ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)
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第二十九話 椎堂ツムグの決意 その2
前書き
中盤、椎堂ツムグが渚カヲルをとある場所に誘導します。
終盤は、『ふぃあ』と、渚カヲルの対話。
使徒アルミサエルの撃破の報は、すぐに地球防衛軍にもたらされた。
「……。」
渚カヲルは、放送を聞きながら宙を見上げていた。
「あっ。」
「…ん?」
聞き覚えのある声がしたので、そちらを見るとシンジがいた。
シンジは、少し戸惑った顔をしている。
カヲルは、首を傾げた。
「どうしたんだい?」
「な、なんでもない!」
シンジは、プイッとそっぷを向いた。
カヲルは、はてっ?と肩をすくめた。
「僕がなにかしたのかな?」
「べ、別に…、なんでもないって。」
「もしかして尾崎さんのこと?」
「っ!」
図星だったシンジの体が跳ねた。
カヲルは、クスッと笑う。
「尾崎さんのことが気になるのかい?」
「うるさいな!」
シンジはついカッとなって怒鳴った。
「怒る、ということは、本当のことなんだろう?」
しかしカヲルは、動じない。変わらず美しい微笑みを浮かべている。
カヲルのその動じなさと、赤い瞳の妙な迫力にシンジは、思わずたじろく。
「尾崎さんって変わってるよね。」
「は?」
急に言われてシンジは間抜けな声を出した。
「どうして他人のために何かしたがるんだろう? 自分のことは後回しにして。」
「何言って…。」
「君はそうは思わないかい?」
「そんなの、尾崎さんの癖みたいなものだし…。」
「くせ? 自分のことを蔑ろにすることがかい? リリンは、いつだって他人より自分を優先するものだと思ってたけど。」
「りりん? さっきから意味わかんないこと言うんだよ…。」
「尾崎さんはいつか死ぬことになるね。」
「そんなことない!」
「死ぬよ。きっと、死ぬ。」
「なんでそんなこと言うんだよ!」
「君こそどうしてそう断言できるんだい?」
「それは…。」
「根拠もなく言ったの?」
「……。」
「分からないな。どうしてそんなに信じることができるのか…。」
カヲルは、心底変わらないという風に首を振る。
「尾崎さんは…。」
シンジは、少し一息を置いた。
「尾崎さんだから信じられるんだ。」
考えた末に出たのは、その答え。
カヲルは、それを聞いて、そしてシンジの表情を見て僅かに目を見開く。
人間にとって暗黙知と言えるそれは、彼には到底理解できないものであったのだ。
二人の間に沈黙が流れる。
先に動いたのはシンジだった。
用事を思い出した彼は、カヲルの横を通り過ぎて去っていった。
尾崎を信じていると言った後の、彼は、先ほどまでカヲルに怯えていた様はない。
「信じること……。」
カヲルは、考える。
「ならそれが欠けてしまったら?」
尾崎は死ぬのだと断言したカヲルは、信じるということから来る力の柱を失ったらその力はどうなののかと考える。
尾崎と共に行動してみて、シンジ以外の人間もミュータントも尾崎を信じているようであった。
それが群れを成して生きるリリンの力なのかどうかはさておき、尾崎の周りには良くも悪くも人が集まる。中にはわざと避けている者(風間)もいたが。
「老人達が警戒していた。」
ゼーレの者達が尾崎を酷く警戒していたが、ゼーレが考えるようなことを尾崎がしているようにはまったく思えなかった。
むしろ真に警戒すべきなのは……。
「椎堂ツムグ…。」
地球防衛軍の中でミュータントを超える異端がいる。
それが椎堂ツムグだ。
地球防衛軍の人間達は、彼のことをG細胞完全適応者とも呼んでいた。
地球防衛軍にゼーレの情報を流したのは、本当は彼なのではないかと考える。
ゼーレは、まるで関心をもっていなかったが、彼らの真の敵は椎堂ツムグなのではないか。カイザーと呼ばれる尾崎を狙うのは見当違いということになる。
「一度会ってみないといけないな。」
カヲルは、そう呟いて微笑んだ。
***
「やっぱり、こっちに関心を向けてくるか…。」
ツムグは、自室のベットでそう呟いた。
「やっぱ分析力が高いな~。さすが最後の使者君。でも…、君の相手は俺じゃない。」
