ダンジョン飯で、IF 長編版
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第三十話 ドラゴンキメラ
前書き
ドラゴンキメラ登場。
戦い方などは、ファリン・ドラゴンキメラとは異なります。
ライオス…、いや、ドラゴンキメラは、シュローのパーティーメンバーの忍者を捨て、マイヅルを前足で掴んだまま、屋根から地上に降りてきた。その際にマイヅルを踏み潰した。
ライオスの上半身はほぼそのままに(服の隙間に羽毛が確認される)、少しドラゴンの鱗が入った鳥のような大きな翼にはドラゴンの爪があり、人間の上半身の何周りも大きな下半身は、四本足で、腿はドラゴン、ドラゴンの尻尾、腿は鱗と羽毛が絶妙に混ざり、身体部分は羽毛よりは鱗が多く、かなり筋肉質で骨格も強靱そうだ。
「ライオス? ライオスなの!? 私のことが分かる!?」
「よせ、マルシル!」
駆け寄ろうとするマルシルをチルチャックが止めた。
「ファリン、シュロー! どうする!? 指示を出せ!」
チルチャックの呼びかけでハッとしたシュローが、指示を出した。
「イヌタデ! 彼を傷つけるな! 取り押さえるんだ!」
「あう…。うええ?」
シュローからの無茶な指示にパーティーメンバーは困惑した。
カブルーのパーティーメンバーである、コボルトとドワーフが左右からドラゴンキメラに襲いかかった。
ドラゴンキメラは上体を馬のように上げ、それを避けた。
二人の背後からハーピーが襲いかかる。カブルーの仲間のドワーフとコボルトは、そちらに完全に気を取られた。
ドラゴンキメラは、後ろに飛び退き、ハーピー達が陣形を取って前に出た。
「な…、魔物が…陣形を取ってる!?」
それは、まるで冒険者パーティーが戦うときのようなそんな陣形だった。
それに気づいたチルチャックが声を上げた。
ドラゴンキメラが、フワリッと微笑む。
次の瞬間、別の建物の上にいたハーピーが降ってきてカブルーメンバーの回復役であるノーム・ホルムを襲った。
「うわわ!」
間一髪でカブルーがホルムを守った。
シュローの指示を守りつつ、イヌタデがドラゴンキメラに襲いかかるが、ハーピーが立ちはだかる。
それに一瞬止まったイヌタデの真上から、ドラゴンキメラの強靱な尻尾が振り下ろされ、イヌタデは潰された。
「ら、ライオス…!」
シュローがライオスを呼ぶが、ライオス・ドラゴンキメラは、聞かず、クスクスと笑っているように見えた。
「ホルム、やれるか?」
「う、うん。で、出ておいで。」
するとホルムは、水筒から水を出した。
水は、空中に浮き、水球になった。ウンディーネだ。
カブルーの仲間であるドワーフがハーピーに襲われている背後から、ライオス・ドラゴンキメラがその首を掴んで持ち上げた。
その首をギリギリを絞めている最中、ウンディーネが水の弾丸がライオス・ドラゴンキメラに撃った。
ドラゴンの鱗が入った大きな翼に当たり、わずかにライオス・ドラゴンキメラがたじろいた。その拍子に、ドワーフの首が折れて地面に落とされた。
「ライオス!」
「ウンディーネ…! あれは、あなたが操ってるの? お願い、やめさせて! 彼は混乱しているだけなの!」
