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BLUE OCEAN

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第一章

               BLUE OCEAN
 もう嫌になっていた、それで私は暗い鉛みたいな空を見つつ彼に言った。
「この季節はいつもだけれど」
「天気が悪いから?」
「もうお天気がよくて暖かくて」
 それでとだ、私は冬の東京の空を見つつ彼にさらに話した。
「海も青くて澄んだ」
「そうしたところに行きたいんだ」
「ええ、今はお仕事が忙しいから仕方ないけれど」
 それはもうわかっている、私も彼も今はお仕事が立て込んでいて東京から離れるとか想像も出来ない。
 けれどこのことはずっとじゃない、それで彼に一緒に通勤しつつ電車の中で話しているのだ。もう朝からお空は暗く重い感じで嫌になっているのだ。
「今度有給取ってよ」
「お互い仕事が暇になったら」
「そうしない?何処から晴れていて暖かくて」
 そうしてだ。
「海が澄んでいる」
「今の季節関東もね」
 東京だけじゃなくそれこそ関東全域がだ。
「何処も天気が悪くて」
「海も、でしょ」
「荒れてて色も暗いよ」
「海まで鉛みたいじゃない」
 まさに冬の海だ、夏は爽やかな湘南や九十九里の海もすっかり沈んでいて行っても何も面白くない。
「それじゃあね」
「何処かに行きたいんだ」
「それもすぐにね」
 今はお互い忙しいから無理だとわかっていてもだ。
「そう思ってるわ」
「それじゃあね」
 彼は私の言葉を聞いて言ってきた。
「東京の青い海に行こうか」
「東京の?」
「うん、東京のね」
 まさにそこにというのだ。
「そうしようか、今度の日曜に」
「日曜はね」
 私も彼も休日出勤はない職場なのでその曜日は問題なかった。
「別にね」
「そうだよね、じゃあね」
「日曜になの」
「青い海を観に行こうか」
「そう言うけれど」
 私は満員電車の中で向かい合って立っている彼に言った、正直もうこの満員電車も慣れるとどうということはない。
「それでもよ」
「今の東京にはだよね」
「ある筈ないじゃない」
 それでこう言っているのだ、何処か暖かい海が奇麗な場所に行きたいと。もっと言えば空も澄んでいる場所にだ。
「今の季節だと」
「それがあるんだよ」
 彼は私に笑って話した。
「今の東京にもね」
「それは何処なの?」
「日曜一緒に行こう、まあ君も知ってる場所だよ」
「私もなの」
「日本人なら誰でも知ってるよ」
 そうした場所だとだ、私に笑ったまま話した。
「そこに行こうね」
「何かわからないけれど」
 正直彼が言っていることが全くわからなかった、東京には大学からこっちに来たけれどある程度は知っているつもりだ。二十三区の場所は全てわかっているし有名な場所もこれまで一通り観てきている。東京タワーは傍で見た。
 けれど私と同じく大学から東京に来て大学で知り合ってから同居している彼はこう言うのだった。
「日曜にわかるよ」
「そうなのね」
「そう、日曜にね」
「わかったわ、じゃあ日曜にね」
「青い海を観に行こうね」
 こう話してそうしてだった。私達はその日曜に東京にある青い海を観に行くことになった、そしてその日曜だ。 
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