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ダンジョン飯で、IF 長編版

作者:蜜柑ブタ
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第二十九話  ファリンとシュロー

 
前書き
ファリンとシュローの会話。

そして……。 

 
「…つまり、シュローも結構前からこの階層にいたのね。」
「ああ。同じ場所を堂々巡りをして、抜けたと思ったら入り口だ。」
「私達も散々迷ったわ。」
 妙な緊張が走ったまま会話は続く。
「でも、チルチャックが変動の法則を見つけてくれた。」
「そうか…。」
「にしてもシュロー…、おまえ…。あれが例のツテかよっ!」
 チルチャックが、にやけ顔で言った。
 シュローの新しいパーティーメンバーは、女性ばかりだった。
「いい身分だな!」
「ただの身内だ…。」
 シュローは、ファリンを見た。
 ファリンは、ぷいっとそっぷを向いた。
「その…、パーティーを抜けて悪かった。」
「別に。もう過ぎた事よ。」
「ファリン…。」
「名前を、呼ばないで。」
 ファリンの声に棘があった。
「できうることなら、あなたとは会いたくなかったわ。」
「…すまない。」
 ギロリッとシュローを見るファリンと、シュンッと項垂れるシュロー。
 そんな二人の様子に、チルチャックとマルシルは、ハラハラとしていた。
「しかし、まさか…、あの後すぐに、迷宮に潜るとは…、少々軽率では? また誰かが負傷したらどうするつもりだったんだ?」
「お言葉ですけど。この四人で炎竜を倒したんだから!」
「な……。」
「炎竜を……。」
「そ、それで! ライオスは!? っ…。」
 その瞬間、シュローは、フラリッと膝をついた。
「シュロー?」
「坊ちゃん! 後生ですからちゃんと食事と睡眠をとってください! このままではお体がもちません…。」
 マイヅルという袖が羽根の女性がシュローを介抱した。
「そんな無茶して……。」
「だからそんなやつれてたのかよ。」
「食事と睡眠は取った方が良い。」
「そんな暇は…。」
 センシの言葉にシュローはそう答えた。
「ショロー。食事と睡眠は、暇だから取る物じゃないわ。」
 ファリンがシュローに言った。
「睡眠を取って、食事をしないと。生き物はね、ようやくやりたいことができるようになるの。何か食べたら? その間に今までのことを話すわ。」
「……分かった。何か用意してくれ、マイヅル。」
「! はい!」
 マイヅルは、嬉しそうに頬を染めていた。





***





 人が多いとよくない。これは迷宮を探索する上で重要なポイントである。
 例えば、魔物を呼び寄せてしまったり、変動を招いてしまったりするのだ。
 大人数で探索できるなら、それに越したことはないが、一定人数でパーティーを組まなければならないのは、そのせいだ。
 そのため、三組ほどに分かれた。
「それで…、炎竜を倒して、どうしたんだ?」
 ファリンは、シュローとカブルーとで組んだ。
 ファリンは、少し黙り、そして語り出した。
「炎竜を倒して、ライオス兄さんを体内から見つけたわ。」
「それで?」
「けど……、帰りに狂乱の魔術師が現れてはぐれた。」
「!?」
「これ以上は、私達の手に負えないから、補給と救援を求めるために一度地上に戻ることにしたの。」
「あの…、質問いいですか?」
 カブルーが挙手した。
「狂乱の魔術師って、この迷宮を作ったという存在ですよね? 噂や存在は囁かれるものの、実際に見て戻ってきた人間はいない。なぜ、狂乱の魔術師だと?」
「それは……、言動がそれっぽかったのと、古代魔術を使ってたから。」
「古代魔術というと、黒魔術を?」
「ええ。本を開くだけで魔物を作り出して襲ってきた。あんな技…、見たことない。」
「なるほど。で、どうやってその場を免れたんです?」
「それは、仲間が頑張ってくれたから。私は気絶してたから具体的には知らないけど。」
「気絶してたとは?」
「兄さんに…、みぞおちをやられて。」
「? なぜ?」
「兄さんの様子がおかしかった。」
 ファリンは、うつむいた。
「どうおかしかったんです?」
「頭を抱えて、ブツブツと、分からないこと呟いてた…。魔術師が何かしたのか…、それとも…。」
「それとも?」
「蘇生の時に、何かあったのかも…。」
 ファリンがそう言うと、シュローがファリンの肩を掴んだ。
「触らないで。」
 ファリンがその手を振り払おうとした。
「何をした…?」
「あなたには、関係ないわ。」
「関係ある!」
 シュローは、ファリンの両肩を掴んだ。
「俺が何のために彼を探していたのか分かっているだろう!?」
「……やっぱり、そうなのね?」
 ファリンの目が鋭くなる。
 ファリンは、杖を握り、シュローの首に先を突きつけた。
「やっぱり、あなたを殺すべきだったかしら?」
「ファリン…!」