「いい加減にしろよ。」
カブルーが言った。
「あんた達の大事な人を守るためなら、何人犠牲にしようが構わないか。あれは、もう『彼』じゃない! ただの魔物だ!!」
それを聞いて、呆然としていたファリンがビクッと震えた。
ウンディーネの攻撃はなお続いている。
しかし、体の大半が鳥の羽とドラゴンの鱗で覆われた体は、ウンディーネの攻撃をも防ぐ。
やがて、ライオス・ドラゴンキメラが、手をかざした。
そして、呪文唱え出す。
「ライオスが…、魔法を!?」
魔法が使えないはずのライオスが呪文唱えだしたことに、マルシル達は驚いた。
そしてかざした手を宙に浮いているウンディーネに突っ込むと、魔法を発動し、ウンディーネを蒸発させた。
「ああ…、マリリエ…。」
「魔法も唱えるのか。」
やがてライオス・ドラゴンキメラが、ハーピー達に襲われているカブルーの仲間のコボルトに目を向けた。
そして、前足を振り上げ、それに応えたハーピー達が飛び退いた瞬間、コボルトを踏み潰した。
「わああ! クロ!」
「よせ、バカ! 隠れてろ!」
そこへハーピーが襲いかかろうと飛びかかってきた。
シュローが間に入ってハーピー達を切り伏せた。
「くそ…、こいつら…、まさかアイツが指示を…!?」
すると、ライオス・ドラゴンキメラが左腕を上げた。
ハーピー達がそれに応えるように動き出し、陣形を組み、第一陣、第二陣と続けざまに襲いかかってきた。魔法使い達に。
「えっ! うそ、うそ! 私!?」
「きゃああ!」
「リン!」
「わああああ!」
「ホルム!」
シュローやカブルー達は、魔法使い達を守るのに必死でライオス・ドラゴンキメラに攻撃することが出来なかった。
倒されると困る人間ばかり襲ってくることに、チルチャックは気づいた。
「まさか、アイツ……。」
チルチャックは、ゾッとしてライオス・ドラゴンキメラを見た。
ライオス・ドラゴンキメラは、無表情でハーピー達の陣形に襲われるチルチャック達を見つめている。
ライオスは、冒険者パーティーのリーダーだった。
この今までになかった魔物の陣形が、そして攻撃の仕方が、その経験が魔物側に生かされた結果によるものだとしたら…。
「やべぇものができあがったってこったろ…。どうすんだよ…。」
青ざめたチルチャックが額を押さえた。
「リン! 頼むぞ!」
カブルーがハーピー達を牽制しながら、リンという魔法使いに詠唱をさせる。
「おい、気をつけろ!」
「はっ?」
次の瞬間、カブルーが手にしていた剣が消えた。
「だーー! 言わんこっちゃねえ! 大ガエルだ!」
「あっ!」
見ると、ハーピー達の間に、大ガエルがいて、大ガエルの舌にカブルーの剣がひっついていた。
センシがその大ガエルに斧を振り下ろして、倒し、剣を奪い返してカブルーに投げて渡した。
「すまない!」
「ぬう!」
続けざまに別の大ガエルが現れ、センシが手にしている斧を狙う。
「やべーよ、やべーよ…!」
チルチャックが青ざめ頭を抱える。
こんなこと、初めてだ。
他の魔物がつるんで行動するなど…、そうでなくてもハーピーが冒険者パーティーのように陣形を取っているだけでも異常なのに。
死ぬ!
このままでは、全滅だ!