ツムグは、ベットの上から床に降りると、部屋から音もなく消えた。
『また消えやがったぞ。』
『遅くならなきゃなんでもいいさ。』
ツムグに逃げられるのはいつものことだし、帰って来るのもいつものことなので付き合い長い監視役達はすっかりこんな感じである。
ツムグは、歩いていた。
そしてふいに立ち止まる。
後ろを振り返ると、そこには誰もいないが、気配はある。普通の人間には分からない得体のしれない者の気配だ。
それからまた前を向いて歩きだす。すると後ろにいる気配も動く。
ツムグは、地を蹴り、飛んだ。
そして辿り着くのは、第三新東京。
かつて街並みがあった場所は、破壊され尽くして見る影もない。
空を見上げる。
空は快晴。眩しすぎる太陽の光に目を細める。
ツムグは、後ろについてきている気配の存在が同じく到着したのを感知しながら、第三新東京の地下……つまりネルフの方へ移動した。
機能のほとんどを停止しているネルフの内部を悠々と歩き、背後について来る気配と共に地下を目指す。
やがてターミナルドグマにあるリリスのところへ辿り着く。
「いったい何を考えているんだい?」
ツムグを追跡していた者が、ついに口を開いた。
その声には、わけが分からないという気持ちが込められている。
「ただの散歩だよ。渚カヲル君。」
ツムグは、振り返らずそう言った。
「さんぽ? こんなところに僕を導いておいて?」
追跡者であるカヲルは、リリスを見上げた。
そして顔を微かに歪める。
「……違う。これは、リリスだ。」
「ご名答。」
「“僕ら”はまんまと乗せられたというわけか。」
パチパチと拍手をするツムグの背中を見て、カヲルは、溜息を吐いた。
「君はこれからどうする? アダムはここにはなかった。君がここに攻め入る理由は、たった今無くなったわけだけど。」
「……アダムを探すよ。君達地球防衛軍がアダムを手に入れたんだろう?」
「なんだ、そこまで知ってるんなら、次の目的は決まったも同然じゃん。」
「あなたは嘘つきだ。」
カヲルの声の調子が変わった。どこか責めるような感じだ。
「ふうん?」
「何もかも知ってて何もしない。守るふりして、守ってなんかない。そうやってリリン達を翻弄して楽しいかい?」
「君には関係のないことだよ? どうしたのかな?」
ツムグは、振り返ることなく笑う。
カヲルは、押し黙り、目が泳ぐ。自分でもなぜそんなことを聞いたのか分からなくなったのだ。
「“そんな姿”をしているんだし、君は君が思っている以上に人間に…リリンに興味をもってるってわけ。無意識って奴だよ。」
ツムグは、初めて振り返った。いつものヘラヘラとした笑みを浮かべて。
「ひとつ、言っておく。」
ツムグは、人差し指を立てた。
「君の戦う相手は、俺じゃない。」
「どうして? あなたが真に…。」
「君とは戦わないよ。絶対に。」
ツムグは、笑みを消してきっぱりと言った。
笑みの消えたツムグの目が、黒から一瞬金色に光る。
それを見たカヲルは、たらりと一筋をの汗を垂らした。
「じゃあね。見つからないうちに君もさっさと戻りなよ。」
ツムグは、背中を向けて手をヒラヒラとさせると、その場から消えた。
残されたカヲルは、ツムグがいた場所を見つめ、それから再度リリスを見上げた。
「僕が戦う相手は、彼じゃない? なぜ?」
カヲルには、ツムグこそ、自分達“使徒”と、人間達との決着をつけるべき相手だと思っていた。
しかしツムグは、戦わないと言う。戦う相手は違うと言う。
カヲルには分からなかった。その意味が。
カヲルは、しばらく思考の袋小路に入ってしまった。
***
『もぎせんとー?』
「そうだ。一度でいい。ツムグ以外を乗せて戦ってみてほしいんだ。」
ツムグが外出している頃、技術部と科学部が頑張っていた。
ふぃあを説得するのに。
『エー、くすぐったいからヤダ。』
「そう言わずに!」
「そこをなんとか!」
「データを取らせてくれ! 頼む!」
『ウ~ン。』
必死に頼み込んでくる人間達に、考え込むように唸るふぃあ。
「なんで俺らが作ったもんにこんなに頭下げにゃならんのだ…。」
「シッ!」
必死に頭を下げている者達の中で、そんなことを呟いて口を塞がれる者もいた。
『……分かった。イイヨー。』
「いよっしゃああああ! ありがとう、ふぃあ!」
