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永遠の謎

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158部分:第十話 心の波その十六


第十話 心の波その十六

「あの三人が。私とワーグナーを」
「あの方々も陛下のことを案じておられます」
「それは間違いありません」
「それはです」
「わかっている」
 彼等の忠誠もだ。王はわかっているというのだった。
 わかってはいる。しかしなのだった。その言葉がここでも曇る。
「彼等の行動は私のことを案じて故だ」
「はい、そうです」
「それはご承知頂ければ」
 こうした場合の擁護は結託している者ならば偽りになる。しかし今王の周りにいる彼等は誰もが三人とは距離を置いている。それならばだった。
 どちらかというと王寄りの立場からだ。三人について話すのだった。
「御三方は財政から考えておられます」
「そしてワーグナー氏の思想です」
「その二つからです」
 彼の醜聞についてはだ。あえて言わなかった。そのうえでなのだった。
「とりわけ財政です」
「ワーグナー氏の財政ですが」
「そのことですが」
「芸術には金が必要なのだ」
 王の芸術への考えはだ。変わらなかった。
「だからこそ。それは」
「よいのだと」
「そう仰るのですか」
「何故それが理解されないのか」 
 言葉に溜息まで宿っていた。
「芸術jにそれが必要だということが」
「そして芸術とワーグナー氏」
「その二つも」
「どちらもですね」
「そうだ、ワーグナー」
 彼の名前を出した。
「私は彼と共にいたいだけなのだ」
 こう言ってやまなかった。しかしだった。 
 それは許されそうになかった。王はそのことを認めたくはなかった。
 そしてその中でだ。策謀は続いていた。
「では。全て」
「トリスタンは初演されましたが」
「それでもですね」
「全てはこれからですね」
「はい、これからです」
 首相に男爵、それに総監の三人だった。その三人が密室で話をしていた。そうしていたのだった。その彼等がなのだった。
 今策謀を企てていた。彼等にしては王の為、バイエルンの為の策謀である。それが王の為になるのかまでは彼等は見えていなかったが。
 男爵がだ。確かな笑顔で話した。
「宮廷は整いました」
「左様ですか」
「それではですね」
「はい、ワーグナー氏は宮廷に入ればそれで済みます」
 それだけでだというのである。
「ですから」
「ではこれでよしですね」
「そのことは」
「これが決定的なものになるでしょうか」
 男爵は首相と総監が満足した顔になったのを見ながらまた述べた。
「彼に対しての」
「いえ、どうでしょうか」
 総監はすぐに難しい顔になってこう言ったのだった。
「あの御仁はしたたかです」
「そう簡単にはいかないと」
「少なくとも油断はできないでしょう」
 これが総監の考えだった。
「彼は政治的なセンスはないようですが」
「それでも。そのしたたかさがですが」
「そのことは忘れてはならないでしょう」
 ワーグナーを侮っていなかった。決してだ。
 だからこそだった。総監は慎重な口調でだ。同志達に話すのだった。
「そしてそのうえで、です」
「策を巡らしそして」
「陛下から引き離す」
「最後にはこのバイエルンからも」
「このままではです」
 首相もここで言った。
「我が国の財政に支障をきたします」
「ですね。あれではです」
「あのローラ=モンテスと同じです」
「全くです」
「寵愛を受けてそれをいいことにしていることはです」
 同じだとだ。男爵と総監も同じ見方だった。彼等にしてはそのことが問題だった。バイエルンの財政の問題は国家の問題そのものだからだ。
 それを話してだった。彼等は。
 さらに話す。そしてだった。また首相が言うのだった。
「しかも素行はローラ=モンテスより問題がある」
「弟子の妻だけでなく舞台の踊り娘達にも手をつけているとか」
「そうした者をバイエルンで好き勝手にさせては」
「我が国の誇りにも関わります」
「他国からもどう思われるか」
 体面もだ。気にしてだった。
 そんな話をしてだ。彼等は今は仕組んでいた。そしてそれはだ。王とワーグナーの仲をだ。決定的に壊そうとしていたのであった。


第十話   完


                2011・2・7
 
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