最悪の結末が思い浮かんだ時だった。
「……兄さん。」
ファリンが一歩前に出た。
すると、ハーピー達が、まるで道を空けるようにどいた。
それを見てカブルーは、目を見開いた。
「どいて!」
次の瞬間、リンの魔法が完成し、稲妻がライオス・ドラゴンキメラとハーピー達に炸裂した。
バタバタと倒れるハーピー達。大ガエルも焦げて倒れた。
ライオス・ドラゴンキメラは、ガクリッと人間の上体を垂れさせた。身体から煙が出る。
「兄さん!」
ファリンが駆け寄る。
するとファリンが持っていた動く鎧の剣が震えた。
「兄さん…、ごめんなさい…。ごめんなさい!」
必死になって、ファリンは、ライオスに手を伸ばした。
「……私が、変わってあげられたら…よかったのに…。ごめんなさい…。ごめんなさい…。」
ファリンは、ボロボロと泣きながら、剣を抜いた。
「今…、楽に……。」
ファリンが、泣きながら刃をライオスに向けようとしたときだった。
スッと顔を上げたライオスの目が、ファリンを映した。
「ファリン。」
ライオス・ドラゴンキメラは、優しく微笑みなら、ファリンの名前をしっかり、はっきりと呼んだ。
ビクッと固まったファリンの頬に、ライオス・ドラゴンキメラが手を伸ばして優しく撫でた。
「兄さ……。」
しかし、次の瞬間。
カブルーがファリンの首を羽交い締めにして、引き離し、剣を突きつけた。
ビクンッと表情を失い、目を見開いて固まるライオス・ドラゴンキメラの左胸に、カブルーが剣で突き刺した。
「ライオスーーー!!」
シュローが絶叫した。
ファリンを捕まえたまま、カブルーは、胸、腎臓、首と、次々に人間体の急所(?)を狙って突き刺した。
ライオスがゴボリッと血を吐いた。
「い…、いやああああああああああ!!」
ファリンがカブルーを振り払ってライオス・ドラゴンキメラに抱きつこうとした。
すると、ライオス・ドラゴンキメラは、一歩退き、そして飛んだ。
それと共に、残っていたハーピー達も、飛び、ライオス・ドラゴンキメラと共に、建物の屋根を登って、飛び去っていった。
「…兄さん……。」
ファリンは、その姿を目で追いながら、両膝をついた。
***
ライオス・ドラゴンキメラとハーピー達が去り、静寂がおとずれた。
しかしこのままでは、他の魔物に襲われかねないので、すぐに蘇生が始まった。
まず、カブルーの指示を受けてホルムが、マイヅルを生き返らせる。
マルシルが治療を手伝うと言い出すと、シュローが止めた。
「お前は、指一本触れるな、マルシル。これ以上お前に黒魔術を使わせるわけにはいかん。」
「そ、そんなもの使わな…。」
「では、アレはなんだ!?」
シュローが怒鳴った。
「なぜ、ライオスがあんな姿に!? お前が竜の肉を使い黒魔術を用いたせいだろう!」
「違う……。そんなはずない。あの魔術にそんな力はない!」
でも…っと、マルシルは言った。
「炎竜の魂に何か術が仕掛けられてて、ライオスと竜の魂が混ざり、狂乱の魔術師によって、あんな姿に……。」
「シュロー。マルシルのせいじゃないわ。」
「こいつを、西のエルフに引き渡す。」
ファリンの言葉を無視してシュローが言った。
「俺には…、アレを殺せない。だがあのまま放置するわけにもいかない。せめて、魂だけでも迷宮から解放し、彼を安らかにしてやりたい。」
「そんな…。」
「エルフ達ならその手段を知っているはずだ。西のエルフ達の前で全てを打ち明けろ。」
「シュロー……、同じ事をしたかもしれないあなたが、それを言うの?」
「っ…、俺は…!」
「あなたは、きっと同じ事をしたわ。もし同じことをして、あなたは、自分の仲間に同じ事を言える?」
ファリンは、冷たく言葉を続けながら、マイヅル達を見渡した。
「夜な夜な……、寝静まった兄さんに、キスしてたあなたが……!」
「はあ!?」
それを聞いたチルチャックとマルシルが驚いて声を上げた。
「しゅ、シュロー、おまえ、ファリンが好きだったんじゃ…? ……、ま、まさか…。」
チルチャックは、驚きながら、だがすぐに察して、シュローとファリンを交互に見た。
シュローは、項垂れ、観念したように言い出した。
「そうだ。チルチャック……、俺は…、男女関係なく好きになる質なんだ。」
「バイ(※バイセクシャル)かよ!?」
「もしかして、あの晩の喧嘩って…。」
「……ファリンに、ライオスが好きだったことを責められて…。」
