になっておるな」
 皇子は眉を思いきり顰めさせてその者に言われた。
「それはまた」
「はい、それも小碓皇子にです」
「弟にか、双子の」
「そうです、あの方に帝の言うことに従わなかったと怒られ」
 そしてというのだ。
「握り潰され手足を引き千切られ」
「随分酷い殺され方であるな」
「最後は薦に包まれて」
 そうされてというのだ。 
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