***





 食事を作ったマイヅルがやってきた時、部屋の中では大変なことになっていた。
「坊ちゃん!?」
「なぜ、そんなこと!?」
「……ああ、するしかなかった。兄さんは、もう、自力で回復する力はなかった。確実性を求めるなら、それしかなかったのよ。」
「だからと言って!」
「ええい! 何があったのだ!?」
「すみません。僕達は何も。」
「黒魔術だ。」
 黒子姿の女性・アセビが言った。
「こいつ、黒魔術を使って、魔物の血肉で、男を蘇生した。」
「!?」
「責任は…、私にあるわ。」
「黒魔術に関わった者……、理由や程度の差は関係ない! すべて大罪人だ!! 死ぬまで光の届かぬ場所で幽閉され、亡骸すら戻らない。西のエルフ達に知られれば、あいつが…、どんな目にあうか……。」
「迷宮の外に知られれば、でしょう? そして、あなたは、このことを誰にも話したりしない。…でしょう?」
「っ!!」
 シュローがカッとなり、刀を抜いてファリンの肩に置いた。
「……あなたなら、どうしたの? 完全な骨になった兄さんを…、あなたなら、どうした?」
「……それは…。」
「いやー、ほんと。黒魔術なんておぞましいにもほどがある。」
 そこにカブルーが言った。
「そこまでして蘇生するべき人だったんですか?」
 そう言うと、ファリンとシュローがカブルーを見た。
「シュローさんが怒るのも当然ですよ。そんなまっとうじゃない方法使って生き返らせたって。リスクしかないじゃないですか。そのまま死なせた方が、その人にとっても…。」
「やめろ!」
 シュローが怒鳴った。
「言いたいことは分かったから。それ以上はやめてくれ…。」
「……すみません。」
 カブルーは謝った。
「あなたなら、同じ手段を選んだでしょうね。」
 ファリンが言った。
「ファリン…。」
「だって、あなたは……。」

「ファリン! シュロー!」

 そこへチルチャックが駆けてきた。
「まずいぞ! 調理組のところに魔物の群れが突っ込んで……。」
「……そうか。」
「今行くわ。」
「? おい、ファリン?」
「なに?」
「なにをしたんだ?」
 さっさと出て行ってしまったシュローを目で追いつつファリンに聞いた。
「全部話したわ。」
「全部!!??」
「どうせ隠しても無駄だから。」
「どう見ても一番ダメだろー!!!!」
 チルチャックが絶叫した。
「…元気出してください。彼も少し疲れているんですよ。」
「……違うわ。」
「っと言いますと?」
「怒って当たり前よ。私だって、もし彼の立場なら、怒ってたと思うから。」
「…そうですか。」
「それにしても、シュローが、諦めてなかったなんて思わなかった。」
「それは、どういう意味で?」
「彼はね…。兄さんのことを……。」
 二人が部屋を出たとき、何かの笑い声が聞こえていた。
「ハーピー!?」
 無数の人面鳥、ハーピーが、建物の屋根の上にいた。
 シュローのパーティーメンバーや、カブルーのパーティーメンバーが戦っている。
 待機しているマルシルのところに、チルチャックが来た。
「ねえ、チルチャック…、ファリンとシュローの様子が変なんだけど?」
「…あいつ全部話しやがった。」
「えっ!?」
「どうすんだ? あれが地上にバレたら俺達…。」
「分かってる。分かってるけど…。」
 その時、二人の近くにハーピーが落ちた。蜘蛛の糸で絡められており、地上に落ちて首が折れピクピクと痙攣していた。
「シュローは怒っちゃいるが、問題ない。でも、問題は、他の奴らだ。…ちなみに、お前が黒魔術を使った証拠はどの程度残ってる?」
「魔方陣はもうクリーナーによって消えてたし…、ライオスの体と杖を念入りに調べられたらまずいかもってくらい…?」
「じゃあ、杖を燃やせ!」
「待って待って! 言っとくけど、その段階まで疑われたら、もう何やっても手遅れ…。」

 その時。ハーピーではないものが落ちてきた。

 シュローのパーティーメンバーである、忍者の女性が吐血して床に落ちていた。

「わーーーー!」
 カブルーの仲間の一人が悲鳴を上げた。
「なんだ? あの魔物……?」
「ハーピーじゃない?」
 その魔物は、ハーピーの何周りも大きいが……。
 その手に、シュローのパーティーメンバーである、忍者の女性の一人を掴んでいた。
 その魔物が顔を上げた。
「えっ…? ライオス?」
「えっ、えっ? うそ、うそ、うそうそ!?」
 狼狽える者達を後目に、ライオス(?)は、無表情だった。
「ライオ……。」
 シュローは、絶句していた。
「に……兄さん?」


 ハーピーの群れを引き連れた、ライオスの下半身は、ドラゴンと鳥を合せたような大きなキメラの体となっていた。



 
 

 
後書き
ドラゴンキメラ登場。

pixivで知り合った、ほら吹きねこ様が描いてくださったライオス・ドラゴンキメラの絵を許可を頂いてアップロードしました。 
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