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ダンジョン飯で、IF 長編版

作者:蜜柑ブタ
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第七話  ゴレーム畑の野菜

 
前書き
ゴーレム編。
 

 
 ファリン達は、迷宮の地下三階に降りた。
 地下墓地を通り、尖塔の森を抜けると、そこは黄金城へと繋がる。
 かつては、黄金色だった城も、黄金を剥いで金儲けをしていた金剥ぎ達によって今では見る影も無い。だが城(?)の形はしっかり残っているので、ここが言い伝えられている黄金の都であったことをかろうじて残している。
 地下三階であるが、ここは生き物が少なく、死霊がはこびっている階層だ。
「ん…、スケルトン。」
 ファリンが耳を澄ませていた。
「これは、人間。」
 ファリンがそう言った直後、曲がり角から別の冒険者パーティーがやってきた。
「あれは、グール。」
「なんで分かるの?」
「生き物と腐った物の足音は全然違うから。兄さんに教えてもらったの。」
「無駄な戦いを避けられるのは便利だけどさぁ…。」
「こわ…。」
「あ、レイス。珍しい。」
 チルチャックとマルシルが若干引き気味に、兄・ライオス直伝のファリンの特技について感想を述べた。
「左に行こう。右はゴーレムがいるわ。」
「待て。」

 ゴーレムとは、泥、土、石でできた魔法生物。
 主人の命令を忠実に守る人形として活躍する。

「言っとくけど、ゴーレムは、正真正銘魔法生物だよ! 作り方も知ってるんだから。」
「えーっと、どうやって作るんだったっけ?」
「もう、忘れちゃったの? ゴーレムは…、っ。」
 言いかけてマルシルは、黙った。ここにはセンシがいる。センシに知られたら何をされるか分かった物じゃなかったからだ。
「わしが用があるのは、ゴーレムの身体だ。ついてこい。」
 センシに導かれ、ゴーレムがいる方の道へと進む。
 やがて行き止まりの角に、布のつぎはぎだらけの四角いテントがはられている場所に来た。
「わしが普段拠点としているキャンプ場だ。」
「うわ…。」
「ここで暮らしているの?」
「寝泊まりはほとんどしない。基本的には、二階と四階で狩りをし、月に一度は町で調味だの不足する物を買い込む。お前達と会ったのもその帰りがけだった。」
 ファリンが魔物を食べると言っていた場面でのことだ。そこで彼女らを見ていた物陰の人物はセンシだったのだ。
 三階には、食える魔物が少なく、大半は腐っているか、骨しか残っていないと言う。
「他にもっと大きな理由があるでしょ。」
 マルシルがツッコんだ。
「ゴーレム! あれは素晴らしい生き物だ!」
 センシが言うには、ゴーレムは、非常に優れていると言う。
 たっぷりの栄養を蓄え、いつも適度な温度と湿度を保っている。
 つまり……。
「要するに、ゴーレムを畑代わりにしてんのか! 城の人間が泣くぞ。」
「魔術研究者も泣くね。」
「なぜだ? わしは魔術は好かんが、あれは賞賛に値する! すべての畑はああなるべきだ。」
 なにせ害虫がつきにくく、なおかつ野菜泥棒も追い払うからなのだそうだ。
「それ、野菜目当てじゃないだろ…。」
 さらに、ゴーレムは、自らの意思で水分管理をし、種や苗を勝手に育ててくれるのだと言う。
 なお給水するのは、身体が脆くなって崩れるのを防ぐためだ。決して自身に生える植物のためじゃない。
「とはいえ、細かな手入れは欠かせない。ここに拠点があるのはそうした訳だ。」
 センシは、拠点においてある畑仕事用の道具を全員に渡し、ツタだらけの壁に隠れている扉を開けた。
 そして口笛を吹くと。
 ズンズンと重たい足音が迫ってきた。
「出た!」
「どうする!?」
「手伝う!?」
「いらん。」
 次の瞬間、センシがスコップを片手に襲いかかってくるゴーレムと戦い始めた。
 その手慣れた感と言ったら…、ダンジョンでの経験が長いファリン達ですらポッカーンとするレベルだった。
 センシは、ゴーレムの背中に回り込むと、その首元にスコップを突き刺した。
 途端ゴーレムが悲鳴を上げ、倒れた。
 そして一体倒すと、次のゴーレムに移る。
「すごい…。なんでゴレームの(コア)がどこにあるのか分かるんだろう?」
「……まさか…。」
 やがて、三体のゴーレムがうつ伏せに倒れた。
「終わったぞ。ゴーレムの背中から野菜を収穫してくれ。」
「なんか茂ってると思ったが…、これが全部野菜?」
 チルチャックが半信半疑な様子で茂っている草の中に手を入れて引っこ抜いてみた。
 するとそれは、ニンジンだった。
「マジだ!」
「うわあ、すごい。」
「ゴーレムからすりゃ、寄生されてるようなもんじゃないのか?」
 例えるなら、ノミみたいに。
「どうやって光合成してるんだろ?」
 日の光の入らない迷宮の地下で、ゴーレムの背中の野菜はいかにして光合成をしているのか…、謎である。
 むしろ、植物が根をはることで土が強固になるから、共生関係にあると言っていい、とセンシは言った。本当かどうかは不明である。
 しかもよくよく見ると、ゴーレムの背中は普通の畑のようにウネになっていた。
「しかし、雑草は抜いておいてくれ。」
 野菜と一緒に雑草まで生えている。この迷宮内に入る人間達や動物から落ちた植物の種や花粉などがゴーレムの付着するのだろう。
 そして、ファリン達は、野菜を収穫しながら雑草を抜く作業に没頭することになった。