マルシルの言葉に、シュローはそう答えた。
「そりゃ、兄貴が振り向かねぇからって、その妹を口説いてちゃ怒られるって。」
チルチャックは、呆れたと言わんばかりに頭をかいた。マルシルは、言葉を失って放心していた。
ライオスは、かなり鈍い。正直、長らく同じパーティーメンバーであったチルチャック達ですら呆れるほどの社交的能力の欠けた人間だった。そんな彼が、あくまでも友人としてしか見ていないシュローから恋愛的な意味で好きだと思われてても気づかないだろう。
「あのときは、すまなかった、ファリン…。でも、俺は…まだ……。」
「やっぱり、殺しておくべきだった。」
ファリンが、杖の先をシュローの首に突きつけた。
「ファリン!」
「坊ちゃん!」
「よせ!」
武器を向けようとしたマイヅル達を、シュローが制した。
ファリンは、シュローを睨み、シュローは、そんなファリンの視線をまっすぐ受け止めた。
「ファリン…、俺は、ライオスのことも好きだが、君のことも好きなんだ…。」
「ええ。知ってるわ。この…贅沢者…。」
「ああ…。そうだ、俺はこういう奴なんだ。」
「兄さんは、殺させない。」
「だが、どうするんだ? あんな姿になってしまったら…!」
「もっと、別の方法があるはずよ。」
「どんな方法があるって言うんだ!」
「狂乱の魔術師を倒す!!」
ファリンが叫んだ。
「あの炎竜は、明らかに何かを命令されて動いていたわ。そんなことができるのは、この迷宮を作った魔術師以外にいない! なら、魔術師を倒して命令を書き換えればいい! マルシルならできるわ。だからマルシルは、渡さない!」
「ふ、ふざけるのも大概にするんだ! いいか、ファリン! 君はあまりにもアイツに依存しすぎている! どうしてそこまでアイツに…。君にとって唯一無二の兄だとしても、あまりにも…。」
次の瞬間、シュローは、ファリンにビンタされた。
「…ふざけてないわ。」
呆然とするシュローに、ファリンは言った。
「あなたに…、何が分かるの?」
ファリンは、冷たい声で言う。
「物心ついたときから……、ただ幽霊が見えるってだけで、家族以外からまともに見てもらえず、兄さん以外にこの力を褒めてもらえず、やっと見つけたこの居場所…。兄さんはずっと褒めてくれた。あなたは、一緒になって故郷に帰らないかって言ったわね。あなたは、確かに頼りにはしてくれたけど、それだけ。あなたは、兄さんにはなれない。兄さんは兄さんよ。私の気持ちは、私だけのモノ。あなたがどうこうする権利も言われもない。私がやることに、とやかく言う資格もない!!」
ファリンは、再びシュローを叩いた。
「私のことを想うのなら! 私から居場所を奪わないで!!」
「ふぁ、ファリン…。」
「私は、ずっと本気だったわ。ずっと、三食しっかり食べて、睡眠を取って、ずっと、本気で兄さんを助けるために本気だった! 私は、必ず狂乱の魔術師を倒す! 絶対にライオス兄さんを助け出す! シュロー、あなたは、地上に戻って。そしてご飯食べて、風呂には行って、寝て。そうしないと、あなたは、何も出来ないわ。」
ファリンは、そこまで言うと、杖を降ろして、シュローに背中を向けた。
「ほら。」
するとセンシが、マイヅルが作った食事を差し出してきた。
俯いていたシュローは、おにぎりをひとつ手に取り、食べた。
「…うまい…。」
シュローは、米をかみしめ、そう呟き、涙をひとしずく落とした。
後書き
ライオス・ドラゴンキメラの設定
・身体の構造は、ファリン・ドラゴンキメラとほぼ同等。ドラゴンの鱗部分が多少多く、筋肉質。
・そのぶん、防御力も高めで、力も強い。
・引き連れている魔物に指示を出し、連携を組んで攻撃を行う。
・武器の扱いができる。
・またライオスがギルドのリーダーだった知識が魔物側に生かされ、誰を殺せば相手が困るのかを見破って攻撃を行ってくる。
・魔法も扱えるが、そこまで得意とは言えない。
・人語も解するが、レッドドラゴンの意識が強く話を聞かない。だがライオスの意識もあり、ファリンにのみ攻撃を躊躇する。
シュローをバイ(バイセクシャル)にしたのは、原作じゃ嫌われてたので、逆に好意を持ったらこうなってしまったんです…。
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