「では、早速少尉達を呼びましょう!」
『オザキと、カザマ? あの二人ならイイヨー。』
ふぃあの許可が下りたことで、模擬戦闘による実験が始まることになった。
「……。」
「……。」
呼ばれて来た二人が来てから、現場はかなり居心地悪い空気に包まれた。
原因は、風間である。風間が発する不機嫌オーラが場の空気を悪くしていた。
尾崎はオロオロと風間をチラ見している。
「まずは、風間少尉からです。」
「了解。」
風間は、淡々と返事をすると、機龍フィアに搭乗した。
『よろしくね、カザマ!』
「……ああ。」
風間の不機嫌オーラなど気にせずふぃあが明るく話しかけてきたので、風間は短く返答した。
機龍フィアの前方に、模擬戦の相手が着いた。
モゲラである。
『MOGERAマーク5。戦闘態勢に入ります。』
『風間少尉。スタンバイ。』
「了解。ふぃあ。」
『イイヨー。』
ふぃあの協力のもとのシンクロ率が叩き出される。
『嘘だろ!』
モニターしていた人間が思わず叫ぶほどだった。
活性率、112パーセント。
『機龍フィア、基準活性率達成! 起動します!』
機龍フィアの目に光が灯り、前方にいるモゲラを見据えた。
風間は、接続している部分から脳に流れてくる感触のようなものの不快感に、汗をかいた。
「これが…、本当のシンクロか…。」
初めて到達した基準値のシンクロ率によるDNAコンピュータの活性化に、自然と体に力が入る。
ツムグは、常にこの状態をキープしているのだ。
慣れない感触に慣れようと、風間は深く息を吸って吐いた。
『模擬戦闘を開始してください。』
「行くぞ。」
風間は操縦桿を握り、そして操作した。
ところが。
「がっ!?」
いきなり大転倒。
ジェットを吹かせて突撃しようとしたら、バランスを崩して前に思いっきり倒れてしまったのだ。
「なんだこのパワーは!?」
3割弱のシンクロで行った時の動作とは比較にならない動きに、風間は驚愕した。
『風間少尉! 立ち上がり動作を行ったください!』
「今やってる! クソ!」
立ち上がるために、手を着いて起き上がると、今度は腕のパワーで思いっきり跳ね上がるように立って…、そして今度は横に倒れた。
『風間少尉! いい加減にしないか! 立つだけなんだぞ!』
「うるせぇ! パワーが桁違いで加減ができねぇんだよ!」
その後、30分近く経ってなんとか立ち上がった。
立ち上がる動作だけで、風間はかなり疲れていた。
「あの野郎は、こんなことを簡単にやってやがるのか…。」
ツムグのあり得なさを痛感するが、風間は今回のこれが初めての本格的な機龍フィアの起動実験&模擬戦だったという状況だったというのもあるのだから仕方ない。
『風間少尉の疲労度が高すぎます。これ以上は…。』
『風間少尉、模擬戦闘は中止だ。』
「まだやれる!」
中止を呼びかける通信に、風間は否定の言葉を言った。
風間は、操縦桿を握り直した。
機龍フィアが再びジェットを吹いた。だが今度は転倒しない。真っ直ぐモゲラに突撃した。
モゲラが右に避けると、急ブレーキをかけて、ターンし、モゲラに掴みかかろうとした。
だがそこまでだった。
キュウンッと機龍フィアの目から光が消えた。
『カザマ。もう無理だよ。』
「…ぜぇ…はぁ……、ま、まだだ…お、れは……。」
『カザマ? カザマ! どうしよう、カザマが気を失っちゃった!』
風間が操縦桿を握ったまま気を失ってしまったため、ふぃあが悲鳴を上げた。
すぐに救護班が駆けつけ、風間は機龍フィアから運び出されて担架で運ばれた。
一旦ドッグに戻された機龍フィアから風間が操縦した時のデータを取られると、次の操縦者候補の尾崎に移る。
「あの、風間は大丈夫なんですか?」
『気にするな。命に別状はない。スタバイしてくれ。』
「…了解。」
倒れた風間を気にする尾崎を宥め、技術部の人間が準備をするよう言った。尾崎は渋々了承する。
『カザマはきっと大丈夫だよー。』
「そうだな…。そう思いたいよ。」
『集中しろ、尾崎少尉。』
「はい、すみません。」
尾崎は、息を吸って吐き、集中した。
そして、ふぃあの協力のもとのシンクロ率が叩き出される。
活性率、125パーセント。
『機龍フィア、基準活性率達成! 起動します!』