***





 そして、野菜が採れた。
 ニンジン、ジャガイモ、キャベツ、タマネギ…。
 どれも大きく、色が良かった。
「久しぶりに普通の野菜が食べられそう。」
 マルシルは、採れた野菜を見て喜んだ。
「雑草は、こちらへ持ってきてくれ。この辺りに積んでおけば枯れる。枯れた物は…、ゴレームの身体に戻せば分解される。」
「ん……?」
「そして、これは…。」
 センシは、近くに置いてある壺の蓋を開けた。
「そして、これは別の場所で作った肥料…を! さらにゴーレムに混ぜ込む!」
「やっぱり!!」
「やっぱり?」
「ゴーレムの核の位置が分かったのって、自分で埋め込んだからでしょう! 呆れた、許可の無い魔法生物の起動は犯罪だよ!」
「わしは、ただ…、土を掘り返し、元に戻しているだけじゃ。」
「脱法魔法生物か。」
 そんなセンシにマルシルとチルチャックは呆れていた。
 センシは、それから肥料を水で薄めて柄杓でゴーレムの身体にまいた。
 そして土をよく混ぜ合わせ、畑のウネを作り、種まきをする。
 同じ物を植えると連作障害を起こすので、種をまくゴーレムはずらされる。そのため、野菜収穫時のゴーレムの背中は、同じ野菜が連なっていた。
「……疲れた~。」
 作業終了後、マルシルは、近くの噴水から水をがぶ飲みした。
「魔物と戦うより疲れたね…。」
「お前達が手伝ってくれたおかげで、ずっと早く終わった。水を補充したら、飯の準備だ。」
「水飲んだらトイレ行きたくなった。」
「気をつけてね。」
 ダンジョン内でのトイレ場所は、決まっている。一応。
 そこら辺でするわけにもいかないので、浅い層ではする場所が決まっていた。
 センシは、マルシルがいない間にゴーレムの起動準備に入った。
 まず散らばった土をできる限り集め、次に噴水の排水溝を塞ぎ水をあふれさせる。
 そして、ゴーレムの核を、それぞれのゴーレムの身体に埋めていった。
 太郎、次郎、三郎っと、センシが名付けたゴーレムを埋めていく。
「すぐに起動するの?」
「いいや。多少は時間がかかる。ちょうど種が根をはり、土が動いてもこびれない頃に、まるで背中の植物たちに配慮しているかのようにな。」
「すごい。ゴーレムに愛情を持っているのね。こうやってセンシは生活しているのね。でも、辛くはないの?」
「好きでやっていることだ。何も辛くはない。」
 そう答えるセンシの姿に、ファリンは、言葉を失っていた。
「さあ、労働の対価を頂こう。」





***




 水で野菜の土を洗い流す。
「綺麗な色。」
 ニンジンは、赤く瑞々しい色をしており、ジャガイモは形良く、キャベツは大きく葉っぱがたくさん詰まっていた。
「俺も…、皮むきがうまくなったもんだ…。」
 ジャガイモの皮を剥きながらチルチャックは、そう呟いた。
「本当に、こんな大きさでいいの?」
 ファリンが包丁でキャベツを四つに切った。
「いい、いい。」
 センシが切った野菜、四つ切りのキャベツ、皮を剥いて輪切りしたニンジン、皮を剥いて乱切りにしたジャガイモを大鍋に入れ、カマドに乗せて、バケツで水を汲み、流し込む。
 そしてかまどに火を付けるのだが…。
「火を付ける? 私、やるよ?」
「火打ち金でつけるからいい。」
「いつもそうやってつけるけど、魔法の方が早いのに。そんな魔法を嫌わなくても。ゴーレムは便利だって喜んでたじゃん。」
「何かを手軽に済ませると、何かが鈍る。便利と安易は違う。お前のやり方では、店で野菜を買うのと変わらん。」
「……。」
 そしてセンシは、火打ち金で火を起こし、鍋に蓋をした。
 その間に、まな板でバジリスクのベーコンを切り、鍋に入れた。
 鍋が煮えるまでの間に、カブでサラダを作る。
 その手際の良さと言ったらすごいに尽きる。
 やがて鍋が煮え、味見をした。
「完成じゃ!」

 そしてできあがったのは、ゴーレム畑の野菜のキャベツ煮と、カブとニンジンのサラダだった。

 大鍋から取り皿に分けられた料理に、マルシルはテンションを上げていた。なにせ久しぶりの普通の野菜だからだ。魔物を食べるのに抵抗している彼女からしたら天国だろう。
「んーーーっ! おいしいー!」
 たまらず声を上げるほど美味しかったらしい。
「こんな地中で美味しく育つなんて不思議。」
「ゴーレムの何かが味に影響しているのかも。」
「やめて! 歩こうが喚こうが、あれは、畑なのっ。」
「そういえば、ゴーレムの残り1%ってなんだっけ?」
「……秘密…。」
 マルシルは、がんとして話さなかった。
 またファリン自身も忘れてたため、ゴーレムの残り1%問題は謎のままになった。
 美味しい美味しいというファリン達に、センシは嬉しそうに笑っていた。
 そして大鍋にあった野菜煮がスープまですべてなくなった。
「はー、美味しかった。お腹いっぱい。」
「いっぱい食べたら眠くなってきた。」
「休んでいてもいい。わしは少しやっておきたいことがある。」
 センシは、そう言うと拠点のテントの中からバケツを取りだした。
「ちと、便所へ。」
 そう言って、扉の向こうへ行った。
「この辺りのトイレってすごくちゃんとしてるよね。適当に穴を掘っただけじゃなくて。いつも綺麗にしてあって、たまに花なんか飾ってあったりして、マメな人がいるもんだね。」
 そこまで言って、マルシルは、何かに気づいた。
「センシーー!!」
 叫びながら扉の向こうに行くと…。
「なんだ?」
「わーーー!」
 二つのバケツに、肥…、直接言ってしまえば、糞便を入れて歩いているセンシがいた。
「何してんの!?」
 言われるまでもないことだ。
 センシがゴーレムにまいていた肥料の材料である。
「食った直後にできるって、すごいな。」
「ここでは大事な肥料だ。」
「じゃあ、あの野菜も……、うっ…。」
「マルシル。その辺は地上と同じだろ。」
「そうだけど…。」
 口を押さえるマルシルに、チルチャックが言った。
「ねえ、どうして?」
 ファリンがセンシに問うた。
「どうしてセンシは、そこまで迷宮での生活にこだわるの? 自給自足なら地上でもできるわ。外で畑を耕せるし、その方が楽だって思わないの?」
「そうなれば、他に誰が迷宮の便所の管理をするのだ?」
 センシは答えた。
 誰が便所に落ちたゾンビを取り除くのか。
 誰が倒れたゴーレムを起こしてやれるのか。
 昔いた十体いたゴーレムも今は三体しかいない。
 ゴーレムがいなくなれば地下から魔物がここまで上がってくる。その魔物に追いやられた魔物は別の場所に入り込んでしまう。それがまた別の魔物を…。
 そうなってしまったら、もはやここは別の場所になってしまい、狩りをすることもままならなくなるのだと。
 ダンジョンも畑も一緒である。ほったらかして、恵みを受けることはできなくなる。
 なにより、ここで育った物を食べ、自分からもダンジョンに分け与える、そのように暮らしていると、ようやく迷宮の中に入れたように思えるのだと。それが嬉しいのだと言った。
「………でも、それじゃあ、私達のためにここを離れて大丈夫なの? この一帯が荒れてしまうんじゃ…。」
「気にするな。ひと月ふた月留守にする程度、ゴーレム達がなんとかしてくれる。それにお前達が栄養不足で死んでは、目覚めが悪い。待ってろ、すぐに支度を済ませる。」
 センシは、そう言い残して奥へと行った。
 残されたファリン達は、その背中を見送って……。
「センシってすごい……。」
 っと思ったのだった。 
 

 
後書き
ゴーレムを畑にしようって魂胆はすごいなぁ。 
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