『ふぃあが協力しただけでここまで違うか…。どれだけ拒否していたんだ。』
『さっきのような無様な動きはしないでくださいよ!』
風間は、倒れた機龍フィアを立ちあがらせるだけで30分はかかったのだ。見ている方はかなりイライラさせられたのである。
モゲラを前にして、尾崎はたらりと一筋の汗をかいた。
「これが、活性状態の機龍フィアか…。」
接続した個所から伝わってくる奇妙な感覚に不快感を感じずにいられない。
だがこれが通常の状態なのだ。本来は。
『模擬戦闘を開始してください。』
「行くぞ。ふぃあ。」
『ウン!』
尾崎は操縦桿を握った。
機龍フィアがジェットを吹いた。
風間の前例を見ていたからか、転倒はしなかったがいまいち勢いがない。なので突撃は簡単に回避される。
しかしすぐに反転して、モゲラの左腕を掴んだが、しかしモゲラは、右腕のドリルを使って機龍フィアの頭部を攻撃した。
「うっ!」
強い衝撃に操縦桿を僅かに離したため、機龍フィアの手がモゲラから離れた。
ちなみに脳を接続しているが、エヴァンゲリオンのように機体ダメージが肉体に行くわけではない。
基準値の100パーセント以上での機龍フィアの操作は、尾崎も初めてなので事前のシュミレート操作による訓練も意味をなさないし、マニュアル通りにすら動かすのが困難だ。
「ツムグは、どれだけ桁違いなのかよく分かった…。」
シンクロによる負担なのか、疲労感が襲って来る。ツムグは、現在の尾崎や風間以上のシンクロ率の状態を維持してゴジラと激闘を繰り広げているのだ。
先にやっていた風間が操縦する機龍フィアを見ていて思ったが、ツムグも規格外だが機龍フィアの方も規格外だ。
何せ機体性能があり得ない。これで細かい動きをしろと言う方がどうかしているくらいだ。まずパワーが強すぎて振り回されてしまう。これでゴジラと肉弾戦を行っているツムグって……。
機龍フィアの技術が正気を疑うレベルだと噂される所以はこれか。っと思ったりもした。
ゴジラはもちろんだが、使徒もいる、人類補完計画のためのサードインパクトを企む輩がまだいる以上、ここで苦戦していては人類の明日はない。尾崎は脳にかかる不快感を吹き飛ばすそうと気合を入れ、操縦桿を操作した。
そうして、模擬戦闘の結果は……。
「惨敗ですね。」
「これは酷い。」
モゲラの圧勝で終わってしまった。
「まさかここまで操縦能力に差がついてしまっていたとは…。」
ツムグを基準に機龍フィアの調整と改良を行ってきた結果がこれだ。
並の人間はおろか、ミュータント兵士ですら操縦が困難な代物と化してしまったらしい。
「かと言って現在の状態からミュータント兵士仕様に調整したら、それはそれで今後の戦闘に支障がでる可能性がありますよ。」
「そこなんだよな…。どうすれば…。」
「貴重なデータが取れただけ良ししませんか? ふぃあも今回のことで譲歩してくれるのを覚えてくれたと思いますし。」
「だといいんだが。」
「よし、今日は解散。」
模擬戦闘による実験は終了し、立ち会っていた技術部も科学部も解散した。
その日の夜、機龍フィアを納めているドッグに、渚カヲルが現れた。
本来なら入れないのだが、何かしらの方法で侵入した彼は、機龍フィアの傍に来た。
「これがリリンが作りし、知恵の粋か…。」
『………ダレ?』
ふぃあがカヲルの気配を感じて声を出した。
「やあ、初めまして。お話をしてもいいかい?」
カヲルは、ふぃあが喋ったことに驚くことなく微笑んだ。
『キミ、ダレー?』
「僕のことを内緒にしてくれるなら喋るよ。」
『……イイヨ。』
「よかった。じゃあ、お話しよう。」
『ふぃあの中に乗る? そこならダレかに見られないよ。』
「そうか。じゃあお言葉に甘えるよ。』
ふぃあの導きに従い、カヲルが機龍フィアの中に入った。
「ここが操縦席か…。」
カヲルは、操縦席に座った。
『ウン。ここで今日はね。オザキとカザマが操縦したよ。』
「ふ~ん、そうなんだ。それで?」
『あのね、あのね。』
ふぃあと、渚カヲルの対話が始まった。
後書き
これで、渚カヲルは、ネルフを攻める理由を失いました。
けど、ツムグの腹の中に、自分の魂の入れ物が入っているなんて知らない。
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